第82話 凱旋のパレードと、夜空に響く祝福の杯
アエテルニタス平原における〈神獣〉討伐という空前絶後の大偉業から現実世界で翌日の夜。
ログインした俺は、王宮の厳かな大広間に〈アストライア・ドーン〉の面々と、レオンハルト、そしてリネアともに、この日のために仕立てられた晴れやかな正装に包まれて集まっていた。
世界を揺るがしたグローバルレイドの熱狂が冷めやらぬウェリアタース王国の首都は、未曾有の祝賀ムードに包まれていた。帝国との全面戦争の危機を救い、さらには大陸全土を消し飛ばしかねなかった神話級の災厄を打ち払った立役者たちを一目見ようと、王都の大通りには朝早くから数万人の市民やプレイヤーたちが詰めかけていた。
国王陛下並びに宰相から直接手渡された報酬の目録には、莫大な金貨と、王立特権を示す名誉騎士の証が記されていた。国を救った英雄としての評価は、名実ともに大陸最高峰の領域へと達していた。
「いやあ、それにしてもすごい活気だな。王都の住民総出で出迎えてくれるなんて、人生でこんな経験そうそうできるもんじゃないぞ」
背筋をピンと伸ばしながら、レオンハルトが余裕の笑みを浮かべて呟く。
「レオンハルト、君はもともと目立つポジションに慣れてるでしょう。私なんかはこういう大勢の前に引っ張り出されるのは正直息が詰まるんだけど……」
隣に立っていたリネアが、漆黒の角を軽く隠すようにフードの端をいじりながら、深い溜息をついた。その顔には、普段のソロプレイヤーとしてのクールさはどこへやら、気恥ずかしさと居心地の悪さががありありと浮かんでいる。
「まあまあ、リネア。今日は世界を救ったんだから、少しは主役を楽しまないと損よ」
シオンが優しく微笑みながら彼女の肩をポンと叩いた。そのシオン自身も、純白と青を基調とした気高い騎士風のドレスコードに身を包み、周囲の視線を一手に引きつけるほどの凛とした美しさを放っていた。
やがて、王宮の巨大な鉄門が開き、絢爛豪華なオープン式の特製馬車が姿を現した。
「さあ、お乗りください。英雄殿たち」
御者の丁寧な案内を受け、俺たちは次々と馬車に乗り込んだ。
馬車が王都のメインストリートへと足を踏み入れた瞬間、沿道を埋め尽くしていた群衆から、空気を震わせるような割れんばかりの大歓声と拍手が巻き起こる。
「うわぁ……! すごい人の数です……!」
ティアナが思わず両手で口元を覆い、感激に目を潤ませる。
沿道からは、手作りの横断幕や、俺たちのギルド名である〈アストライア・ドーン〉の旗を振るプレイヤーや市民たちの姿があちこちに見られた。
「ユウさん、シオンちゃん、こっち向いて!」
「英雄様ありがとう――っ!」
「レオンハルト様カッコいい!!」
黄色い歓声や野太い声援が幾重にも重なり合い、街中の魔導スピーカーからは華やかな祝祭の音楽が流れ響いている。
「ほら、ユウ、みんながこっちを見ているわよ。ちゃんと手を振ってあげないと」
シオンがふっと柔らかく微笑み、沿道の子供たちに向けて優しく手を振った。その隣で、俺も照れくささを隠すように手を挙げて応える。
「いや、こうして間近で声援を浴びると、流石に照れるな……」
「ふふ、顔が真っ赤よ、ユウ」
シオンが茶化すようにくすくす笑う。
その横で、レオンハルトは沿道の群衆に向けて完璧な王者の笑みを浮かべ、片手をエレガントに挙げて声援に応えてみせていた。流石の堂々たる振る舞いである。
一方のリネアは、「見ないで、見ないで……!」とばかりに顔を俯かせ、引きつった笑顔で小さく手を振るのが精一杯だった。
そうして、王都の中心を巡る凱旋パレードは、街中が祝福の紙吹雪と熱狂に包まれながら、大盛況のうちに幕を閉じたのだった。
【安倍ノ家:ふむ、大戦果を挙げた後の凱旋パレードか。リネアのようなソロプレイヤーが表舞台に引っ張り出される描写は、MMOの社会構造の変化をリアルに表していて非常に良い。報酬の金貨が今後のギルドホームの拡張や最新装備のクラフトにどう活かされるかも見ものだな。実に興味深い】
