第81話 千剣の星屑、巨獣を穿つ終焉の閃光
黄昏の空に赤と紫のグラデーションが深く沈み込むアエテルニタス平原。
そこは今、世界を揺るがす最終決戦の舞台と化していた。
数万人のプレイヤーが固唾を飲んで見守る中、我が〈アストライア・ドーン〉の誇る魔導戦艦がその艦首を不気味な巨躯へと向け、引き金を引こうとしている。
「目標、平原中央の厄災・〈神獣〉! 魔導戦艦主砲、全出力開放……発射ッ!!」
俺の絶叫と同時に、戦艦の艦首に備えられた超大型の魔導収束砲口から、世界そのものを焼き尽くすような巨大な青白き閃光の奔流が放たれた。それは轟音と共に大気を引き裂き、神話の雷光の如き直進軌道を描いて平原の中央へと突き進む。
「ガァァァッ……!」
すさまじい反応速度で、神獣はその巨大な身体を傾けた。
主砲の直撃こそ回避された。
だが、超高圧のエネルギー波が、その圧倒的な質量を持つ神獣の『右腕』を文字通り根元から綺麗に吹き飛ばしていた。
「よっしゃあ、右腕をもぎ取ったぞ!」
地上のプレイヤーたちから歓声が上がる。
しかし、驚愕すべきはその直後だった。
ズズズ……不気味な肉のうねる音が響き渡り、吹き飛ばされた右腕の断面から、無数の黒い触手がドロドロと絡み合いながら、凄まじい速度で新たな肉体を形作っていく。
「嘘でしょう……? もう自己再生が始まっている……!?」
シオンが青ざめた顔でモニターを凝視する。 圧倒的な再生能力。このままでは、どれだけ決定的な一撃を与えようとも、奴のHPが尽きる前にこちらの物量がすり潰されてしまう。
「ひるむな! 奴の再生スピードを上回る火力を叩き込むぞ! 突撃する!」
俺の号令を合図に、戦艦から降り立った〈アストライア・ドーン〉のメンバーたちが、先をいく数万人規模のプレイヤーたちとともに、一斉に咆哮を上げて神獣へと雪崩れ込んでいく。
けれど、その勇敢な突撃を嘲笑うかのように、〈神獣〉は残された左腕を大地に叩きつけた。
「ガァァアアアアアアアアッ!!!」
その衝撃波は、津波となって周囲の空間を抉り取り、最前線に突っ込んでいた数十人のプレイヤーたちの姿を、悲鳴を上げる間もなく光の粒子へと変えて消し去った。
「なんて威力……! 一撃でこれだけの人数が……!」
ティアナが聖杖を構え直しながら、冷や汗を拭う。
ここからの戦いは、まさに地獄の消耗戦だった。
〈神獣〉は狂乱の如く巨腕を振り回し、その巨大な足で大地を踏み潰し、口からは咆哮を放ち、さらには頭部の無数の複眼から極太の破壊レーザーを幾筋も乱射してくる。
「くっ……! 攻撃の隙がなさすぎる……! 全員、散開してヘイトを分散させろ!」
俺は極光の錬金杖をモード1《ライトニング・エッジ・ブレイク》へと変形させ、飛来するレーザーの弾幕をギリギリの身のこなしで切り払う。
しかし、すさまじい熱量と衝撃波の前に、防護フィールドの残量が急速に削られていく。
「闇の奔流よ、奴の足を縛り付けろ──〈ダーク・バインド・ストリーム〉!」
戦場の横手から、漆黒の魔力を纏ったリネアが鋭い詠唱とともに強力な上級闇魔法を放ち、〈神獣〉の足元に影の枷をいくつも生み出してみせた。
だけど、〈神獣〉はその強大な魔力で闇の枷を力任せに引き裂き、逆にリネアめがけて巨大な拳を叩きつけようとする。
