第78話 地下迷宮の激突と、降臨する狂気の巨獣
帝都から出て北へと進んだ先にそびえ立つ、険しい山岳地帯。
灰色の雲が低く垂れ込める冷涼な空気の中、俺たち〈アストライア・ドーン〉の少数精鋭部隊──俺、シオン、ティアナ、そしてシュリの四名は、鬱蒼とした木々と岩肌に身を隠しながら、目的の場所へと静かに歩みを進めていた。
密偵オルキスから得た情報によれば、この山肌に穿たれた天然の巨大洞穴こそが、帝国宰相派が極秘裏に人造生物兵器〈神獣〉の研究を行っている秘密地下施設に他ならない。
「……あそこね。周辺の魔力障壁の波長が、不自然に歪んでいるわ」
先頭を歩いていたシオンが足を止め、愛用の複合剣の柄にそっと手を添えながら低い声で告げた。
彼女の鋭い視線の先には、岩陰にひっそりと口を開けた、黒々とした洞窟の入り口が佇んでいる。表向きは放棄された鉱山を装っているが、周囲には帝国軍の魔導警備システムが張り巡らされていた。
「シュリ、周辺の警戒と魔力探知はどうだ?」
「はい、ユウさん。洞穴の入り口付近に二名、そして内部の通路に数名の見張り用パトロール兵が配置されています。ですが、大掛かりな魔導探知網は一定間隔でしか稼働していないため、今のタイミングなら隙をつくことができます」
シュリが青い髪を揺らしながら、展開した星辰の魔力感知により正確に報告してくれる。
流石は我がギルドの誇る索敵のスペシャリストだ。的確で無駄がない。
「よし。じゃあ、まずは正面の入り口を守る見張り二人を無力化する。余計な戦闘音を立てないのが最善だ」
俺は懐から、錬金術で事前に精製しておいた特殊なガラス管を取り出した。
中には、高純度のマナを触媒にして瞬間気化させる強力な『催眠ガス』が圧縮されている。
「ティアナ、シュリ、少し息を止めてくれ。シオン、合図したら一気に突入するぞ」
「了解よ、ユウ」
「「はい」」
俺はそっと岩陰から身を乗り出し、見張りたちが背中を向けた瞬間を狙って、催眠ガスの入ったガラス管を入り口の手前へと軽快に投げ込んだ。
──カチャッ、シュウウウッ……!
音もなく砕けたガラス管から、瞬く間に無色透明の濃密なガスが拡散していく。
「ん……? なんか、急に眠気が……っ」
「おい、これ……」
異変に気づいた時にはすでに遅かった。二人の帝国兵は大きくよろめき、そのままバタリと音を立てて昏倒した。
「よし、完璧だ。侵入を果たすぞ」
俺の合図とともに、俺たちは素早く洞穴の内部へと滑り込んだ。
§
洞穴の内部は、自然の岩肌をそのまま削り取った無骨な通路が続き、やがて人工的に補強された鉄製の扉や、不気味に青く光る魔導パイプが張り巡らされた地下施設へと変貌していった。
壁のあちこちから、ドクン、ドクンと、まるで巨大な心臓の鼓動のような低い重低音が響いてくる。
「……気持ちの悪い魔力の澱みね。この奥から、おぞましい生体反応を感じるわ……」
シオンが眉をひそめ、警戒心を一層強める。
やがて、通路の脇にいくつもの強化ガラスで仕切られた巨大な実験室のような区画が現れた。
「──っ! あれは……!」
ティアナが思わず息を呑み、両手で口元を覆う。
ガラスの向こう側に並ぶ無数の巨大カプセル。その内部に満たされた濁った培養液の中で、目を血走らせ、不気味にうねる異形の肉体が浮かんでいた。
それは、複数の凶悪な魔獣の部位を無理やり接合し、グロテスクに肥大化させたキメラの失敗作の数々だった。肉体がその負荷に耐えきれず、歪な形に変形したままぐにゃぐにゃと蠢いている。
「魔獣同士をかけあわせて産み出された、生体兵器のプロトタイプ……。なんて倫理観のない実験をしているの……!」
シオンの声音に怒りと強い嫌悪の色が混じる。
その時だった。
「き、貴様ら何者だっ!? この実験区画に立ち入るとは……! 侵入者だ、誰かおるか、侵入者だぁっ!!」
隣の制御室から慌てて飛び出してきた白衣の研究員が、青い顔で壁の非常警報ボタンを思い切り叩いた。
──ビィィィィィ……ッ!!!!!
