第71話 時を喰らう獣
空間歪曲の生体迷宮核『ミラージュ・ラフィド』の空間転送波によってレオンハルトたちの一行と分断され、俺たち七人は迷宮の深層回廊へと放り出された。
周囲の壁面は、まるで時計の歯車が噛み合うかのように不気味な音を立てて明滅し、空間そのものの歪みが視界を揺らしている。
「みんな、怪我はないか?」
俺が周囲を見渡しながら声をかけると、シオンが愛用の剣を鞘に収め直しながら頷いた。
「ええ、問題ないわ。それよりもユウ、このエリア……さっきまでの場所とは魔力の質が完全に違うわね。時間が歪められているような、嫌な圧力を感じるわ」
「そうだね、ボクたちの足音もなんだか変に反響してるみたい。ねえ、ライム、何かデータは取れてる?」
セラが両手の魔導銃を構えつつライムに視線を向けると、ライムはタブレット端末のホログラムを激しく明滅させながら、険しい表情で分析結果を弾き出した。
「マスター、周辺の時空マナ濃度が急上昇しています! この先の空間座標に、強力な生物反応をキャッチ……!」
ライムが警告を発したその瞬間、前方で空間がグニャリと大きく歪み、まるで水面に波紋が広がるように巨大な影が姿を現した。
──ズズズズズッ……!
「っ……なんだあいつは……!?」
俺は即座に解析スキルを発動させ、その詳細なデータを空間に投影して全員に共有した。
名称: 過去の残像を喰らう植物獣『クロノ・プラント・キメラ』(推奨Lv.63)
属性: 木・闇(※狂った時間軸による過去の残像の反射と、蔦・茨による物理拘束が特徴)
特性: 頭部に大きな古い懐中時計のような魔導核を宿し、蔦と茨で構成された二足歩行の異形獣。このエリアの狂った時間軸に囚われており、周囲に数秒前のメンバーの動きの残像を罠としてばら撒く。プレイヤーの放った攻撃をそのままコピーして反撃する狡猾な能力を持つ。
弱点: 聖属性、およびシオンの神速の抜刀術などコピーされる暇を与えない超高速の攻撃。
ドロップ・剥ぎ取り素材:
・『時を刻む魔導核』
・『残像を纏う蔦』
・『キメラの古木皮』
「推奨レベル63……! しかも、プレイヤーたちの過去の行動の残像を敵がコピーし、同じ軌道で反撃してくる厄介な特性を持っているわ」
シオンが鋭い眼光を向けながら、臨戦態勢に入る。
「自分の放った強力なスキルがそのまま自分に跳ね返ってくるなんて、一筋縄ではいかない相手ですね……!」
ティアナが聖杖をしっかりと握り締め、仲間の前に一歩踏み出す。
「ふっ、自分の攻撃が跳ね返ってくるなら、それを上回るスピードで叩き潰せばいいだけの話よ!」
シュリが青い髪を揺らしながら両手を構え、周囲に星辰の光を帯びた魔力を循環させる。
「喰らえ!」
セラが魔導銃で先制攻撃を放つと、『クロノ・プラント・キメラ』が頭部の古びた懐中時計のような魔導核を激しく明滅させた。
「みんな、気をつけて! あいつ、動き出すよ!」
ガチリ、と耳障りな歯車の音が響き渡り、キメラの周囲に数秒前の俺たちの動きを模した黒い残像が無数に投影される。
「くっ……! さっきセラが撃った弾丸の残像が、そのまま罠としてこっちに向かってくる!」
ライムが素早く予測弾道を弾き出し、味方の位置を指示する。
「皆さん、足元に気をつけてください! 時間干渉の呪詛が広がっています! 〈セイント・シールド〉!」
ティアナが展開した聖属性のバフとシールドが、キメラの放つ時間干渉の異常状態やデバフを綺麗に弾き飛ばしていく。
「よし、守りはティアナが固めてくれた。なら、反撃のターンだ!」