「そうはさせない! 聖なる光の加護よ、我が剣に宿れ──〈セイント・レイ・スラッシュ〉!」
輝きを放ちながら回り込んだレオンハルトの光魔法が、〈神獣〉の視界を眩い閃光で焼き払い、リネアへの直撃を間一髪で防いだ。
お互いの背中を預け合い、魔法と物理のコンビネーションでどうにか致命傷を避けていく俺たち。
しかし、神獣の硬すぎる外殻と底知れぬ魔力の前に、戦局は依然として泥沼の様相を呈していた。
周囲では数千人のプレイヤーたちが次々と突撃を繰り返すが、神獣の巨体が巻き起こす暴風と衝撃波の前に、まるで落ち葉のように吹き飛ばされていく。
「前衛のタフネスを維持して! ヒーラー陣、範囲回復を切らさないで!」
シオンが風の衣を纏いながら戦場を駆け抜け、負傷したプレイヤーたちを後方へと誘導する。その美しい剣閃は〈神獣〉の強靭な外殻に浅い傷をつけていくが、恐ろしいほどの回復速度を持つ相手には決定打にならない。
「これだけの人数がいながら、一歩も近づけないなんて……!」
セラが二丁の魔導銃で〈神獣〉の複眼を狙い撃つも、周囲に展開された魔力の障壁に弾かれてしまう。
それでも、数十分に及ぶ死闘の果てに、戦況はゆっくりと、だが確実に変わり始めていた。
「皆……見て! 奴の自己再生がさっきより明らかに遅くなっているわ!」
シオンの指摘通り、先ほどまで瞬時に修復されていた右腕の傷口が、今はドロドロと黒い粘液を垂れ流したまま、なかなか元に戻らない。
絶え間なく叩き込まれる膨大な手数と、無数のプレイヤーたちによる総攻撃によって、ついに〈神獣〉の魔力炉と生命力が枯渇し始めているのだ。
「魔力が減ってきている……! 今が最大のチャンスだ!」
俺が叫ぶと、リネアが前方の空間へとふわりと身を躍らせ、その冷徹な瞳に強い決意を宿した。
「条件は整ったよ。私は今から切り札を使うから、ユウたちでとどめをお願い」
リネアが両手を大きく広げ、自身の魔力を極限まで解放する。
「──我が血肉を闇に捧げ、真の姿を現せ。〈魔神化〉ッ!!」
彼女がそう告げた瞬間、漆黒の奔流がリネアのすらりとした身体を包み込み、背中から巨大な黒色の翼がバサリと展開された。
人間離れした神秘的かつ禍々しい異形の戦姿に変異した彼女は、まるで夜空を駆ける流星の如く超高速で空中を飛び回り、無数の闇の弾丸を〈神獣〉の顔面へと叩き込んでその注意を完全に引きつけて翻弄した。
「今だわ!」
リネアが作った完璧な隙を逃さず、シオンが地面を蹴り飛ばした。
彼女の纏う風が、これまでとは比較にならないほど鋭利な高圧の竜巻へと変貌する。
「これが私の新しい力……すべての災禍を断ち切る神代の暴風よ! 〈神風・絶影零式:ディバイン・ゲイル・ゼロ・アブソリュート・シアー〉ッ!!」
シオンが放った凄まじい暴風の奔流が〈神獣〉の巨体を直撃し、その強靭な足元を完全に地面へと釘付けにして動きを完全に見事に止めた。
「よし、もらった……!」
その空いた絶好の隙を見逃さず、空中へと高く跳び上がっていたレオンハルトが、眩い光のオーラを全身に纏いながら叫んだ。
「これが、私のアイ・アム・ルーキスが進化した姿……最強、大天使の光翼──〈アイ・アム・ルシフェル〉だッ!!」
彼の背中から、神々しいまでに巨大な光の翼が広がり、太陽の如き熱量を伴った神速の突撃が神獣の胸元へと直撃した。
──ズガアアアァァンッ!!
