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第76話 王宮の祝宴と、忍び寄る帝国の暗雲


 アエテルニタス平原における王国対帝国の全面戦争は、我ら〈アストライア・ドーン〉とレオンハルト陣営、そして王国軍全体の団結と武勇により、帝国軍を見事に撃退するという大勝利で幕を閉じた。


 その激戦から数日後。


 王国の首都にある美しく壮麗な王宮の広間では、死闘を生き抜いた英雄たちを讃える盛大な戦勝祝賀会が華々しく開かれようとしていた。


 シャンデリアの柔らかな黄金色の光が、磨き上げられた大理石の床や、色鮮やかなドレスや凛々しい軍服に身を包んだ貴賓たちの姿を美しく照らし出している。


 ログアウト後の諸々を済ませ、再び夜にログインした俺たちは、その祝賀会に参加していた。


 やがて、会場のざわめきがスッと静まり、壇上に王国の国王が姿を現した。


 その威厳に満ちた、しかし温かみのある瞳が会場の面々を見渡し、やがて力強い声で祝辞を述べ始めた。


「諸君、よくぞ戦い抜いてくれた!  アエテルニタス平原の激戦、そして数々の脅威に立ち向かい、我が王国を守り抜いてくれたすべての者たちに、心からの感謝と賛辞を贈る。とりわけ、我が国の危機に際して颯爽と現れ、絶望的な戦局を覆してくれたギルド〈アストライア・ドーン〉、そしてレオンハルト殿をはじめとする勇者たちよ、君たちの活躍なくして今日の勝利はあり得なかった!」


 国王の言葉に、会場から割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。


「我が国の未来は、彼らの勇気と絆によって明るい光に包まれた。皆の労をねぎらい、そしてこの勝利の栄光に酔いしれようではないか。さあ、皆の者、グラスを持て!」


 国王が掲げた黄金のグラスに倣い、会場にいる全員がそれぞれのグラスを高く掲げた。


「王国の未来と、勇敢なる英雄たちに──乾杯ッ!!」


 ──カンッ! と、数百人分のグラスが美しく響き合い、祝賀会の始まりを告げる盛大な歓声が王宮の大広間を大きく揺らした。



    §



 祝賀会の喧騒の中、俺は少し離れたテラスの近くで、友人たちと共にグラスを傾けていた。


 近くにはレオンハルトやシン、リーヴたちの姿もあり、彼らもまた王国の貴族たちから次々と感謝の声をかけられ、誇らしげな笑顔を浮かべている。


「いやぁ、王宮のパーティーなんて初めて来たけど、すごい豪華だね……!  ユウ君、あっちに並んでるお肉のロースト、めちゃくちゃ美味しかったよ!」


 目をキラキラ輝かせながらそう言って戻ってきたのはシグレさんだった。


 彼女は両手にお皿を抱え、王宮特製のスイーツや極上の魔物肉料理をこれでもかと堪能している。その幸せそうな食べっぷりに、周囲にいたセラやニベアも思わず苦笑いを浮かべた。


