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第52話 蒼天を割く魔導の巨艦、王国の武闘大会に降臨


 現実世界の短い眠りを経て、翌朝の陽光が差し込む頃には、俺たちはすでにフルダイブを完了し、アストライア島の地下造船ドックへと集結していた。


 作業台の向こう側には、昨夜遅くまでかかって最終調整を終えたばかりの魔導戦艦が、青白いマナの光を静かに明滅させながら圧倒的な威容を誇って鎮座している。

 純白とミッドナイトブルーの複合装甲は、昨日の古龍討伐戦で得た『古代竜の逆鱗』と『古代竜の魔石』を取り込んだことで、どこか神秘的な生命力すら帯びているように見えた。


「おはよう、ユウ!  いやぁ、いよいよ今日だね。この魔導戦艦の初飛行、そしてウェリアタース王国での武闘大会……緊張するけど、それ以上にワクワクが止まらないよ!」


 特製ジャケットを軽やかに翻し、セラが満面の笑みを浮かべて俺に歩み寄ってくる。彼女の背中の星型刺繍が、ドックの明かりを反射して綺麗にまたたいていた。


「おはよう、セラ。昨夜はしっかり眠れたか?  さあ、いよいよ俺たちの夢の結晶を大空へ羽ばたかせる時だ。皆、準備はいいか?」


 俺が振り返ると、シオン、ライム、ティアナ、ニベア、そして小さなシュテルや腕の中でピョンと跳ねるルビーたちが、それぞれ頼もしい笑顔で頷きを返した。


「もちろんよ、ユウ。昨夜のうちに複合剣のメンテナンスも完璧に済ませてあるわ。あの戦艦の初陣、そして武闘大会での勝利、どちらも完璧に決めてみせるわ」


 シオンが愛用の剣の柄に手を当てながら、凛とした美しさをたたえて微笑む。その横で、若草色の瞳を輝かせたライムが手元のコンソールをシャカシャカと高速で操作し始めた。


「マスター、メインエンジンの出力安定、および魔力バリアの展開フィールド、すべて正常値です!  いつでも出航可能です!」


「 皆さんの装備の最終調整もバッチリですし、今日は最高の一日になりますね!」


 ティアナが聖杖を胸に抱きながら穏やかに微笑み、ニベアは新調した白銀の闘衣とガントレットをカチリと合わせて気合を入れた。


「うんっ!  私、この戦艦に乗って王国に行くの、すっごく楽しみだったんだ!  武闘大会でも私の拳で暴れまくって、ユウさんたちを絶対勝たせるからね!」


 その足元で、シュテルがパタパタと耳を動かしながら「お兄ちゃん、がんばってね……! お船、かっこいい!」と小さく手を振って見送ってくれる。


「ああ、シュテル、留守番は頼んだぞ。最高の報告を持ち帰るからな」


【シグレ:ついに魔導戦艦の初出航キタァァァァーーッ!!  デザイン最高すぎて画面の前の私までテンション爆上がりなんだけど、今日の武闘大会ガチで楽しみすぎて心臓もたないよーーっ!!】


【灰かぶりうさぎ:待ってましたぁぁぁぁ!!  ユウパパたちの気合入りまくった顔面が良すぎて語彙力全蒸発した。魔導戦艦の圧倒的スペックを見せつけてやりましょう、全米が泣いた最高の初陣を刮目せよ……!!!】


【安倍ノ家:古龍の素材をフル活用した魔導機関艦の初フライトか。アストライア島からウェリアタース王国までの空域移動、実に優雅で効率的な戦術的アプローチだ。いよいよ武闘大会の幕が開くぞ】


 全員が戦艦の搭乗タラップを駆け上がり、艦内の広々としたメインブリッジへと足を踏み入れた。


 中央の操縦席に座ったライムが、流れるような手つきで幾重ものホログラムウィンドウを起動していく。


「メインシステム、全セクター順次起動……。アイドリング完了です。マスター、いつでもどうぞ!」


「よし……。全員、シートベルトはしっかり締めたな?  ──発進する!」


 俺がメインレバーを力強く押し込むと、戦艦の心臓部である古代竜の魔石が激しく明滅し、地響きのような重低音とともに巨大な推進機関が唸りを上げた。


 ドックの天井がゆっくりと左右に開き、アストライア島の澄み切った大空へと続く道が目の前に大きく開かれる。


 ──ゴォォォォンッ!!


