↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
68/88

第68話 黒闇の巨樹を穿て! 交差する刃と星辰の光芒


 総勢十三名による合同レイドパーティーが、常夜の原生林──〈深淵樹海・ギガントフィリア〉の深部へと足を踏み入れてから、どれほどの時間が経っただろうか。


 上空を覆い尽くす巨大な葉の天井は相変わらず太陽の光を完全に遮断しており、周囲を支配しているのは、青白く発光する菌類や奇妙な魔導植物の妖しい光だけだ。


 しかし、『常夜の露』による瘴気中和スプレーのおかげで、プレイヤーの視界や方向感覚を狂わせる精神的デバフは完全に無効化されていた。

 そのおかげで、〈アストライア・ドーン〉の面々とレオンハルト率いる精鋭部隊は、互いの背中を預け合いながら、驚異的なペースで樹海の奥地を進んでいく。


「それにしても、この樹海のモンスターたちは一筋縄ではいかない連中ばかりだな。だけど、こうして合同で進むと、連携の幅が何倍にも広がるのがよく分かるよ」


 周囲の警戒を怠りながら、俺は隣を歩くシオンに声をかけた。

 その肩の上では、ルビーが「キュイッ!」と元気に鳴いて同意を示した。


 シオンは愛用の剣の柄に手を添え、涼やかな美笑を浮かべて頷く。


「ええ。レオンハルトたちのパーティーも個々の実力が高いし、何より私たちの後衛のサポートと前衛の壁のバランスが絶妙だわ」


「ふふ、シオンちゃん、なんだかすごく楽しそうじゃない」


 少し後ろを歩いていたセラが、背中の星型刺繍を揺らしながらひょっこりと顔を覗かせる。


「当然よ。これだけの強敵がひしめくエリアで戦うのは、冒険者として血が騒ぐもの」


 シオンがフッと笑ったその時、前方を先導していたレオンハルトがスッと右手を挙げて、合同部隊全体に停止の合図を送った。


「おい、みんな止まれ。……前方だ。ただならぬ魔力のうねりと、巨大な気配をキャッチしたぞ」


 レオンハルトの言葉に、全員が一瞬で戦闘態勢へと移行する。


 薄暗い樹海の小径の先──霧の向こうから、地響きを伴いながら圧倒的な巨体がその姿を現しつつあった。


「あたしが索敵魔法で相手のステータスを引っこ抜いてみるね……っと!」


 レオンハルトのパーティーのソーサラーであるイリアが素早く詠唱を紡ぎ、空中に青白い解析ウィンドウを投影した。


「……っ!  みんな、気をつけて。これ、かなりの大物よ!」


 イリアの緊迫した声を聞き、俺は前へと歩み出て、解析スキルを使い、その詳細なデータをスキャンして空間に投影し、全員に共有した。



 名称:影を貪る大樹『シャドウ・グロース』(推奨Lv.60)


 属性:闇・木(※物理攻撃や斬撃に対する再生能力が非常に高く、聖・火属性に圧倒的な弱点を持つ)


 特性:太陽の光を一切浴びず、樹海の澱んだ瘴気と魔力を養分として異常発達した巨木の怪物。普段は地面に根を下ろして周囲の風景に擬態しているが、獲物が近づくと無数の漆黒の蔦や太い根を鞭のようにしならせて襲いかかる。また、周囲の光を吸収して視界を奪う『暗黒の胞子』を散布する。


 弱点部位:幹の深部に埋め込まれた赤黒く脈打つ『深緑のコア(心臓部)』、および根元の主要な接合部分。


 主なドロップ・剥ぎ取り素材:『魔樹の黒木材』、『常夜の吸血蔓』、『深淵を宿す樹液』



「推奨レベル60……!  しかも物理の斬撃が通りにくい再生持ちって、真っ向から切り伏せるには厄介な相手ね」


 シオンが険しい表情を浮かべるが、その瞳には闘志の炎が宿っている。


 レオンハルトも自分の剣を抜き払いながら、ニヤリと不敵に笑った。


「ふっ、面白い。物理が通りにくいなら、俺たちの魔法剣や遠隔の炎魔法、そしてユウたちの特殊な奥義を叩き込めばいいだけの話だ。なぁ、ユウ?」


「ああ。それに、この手の再生能力が高いボス相手なら、俺が先日の武闘大会で培った『あの技』が完璧に刺さるはずだ」


 俺の言葉に、〈アストライア・ドーン〉のメンバーたちが力強く頷いた。


 レオンハルトが驚いたように目を丸くする。


「ほう……武闘大会で使った技だって? それじゃあ、この強敵の相手は、ぜひ君たちに任させてもらおうか。見せてもらおう、真の覇者の実力を!」


「任せてくれ。今度の敵は、俺たちでやる」


 俺がそう宣言すると同時に、地面から巨大な黒い根がうねり狂い、シャドウ・グロースがその本体の全貌を現した。高さ二十メートルを超える異形の巨木は、無数の赤黒い目をギラつかせ、周囲の光を吸い取る『暗黒の胞子』を盛大にまき散らし始めた。


