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第49話 霊峰の麓、決戦の誓い


 アストライア島の北部エリア、霊峰の麓に広がるキャンプ地へと移動した私たちは、周囲を囲む荒涼とした谷あいの空間でひと息ついていた。


 夕闇が再び迫りつつあるこの場所には、標高の高さゆえか冷たい山風がビュービューと激しく吹き抜けている。

 けれど、その中央に置かれた焚き火の温かな炎が、凍てつくような冷気を心地よく和らげてくれていた。


 パチパチと薪が爆ぜる音を聞きながら、私たちは全員で焚き火を囲むようにして腰を下ろす。


【シグレ:いよいよ古龍戦前のキャンプ地シーンきたぁぁぁーーっ!!  このRPG王道の最終決戦前夜の雰囲気、マジで胸熱すぎて最高なんだけど!!】


【灰かぶりうさぎ:ひゃああああああああ!!!  古龍討伐編突入とか脳汁ドバドバ出て止まらんのだけれど!?!?  ユウパパの指揮官としてのイケメン度も天井知らずだし、推しメン全員の気合入りまくってて全私が爆発四散したわ……すき……!!!】


【安倍ノ家:古龍種の生息エリアか。これまでの雑魚や中ボスとは格が違う、文字通りの災害級の敵だ。キャンプ地での綿密な戦術確認は不可欠だな】


「さて、明日いよいよ挑む『北部の霊峰』と古龍種の生息エリアについての作戦を、ここで最終確認しておこう」


 俺は焚き火の脇の地面を綺麗に均し、そこに特殊な魔導ペンを取り出して霊峰の3D立体マップを投影した。


 青白い光のホログラムとして浮かび上がった山頂の地形図には、古龍種がねぐらとしている巨大なクレーターや、突風の吹き抜ける危険な回廊が赤く点滅してマークされている。


「マップを見る限り、山頂付近は常に超高圧の熱風と、龍族特有の『圧倒的な重圧フィールド』が展開されているわね。まともに正面から突っ込めば、私たちの動きが制限されて一方的に炎のブレスを浴びせられかねないわ」


 シオンは投影された立体マップをじっと見つめながら、指先で敵の予想移動ルートをなぞり、冷静に分析を加える。

 彼女の戦闘勘は日増しに鋭くなっており、こうした戦術立案においては完全にパーティの司令塔としての役割を果たしていた。


「流石だな、シオン。その通りだ。だからこそ、正面からの力押しだけじゃなく、俺が錬金術で作成する『耐龍コーティング弾』と『魔力干渉トラップ』を山頂の各所に仕掛け、奴の機動力をまずは削ぐのが得策だ。そして、動きが鈍ったところにシオンの全力を込めた魔法剣の一撃を叩き込み、ライムのハッキング支援で一時的にシールドを無効化する。そして──」


 俺が視線を巡らせると、ティアナとニベアがしっかりと頷きを返した。


「ティアナの広範囲バリアで古龍の熱風とブレスを完全にいなし、その隙にニベアの新調した『白銀の闘衣』とガントレットの神速ラッシュで一気に畳み掛ける。これが今回の基本方針だ」


 俺が作戦の骨子を説明すると、ライムは手元のタブレットをパチパチと叩きながら満面の笑みを浮かべた。


「完璧な作戦です!  敵の行動パターンは私のドローンネットワークで完全に捕捉・予測しますから、安心して突撃してください!」


「うん!  私、新装備の性能を試したくてウズウズしてたんだ!  巨大な竜っころなんて、私の拳でぶっ飛ばしてやるんだから!」


 ニベアが両手を握り締めて闘気をみなぎらせると、隣に座っていたセラがフッと小さく笑った。


「ふふ、ニベアは元気だね。大丈夫だよ。ボクの二丁銃の遠隔スナイプで、掩護射撃してあげるから、安心して暴れておいでよ」


 セラの頼もしい言葉に、パーティの士気は最高潮へと高まっていった。


 作戦会議が一区切りついたところで、俺はふと隣に座る青髪のボクっ娘──セラの方へと向き直った。


「そういえば、セラ。君、目覚めてからずっとコールドスリープに入っていたときのドレスみたいな戦闘服のままだったな。古龍を相手にするには、少し防御面や機動性が心許ない気がするんだけど……どうだ?」