 純白の巨艦が、重力を完全に置き去りにするかのように真上へと垂直に浮上した。

 一瞬の静寂の後、機体の周囲に展開された魔導バリアが衝撃波を綺麗にいなし、戦艦は一気に加速する。


「うわぁぁぁ、すごい……!  空が一気に広がっていくよ……!」


 セラがブリッジの巨大な強化ガラスの窓に張り付き、眼下に広がるアストライア島の緑豊かな景色を見下ろしながら歓声を上げる。


 戦艦は蒼穹を切り裂くように、雲の海を優雅に、そして圧倒的なスピードで駆け抜けていった。


【シグレ:戦艦の発進シーンが映画のワンシーンすぎてガチで鳥肌立った……!  このまま一気にウェリアタース王国まで突っ走れーーっ!!】


【灰かぶりうさぎ:美しすぎる……!  青空を駆ける魔導戦艦とか、全オタクが夢に見たロマンの具現化じゃん……ユウパパ、私をその艦に乗せてくれ……!!!】


【安倍ノ家:巡航速度も機動性も完璧だな。これなら予定時刻よりも大幅に早くウェリアタース王国の空域に到達できるはずだ。実に素晴らしい設計だ】


 数十分後、雲の切れ間から、白亜の城壁と美しい尖塔が立ち並ぶ巨大な都市──ウェリアタース王国の壮麗な街並みが姿を現した。


 街の中心部、そのひときわ目を引く一角には、開催地である巨大な円形闘技場が太陽の光を浴びてそびえ立っている。


 俺たちはその闘技場の遥か上空へと滑らかに接近し、会場から少し離れた郊外の広々とした特設着陸広場へと、まるで羽毛のように静かに戦艦を着地させた。


「着陸完了、パーフェクトです!  衝撃吸収システム、完全に機能しました」


 ライムがホログラムのモニターを閉じながら、ほっとしたように微笑む。


「さすがライム、見事な操縦だったな。さて……ここから会場入りするわけだが」


 俺がブリッジのメインハッチの操作盤に手をかけると、厳重なセキュリティ音が鳴り響いた。


「この戦艦のハッチは、俺の『アストラ・ヒューマン』としての固有生体認証システムと魔力波長が一致しなければ、絶対に開かない設計になっている。勝手な侵入者や野次馬が入り込む心配はゼロだ。安心して外に出よう」


 ハッチが「プシューッ」という気化音とともに開き、外の冷たく澄んだ空気がブリッジへと流れ込んできた。


 戦艦の周囲には、突如として空から舞い降りてきた巨大すぎる未知の巨艦に驚き、遠巻きに指を指して騒然としている一般の観客や冒険者たちの姿が見える。


「あそこの人たち、私たちが乗ってきた戦艦を見てめちゃくちゃ驚いてるわね……それもそうか、こんなすごい船いきなり空から降ってきたらびっくりするわよね」


 シオンが楽しそうにクスリと笑いながらタラップを降りていく。


 俺たち一行もそれに続き、戦艦の重厚な扉をしっかりとロックしてから、いよいよ武闘大会の会場である巨大な円形闘技場へと足を踏み入れた。


【シグレ:戦艦の生体認証セキュリティとかガチでロマンの塊だし、一般モブたちの「なんだあれは!?」って驚愕してるリアクションが最高に気持ちいい(笑)】


【灰かぶりうさぎ:一般人になりきってあの戦艦を真下から見上げたい人生だった……。いよいよ闘技場入りとか、今日のメインイベントの始まりだぁぁぁ!!】


【安倍ノ家:外部からの不正侵入を完全にシャットアウトする生体認証か。セキュリティ面も万全だな。さて、会場の強豪たちとの顔合わせが楽しみだ】


 闘技場の巨大な正門をくぐり、受付ロビーへと足を踏み入れた瞬間、周囲の空気が一変した。


 様々な国から集まった屈強なファイターや魔法使い、一癖も二癖もありそうな冒険者たちが所狭しと行き交う中、俺たちの姿を認めた周囲の人々が、一斉にヒソヒソとざわめき始める。


