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第66話 常夜の原生林へ、七大驚異の第一歩



 新ギルドホームとなったゴシック調の大邸宅。

 その温かな明かりが灯る広々としたリビングルームには、総勢十二名の賑やかなメンバーが勢揃いしていた。

 ふかふかのソファやテーブルの周りに思い思いの体勢で腰を下ろしている。

 俺の肩の上では、お馴染みの紅い小動物・ルビーが前足をちょこんと揃えて「キュイッ」と心地よさそうに喉を鳴らしていた。


 メイドのミシェルが手際よく淹れてくれた香り高いハーブティーが全員に行き渡ると、俺はソファからゆっくりと立ち上がり、リビングの真ん中へと向き直った。


「さて、みんな。ギルドホームが決まって落ち着いたところで、今後の本格的な活動方針について共有しておこうと思う」


 俺のその言葉に、全員の視線がスッと集まる。結成されたばかりの新ギルド〈アストライア・ドーン〉の面々は、これからの冒険への期待に目を輝かせていた。


「俺たちの最終的な大目標は〈七大驚異〉の完全攻略だ。そして、現在この世界で唯一解放されている第一の驚異……それが、王国の北東部に位置する〈深淵樹海・ギガント・フィリア〉だ」


 俺がホログラムコンソールを操作して空中に立体マップを映し出すと、そこに鬱蒼とした巨大樹の群れが描かれた不気味なエリアが浮かび上がった。


「〈深淵樹海・ギガント・フィリア〉……。太陽の光が一切届かない、常夜の巨大樹が生い茂る原生の森ね」


 シオンが腕を組み、冷徹な美しさをたたえながらマップのデータを凝視する。


「ああ。迷い込んだが最後、二度と外に出られないといわれる呪われた生態系だ。植物だけでなく、巨大な蟲や神話級の幻獣が闊歩しており、プレイヤーの『視界』と『方向感覚』を狂わせる幻覚性の瘴気が常に満ちているらしい」

 

 俺の解説に、リビングの空気がキュッと引き締まる。


「これまでのどのダンジョンやフィールドとも比べものにならない。おそらく、今の時点で挑むには相応のレベルと、耐性装備が求められるはずだ」


「そうだね……。私たちの戦闘力なら何とか踏み込めそうだけど、やっぱり一筋縄ではいかない難所だわ」


 シオンがそう呟くと、電脳遊戯部のセリアさんが苦笑いを浮かべながら上品に手を挙げた。


「残念ながら、私たちセリア、ハルマ、ミナミ、スズカの四人は、まだユウ君たち第一線級のメンバーと違って、その〈七大驚異〉の深部に挑めるほどのレベルには達していないみたいだね。マップの推奨レベルを見ただけでも、今の私たちの装備じゃ数分でHPを溶かされそうだ」


「あはは、私もちょっと無理かなー! あの不気味な森のビジュアルを見ただけで、怖すぎて一歩も動けなくなっちゃいそうだよぅ」


 シグレさんが両手で頭を抱え、大袈裟にブルブルと身震いしてみせる。


 それを聞いたハルマが、自分の愛用の武器をポンと軽く叩きながらニヤリと笑った。


「ま、現実問題としてパーティーの最大定員は8名だしな。今回の第一陣はユウたちに任せるぜ! 俺たちはその間に、王国の周辺フィールドや中級ダンジョンでしっかりレベル上げと素材集めをしておくよ」


「うん、そうだね。今回はユウ君たちに任せるよ。無理して足手まといになっちゃっても悪いし」


 ミナミがふんわりとした笑顔でうなずくと、その隣でスズカがツインテールを揺らしながら力強く拳を握りしめた。


「今回はお兄ちゃんたちに先を越されちゃうけど、その内絶対に追いついてみせるからね! お兄ちゃんたちばっかりカッコいいところ見せるのは反則なんだから!」


 スズカの元気な声に、リビングのあちこちから温かい笑い声が漏れる。


「よし、それじゃあ話はまとまったな。今回の〈深淵樹海・ギガント・フィリア〉の攻略メンバーは、俺、シオン、ライム、ティアナ、ニベア、セラ、そしてシュリの七人で挑む!」


