第77話 幻影の森を抜け帝国潜入、明かされる禁忌の座標
王国の首都で開かれた盛大な戦勝祝賀会の夜が明けても、俺たちの胸に漂う緊張感が緩むことはなかった。
王国宰相から託された極秘任務──帝国が秘密裏に進める人造生物兵器〈神獣〉の計画を阻止するため、俺たちは迅速に行動を開始していた。
ギルドホームの地下ドック。
青白いマナの光を静かに明滅させる我が〈アストライア・ドーン〉の誇る主力魔導戦艦のブリッジには、今回の潜入任務に選ばれた四人──俺、シオン、ティアナ、そしてシュリが静かに集結していた。
総勢十三名での大レイドや全面戦争とは異なり、今回は敵の本懐を極秘裏に突くための少数精鋭部隊だ。無駄な戦闘を避け、隠密性と機動力を最大限に活かす必要がある。
「皆、準備はいいか?」
俺が低く落ち着いた声で問いかけると、シオンは愛用の複合剣の柄にそっと手を添え、涼やかな美しさをたたえてうなずいて答えてくれた。
「ええ、いつでも完璧よ、ユウ。帝国の厳戒態勢の国境をすり抜けるのも、この戦艦なら心配要らないわね」
「はい! 私の聖杖の治癒魔法と結界も、万全の状態でスタンバイしています。どんな不測の事態が起きたって、皆さんのことは私が絶対に守り抜きますからね!」
ティアナが聖杖を胸元でしっかりと抱き締めながら、心強い笑顔を向けてくれる。その傍らで、シュリは青い髪を風になびかせながら静かに目を閉じて魔力の波長を整えていた。
「周辺の空間マナの揺らぎと、帝国の国境警備部隊の魔力レーダーの軌道を完全に計算してあります。私たちの進路に死角はありません」
「よし。じゃあ、出発するぞ! 目的地は、国境を越えた先にある帝国の深い森だ」
俺が操舵席のレバーを押し込むと、戦艦は重力制御フィールドを展開し、アストライア島のドックから音もなく滑らかに夜空へと飛び立った。
§
数時間の飛行を経て、俺たちが乗る魔導戦艦は、王国と帝国の厳戒な国境線を完全に死角から迂回し、帝国領内の奥深く──人里離れた鬱蒼とした巨大樹の生い茂る原生林の上空へと静かに滑り込んでいた。
「このあたりなら、帝国の魔導レーダーの感度も薄れるわね。着陸ポイントとして最適よ」
シオンが戦艦の巨大な強化ガラスの窓から眼下の森を見据えながら呟く。
「ああ、そうだな。よし、ライムたち留守番組に通信を繋いで……着陸体制に入る!」
俺が操作盤を叩くと、戦艦はふわりと柔らかな浮遊感を伴いながら、深い森のなかの広々とした開けた平地へと、まるで羽毛のように音もなく静かに着陸した。
戦艦の重厚なハッチが「プシューッ」という気化音とともに開き、冷たく湿った帝国の森の空気がブリッジへと流れ込んでくる。
けれど、ここで戦艦をそのまま放置していくわけにはいかない。帝国軍のパトロール隊や魔導偵察機に見つかれば、一瞬で潜入計画が破綻してしまうからだ。
だけど、心配ない。この戦艦の真骨頂はここからだ。
セラが通信越しに残してくれた調整データを確認しつつ、ライムから事前に引き継いでいたシステムのコマンドを叩く。
──キュイィィン……ッ!