【灰かぶりうさぎ:うわあああぁぁぁーーっ!!(大号泣)パレードの馬車の上とか最高すぎて私の精神が完全に崩壊したんだけど!!! 正装に身を包んだユウパパとシオンママが並んで手を振ってる姿、もうこれ完全に世紀のロイヤルウェディングの予行練習じゃん……!! 照れてるユウパパをシオンママが「顔が真っ赤よ、ユウ」って微笑みながら見つめるとか、尊さの暴力で私のHPがマイナスを突破したわ。リネアちゃんの照れ隠し姿も可愛いし、レオンハルト様の圧倒的主人公感も最高だし、もうこのまま二人を教会に直行させて神父の前に立たせたい!!(血涙を流しながらのスタンディングオベーション)】
§
パレードの喧騒と興奮が心地よい余韻として残る中、夕暮れ時の訪れとともに、俺たちは我がギルドの拠点であるゴシック調の大邸宅──ギルドホームへと帰還を果たした。
地下ドックには我が誇らしき魔導戦艦が静かに佇み、庭の木立や館の窓辺には温かなランタンの明かりが灯っている。
今日の夜は、アエテルニタス平原の激闘を戦い抜き、世界を救った〈アストライア・ドーン〉のメンバー全員による、盛大な勝利の祝勝パーティーが開催されることになっていた。
広々としたダイニングルームには、長大な特設テーブルが設置され、そこには目を奪われるほどの豪勢な料理の数々が隙間なく並べられている。
「皆様、先日は世界を救う大勝利、本当にお疲れ様でございました!」
漆黒のクラシカルなメイド服を身に纏い、銀髪を揺らすミシェルが、テキパキとした見事な手つきで銀のトレイから極上のワイン風マナドリンクや、香ばしい竜肉のロースト、彩り豊かなエルフ風サラダを次々とテーブルに並べていく。
「わぁぁぁ、すごいご馳走……! ミシェルさん、いつもありがとう!」
シグレが待ちきれないといった様子で目を輝かせ、フォークを手に取る。
「ふふ、シグレ様、どうぞ存分に召し上がってくださいませ。今日の日のために、最高の食材を取り寄せて腕を振るいましたので」
ミシェルが嬉しそうに上品に微笑む。
全員がそれぞれの席につき、グラスに飲み物が注がれると、マスターである俺が立ち上がり、グラスを高く掲げた。
「みんな、本当によくやってくれた。〈神獣〉討伐、そして王国と世界の防衛──俺たちのギルド〈アストライア・ドーン〉の絆がなければ、絶対に成し得なかった快挙だ。今日はこの勝利と、俺たちの新しい未来に乾杯しよう! 乾杯ッ!!」
「「「かんぱーい!!」」」
盛大な乾杯の音がダイニングに響き渡り、パーティーの幕が切って落とされた。
美味しい料理と楽しい会話に花が咲く中、俺はふと、今日のこの素晴らしい瞬間を形に残すため、メンバー一人ひとりに言葉を促すことにした。
「せっかくだからさ、今日のこの勝利を記念して、一人ずつ今回の戦いを振り返った感想や、これからの意気込みを一言ずつ語ってもらえないか?」
俺の提案に、まず一番最初に元気に手を挙げたのはセラだった。
「はーい。じゃあボクからいっちゃうね。」
セラは両手のフォークを置くと、キラキラとした瞳で全員を見回した。
「今回の〈神獣〉戦はマジで手に汗握る展開の連続だったけど、ボクの魔導銃の速射がしっかりボスに決まって最高に気持ちよかったよ。これからもユウの背中を後ろからバシバシ援護していくから、みんなよろしくね」
セラが力強くガッツポーズを決め、ルビーも「キュイッ!」と元気に鳴いて同調する。
続いて、その隣で上品にスープを啜っていたティアナが、優しく微笑みながら口を開いた。
「セラさん、お疲れ様でした。私は……皆さんが前線で命がけで戦っている姿を見て、自分の回復魔法や聖属性バフが少しでもお役に立てたなら、本当に良かったなって心から思いました。これからも、皆さんが安心して暴れられるように、一番近くで支え続けますね」