 俺が宣言すると、選ばれたメンバーたちがそれぞれ頼もしい笑みを浮かべて頷いた。


「任せてください、マスター! 艦の全システムのバックアップと、樹海内部の環境解析データは完全に網羅してみせます!」


 ライムが若草色の瞳を輝かせてタブレットを操作し、ティアナは聖杖を優しく抱きながら「皆さんのHPと状態異常のケアは、私にすべてお任せください」と微笑む。


「常夜の森の幻獣どもが相手だろうと、私の拳で綺麗に更地にしてあげるよ」


 ニベアがガントレットをカチリと合わせて豪快に笑い、セラは「よし、新しい銃の試射も兼ねて、大暴れしちゃうね」と背中の星型刺繍を揺らした。


 そして、シュリは静かに青い髪を揺らしながら、まっすぐ前を見据えた。


「私の星辰魔法の光が、あの常夜の森の闇を切り裂く道標になりましょう。行きましょう、ユウさん」


 全員の準備と意志が完全に一つに固まった。


【安倍ノ家:第一の驚異〈深淵樹海・ギガント・フィリア〉か。太陽光の遮断、幻覚性瘴気、そして神話級幻獣の存在……初期ロアの裏付け資料によると、この森の深部には神代の植物系ボスが潜んでいる可能性が高い。現段階での最難関ダンジョンであることに疑いはないな】

【灰かぶりうさぎ:待ってまってまって……今回の攻略メンバー選抜、ガチで神すぎて語彙力が宇宙の彼方に飛んでいったんだが!?!?  何この完璧すぎる布陣……!  しかも出航前の作戦会議の時点で、ユウパパとシオンママが自然にアイコンタクト取ってるの私は見逃さなかったからね!?  はー、尊すぎて今すぐ画面に向かって土下座したい。からの「今回はユウ君たちに任せるね」ってスズカちゃんの健気な妹ムーブも最高だし、最後の一枚絵みたいなメンバー集合カットが脳内再生されて私のHPが完全にゼロを突破したわ……いってきますのキスはまだですか!!(大号泣)】


 作戦会議を終えた俺たちは、すぐさまゴシック邸の庭から我が誇らしき魔導戦艦へと乗り込んだ。


 純白とミッドナイトブルーの複合装甲が青白いマナの光を放ち、艦体は重力を置き去りにするかのようにウェリアタース王国の空へと垂直に浮上していく。


「よし、まずはセリアさんやシグレさんたちを安全かつ効率的にレベル上げできる中級フィールドへ送り届けるぞ!」


 操縦席に座るライムが流れるような手つきで航路を設定し、戦艦は雲の海を優雅に滑走していく。


 数十分後、王国の南西部、比較的安全でありながら高経験値のモンスターが出現する広大な草原地帯──〈シルフィード・プレイン〉の上空へと到着した。


 戦艦のハッチが静かに開き、タラップが降りる。


「じゃあ、みんな。ここが皆のお仕事エリアね。くれぐれも無茶はしないでよ」


 シオンが優しいお姉さんのような笑みを浮かべて見送ると、セリアさんやシグレさんたちが次々とタラップを降りていった。


「おっ、ここならモンスターの密度も丁度よさそうだし、絶好のレベリング場だな! ユウたち、気をつけて行ってこいよ!」


 ハルマが大きく手を振り、ミナミとスズカも元気に声を弾ませる。


「お兄ちゃんたち、お土産話楽しみにしてるからね! 絶対無事で帰ってきてよ!」


「うん、任せとけ。そっちも油断するなよ」


 シグレさんはカメラを片手に「みんなのレベル上げ風景、バッチリ配信のネタにしちゃおっと! ユウくんたち、樹海の奥でイチャイチャしすぎないようにねーっ!」と茶目っ気たっぷりにウインクを飛ばした。


「い、イチャイチャって……!?」


 俺が思わず赤面すると、背後でセラが「あはは、図星かもねー!」と楽しそうに笑い、シオンもかすかに頬を染めながらそっと視線を逸らした。


 全員を見送り、タラップがガチャンと音を立てて完全にロックされる。


「これからいよいよ私たちの本当の戦いが始まるのね」


 シオンが愛用の剣の柄に手を当て、凛とした笑みを浮かべた。


「マスター、メンバー全員の搭乗およびハッチの完全封鎖を確認しました。これより針路を北東部、いよいよ〈深淵樹海・ギガント・フィリア〉の空域へと設定します!」


 ライムの凛々しい声がブリッジに響き渡り、メインエンジンの出力がさらに一段階跳ね上がる。


 古代竜の魔石が激しく明滅し、戦艦は蒼天を切り裂くような圧倒的な加速で、一切の太陽光が遮られた常夜の原生林──〈ギガントフィリア〉の深淵へと、一直線に突き進んでいった。


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