 俺の言葉に、セラは自分の着ている近未来的な戦闘服の裾を摘み、少し困ったように首をかしげた。


「あぁ、これ?  目覚めたときはこれが標準装備だったから気にしてなかったけど……確かに、ガチガチの古龍とやり合うには、もう少し動きやすくて頑丈なアウターがあった方がいいかもしれないね」


「よし、それじゃあ今から君にぴったりの新しい防具──特製ジャケットを錬成してやろう」


【シグレ:キタキタキタァァァ!!  ユウ君の装備錬成タイムだぁぁぁ!!  セラちゃん用の特製ジャケットとか絶対デザイン神じゃん!!】


【灰かぶりうさぎ:待ってましたぁぁぁぁ!!  ユウパパの職人スキル全開になる瞬間世界で一番好き!!  青髪ボクっ娘にどんなお洋服作っちゃうの……!  想像しただけで鼻血出るんだが!!!】


【安倍ノ家:古龍戦を前にした重要なクラフトイベントだな。セラの『銃士』としての機動性と防御力を底上げする最高峰の防具になるはずだ。流石の腕前を見せてくれ】


 俺が立ち上がると、インベントリから先ほどの塔の最上層やガーディアン戦で手に入れた『古き神代の超硬合金片』や『星屑のプラズマコア』、『星辰石の破片』、そして白狼族の村の素材である柔軟な魔獣の皮革などを次々と取り出し、キャンプ地の焚き火の傍らに並べた。


「これ、全部さっきまでのダンジョンで集めたレア素材?」


 セラが興味津々といった様子で、キラキラと青い瞳を輝かせながら素材の山を覗き込む。


「そうだ。君の『銃士』としての機動力を一切阻害せず、かつ古龍の強烈な熱風やブレスを完全にシャットアウトする耐熱・耐魔導コーティングを施した特製ジャケットを作ってやる。じっとしていてくれ、すぐに採寸と魔力同調を行うからな」


 俺が極光の錬金術杖を掲げ、青白いマナの光をセラの身体の周囲へと優しく纏わせる。


 セラは少し照れくさそうに頬を掻きながらも、素直に目を閉じて俺の錬金術の波長に身を委ねた。


「ふぁぁ……なんだか、体がポカポカして、すごく心地いい温かい光に包まれてるみたい……。ユウの魔力、すごく落ち着く……」


「よし、データリンク完了だ。ここから一気に組み上げる!」


 俺は両手のガントレットから高純度の錬金マナを噴き出させ、空中に素材を散りばめた。

 素材たちが青い閃光を放ちながら高速で融合し、セラの体格と戦闘スタイルに最適化された形状へとみるみるうちに形を変えていく。


 数秒後、光がスーッと収束し、俺の手元には一着の美しいジャケットが形作られていた。


 それは、深みのある夜空のようなミッドナイトブルーを基調とし、肩から袖口にかけては『古き神代の超硬合金片』を微細な繊維状に織り込んだ軽量かつ超頑丈なアーマープレートが組み込まれた、スタイリッシュなショート丈のジャケットだった。

 背中にはアストラ・ヒューマンの紋様である星型の刺繍が銀糸で美しく施され、裏地には耐熱・防風に優れた星屑の魔力フィルムが内蔵されている。


「ほら、出来上がったぞ。着てみてくれ」


 俺がジャケットを手渡すと、セラは目を丸くしてそれを受け取った。


「わぁ……!  すっごく軽くて、それでいて触るとひんやりしてて……でも芯がしっかりしてる……!」


 セラは早速そのジャケットに袖を通した。


 ジャストサイズで仕立てられたショートジャケットは、彼女の引き締まった身体のラインを美しく引き立てつつ、二丁拳銃を抜いたり激しく動き回ったりするための肩回りの可動域が完璧に確保されている。背中の星型刺繍が、星明かりの下で微かに青く光を放っていた。


