第四話 何事にも犠牲が必要
10/5の話です
僕には、勇気がなかった
──だから、止められなかった
ホームルーム、ざわつく教室内は、先日の事件の話題で溢れかえっている。
「なぁなぁ、飯島が勇者像が掲げている剣に突き刺さって死んでたじゃん?」
「う、うん」
泉が急に話しかけてきた。いきなり物騒な話題に僕はたじろぐ。
「あれってさ、はやにえにされているみたいだよな」
「…はやにえ?」
「あ、知らないのか。はやにえっていうのは、野生のモズが捕まえた獲物を、木とかのとんがってるところに突き刺しておくことだよ」
「…モズって…漢字で書くと僕の苗字と一緒じゃない…?」
「冗談冗談、それに、死亡推定時刻は夜中だぜ?お前、いつも家帰ったら勉強しなきゃって嘆いてるだろ、だから多分お前は犯人じゃないよ、それに、殺す動機もないだろ?」
「いやまぁ…確かにそうだけど」
やはり泉はデリカシーがない…
「あ〜そうそう、俺は飯島の死体を見た瞬間、はやにえを想像したけど、それは直感的なものだし、苗字とその鳥の名前が同じだからって、疑われるわけじゃないさ」
まぁそれはそうだ、そんな理由で疑われたら辟易する。
「学校も意外と犯人探しは適当なんだよなぁ、証拠はどうせ無いからって動機だけ調べてふるいにかける。まぁ、俺はその探し方に反対だな。…何人も殺されてるから多少はしゃーない部分もあるけど。」
だとしてもそれはあまりにも雑な気がする…。学校側は早期解決を目指しているけれど、本当にそれは正しいのだろうか。もし冤罪だとしたら──。
「ああ、同感だ。」
「動機だけで絞り込むと、犯人はあいつしかいなくなってしまうからな。」
「あいつ?」
「そう、柊 来須、あいつだけだ」
ああ、なるほど。そういえば泉がこの前言っていた。「飯島と柊は学年1位を争ってる」って。
「何となく分かるけど、理由を聞いても良い?」
「飯島は、天才だったんだ。対して、柊は秀才。柊は飯島に嫉妬していたからな」
「でもさ、いくら嫉妬しているとはいえ、殺すまではいかないんじゃない?」
「俺は柊とまぁまぁ喋る仲だからわかるけど…柊の親は毒親だ。特に学習面が厳しいらしい。」
「…でもそれなら、親を殺せば完結する話じゃない?わざわざ飯島を殺さなくても…」
「確かにそうだな…柊は少し目先のことしか考えない、馬鹿正直なところもあるからな。」
ああ、親をどうにかするという選択肢が思い浮かばなかったのか。もう少しすると、期末テストがあるから、動機は揃っている…。
「ただ…あいつはそういう性格じゃないんだ、正義感が強く、優しかった。俺は柊が飯島を殺したとはとても思えない。」
「…でも、このままだと、どうなるの?」
「特に処罰とかはない。ただ…社会的に死ぬ。通知表も、教師からの評価も、人間関係も、何もかもが終わるんだ」
処罰が…ない?これがどれほど異常なことか…わかって言っているのか…?
「…え?警察には?」
「…警察は来るさ。でも、話を通してあるんだ。この学園の理事長は政治家の家系でね、この市、この県に莫大な投資をしている。だから…警察が動いたって無駄なのさ。」
僕は黙り込んでしまった。そんなの普通、フィクションの世界にしか無いじゃないか…。出来すぎている。
昼休み
購買に向かう者、友人と喋りながら弁当を食べているもの。各々の過ごし方をしている。
その中に、異質な存在があった。
柊だ。柊はキョロキョロと辺りを見回し、祈るように手を組んでいる。
突然、教室の扉がガラッと開く。
「柊、職員室に来なさい。」
生活指導の中居先生はそれだけ言うと、戻っていった。
僕は、それが何なのか気づいてしまった。犯人は…柊、ということにされたのだ。
柊は組んでいた手をだらんと下ろし、ふらふらと職員室へ向かっていった。
止めようと思った。だけど…駄目だった。
この教室の、時が止まったような異様な雰囲気に対して、僕は怖気づいてしまったのだ。
あーぁ、なんでだろうなぁ?
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