「視界が遮られる……っ!  でも、関係ないよね!」


 セラが両手の魔導銃を構え、光の弾丸を乱射して周囲の胞子を次々と撃ち抜いていく。


 その隙を突いて、ニベアが豪快な笑い声を上げながら前に飛び出した。


「そらぁっ!  その硬い外殻、私のガントレットで粉々に砕いてあげるよ!」


 ニベアが叩き込んだ重撃の衝撃波がシャドウ・グロースの巨体を揺らし、そこにすかさずティアナが聖属性のバフを重ねがけする。


「皆さん、状態異常と呪いのケアは私に任せてください!  〈セイント・プロテクション〉!」


 ティアナが聖杖を掲げると、眩い聖なる光のヴェールが全員を包み込み、ボスの放つ呪詛の霧を完全に弾き飛ばした。


「今だ、ライム!」


「はい、マスター! ボスのコアの正確な位置、完全にロックオンしました!」


 ライムが空中に投影した立体データ解析の弾道に合わせ、俺は一歩前に踏み出した。

 武闘大会の決勝戦で見せた、極光の錬金杖のモードローテーションを極限まで高めた連続起動。


「これですべてを断ち切る……!  〈レゾナンス・エーテル・スパイク〉ッ!!」


 放たれた高純度のマナの杭が、シャドウ・グロースの硬い外殻を正確に穿ち、幹の深部にあった『深緑のコア』を剥き出しにする。


「見事よ、ユウ!  ならばこの一撃は私が通す!」


 シオンが神速の抜刀術で踏み込み、敵の致命的な急所を鮮やかに切り裂いた。


 けれど、シャドウ・グロースはまだ消えない。深緑のコアが激しく明滅し、強烈な再生の魔力を解き放とうとしたその瞬間──。


「……私の光で、その闇を永遠に封じましょう」


 静かに前へと歩み出たシュリが、青い髪を風になびかせながら両手を天高く掲げた。

 彼女の周囲に、数え切れないほどの星の欠片が眩い輝きを帯びて集結していく。



「──あまたの星屑よ、我が呼び声に応えよ。夜空の彼方より零れ落ちる神代の光芒、その昏き闇を穿つ蒼き天の罰となれ……! 星辰魔法・奥義──〈アストラル・スター・フォール〉ッ!!」


 シュリの凛とした声とともに、夜空の如き樹海の闇を完全に切り裂くほどの巨大な星屑の奔流が降り注いだ。

 その圧倒的な星の光は、シャドウ・グロースの再生の魔力を根底から焼き尽くし、コアを完全に粉砕する。



【システム通知】:影を貪る大樹『シャドウ・グロース』の討伐に成功しました】


【経験値を獲得し、パーティーメンバーのレベルが上昇しました!】


・プレイヤー名: ユウ レベル:57(+2UP)

・プレイヤー名: シオン レベル:57(+2UP)

・プレイヤー名: ティアナ レベル:49(+3UP)

・プレイヤー名: ライム レベル:56(+2UP)

・プレイヤー名: ニベア レベル:52(+3UP)

・プレイヤー名: セラ レベル:57(+2UP)

・プレイヤー名: シュリ レベル:55(+2UP)



 巨大な怪物が眩い光の粒子となって四散し、静寂が戻った樹海の広場。


 シュリがふうっと小さく息をつきながら杖を降ろすと、レオンハルトが感嘆の声を上げながら歩み寄ってきた。


「参ったな。あの厄介な再生能力持ちの巨木を、あんな隙のない連係プレイで一瞬で沈めてしまうとは。さすがだな、ユウ。君たちの実力は本物だ」


 レオンハルトが爽やかに笑いながら肩を叩いてくると、彼のパーティーのモナやフローラも「お見事でした!」「やるじゃない……!」と感心の笑みを向けた。


「ありがとう、レオンハルト。みんなの息がぴったりだったからこその勝利さ」


 俺がそう言って微笑むと、セラやニベアも「やったね!」とハイタッチを交わして大はしゃぎする。


【安倍ノ家:ふむ、推奨レベル60の難敵『シャドウ・グロース』を、この短時間で完璧にハメ殺してみせるとはな。ユウの『レゾナンス・エーテル・スパイク』でコアを露出させ、最後をシュリの星辰魔法範囲奥義で綺麗に締めくくる……。個々のスキルの相性と役割分担が美しすぎる。ロア的にも、このボスのドロップ素材『魔樹の黒木材』は今後の拠点強化や最高級装備のクラフトに必須のレアアイテムだ。見事な采配と言わざるを得ない】


【灰かぶりうさぎ:待ってまってまってまって……!!!!!  今の戦闘シーン、脳内再生しただけで私のHPがオーバーキルなんだけど!!!  序盤のユウパパの「今度の敵は俺たちに任せてくれ」ってイケメンすぎる台詞からの、シオンママとのアイコンタクトコンビネーション、そしてピンチを救うシュリちゃんの圧倒的美しすぎる星辰魔法のフィニッシュ……!  からのレオンハルト様に「さすがだな」って認められちゃうユウパパ、もう主人公の格が天井知らずすぎて直視できない!!  しかも戦闘終わったあとにシオンママがさりげなくユウパパの服の汚れを払ってあげる仕草(幻覚)まで見えちゃって私もうダメ、今すぐ結婚式場の予約してきます!!!!(大号泣のスタンディングオベーション)】