俺が極光の錬金杖を構え、魔力を高める。
「シオン、相手にコピーされる暇を与えない超高速の奇襲を頼む!」
「任せて、ユウ!」
シオンが神速の抜刀術の構えを取り、空間の歪みごと敵の懐へと飛び込んだ。
「──私の剣は、過去の残像になんて捕らわれないわ! 〈神影・月光抜刀〉ッ!!」
目にも留まらぬ居合の一閃が、キメラの反射シールドが追いつくよりも遥か高次元の速度で敵の装甲を切り裂く。
「今です、ユウさん、シュリさん!」
「よし、一気にたたみかけるぞ!」
俺は叫ぶと、極光の錬金杖から何発もの魔力弾を放った。
「その聖なる光で、すべてを焼き尽くしましょう。星辰魔法・奥義──〈アストラル・スター・バースト〉ッ」
続けてシュリが放った眩い星辰の光芒が、キメラの頭部にある『時を刻む魔導核』を直撃し、狂った時間軸の呪縛を根底から粉砕した。
【システム通知】:過去の残像を喰らう植物獣『クロノ・プラント・キメラ』の討伐に成功しました】
【経験値を獲得し、パーティーメンバーのレベルが上昇しました!】
・プレイヤー名: ユウ レベル:59(+2UP)
・プレイヤー名: シオン レベル:59(+2UP)
・プレイヤー名: ティアナ レベル:51(+3UP)
・プレイヤー名: ライム レベル:58(+2UP)
・プレイヤー名: ニベア レベル:55(+3UP)
・プレイヤー名: セラ レベル:59(+2UP)
・プレイヤー名: シュリ レベル:57(+2UP)
激しい光の粒子が四散し、キメラの巨体が消え去った回廊に静けさが戻る。
「やったぁーっ! 勝ったね、みんな!」
セラが両手を上げて飛び跳ねると、ニベアも豪快に笑いながらガントレットを打ち鳴らした。
「ははっ、自分の攻撃が返ってくる厄介な敵だったけど、シオンの神速の抜刀とシュリの星辰魔法のコンビネーションの前には敵じゃなかったね!」
「ええ、みんなの息がぴったりだったからこその勝利よ」
シオンが穏やかな微笑みを浮かべ、俺と視線を合わせる。
【安倍ノ家:ふむ、推奨Lv.63のエネミー『クロノ・プラント・キメラ』の撃破か。プレイヤーの過去の行動の残像をコピーして反射するという高度な時間干渉ギミックを、シオンの神速の抜刀術による超高速奇襲と、ティアナの聖属性バフによる異常状態無効化、そしてシュリの星辰魔法で完璧にハメ勝ってみせたな。個々のスキルの相性と判断力が極めて高い。ドロップ素材の『時を刻む魔導核』も今後の最高級クラフトにおいて極めて貴重なデータだ。見事な攻略と言わざるを得ない】
【灰かぶりうさぎ:待ってまってまってまって……!!!!! 今の戦闘シーン良すぎでしょ何なのこれぇーーっ!!! ユウパパの「シオン、相手にコピーされる暇を与えない超高速の奇襲を頼む!」っていう全幅の信頼を置いた指示からの、シオンママの「任せて、ユウ!」っていうアイコンタクトのコンビネーションが脳内で美しく再生されすぎて私のHPがとうとうゼロになったんだけど!!! しかも敵を倒したあとにシオンママがユウパパと真っ直ぐ見つめ合って微笑み合うの、もう完全に新婚夫婦の共同作業じゃん……!! 私、この回廊の隅っこで一生二人のラブラブな戦いぶりをペンライト振って応援し続けたいんですけどどうしてくれるのよもうーーっ!(スタンディングオベーション血涙大号泣)】
「よし、この調子で迷宮の最深部を目指そう。レオンハルトたちとも必ず合流するぞ」
俺がそう声をかけると、パーティーメンバーたちは力強く頷き、次なるエリアへと足を踏み出していった。