「おい、見ろよあの連中……。なんか妙なオーラを纏ってやがるぞ……」


「さっきの巨大戦艦で乗り付けてきたやつらか……! ただ者じゃなさそうだな……」


 周囲の好奇の視線とざわめきを涼しい顔で受け流しながら、俺たちは受付カウンターへと進み出た。


「こんにちは。本日の武闘大会のエントリーをお願いしたいんですけど」


 俺が声をかけると、受付の女性スタッフは手元の魔導端末を操作しながら応じてくれた。


「はい、 エントリーですね。それではご登録を……プレイヤー名、ユウ様、シオン様、ニベア様、セラ様ですね。確認いたしました」


 今回の武闘大会に出場するのは、俺、シオン、ニベア、そしてセラの四人だ。

 ライムとティアナは、圧倒的な後方支援や広範囲バリア、そして戦術解析においてはパーティに欠かせない最強の存在だけど、純粋なタイマンや近接・中距離主体のアリーナ形式の直接戦闘という観点からはやや不向きであるため、今回は出場を見合わせ、観戦とサポートに徹することになっていた。


「私は今回は応援と戦術サポートに回ります。皆さんのこと、全力でバックアップしますからね!」


 ティアナが優しく微笑み、ライムもタブレットを片手に力強くうなずく。


「私たちの分の活躍も期待していますよ、皆さん!」


【灰かぶりうさぎ:出場メンバーのビジュアルと戦闘力が天才的すぎてお姉さん涙出そう。推しが多すぎてどこ見ればいいのか分からない助けて!!!】


【安倍ノ家:前衛のユウとシオン、ニベア、遠距離のセラか。全員高レベルプレイヤーで、これは優勝候補筆頭と言っても過言ではないな】

 

 無事に全員のエントリー手続きを済ませ、選手控室へと向かう広い廊下を歩いていたその時だった。


「あ――っ!  みんなーーっ!!  こっちこっちーっ!!」


 遠くから、明るく元気な声が響いてきた。

 

 顔を上げると、廊下の角から手をブンブンと大きく振りながら、弾けるような笑顔でこちらへと走ってくる一人の少女の姿があった。


 先程までコメント欄で発言していたプレイヤー──シグレさんだった。


「シグレさん!」

 

 シオンが声をかけると、シグレさんは、目の前まで駆け寄ってきてハァハァと息を整えながら、嬉しそうに俺たちの顔を一人ひとり順番に見回した。


「いつも配信の画面やコメント欄の向こう側でしか見ていなかった皆と、こうしてリアルに、同じ場所で直接会えるなんて……なんかもう、嬉しすぎて夢みたいだよ……!」


 シグレさんは感極まったように両手を胸の前で軽く組み、潤んだ大きな瞳で俺たちを見て満面の笑みを浮かべた。


「ふふ、シグレさん、本当によく会えたわね。画面の向こうと同じですごく元気そうじゃない」


 シオンがクスリと笑いながらシグレさんの肩を優しくポンと叩くと、シグレは「うんっ!」と勢いよく首を縦に振った。


「そうだよ、シオンちゃん!  本物だぁ、美しすぎる……!  セラちゃんも、ニベアちゃんも、ティアナちゃんもライムちゃんも、ルビーちゃんも、みんな画面で見るより何倍も素敵で可愛くて、私、今すごく緊張しちゃってるかも……!」


「キュイ、キュイッ!」


 ルビーが挨拶するように右足を上げる。


「ふふ、シグレちゃん、よろしくね。ボクも、シグレちゃんに直接会えてすごく嬉しいよ。今日の大会、お互い頑張ろうね」


 セラが気さくに手を差し伸べると、シグレは嬉しそうにその手をギュッと握り返した。


「うん!  私も、この武闘大会にプレイヤーとして出場することになってるからね。みんなとはライバル同士になっちゃうけど、今日のこの会場で、こうして同じ舞台に立てるなんて最高の思い出だよね!」


 シグレがパッと明るい声を弾ませると、ニベアもガントレットをカチリと鳴らしながら楽しそうに笑った。


「じゃあ、リングの上で当たったら手加減なしだからね、お互い全力でいこう!」


「うん、望むところだよ!  絶対に負けないんだから!」


【灰かぶりうさぎ:シグレちゃんのオタク全開のリアクションが完全に私ら視聴者の代弁者すぎて最高すぎる……!  このメンバー全員で武闘大会に臨むとか神回不可避じゃん……!!!】


