第54話 極光の錬金術師と帝国の鋼糸使い
ウェリアタース王国記念大闘技場のAブロック専用バトルフィールド。
その広大なステージの中央に、俺は静かに佇んでいた。
周囲を取り囲むように、Aブロックへエントリーした五十名を超える猛者たちが、それぞれに武器を構え、ギラギラとした闘志や野心をむき出しにしてこちらを睨みつけている。
その全身には、大会の安全規定に基づいた競技用の『特殊防護魔導フィールド』が薄く淡い光を放って纏われていた。
安全性を最優先するため、この外部フィールドの耐久値がゼロになり、本体の生身に危険なダメージが入る状態になった瞬間に審判ドローンが即座に試合終了を宣告するシステムだ。
ただ命の危険がないとはいえ、ここで容赦なく叩き伏せられることにかわりはない。
【灰かぶりうさぎ:待って待って待って、ユウパパが単騎で五十人以上のモブ(?)を相手にするのガチで脳汁ドバドバ出るんだが!!!! 推しが中央にポツンと立って無双する前のこの静けさ、全世界のオタクが愛する最高のシチュエーションすぎてすでに呼吸ができない、助けて……!!!】
【安倍ノ家:Aブロックの半数以上がユウに敵対心を向けているな。だが、彼の実力と昨夜アップデートした最新鋭装備の前では、数などただの的でしかない。見事なまでの無双劇を見せてくれ】
闘技場の実況席から、会場全体に響き渡るようなハイテンションなアナウンスが響き始めた。
「さあ! 皆様お待たせいたしましたぁぁーーっ!! いよいよ始まりました、ウェリアタース王国武闘大会、予選Aブロックの激闘です! 実況の私、アリーと──!」
「解説マヤのコンビでお送りするわ。今回のAブロック、注目は何と言っても、魔導戦艦で会場に乗り込んで来た噂の錬金術師ユウ選手ね。数十人の猛者たちを相手に、一体どんな戦いを見せるのかしら」
実況席のマイクを通したアリーの弾けた声と、マヤの冷静で的確なトーンがアリーナの空気をさらに熱く煽っていく。
『予選Aブロック、試合開始!』
「おおっと実況アリー、見逃さない! 試合開始の合図と同時に、周囲のファイターたちが一斉にユウ選手へと襲いかかったぁぁーーっ!! 剣に魔法に斧に槍、あらゆる攻撃が殺到するぞーーっ!!」
「……ふん、連携も何もない、ただの数の暴力ね。けれど、ユウ選手のあの装備……ただの服や杖ではないわ。その真価が、今まさに試されるのよ」
マヤの冷静な解説の言葉通り、四方八方から飛び込んできた猛者たちの放つ無数の斬撃や炎の魔法が、俺の身体へと容赦なく叩きつけられた。
──ズガァァァンッ!! ドゴォォォンッ!!
すさまじい爆風と衝撃が周囲を包み込み、もうもうと立ち込める砂塵が視界を遮る。
しかし、俺の足元は一歩も揺るがなかった。
古き神代の超硬合金繊維と高密度魔導シールドジェネレーターが一体化した『特製防護フィールド展開ジャケット』の裏地が、いかなる死角からの不意打ちや強力な魔法攻撃をもミリ秒単位で自動検知し、瞬時に幾重もの多層防護フィールドを身体の周囲に展開してすべてのダメージを完全に相殺し尽くしていたからだ。
「なっ……!? 攻撃が一切通じないだと……!?」
「バカな、今の直撃をノーダメージで受けただって……!?」
攻撃を仕掛けた剣士や魔術師たちが目を見開き、恐怖に似た絶叫を上げる。
俺は冷静に愛用の『極光の錬金術杖』を前方へと突き出した。
その杖の心臓部には、昨日の古龍討伐で得た魔石から抽出された純度の高いエネルギーアークが内蔵されている。
単なる魔法触媒の枠を超え、自身の魔力を極限まで圧縮・高速射出するための究極の砲塔へと変貌を遂げた極光の錬金術杖から、凄まじい閃光が放たれた。
「──お返しだ。そこを退け」
杖の先端から放たれたのは、物理的な実体弾をも遥かに凌駕するほどの圧倒的なスピードを持った『魔力の弾丸』だった。
それは空気を引き裂く鋭い軌跡を描きながら、迫り来る敵たちの手元や武器を正確無比に撃ち抜き、さらに追撃として杖を地面に叩きつけた瞬間に発生させた『高圧衝撃波』が、周囲の敵の陣形を一瞬にして木端微塵に吹き飛ばした。
──ドッパァァァンッ!!
