第53話 開会式のファンファーレと、四分割の予選サバイバル
ウェリアタース王国の記念大闘技場のメインアリーナには、数万人を収容できる広大な観客席が隙間なく埋め尽くされ、天井を突き破らんばかりの熱気と興奮の渦が巻き起こっていた。
中央に広がる広大なバトルフィールドは、最高硬度の魔導鉱石で強化された特殊なステージであり、いかなる激しい魔法や剣戟が叩き込まれようとも容易には傷つかない頑丈さを誇っている。
俺たちのパーティーメンバーや合流したシグレさん、芹亜先輩たちは、出場者用の待機エリアの一角に陣取り、これから始まる盛大なイベントの空気を肌で感じていた。
【灰かぶりうさぎ:待って待って待って、推しメンたちが同じアリーナの空気吸ってるだけで私の一生分の水分が涙と鼻血で蒸発しそうなんだけれど!?!? 最初の開会式からすでに最高すぎて心臓持たない、助けて……!!!】
【安倍ノ家:ウェリアタース王国の威信をかけた最大規模の武闘大会だ。見応えのある戦いになりそうだな。実に興味深い】
周囲の喧騒が最高潮に達したその瞬間、闘技場全体に鳴り響くような重厚なファンファーレの音色が鳴り渡った。
──ピーーーーッ、パァァァァンッ……!
と、空間を震わせるような金管楽器の響きとともに、アリーナ中央の上空に浮かぶ貴賓席の巨大なホログラムモニターがパッと明るく輝く。
そこに姿を現したのは、ウェリアタース王国の国王である、威風堂々とした佇まいの初老の君主だった。
王冠を戴き、純白のガウンを羽織ったその厳かな姿に、観客席からの歓声が一瞬でピタリと静まり返り、深い敬意に満ちた静寂が訪れる。
「──諸国から集いし強者どもよ、よくぞ我がウェリアタース王国が誇る、記念大闘技場へ集まってくれた!」
王の低くよく通る声が、魔導拡声器を通じて闘技場の隅々までクリアに響き渡る。
「この大会は、単なる優劣を競う場にあらず! 日々鍛え上げた己の限界に挑み、互いの魂をぶつけ合うことで、次代の希望と新たな絆を切り拓くための聖戦である! 皆の健闘を祈る。臆することなく、その持てる力のすべてをこの舞台に捧げよ!」
国王の力強い激励の言葉が終わると同時に、再び割れんばかりの大歓声と拍手が沸き起こり、金色の紙吹雪がアリーナの空から舞い散った。
その華やかな演出の後、ホログラムモニターに、本日の予選形式に関する詳細なアナウンスが表示された。
【予選競技ルール告知】:本日の予選は、広大な特殊ステージを用いた『バトルロイヤル形式』を採用する。
参加者をA、B、C、Dの四つのブロックに均等に分割し、各ブロック五十名以上のファイターが同時にフィールドへ入り乱れて混戦を繰り広げる。
制限時間内に最後まで残った『各ブロック上位二名』のみが、明日の決勝トーナメントへと進出することができる。
「予選からいきなり全員参加の混戦、それも五十人以上が入り乱れるバトルロイヤル形式というわけね。なかなか骨がありそうなルールじゃない」
シオンが腕を組みながらホログラムの規定をじっと見つめ、不敵な笑みを浮かべる。
「うん、一筋縄ではいかなさそうだけど、こういう大乱戦の方が燃えるよね! 私の拳の錆にしてやるんだから!」
ニベアが両手をコツンと合わせて闘気をみなぎらせ、セラも二丁拳銃を軽くくるりと回しながら相好を崩した。
「五十人の中からのサバイバルかぁ。ボクの遠隔スナイプとこの特製ジャケットの機動力が一番活きるステージになりそうだね」
俺が全員のエントリーデータが割り振られたブロックのリストを確認すると、そこには驚くべき、運命的な配置が映し出されていた。
「待て……これ、見事に俺たち全員バラバラのブロックに分かれてないか?」
俺の言葉に、シオンが慌てて覗き込み、目を丸くする。
「本当ね。ユウがAブロック、私がBブロック、ニベアがCブロック、そしてセラがDブロックに、綺麗に綺麗に分散されてるわ」
【灰かぶりうさぎ:待って待って待って、全員別ブロックとか、神様は天才の仕業ですか?? どのブロックも一瞬たりとも見逃せないから私の目が四つ欲しい、推しが各所で無双する未来しか見えなくて息ができない助けて!!!】
【安倍ノ家:見事なまでに戦力が分散されたな。身内同士で潰し合うことなく、それぞれが独立したブロックの頂点を目指せる。主催者側の意図か、あるいは偶然のシステム割り振りのみごとな采配だ】
予選ブロックの綺麗な分散に、周囲の空気がさらに熱を帯びていく。
自分たちがバラバラの戦場に配置されたことは、全員にとって最高のモチベーションとなっていた。
「ふふ、面白いじゃない。お互いに、それぞれのブロックを圧倒的な一位で勝ち抜いて、決勝の舞台で顔を合わせるとしましょうよ」
シオンが美しく微笑みながら、愛用の複合剣の柄にそっと手を添える。
「もちろんだよ。 予選落ちなんて絶対にあり得ないからね。みんな、それぞれのブロックで派手に暴れてこよう」
セラがジャケットの背中の星型刺繍を誇らしげに揺らしながら、二丁拳銃をしっかりとホルスターに収めた。
その時、私たちの少し離れた場所でエントリー手続きを終えたばかりのシグレさんが、パタパタと小走りでこちらに駆け寄ってきた。
「皆、見た!? ユウ君たちのパーティー、予選のブロック、見事に全員バラバラのグループに分かれたみたいだよ! ちなみに私はね、Cブロックにエントリーされてるの!」
シグレさんがニコニコと笑顔を浮かべながら言うと、ニベアが「おっ、本当だ! じゃあシグレはCブロックで私のライバルになるわけね!」と楽しそうに声を弾ませた。
「そうだよ、ニベアちゃん! 手加減なしでガチンコ勝負しようね、私だってみんなに負けないくらい特訓してきたんだから!」
シグレがファイティングポーズをとるように小さく拳を握りしめてみせると、周囲にいた観客や他のファイターたちからも「お、あの子も出場するのか」「華やかな顔ぶれだな」と好奇の視線が集まった。
「シグレさんもCブロックか。ニベアと一緒の戦場になるとは、なかなか面白そうだな。お互い全力を出し切ろう」
俺が声をかけると、シグレさんは「うん、絶対勝ち残ってみせるからね!」と力強くうなずいた。
アリーナの中央アナウンスが再び鳴り響き、第一回戦である予選バトルロイヤルの開始時間が刻一刻と迫っていることを告げる。
観客席のボルテージは最高潮に達し、色とりどりのペンライトや歓声の波が闘技場全体を揺らし始めていた。
「それじゃあみんな、それぞれのブロックの入場ゲートへ向かおう。予選を余裕で勝ち抜いて、またこの場所で合流するぞ!」
俺の掛け声に合わせ、
「「「おーーっ!!」」」と、皆力強い声を揃えて気合を入れた。
こうして、ウェリアタース王国記念大闘技場における壮絶なる予選サバイバルの幕が、いよいよ上がろうとしていたのだった。