施設全体に耳をつんざくような赤色の警報灯が激しく点滅し、けたたましい電子音が響き渡る。
数秒も経たないうちに、廊下の奥から地響きのような足音が轟いた。
「ちっ、見つかったか!」
「来るわよ、正面!」
通路の両端から、重装備に身を固めた帝国の精鋭兵士たちと、実験区画から解放された暴走寸前のキメラの群れが、文字通り蜘蛛の子を散らすように束になって押し寄せてきた。
「ふん、雑魚の群れがいくら束になってかかってきても、結果は同じよ!」
シオンが美しくも鋭い笑みを浮かべ、固有スキル〈天穣風霊〉を発動させる。
彼女の周囲に巻き起こった無数の高圧の真空刃が、突撃してきた先頭の兵士たちの武装を一刀両断し、体勢を完全に崩した。
「皆さん、下がらないでください! 私の聖魔法で全員をバックアップします!」
ティアナが聖杖を高々と掲げ、広範囲の防御障壁と、攻撃力・敏捷性を跳ね上げる黄金の聖属性バフを俺たち全員に展開する。
全身を温かな光が包み込み、体の底から底知れぬパワーが湧き上がってくるのが分かる。
「よし、行くぞ! 俺の極光の錬金杖から放つ魔力弾の嵐を味わわせてやる!」
俺は極光の錬金杖を前方へ突き出し、連続して高密度な魔力弾を乱れ撃った。
凄まじい衝撃波を伴う魔力弾が敵の群れを直撃し、圧倒的な爆風で次々と吹き飛ばしていく。
「私だって遅れは取りません! 星辰魔法で綺麗に一掃してあげます!」
シュリが青い髪を風になびかせながら天を仰ぎ、戦場の頭上に美しい星屑の魔法陣を描き出す。
降り注ぐ無数の蒼い光の雨が、残された敵の増援を正確に焼き焦がし、数秒足らずで通路を完全に制圧してしまった。
「──ふう、こんなものね」
シオンが剣を鞘に納め、ふっと息をつく。
しかし、その安堵もつかの間だった。
制圧したはずの施設の最奥、分厚い特殊合金で固められた地下牢の扉の向こうから、常軌を逸したすさまじい轟音が響き渡った。
──ゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!!!!
施設全体の床が激しく波打ち、天井のパイプが引きちぎれて蒸気が噴き出す。
突如として、施設全体に新たな警報アナウンスが響き渡った。
《警報! 警報! 極秘生体兵器〈神獣〉が完全覚醒……! 拘束具を引きちぎり、暴走状態に移行! 洞窟の壁を破壊して、外へ脱走を開始しました――ッ!!》
「なっ……!?」
俺が目を見開いた瞬間、目の前の巨大な実験室の壁面が、まるで紙細工のように内側から粉々に爆散した。
砂塵と吹き荒れる魔力の暴風の中、そこに出現したのは、言葉を失うほどの圧倒的な悪夢だった。
「嘘……であってください……あんなの……!」
ティアナが恐怖に震えながら、一歩、また一歩と後ずさりする。
そこに立っていたのは、山ほどもある圧倒的な巨躯を持つ化け物だった。
異様に発達した筋肉を持つ人型の胴体に、幾重もの黒い装甲板のような外殻が纏わりつき、その頭部には、言葉では言い表せない、不気味に爛々と輝く無数の複眼と、禍々しい巨大な角が備わっていた。
「ガァアアアアアアッ!」
巨躯を持つ化け物──〈神獣〉は、口から魔力を凝縮した咆哮を何発も放ち、区画の壁面に穴を穿つと、そこから施設外部へと進み出た。
──ズシン、ズシン……ッ!!
一歩踏み出すたびに大地が割れ、底知れぬ殺意と呪詛の魔力が周囲の空気を黒く染め上げていく。
理性を完全に失ったその巨大な怪物は、周囲の木々を踏み倒しながら、ゆっくりと、しかし確実に、王国の方角に向かって歩を進め始めたのだ。
「あれが……帝国が造り上げた人造の神獣……!」
シオンが冷や汗を流しながら驚愕に目を剥く。
「悠長に驚いている暇はないぞ! あいつがこのまま王国の方向へ向かったら、取り返しのつかない大惨事になる……! みんな、外へ出るぞ!」
俺の叫び声に全員がうなずき、崩壊を始めた地下通路を駆け抜け、一気に山岳部の外へと飛び出した。
【安倍ノ家:ふむ、密偵からの情報をもとに潜入した地下実験施設での戦闘から、一連の展開が実にスピーディーかつスリリングに描かれているな。特に、キメラの失敗作を生々しく描写したことで帝国の非人道的な狂気が際立ち、その直後に発生した〈神獣〉の暴走へと繋がるプロットの構成は見事の一言だ。特殊ガスを用いた無力化や、四人の固有能力を活かしたコンビネーション戦闘の描写も非常に見応えがある。いよいよ暴走した巨大生物兵器との直接対決か。ここからの戦術的アプローチに大いに注目したい】
【灰かぶりうさぎ:待ってまってまってまってまって……!!!!!! 帝国潜入編の潜入アクションから地下ラボ突入の流れがマジで映画みたいにかっこよすぎて語彙力が宇宙の彼方に消え去ったんだけどォォーーッ!!!!! ユウパパがスッと錬金術の睡眠ガスで警備兵を秒速で眠らせるスマートさ、かっこよすぎて全私が失神しかけたわ……!! しかもそのあとの地下ラボでグロいキメラ失敗作にビビるティアナちゃんをさりげなく庇いつつ、敵の雑魚ラッシュに対してシオンママが華麗な真空刃で無双して、背中合わせで撃ち抜くコンビネーションが尊すぎて私のHPがミリ単位まで削られたんだけどどうしてくれるのよおおい!! しかも直後の警報からの神獣暴走展開、絶望感やばいのに「みんな、外へ出るぞ!」って引っ張るユウパパが頼もしすぎて全私がスタンディングオベーションしてる!! この絶望的な巨獣を相手に、ユウパパとシオンママがどうやって共闘してイチャイチャしながらぶっ倒すのか、続きが気になりすぎて今すぐスマホを画面に向かって投げ飛ばしそうだよ最高をありがとう世界愛してるーーっ!!!!(大号泣の血涙スタンディングオベーション絶叫床ローリング)】