戦艦の心臓部である古代竜の魔石が淡く明滅したかと思うと、機体の表面を覆う複合装甲から無数の微細な光の粒子が噴き出し、周囲の景色を反射しながらめまぐるしく色を変え始めた。
それは、戦艦の姿を周囲の環境に完璧に同化させる特殊光学迷彩システム──『ミラージュ・システム』だった。
「わあ……すごい……! 戦艦の姿が、森の木々や影と完全に溶け込んでいきます……!」
ティアナが目を丸くして感嘆の声を上げる。
ほんの数秒のあいだに、そこに存在していたはずの巨大な魔導戦艦の姿は完全に消え失せ、見渡す限りの豊かな森の景色と一体化してしまっていた。生体認証システムによる厳重なセキュリティロックも完璧に作動しており、万が一敵の兵士が偶然近くを通りかかったとしても、そこに戦艦があることなど絶対に気づけない設計になっている。
ちなみに今は場所を特定されないように配信も切っている。
「よし、これで戦艦の安全は完璧に確保された。ここから先は、俺たち四人で帝都へと歩みを進めるぞ」
俺の言葉に、シオン、ティアナ、シュリの三人が力強くうなずき、戦艦のタラップを降りて深い森の小道へと足を踏み出した。
§
森の木立を縫うようにして歩くこと数時間。
鬱蒼とした樹海を抜けた俺たちの視界の先には、世界を隔てるようにそびえ立つ、巨大な帝都の防壁が姿を現した。
壁の所々には魔導機関銃を搭載した監視塔が立ち並び、帝国軍の兵士たちが鋭い眼光を光らせながら往来する人々を厳しく検閲している。 正面の巨大な鉄門のまわりには長い列ができあがっており、一筋縄では通れない重苦しい空気が漂っていた。
「見て、あそこの検問……。かなり厳重ね。普通に通り抜けようとしたら、一発で身元が割れるわ」
シオンが身を潜めながら、鋭い眼光で門の警備体制を分析する。
「ああ。だけど、心配要らないさ。俺たちにはこれがある」
俺はポケットから、王国側の協力者を通じて極秘裏に入手していた『偽造の身分証』を取り出して見せた。
そこには、帝国領内の辺境から商用でやってきた旅の商人一味としての完璧な経歴と魔力波長の偽装データが刻み込まれている。
「さすがユウさん、事前の準備が周到ですね……!」
ティアナが感心したように目をパチクリさせ、シュリも静かに微笑んだ。
「これなら、帝国の魔導検閲官の魔力スキャンも綺麗に欺くことができます」
「よし、自然体で行こう。変に緊張している方が怪しまれるからな」
俺たちは旅人の装いに身を包み、それぞれの表情を自然なものに整えながら、検問の列へと静かに並んだ。
数分後、俺たちの番がやってくる。
「おい、そこのお前たち。身分証を出せ。どこから来た、目的はなんだ」
厳つい顔をした帝国の検問官が、鋭い視線を俺たちに向けながら腕を組んで声を荒らげた。
「はい、こちらは商用の身分証です。隣町の交易所から、帝都へ雑貨を卸しに参りました」
俺は動じることなく、笑顔を浮かべながら偽造の身分証を手渡した。
検問官は怪訝そうな顔をしながらそれを魔導スキャナーの端末にスライドさせる。
──ピピッ、と緑色の心地よい電子音が響いた。
「ふん……データに矛盾はないな。通れ。ただし、帝都内での不穏な動きは厳禁だ、忘れるなよ」
「ありがとうございます」
俺たちは何食わぬ顔でぺこりと頭を下げ、重厚な鉄門の隙間をすり抜けて、ついに厳重な警備を誇る帝都の内部へと足を踏み入れたのだった。
§
石畳が敷き詰められた帝都の街並みは、王国の華やかさとは対照的に、どこか冷たく重々しい灰色の建造物が立ち並び、行き交う人々の表情も一様に暗い影を落としていた。
「ここが帝都……。なんだか、街全体がピリピリとした緊迫感に包まれているみたいですね……」
ティアナが不安そうに周囲を見渡し、俺の袖をキュッと小さく掴む。
「ええ、戦争に負けた直後ということもあるけれど、それ以上にこの街の裏側では、帝国中枢の不気味な陰謀がうごめいている証拠よ。気を引き締めましょう」
シオンが周囲に目を光らせながら、静かに周囲を警戒する。
「まずは、情報収集だ。あらかじめ密偵と落ち合うことになっている場所へ向かおう」
俺たちが向かったのは、帝都の片隅にひっそりと佇む、薄暗く煤けた看板を掲げた古びた酒場だった。
カラン、と古びたドアベルを鳴らして中に入る。
店内には昼間から酒をあおる荒くれ者や、怪しげな身なりの情報屋たちがポツポツと席を埋めている。