【安倍ノ家:配信者であるシグレと主人公パーティの直接合流か。物語がいよいよ一つの大きなフェーズのクライマックスへと突入していく実感が湧くな】


 シグレを新しい仲間として(そして本日の強敵の一人として)迎え入れ、俺たちは賑やかな雰囲気のまま、出場者たちが続々と集まる選手控室のエリアへと足を進めていった。


 選手控室へと続く通路の一角。本戦前のピリッとした空気の中、ふと前方から賑やかな話し声が聞こえてきた。


「芹亜お姉ちゃん、ほら、あれ、ユウ君たちじゃない?」


「ああ、配信で見ていたとおりの姿だな」


 聞き覚えのある凛とした声に導かれるように視線を上げると、そこに立っていたのは生徒会長である芹亜先輩、そして妹の涼花と幼馴染みの南、さらに親友の遥馬の四人だった。

 全員、それぞれの戦闘スタイルに合わせた真新しい装備を身にまとっている。

 アバターであるためリアルとは容姿が違うが、画像で見てその姿は知っていた。


「お兄ちゃん――っ!」


 涼花が一番に俺の姿を見つけ、パッと駆け寄ってくる。その後ろから、南と遥馬、そして少し遅れて芹亜先輩が優雅な足取りで近づいてきた。


「みんな、こうしてゲーム内で会うのは初めてだな」


 俺が感慨深く思いながら言うと、遥馬がニヤリと不敵な笑みを浮かべて愛用の武器を軽く担いだ。


「俺たちも全員で出場するからな! ユウとはライバルだ!」


「そうだよ、ユウくん! 私たちも選手として参戦するからね!」


 南が拳を握ってやる気を見せる。


 その隣で、涼花がビシリと指で俺の顔を指し示しながら続いた。


「お兄ちゃんとは対等なライバルだからね!  今日のこの大会、一泡吹かせてあげるんだから!」


 妹たちの弾けんばかりの闘志を見て、俺が思わず苦笑いを浮かべると、芹亜先輩がフッと余裕のある笑みを浮かべて胸を張った。


「ふふ、皆やる気十分みたいだね。それにしても……」


 芹亜先輩は、俺の後ろにいるメンバーの顔ぶれをちらりと見渡し、琥珀色の瞳を細めた。


「まさかあの戦艦で本当にここまで乗り付けてくるなんてね。やっぱり悠人君は、とんでもないロマンを体現してくれるよ」


「あの魔導戦艦は俺たちの努力の結晶ですからね」


 俺が誇らしくそう答えると、シオンや先ほど合流したシグレさんたちも、新しくやってきた四人に温かい笑みを向けた。


「わあ、この子たちがユウ君の妹さんたちとお友達なんだね。しかもライバルとして戦えるなんて最高だよ。ボクはセラ、銃士だよ、よろしくね」


「はじめまして、電脳遊戯部の皆! 皆でこの大会をめちゃくちゃに盛り上げようね!」


「キュイ、キュイーッ!」


 セラとシグレさんが気さくに声をかけ、続けてルビーが鳴くと、涼花と南も、負けじと闘志を燃やしてパッと笑みを咲かせた。


「すごい……!  配信とかで見てたシグレちゃんだし、本物は圧倒的にオーラが違うけど……私たちだって特訓したんだから簡単には負けないんだから!」


 南が力強く拳を握りしめ、遥馬も「おう、油断してると俺たちのコンビネーションに足元すくわれるぜ!」と不敵に笑う。


 その時、遠くのメインアリーナから、地鳴りのような大歓声とともに重厚なファンファーレの音色が響き渡った。


『──皆様、お待たせいたしました!  ただ今よりウェリアタース王国大武闘大会の開会式を行います。出場者の方々は──』


 アナウンサーの魔導拡声器を通した張りのある声が、闘技場全体に高らかに告げられる。


「よし、いよいよだな。手加減なしの本気勝負だ、皆!」


 俺が引き締まった表情で前を向くと、シオン、ニベア、セラ、シグレさん、そして遥馬や南、涼花、芹亜先輩たちも含めた全員がそれぞれの武器や魔力を構え、頼もしい笑みを浮かべた。


「お兄ちゃん、絶対に負けないからね!」


「ユウ、皆、いきましょう!」


 熱狂の渦巻くメインアリーナの入場ゲートへと、私たちは仲間でありライバルでもある全員で、力強く踏み出していった。



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