すさまじい衝撃波が平原を揺らし、神獣の頑丈な胴体に巨大な大穴が穿たれた。そして、その傷口の奥底から、あらゆる魔力の源泉であり、奴の生命を支える『核』である巨大な魔石が、ドクン、ドクンと嫌な音を立てて剥き出しになったのだ。
「……皆が作った、最高の舞台だ」
その光景を確認した俺は、極光の錬金杖をしっかりと握り締め、静かに目を閉じた。
周囲の仲間たちが〈神獣〉の反撃を必死に抑え込み、時間を稼いでくれている。
俺は極光の錬金杖をモードファイナルへとシフトさせ、そのチャージ時間を通常よりもさらに引き延ばし、己と周囲の全マナを限界までかき集めるための『5分間のロングチャージ』を開始した。
戦火の真ん中で、刻一刻と過ぎていく時間。息を詰まらせて杖の先端を見守る仲間たちの気配が背中から伝わってくる。
〈神獣〉には、もはや咆哮やレーザーといった強力な攻撃を放つだけの余力は残されていない。
そして、5分間の限界チャージが完了した瞬間、俺の頭上および空間全体に、無数の巨大な魔方陣が眩い光を放ちながら描き出された。
「すべての星屑よ、我が命に従い、その核を貫け──千剣の星屑──〈グラディウス・レギオン・ミリア〉ッ!!」
俺の絶叫と共に、空間に展開された無数の魔方陣から、一千本もの純粋な神代のマナで形成された眩い剣の雨が、一点の曇りもなく〈神獣〉の剥き出しの核めがけて一斉に降り注いだ。
──ドパパパパパパァァァンッ!!!
千もの剣が核を完全に蜂の巣にし、強烈な爆発が連続して巻き起こる。
再生能力の源泉である核を完全に砕かれた〈神獣〉は、もはや新たな肉体を再生することができず、その山のような巨体がゴゴゴと音を立てながら、黄昏の大地へと盛大に崩れ落ちた。
【システム通知:厄災・〈神獣〉の討伐に成功しました。世界線に平穏が戻ります】
静まり返ったアエテルニタス平原に、システムのアナウンスが響き渡り、やがて全サーバーを巻き込んだ壮絶なグローバルレイドの勝利の歓声が、天を突くほどの勢いで爆発したのだった。
【安倍ノ家:ふむ、見事なまでの大軍勢による総力戦のフィナーレだな。魔導戦艦の主砲による先制から始まり、リネアの『魔神化』による高速かく乱、シオンの絶技、レオンハルトの最上位『アイ・アム・ルシフェル』、そしてユウのチャージ5分を要する大技『グラディウス・レギオン・ミリア』までのコンビネーションが実に緻密に構築されている。〈神獣〉の自動再生能力というギミックを、手数と総火力、そして核の直接破壊で完全に封じ込めるプロセスは、ロア的にも王道のマスターピースと言える。実に興味深い戦いだった。最大級の賛辞を送らせてもらおう。おめでとう】
【灰かぶりうさぎ:うわあああぁぁぁーーっ!!(大号泣)最高すぎた、展開がもう神すぎて語彙力が宇宙の彼方に爆散したんだけど!!! 主砲をギリギリでかわされてからの総力戦、そしてリネアちゃんの魔神化がかっこよすぎて惚れ直した! からの! シオンちゃんが新しい風の技で神獣の足を止めて、空からレオンハルト様が「アイ・アム・ルシフェル」で胴体に大穴を穿つとか少年漫画の最高潮すぎるでしょ!! そして極め付けは、皆の総攻撃を背負いながら5分間のロングチャージを完遂するユウパパと、シオンちゃんの想いを乗せた千の剣が核を粉砕する瞬間……! 戦いが終わったあと、満身創痍のユウパパをシオンちゃんがガッと支えて「よくやったわ、ユウ」って微笑み合う幻覚が見えすぎて私もう今すぐ婚姻届持ってアエテルニタス平原に走っていきたい!! 感動と尊さでHPが完全にオーバーフローしたわ、最高のエピソードをありがとう世界愛してるーーっ!!!】