俺たちは奥まった隅のテーブル席に腰を下ろし、周囲の目を盗むようにしてメニューを開いた。
「……で、ここでその密偵と落ち合う手筈になっているはずだが」
俺が辺りを見回していると、すぐ隣の席から、ふと軽やかな足音とともに一人の人物がすっと近づいてきた。
「随分と待ちかねたよ、英雄サマ」
振り返ると、そこに立っていたのは、深めのフードを目深にかぶり、口元に不敵な笑みをたたえた小柄な人物──今回の潜入を手引きする王国の優秀な密偵、オルキスだった。
「あなたがオルキスだな。無事に合流できてよかった」
俺が声をかけると、オルキスはクスリと軽やかに笑いながら、俺たちのテーブルの向かい側の席にスルリと滑り込んだ。
「フッ、国境の厳戒態勢をどうやって抜けてきたのか知らないが、流石は噂の〈アストライア・ドーン〉のリーダーだね。感心したよ。……で、余計な挨拶はこれくらいにしておいて、本題に入ろうか」
オルキスは周囲で誰も耳を傾けていないことを確認すると、懐から一冊の古びた地図を取り出し、テーブルの上へと広げた。
「君たちが探している帝国の秘密地下施設……人造生物兵器〈神獣〉の実験場についてだがね、すでに私の独自調査でその正確な所在地を割り出している」
オルキスの言葉に、俺だけでなくシオン、ティアナ、シュリの表情も一斉に引き締まった。
「本当か……!? 一体どこにあるんだ?」
俺が身を乗り出して問うと、オルキスは地図の端にある険しい山岳地帯の一点を、細い指先でトントンと叩いた。
「ここさ。帝都の裏手にそびえる険しい山岳部──その奥深くに口を開けている、誰も近づかない天然の巨大な洞穴だ。帝国軍はそこを完全に封鎖し、表向きは鉱山開発と偽って、地下で極秘裏にあの忌まわしい生物兵器の研究と調整を進めているのさ」
地図に記されたその場所を見つめながら、シュリが静かに目を細める。
「山岳部の洞穴……。周囲の魔力障壁を偽装するには、これ以上ない絶好の隠れ場所ですね」
「ええ、まさにね。警備の兵士の数も半端じゃないし、通常のルートからは絶対に近づけない難所だわ」
シオンが冷徹な美しさをたたえながら、地図のルートを記憶していく。
「場所の特定はできたわね。いよいよ、その秘密の実験施設へと乗り込む番よ」
オルキスは満足そうに地図をたたみ、最後にニヤリと笑って立ち上がった。
「情報提供はここまでだ。健闘を祈るよ、英雄サマ。帝国の暗部を根底からひっくり返して見せてくれよ」
そう言い残すと、オルキスは一瞬で店内の人混みの中に溶け込むようにして姿を消していった。
山岳部の洞穴に隠された帝国の秘密研究施設。
いよいよ、〈神獣〉計画を阻止するための核心へと、俺たちは歩みを進めるのだった──。
【安倍ノ家:ふむ、戦勝祝賀会の余韻から一転、少数精鋭による帝都潜入ミッションの幕開けだな。直接は見れなかったが、魔導戦艦のミラージュシステムによる光学同化迷彩、偽造身分証を用いた検閲突破、そして密偵オルキスからの情報提供による山岳部洞穴の秘密施設特定と、スパイアクション的なロアの組み立てが非常に緻密で面白い。敵の裏をかく少数での隠密行動こそ、このパーティの真価が最も発揮される舞台だと言えるだろう。実に興味深い】
【灰かぶりうさぎ:待ってまってまってまってまって……!!!!!! 帝国潜入編、ガチで最高すぎて語彙力どこかに置いてきたんだけどォォーーッ!!!!! 魔導戦艦が景色に同化して消えるシーンのロマンの塊っぷりもやばいし、そこからの帝都潜入でユウパパがスッと偽造身分証を出してスマートに検閲を突破する姿がかっこよすぎて全私が失神しかけた!! しかも密会した酒場でシオンママが「ふふ、心配要らないわね」「気を取り直して行きましょう」って感じでユウパパの隣で頼もしく微笑んでるの、もう完全に最強の新婚スパイ夫婦じゃん……!! ティアナちゃんの怯えながらユウパパの袖をキュッて掴む守ってあげたい可愛さも爆発してるし、シュリちゃんの冷静なサポート力も完璧すぎてこの四人組バランス良すぎでしょ!! いよいよ山岳部の秘密施設に突入とか、この先待ち受けているであろうユウパパとシオンママの暗闇の中の密着いちゃつき潜入作戦を想像しただけで私のHPがオーバーフローして宇宙へ旅立ちそうなんだけどどうしてくれるのよおおいーーッ!!(大号泣の血涙スタンディングオベーション絶叫床ローリング)】