【シグレ:うわああああっ!!  このセラちゃんの新衣装、めちゃくちゃカッコいいしかわいい最高だよ……!!】


【灰かぶりうさぎ:語彙力が完全に蒸発した。青髪ボクっ娘にミッドナイトブルーの近未来ジャケットとか天才の犯行すぎるだろ……ユウパパ、私にもその服作って!!!】


【安倍ノ家:見た目のスタイリッシュさだけでなく、古龍の熱風に耐えうる耐熱・防魔性能まで完璧に備わっているな。戦闘力が一段階跳ね上がったぞ】


「どうだ?  動きにくさはないか?」


 俺が尋ねると、セラは両腕を大きく回したり、その場で軽やかにステップを踏んだりして、満面の笑みを浮かべた。


「すごいよ、ユウ!  全然重くないし、むしろ腕を振るのがいつもより何倍も軽やかだよ!  これなら、どんなに激しい銃撃戦でも縦横無尽に動き回れる気がする!」


 セラは嬉しそうにクルリと一回転し、自分の背中側のジャケットの裾をヒラヒラと揺らした。


「それに……この背中の星の刺繍、すごく気に入ったよ。なんだか、ユウと本当の意味で『同じ仲間、同じ一族』になれた気がしてさ」


 セラは少し照れくさそうにはにかみながら、そう言ってフッと柔らかく微笑んだ。


 そのあどけなさと戦士としての凛々しさが同居した笑顔を見て、俺も思わず満足そうにうなずいた。


「気に入ってくれて何よりだ。そのジャケットなら、明日の古龍戦でも君を確実に守ってくれるはずだ。存分に暴れてくれ」


「うん!  任せてよ、ユウ!  この新しいジャケットのお礼に、明日は巨大な竜の尻尾の先端まで蜂の巣にしてあげるんだから!」


 セラの力強い宣言に、キャンプ地を包んでいた緊張感は心地よい高揚感へと変わっていった。



   §



 特製ジャケットの錬成を終え、再び焚き火の周りに腰を下ろした俺たちは、静まり返る夜の霊峰の麓で夜食の温かいスープを啜っていた。


「いよいよ明日ね……。相手はこの島で最強の古龍種。気を引き締めていかないと、本当に一瞬で灰にされちゃうわ」


 シオンがマグカップを両手で包み込みながら、夜空に浮かぶ満天の星々を見上げて呟く。


「はい!  ティアナの全力の聖結界で、みんなのHPと耐性を常にマックスに維持しますから、シオンさんも思いっきり暴れてきてくださいね!」


 ティアナが力強く胸を張り、ライムも自分のタブレットの画面をみんなに見せた。


「古龍の行動予測AIのシミュレーション、完了しています。弱点露出のタイミングは完璧に割り出しましたから、私のサポートを信じてください!」


 ニベアは新調したガントレットをカチリと合わせ、自信満々の笑みを浮かべる。


「みんながいるから負ける気がしないよ!、ユウが作ってくれた最強の装備の力を借りて、私たち白狼族の誇りを見せつけてあげる!」


「どんなに硬い古龍の鱗だろうと、ボクが完璧に足止めして隙を作ってあげるからさ、みんなは安心してド派手に一撃を叩き込んでやりなよ!」


 とセラが二丁拳銃をかまえながら。



「キュイ、キュイ!」


 ルビーが、「僕もいるよ!」というように鳴き声を上げて主張する。


 仲間たちの頼もしい言葉を聞きながら、俺は大きく息を吸い込み、立ち上がって全員を見回した。


「よし。準備は万端だ。明日は過酷な戦いになるだろうけど、俺たちなら絶対に勝てる。アストライア島の未来のためにも、そして俺たちの新しい冒険のためにも、絶対に古龍を討ち取ろう!」


「「「おーーっ!!」」」


 焚き火の炎が夜空に向けてパチパチと高く舞い上がり、俺たちの決意を温かく照らし出す。

 星霜の夜が更けていく中、決戦の時は刻一刻と近づいていた。


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