「キャアァァァッ!?」「うわぁぁぁ、体が弾き飛ばされるぅぅ――っ!?」
凄まじい衝撃波の奔流に飲まれ、Aブロックを埋め尽くしていた数十人の剣士や魔術師たちの外部防護シールドの耐久値が次々と限界を迎え、バリバリバリッと音を立てて砕け散っていく。
審判ドローンが容赦なく赤色光を点滅させながら、「そこまで! 〇〇選手、シールドブレイクにより戦闘不能!」と判定の電子音をけたたましく立て続けに鳴り響かせた。
【灰かぶりうさぎ:待って待って待って息できない無理しんどい好き!!!!!! ユウパパが杖を軽く一振りしただけで周囲の雑魚(失礼)が吹き飛んでいくの、ガチで脳汁のシャワー浴びすぎて頭おかしなりそう……! 特製ジャケットの自動防護シールドとか世界で一番尊い、私をそのジャケットの中に住まわせてくれ……!!!】
【安倍ノ家:極光の錬金術杖の火力、そして神代の超硬合金繊維による多層防護フィールド。攻防のバランスが完璧に噛み合っているな。並みいる猛者たちがまるで子供のようにあしらわれている】
実況席のアリーが興奮のあまり、マイクを激しく握り締めながら声を張り上げる。
「な、なんということでしょうーーっ!! ユウ選手、周囲を取り囲んだ数十人の猛者たちからの同時攻撃を完全無傷でいなしたかと思えば、手にした錬金術杖からの魔力弾丸と超高圧衝撃波の一撃で、アリーナの半数以上を文字通り『蹂躙』してしまいましたぁぁぁーーっ!」
「……フッ、当然の結果ね。彼の装備は、彼自身が全ての技術の粋を注ぎ込んで創り上げた最高傑作でしょうからね。小手先の数や力任せの攻撃では、彼の防護フィールドの足元にも及ばないわ」
マヤが冷静に分析を加える。
フィールドの上では、荒れ狂う衝撃波と魔力弾の嵐に耐え切れず、次々と剣士や魔術師たちのシールドがブレイクダウンを起こし、青白い光の粒子となってその場に崩れ落ちていく。
わずか数分の間に、あれほど密集していたAブロックのステージは、まるで嵐の後のように綺麗に掃き清められていった。
その乱戦の最中、爆風の吹き荒れるステージの隅で、驚異的な身のこなしと巧妙な立ち回りで生き残っていた人物がいた。
それは、帝国からの出場者である、冷徹な眼差しをたたえた『鋼糸使い』のファイターだった。
彼は肉眼では捉えられないほど微細で強靭な魔導鋼糸をアリーナの壁面や床の隙間に素早く張り巡らせ、ユウが放つ高圧衝撃波の死角や余波を完璧に計算して身を隠し、他のファイターたちの混戦を巧みにいなしていたのだ。
そして、周囲のライバルたちが次々とシールドブレイクで脱落していく中、最後まで生き残ったのは、圧倒的な火力を誇るユウと、卓越した回避・生存能力を見せたその鋼糸使いの二人のみとなった。
鋼糸使いは自身の指先から伸びる透明な鋼糸をスッと回収し、崩れかけた瓦礫の上に立ちながら、どこか感心したような笑みを浮かべてユウに目を向けた。
「……見事なものだな。これほどの荒業を、ただの一人の錬金術師がやってのけるとは。お陰で、他の鬱陶しい雑兵どもが一掃された」
鋼糸使いが低く落ち着いた声でそう告げると、俺は極光の錬金術杖を軽く肩に担ぎ、フッと笑い返した。
「そっちこそ、あの凄まじい衝撃波の嵐の中で、うまく死角を突いて生き残ったな。帝国の人間か?」
「まあな。決勝では、今度は敵同士としてその防護フィールドを破らせてもらうさ」
闘技場の上空に設置された巨大なホログラム掲示板がピピッ、と鮮やかな緑色の光を灯した。
【勝者決定:ユウ選手、およびゲイル選手の二名が、決勝トーナメントへの進出を確定いたしました――ッ!!】
闘技場全体に轟くような歓声と拍手が巻き起こる。
観客席のあちこちから、「ユウすげええええ!!」「一瞬でフィールド一掃したぞあの錬金術師!」「帝国の糸使いもやるじゃねえか!」という興奮した声が飛び交った。
鋼糸使いは静かに一礼すると、「決勝トーナメントでまた会おう、錬金術師」と言い残し、勝者用の専用通路へと悠然と歩み去っていった。
俺もまた、極光の錬金術杖をホルスターに収め、観客席で見守ってくれているライムやティアナたちに向けて軽く手を挙げながら、晴れやかな足取りでステージをあとにしたのだった。