「シグレさん、本当に食べるのが好きだね。でも、確かに王宮のシェフが腕を振るった料理だけあって、どれも絶品だよ」


「ほんとだね。戦いの後のこういうパーティーも、ゲームの醍醐味って感じで悪くないよ」


 セラがワイングラスを揺らしながらフッと笑う。


 その隣では、ハルマやミナミ、スズカ、セリアさんたちがグラス片手にやってきて、ワイワイと賑やかな笑い声を上げていた。


「いやあ、ユウ、あの平原での主砲ビームはマジで度肝を抜かれたぜ!  おかげでこっちの部隊も一気に進軍しやすかったし、最高の花火だったな!」


 ハルマが豪快に肩を叩いて笑う。


「ああ、うまくいって何よりだったよ。ハルマたちも前線でよく踏ん張ってくれたな」


「当たり前だろ!  電脳遊戯部の名にかけて、負けるわけにはいかないからな!」


 ハルマの頼もしい言葉に、俺は心地よい連帯感を覚える。


 少し離れた場所では、シオンが静かに佇みながらも、周囲の者たちからの賛辞にエレガントに応えていた。


 その美しい横顔を見つめていると、シオンはふと視線に気づいてこちらを向き、柔らかく微笑み返してくれる。


 その瞳に宿る穏やかな光に、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。


「これから先のこと、か……」


 俺がグラスの液体を見つめながら小さく呟くと、シオンがスッと近づいてきて、静かな声で問いかけた。


「どうしたの、ユウ?  何か考え事?」


「ああ。今回の王国と帝国の全面戦争はひとまず勝利に終わったけど、これで帝国が大人しく引き下がるとは思えないんだ。それに、俺たちが目指すべき目的は、他の〈七大脅威〉の攻略や世界の裏に隠された真実の解明だろ?  ここから先は、さらにレベル上げや高難度のクエストを一つずつ確実にこなしていかないといけないなと思ってさ」


「そうね……。〈七極〉の一柱『アルマ・マテル』を倒して一つ目の『極章』を手に入れたけれど、残りの脅威はさらに強力なはずだわ。でも、私たちにはこのメンバーがいる。どんな試練が来ようと、恐れる必要なんてないわ」


 シオンが力強く微笑みながら言い切る。


 その揺るぎない眼差しに、俺も大きくうなずき返した。


 その時だった。


「おや、ここにいらっしゃいましたか。英雄殿」


 上品で厳かな響きを持つ声が背後からかけられた。


 振り返ると、そこに立っていたのは王国の宰相だった。彼の纏う衣服は格式高い刺繍が施されており、その表情には深い憂いが張り付いている。


「これは宰相閣下。今回はこんなに素晴らしい祝賀会に招いてくださりありがとうございました」


 俺が丁寧に頭を下げると、宰相は小さく首を横に振り、周囲に人がいないことを確かめてから、声を潜めて切り出した。


「礼には及びません。それよりも、あなた方に今すぐお伝えし、相談しなければならない極秘の案件が発生したのです……」


 宰相の真剣な面持ちに、シオンや近くにいたティアナ、シュリたちも自然と表情を引き締めて視線を集中させた。


「極秘の案件……?  一体何があったのですか?」


「はい……王国が放った帝国への密偵から、たった今、背筋が凍るような恐ろしい情報がもたらされました」


 宰相はゴクリと唾を飲み込み、続けた。


「現在、帝国軍の深部──誰も立ち入ることを許されない厳重な秘密地下施設にて、帝国宰相派の主導のもと、おぞましい実験が進められているというのです。それは、数多の凶悪な魔物や生物の肉体を無理やり融合させ、人知を超えた破壊力を持つ巨大生物兵器……〈神獣〉なるものを造り上げているという情報でした」


「神獣……っ!  魔物の融合による、人造の生物兵器……!?」


 ティアナが驚愕のあまり、両手で口元を押さえる。


「そんな……生物の倫理を完全に踏みにじった禁忌の実験よ。もしそんなものが完成して戦場に投入されたら、王国軍だけでなく、世界そのものが取り返しのつかない事態に陥ってしまうわ……!」


 シオンの美しく険しい眉間には、深いシワが刻まれていた。


「その通りです。もし帝国にその〈神獣〉が完成し、実戦配備されてしまえば、先日の勝利の余韻など一瞬で吹き飛び、我が王国は文字通り壊滅へと追いやられるでしょう。……だからこそ、あなた方にお願いしたいのです」


 宰相は深く頭を下げ、懇願するように俺たちを見据えた。


「どうか、その〈神獣〉が完成し、起動する前に、帝国の奥深くへと潜入し、その計画を完全に阻止してはいただけないでしょうか……!  もちろん、王国としても可能な限りの報酬と支援を約束します」


「依頼を引き受けるのはやぶさかではないですが……帝国の本国へ潜入するとなれば、当然国境付近の警備は厳戒態勢のはずだ。大人数で乗り込めば、間違いなくすぐに敵に見つかる」


