↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三人魔王は先生を独り占めしたい ~俺が助けた三人の教え子、十年後には全員魔王になって俺を取り合っている~  作者: 古江 門


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/16

第12話 アカネとの誤解は解く。でも、好きは取り消さない

「恋人になる返事も、国に関わる約束も、まだしていません」

 俺が言い直すと、年配の男が深く頭を下げた。

「こちらの早合点でした。お席は」

「ここで。一緒に食事をしたいので」

 隣を見た。アカネは椅子に座ったまま、膝の上の手を握っている。

 俺は何か言いかけたが、彼女の方が先に立った。

「私が大きく言ったの。先生は会いに来てくれた。でも、返事はまだ」

 係の持つ紙へ目を向ける。

「その一行は消して。王国へは今の話で知らせて。私が頼んだって書いて」

 誰も反対しなかった。二脚の椅子が壁へ戻される。

 温かい料理を口へ運んでも、味がしなかった。さっきまであんなに知りたかった料理の名前さえ、もう尋ねられなかった。


 外へ出ると、アカネが先を歩いた。

「待ってくれ」

「待ってる」

 足を止めたのは、明かりの届かない角だった。

「ずっと待ってるよ。先生の返事」

「さっきの言い方は悪かった」

「じゃあ、何て言いたかったの」

 彼女が振り返った。

「私、先生が来てくれて嬉しかった。一緒に歩いて、先生も近づいて。……私だけが勘違いしてたの?」

「違う」

「そういう意味で来たんじゃないって、言ったじゃん」

「あの席に座るつもりはなかった、ってことだ。お前と手をつなぎたかったし、昼のことも嬉しかった」

「じゃあ、座ってくれたら」

 俺は頷けなかった。村にいる二人の顔が浮かんだ。

「俺はまだ、アカネ一人と恋人になるって返事はしてない」

「……二人がいるから」

「いる。二人のことも好きなんだ」

 アカネは強張った顔を、山の灯りへ向けた。

「分かってた。あの椅子の意味、途中で分かった。でも、違うって言いたくなかった」

「うん」

「先生が私を選んだって、もう少し思っていたかったの」

 俺はそっと、彼女の手を取った。

「昼のことまで否定する言い方だった。悪かった」

 彼女は握り返さなかった。離しもしなかった。

「明日はちゃんと送るから。荷物まとめて」

「ああ」

 部屋へ戻り、地図を畳んだ。岩の絵の脇には、明日アカネに聞こうと思っていたことが書いてある。鞄へしまいかけて、手が止まった。


 朝の竜舎で、鞍の留め金を尋ねると、係の若い男が膝をつきかけた。

「すぐに新しいものを。お気に召さないのでしたら」

「いや、仕組みを聞きたかっただけで」

 男はもう別の係を呼んでいた。乗り手が工具を持ってくる。俺が手を出すと、二人ともさらに慌てた。

 昨日までは、覗いてもいい場所を教えてくれた人たちだった。

「替えないで」

 アカネの声で、二人が足を止めた。

 彼女は俺の隣まで来た。俺の顔ではなく、係たちを見ている。

「昨日、私が言ったことは訂正した。でも、私が先生を好きなのは本当。そこは取り消さない」

 若い男がこちらを見た。

「だからって、先生の言葉を私の命令にしないで。質問されたら、知ってる人が答えて。分からなければ、分からないって言えばいい」

「ですが、竜王の」

「私の好きな人だから、何でも言うことを聞くの?」

 彼女の尾が地面へ静かに下りた。

「それじゃ、先生が何も聞けなくなるでしょ」

 若い男が頭を下げた。アカネはすぐ続けた。

「昨日の知らせを受けた人にも、私から伝える。あなたたちが勝手にしたって話にはしないから」

 男が工具を置いたところで、俺も留め金の横へしゃがんだ。

「俺が聞いたことは、アカネの注文にしないでください。知らないから、教えてほしいんです」

 男は留め金を俺の方へ向け、風に引かれる側を指した。俺が確かめるまで、今度は取り替えようとせず待ってくれた。

 説明が終わると礼を言い、道の向こうで待つアカネのところへ行った。昨日はあれほど俺の袖を引いていた手が、今日は自分の外套を握っていた。

「ありがとう。聞けたよ」

「金具の話、好きだもんね」

「俺の質問を、命令にしないでくれって言ってくれたな。助かった」

 彼女は帯を受け取り、俺へ渡した。

「先生、普通に話せない人たちの国だったって、思って帰らないで」

「思ってない。また来たい」

「……すぐそういうこと言う」

 アカネは帯を俺の膝へ載せ、金具の向きを直した。


 鞍へ上がると、アカネは帯を確かめてから前へ座った。

「帰りは揺れない道にする。帯だけでも乗れるよ」

 今日は俺の腕を自分の腰へ回そうとはしなかった。階段を下りてからも手を離さなかった彼女が、今は俺の手を見ようとしない。

 俺から腕を回した。

「きつくないか」

「……うん」

「怖いからだけじゃないぞ」

 アカネが振り向いた。赤くなった俺を見て、彼女まで顔を赤くした。

「じゃあ、ちゃんと掴んでて」

 アカネが俺の手を握ってくれた。俺もようやく息をつけた。


 帰り道、昨日と同じ尾根を越えた。

 聞きたいことはあったが、昨日のように次々とは出てこなかった。前を向いたアカネは、今、何を考えているだろう。

「あの岩、明日も赤くなるんだな」

 ようやく言うと、彼女が頷いた。

「先生がいない朝もね」

「次は俺から誘う。見せてもらうばかりじゃなくて」

「どこへ?」

「水車のところ。温かい果実の飲み物を出すんだって」

「先生、もう調べたの?」

「昨日より前に。帰ってから、日を手紙で書く」

 アカネは腰に回した俺の手を確かめた。

「行く。……先生、今も離してないね」

「離した方がいいか?」

「聞かないで。そのまま!」

 前を向く声が弾んだ。俺も腕を戻さず、村の屋根が見えるまで、彼女と水車の話をした。

 村へ着くと、俺の荷を下ろした乗り手にアカネは自分から礼を言った。

 彼女を見送り、鞄を持ち直して家へ向かう。門の前に、いつも紙を売ってくれる商人が立っていた。

「先生。お帰りをお待ちしておりました」

 俺は立ち止まった。

 その人から、そんな言い方をされたことは一度もなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。