 その後も、俺たち二つのパーティーは抜群のコンビネーションを発揮し、交互に現れる樹海の魔物や数々のギミックを次々と攻略していった。


 気づけば、周囲の木々の隙間から差し込む光の色が変わり始めていた。

 常夜の樹海の中にいながらも、システムの時刻設定や空の色合いから、長い一日が夕暮れを迎えつつあることがわかる。


「ふう……、さすがにこれだけ連戦すると、いい感じに心地いい疲労感だね」


 セラが両手を頭の後ろに組みながら、伸びをするように身体を反らせた。

 その隣で、ティアナが温かいハーブティーの入った水筒を取り出し、全員に配り始める。


「皆さん、お疲れ様です。ここで小休止にしましょう。毒や状態異常を受けている人はいませんか?」


「ティアナちゃん、ありがとう。 生き返る~」


 セラが水筒を受け取って嬉しそうに喉を潤し、レオンハルトのパーティーのクレリックであるモナも「ティアナさんのサポート、本当に的確で助かりますぅ!」と笑顔でカップを受け取る。


「ここまで順調すぎるほど順調に進んできたな。みんなのおかげだ」


 俺がそう言って周囲を見渡すと、シオンがふっと穏やかな微笑みを浮かべ、俺の隣にそっと並んだ。


「それじゃあ、今日のところはここでこのまま野営しましょうか」


「そうだな。夜には一旦ログアウトしないといけないしな」


 俺がそう同意すると、レオンハルトも納得したように頷き、自分の大剣を地面に立てかけて周囲を見回した。


「確かにな。夜間の樹海は昼間以上に魔物の活性が上がる。無理に進軍して不意打ちを食らうより、ここで一度しっかりと体勢を整えておくのが賢明だな」


「賛成です!  辺りもすっかり暗くなってきましたし、今のうちに拠点を設営しちゃいましょう!」


 レオンハルトのパーティーのソーサラーであるイリアが、手際よくキャンプ用テントの収納カプセルを取り出しながら声を弾ませる。


「ふふ、それじゃあテントの設営は私たち前衛組と力自慢のメンバーで分担してやっちゃいましょうか。ねえ、シン、ニベアさん?」


 マジックナイトであるシンが静かにうなずき、我がギルドのニベアもガントレットをカチリと合わせて「任せて。大きくて頑丈なテントをあっという間に組み立ててみせるよ」と頼もしく笑った。


「私は周囲の結界と安全確保の魔法陣を敷いておくわ。夜の間に予期せぬ奇襲を受けないように、多重の罠も仕込んでおくわね」


 アーチャーであるフローラが、手際よく特殊な魔導ワイヤーと罠のパーツを展開し始める。


 その隣でローグのリーヴも「それじゃあ、俺は外周の索敵と見張りのポイントを確認してくるよ」と軽やかな足取りで姿を消した。


「わあ、みんな役割分担がめちゃくちゃスムーズだね。じゃあ、ボクはセラ特製の簡易コンロと調理器具を出して、夕食の準備をサポートしちゃうよ」


 セラが嬉しそうにアイテムボックスを漁り始め、ティアナが手際よく調理用のエプロンを装着しながら微笑む。


「食事の準備ですね。それなら、私が腕を振るって皆さんに温かいスープをご馳走しますね!」


「ティアナさん、私も手伝います!  野営地での温かい料理は最高のエネルギー源ですからね」


 ライムもタブレットをショルダーに掛け直すと、ティアナの隣にスッと歩み寄って食材の仕分けを手伝い始めた。


「皆さん本当に楽しそうですね。私もこの空間の魔力同調を安定させるための触媒を配置しておきましょう」


 シュリが青い髪を揺らしながら静かに両手を翳すと、野営地を囲むように淡い星辰の光の粒子がふわりと降り注ぎ、心地よい結界の空間を作り上げていく。


「さてと……じゃあ、俺たちは一番大きなメインテントの組み立てと、夜を越すための薪拾いといこうか」


 肩の上でルビーも「キュイッ!」と気合を入れるように小さく飛び跳ねた。


「シオン、手伝ってくれるか?」


 俺がそう声をかけると、シオンはふっと美しく微笑み、愛用の剣を専用のホルダーに収めながら頷いた。


「当然よ、ユウ。ギルドマスターにこき使われるのは慣れているんだから」


 シオンのその軽口にクスリと笑いながら、俺たちは分担したそれぞれの作業へと取りかかった。


 巨大な木の根に囲まれた広場の一角に、次々とテントが立ち並び、中央には温かな魔導の焚き火がパチパチと心地よい音を立てて灯り始める。


 常夜の樹海の冷たい闇の中にあって、そこだけがまるで別世界のように温かく、頼もしい仲間たちの笑顔と活気で満たされていた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。