ティアナの健気で温かい言葉に、テーブルのあちこちから「ありがとう、ティアナちゃん!」「いつも助かってるよ!」と感謝の声が飛ぶ。
「私の風のコントロールも、今回のレイドで一段と精度が増したわね。特にリネアとの連携や、レオンハルトの突撃に合わせた足止めは我ながら完璧だったわ」
金髪を手ですきながら凛とした笑みを浮かべたのはシオンだった。彼女は少しだけグラスのワインに口をつけ、まっすぐ前を見据えた。
「でも、これで終わりじゃないわ。世界の裏に隠された真実や、残りの〈七大驚異〉の攻略はまだ道半ばよ。ねえ、ユウ?」
「ああ、当然だ」
俺がうなずくと、シオンは満足そうにふっと美しい微笑みを深めた。
「マスター、私のデータ解析とリアルタイムの戦術予測も、今回の勝利に大きく貢献できたと自負しています!」
ライムが若草色の瞳を輝かせ、タブレットを胸に抱きながら誇らしげに胸を張る。
「戦艦の運用から前線のサポートまで、マスターの期待を完璧に超えてみせましたからね。次の作戦も私にすべてお任せください!」
「ああ、頼りにしてるよ、ライム」
「ははっ、ライムちゃんのサポートがあったからこそ、私も思い切り暴れられたからね!」
ニベアが豪快に笑いながら、目の前の肉料理をさらに追加で皿に盛り付ける。
「私のガントレットの重撃、神獣の硬い外殻にもしっかり効いてたでしょ? 次の強敵が相手でも、私の拳で粉々に粉砕してやるんだから!」
「私の星辰魔法の光も、皆さんの進む道を照らす確かな道標になれたなら幸いです」
静かにティーカップを置いて微笑んだのはシュリだった。
「アストラ・ヒューマンとしての自分の血脈の意味を探す旅の途中で、こうして素晴らしい仲間たちと出会えたこと、そして世界を守る戦いに参加できたことを本当に誇りに思います」
「いやぁ、まさか私がこの錚々たる英雄の仲間入りをしちゃうなんて、まだ夢を見ているみたい……!」
シグレさんが両手で自分の頬をペタペタと叩きながら、感動したように声を震わせる。
「配信の向こうの視聴者たちも大興奮だったし、このギルドの専属になれて本当によかったよぅ。みんな、最高の一幕をありがとう!」
「私なんか、つい最近までソロで気ままにやってたのに、こんな温かい場所に迎え入れてもらえるなんて思ってもみなかったわね」
少し照れくさそうに頭を掻いたのはリネアだった。漆黒の角を揺らしながら、彼女はワイングラスを軽く掲げてみせた。
そう。彼女も俺たちで誘い掛け、〈アストライア・ドーン〉に加わってくれることになったのだ。
「悪くない雰囲気だわ。私も驚異の攻略なんかで協力させてもらうから、よろしくね、みんな」
さらに、電脳遊戯部の面々も次々と声を弾ませる。
「いやー、平原での総力戦、マジでシビれたぜ! 俺たちももっとレベル上げて、次の驚異の攻略では前線のど真ん中で暴れてやるからな!」
ハルマが力強く宣言し、ミナミやスズカも「うん、私たちも足引っ張らないように特訓する!」「お兄ちゃんたちに負けないもん!」と元気に続く。
「ふふ、生徒会の総務で培った私のスケジュール管理能力が、今回のレイドの物資調達にも少しは役立ったみたいだね。みんな、本当にお疲れ様」
セリアさんが優雅に紅茶を傾けながら、満面の笑みを浮かべた。
そして最後に、メイドのミシェルが温かい笑顔を浮かべながら全員のグラスにそっとお代わりを注いで回った。
「皆様の素晴らしいご活躍、メイドとして誇らしく思います。この屋敷が、皆様にとっていつまでも温かな居場所であり続けられるよう、これからも全身全霊でお仕えいたします!」
全員の言葉が揃い、ダイニングルームは最高の絆と達成感に包まれた。
窓の外には、勝利を祝うように星々が眩い光を放ち、夜空を美しく彩っている。
この世界を守り抜いた俺たちは、さらなる未知の冒険と、終わらない物語の続きへ向けて、力強く歩みを進めていくのだった。