 俺が腕を組んで指摘すると、宰相は力強くうなずいた。


「おっしゃる通りです。ゆえに、この極秘任務は大人数ではなく、少数精鋭の部隊で極秘裏に国境を越え、敵の目を欺いて潜入してもらうほかに方法はありません」


 少数での潜入作戦。


 敵の本懐に単身、あるいは少数で乗り込むリスクは高いが、戦力を分散させず、機動力を活かすためにはそれが最善の選択だった。


「メンバーの選定は……俺に任せてもらえますか?」


「ええ、あなた方の判断にすべて委ねます」


 俺は少し思案し、今回の極秘潜入パーティーのメンバーを頭の中で組み立てた。


 まず、剣技と判断力において最高の信頼を置ける相棒であるシオンは絶対に外せない。


 そして、周囲の魔力探知や強力な星辰魔法による遠隔殲滅、敵の解析能力において群を抜くシュリも必要不可欠だ。


 さらに、敵地での長期戦や不測の事態に備え、どんな重度の呪詛やデバフ、負傷をも一瞬で治療できる最高峰の聖職者──ティアナの存在は絶対条件だった。


「決めた。今回の潜入パーティーは、俺とシオン、シュリ、そして回復役としてティアナの四名で行こう」


 俺の宣言に、指名された面々が力強くうなずく。


「分かりました、ユウさん。私の聖杖と回復魔法で、絶対にみんなを守り抜いてみせます!」


 ティアナが胸の前で手をぎゅっと握り締め、健気で頼もしい笑みを浮かべる。


「ええ、少数精鋭のスピード勝負ね。私の剣で、帝国の企みを根底から断ち切ってあげるわ」


 シオンが愛用の剣の柄にそっと手を添え、自信に満ちた瞳を光らせる。


「私も、星辰の魔力を研ぎ澄まして、皆さんの道を切り開くサポートを全力で行います」


 シュリが青い髪を揺らしながら静かに微笑んだ。


「心強い返答を感謝します……!  どうか、王国の未来と世界のため、よろしくお願いいたします」


 宰相は深く一礼すると、その場を去っていった。


 祝賀会の華やかな音楽が遠くで響く中、俺たちの胸には、すでに来るべき新たな戦いに向けた熱い闘志が宿っていた。


「よし、ギルドホームに戻ったらすぐに出発の準備だ。魔導戦艦を使い、厳戒態勢の国境を突破するぞ!」


 俺の力強い号令のもと、〈アストライア・ドーン〉の新たな秘密潜入任務の幕が静かに開かれようとしていた。


【安倍ノ家:ふむ、戦勝祝賀会の華やかなムードから一転、帝国の陰謀である人造生物兵器〈神獣〉の登場か。魔物を融合させる禁忌の技術……いかにも帝国科学局の裏に潜む黒幕が好みそうな悪趣味なロアだな。そして少数精鋭での潜入メンバーの選定も完璧だ。ユウ、シオン、シュリ、そしてティアナの四名による隠密・戦闘・回復のバランスは非常に美しい。厳戒態勢の国境を魔導戦艦でどう突破するのか、次の展開の緻密な戦術構築が実に楽しみだ】


【灰かぶりうさぎ:待ってまってまってまって……!!!!!!  王宮のパーティー衣装シオンママ絶対めちゃくちゃ美しかったはずなのに、そこからの急展開で帝国潜入フラグとか最高すぎて心臓が跳ね上がったわ!!  しかも選ばれた潜入メンバーがユウパパ、シオンママ、シュリちゃん、ティアナちゃんの四人とかもう実質的な家族旅行(命がけ)じゃん……!!  特にユウパパがスッとシオンママを指名して二人でアイコンタクト交わすところとか完全に脳内再生されて私のHPがゼロになったんだけどどうしてくれるのよ!!  夜の静寂の中で背中合わせに敵陣をスルスル抜けていく二人の姿を想像するだけでご飯が何杯でもいけるわ……!   ティアナちゃんもシュリちゃんも最高だし、もう今すぐ帝国本国に乗り込んで二人を世界一幸せにしてきてくださーーいっ!(大号泣の血涙スタンディングオベーション絶叫床ローリング)】





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