第50話 天翔の双撃、古龍討伐と魔導戦艦の夜明け
昨夜はあの後、一旦ログアウトし、現実世界で昼食を食べてから、再びログインした。
そして迎えた朝。
アストライア島北部にそびえ立つ霊峰の山頂付近は、平地とは次元の異なる荒れ狂う暴風と、肌を焼くような超高圧の熱気が渦巻いている。
俺たち一行──ユウ、シオン、ライム、ティアナ、ニベア、そして新調した特製ジャケットに身を包んだセラは、一歩進むごとに全身にかかる重圧を押し返すようにして、山頂の巨大なクレーター中央へと足を踏み入れていた。
ルビーはキャンプ地で留守番をさせている。これから繰り広げられるだろう激戦に巻き込むわけにはいかない。
「……空気が完全に歪んでいるわね。ここが、古龍のねぐら……!」
シオンが複合剣を強く握り締め、前方を見据える。
その瞬間、頭上の蒼穹を覆っていた分厚い雲が轟音とともに真っ二つに引き裂かれ、黄金色の巨大な影が舞い降りた。
──ズズズズゥゥゥンッ!!
着地と同時に巻き起こった衝撃波が周囲の岩盤を粉砕し、俺たちは思わず姿勢を低くして身構える。
そこに姿を現したのは、全長三十メートルを超えようかという圧倒的な巨体を誇る黄金色の竜だった。
全身を覆う分厚い鱗は太陽の光を反射して眩い光を放ち、その口元からは常に超高熱の炎の粒子が零れ落ちている。
「……きたっ……! あれが、この島の頂点に君臨する古龍種……!」
ニベアが新調したガントレットをカチリと合わせ、闘気を爆発させる。
俺はすぐに解析を発動させ、目の前の災害級の巨敵へと視線を合わせた。
「任せろ、今すぐ奴の全ステータスを丸裸にしてやる……!」
視界の端に、瞬時に青いホログラムのステータスウィンドウが展開された。
名称: 古の天災竜『エンシェント・バーン・ドラゴン』(推奨Lv.60)
属性: 炎・天災(※物理・魔法防御の双方が極めて高く、圧倒的な熱量と龍圧フィールドを展開する)
特性: 霊峰の頂点に君臨する古龍。周囲の酸素を燃やし尽くす超高熱のブレスと、圧倒的な巨体から繰り出される豪快な物理攻撃、そして空間を歪める龍圧咆哮を持つ。
弱点部位: 喉元の逆鱗の隙間(熱量解放コア)、および頭部中央の角。
主なドロップ・剥ぎ取り素材: 『古代竜の逆鱗』、『天災竜の灼熱血』、『古代竜の魔石』
【シグレ:推奨レベル60の古龍キタァァァァーーッ!! 名前からしてヤバそうな雰囲気がプンプンして最高にテンション上がる!!】
【灰かぶりうさぎ:ひゃあああああああ!!!! エンシェント・バーン・ドラゴンかっこよすぎんか!? 推しメンたちの命が心配だけど、この絶望的な強さのボスをユウパパたちがボコるのガチで脳汁ドバドバ出るんだが!?!? すき……!!!】
【安倍ノ家:古龍種『エンシェント・バーン・ドラゴン』か。推奨Lv.60の災害級エネミーだ。まともにブレスを食らえば一撃で全滅もあり得る。慎重かつ大胆な戦術が必要だな】
「推奨レベル60……! 生半可な攻撃じゃかすり傷一つつけられないぞ。だけど、弱点は喉元の逆鱗の隙間と頭部の角だ!」
俺が解析結果をパーティメンバー全員に共有すると、セラがジャケットの背中の星型刺繍を揺らしながら二丁の魔導拳銃を構えた。
「オッケー、弱点は分かったね! じゃあ、ボクのこの特製ジャケットの機動力を活かして、まずはあの頭の角を蜂の巣にして視界を奪ってあげるよ!」
「頼むぞ、セラ! ティアナ、全体バリアと熱耐性の聖歌を頼む!」
「はい、任せてください! ──〈聖天の守護結界・フレイム・ガード〉!」
ティアナが聖杖を掲げると、俺たち全員の体を包み込むように黄金色の輝く障壁が展開され、押し寄せる猛烈な熱気がピタリと遮断された。
「いくよ――っ! 〈白狼・雷光疾走〉!」
ニベアが神速の身のこなしで大地を蹴り、エンシェント・バーン・ドラゴンの巨体へと肉薄する。彼女の拳から放たれた高周波の雷撃パンチが古龍の右前足に直撃し、激しい電磁スパークが走った。
しかし、古龍は微動だにせず、むしろ鬱陶しと言わばかりに巨大な尻尾を横薙ぎに振り払った。
「──っ、重い……!」
シオンが複合剣でその尻尾の軌道を必死に受け止めたが、凄まじい遠心力に耐え切れず、地面を大きく削りながら数メートルも弾き飛ばされてしまう。
「シオン!」
「大丈夫よ……! まだやれるわ!」
シオンは素早く体勢を立て直し、純白の魔力を刃に纏わせながら再び飛び込む。
けれど、エンシェント・バーン・ドラゴンは大きく息を吸い込み、その喉元を赤黒く輝かせた。圧倒的な熱量が周囲の空間を歪めていく。
「──来る! 全員、伏せろッ!!」
俺の叫びと同時に、古龍の口から放たれた超高熱の滅殺ブレス──〈カタストロフィ・フレア〉が放たれた。
それは周囲のすべてを焼き尽くす灼熱の洪流となり、俺たちの展開していたティアナの聖結界を一瞬にして粉砕し、キャンプ地ごと山頂の地形を抉り取るほどの破壊力で直撃した。
「きゃあああっ……!」
ティアナの悲鳴が響き、全員が凄まじい衝撃波と熱風に吹き飛ばされ、地面へと激しく叩きつけられる。
HPゲージが赤色に点滅し、ライムのドローンも過負荷で次々とショートして機能を停止していった。
【シグレ:うわああああっ!! 滅殺ブレスの威力エグすぎでしょ……! パーティが一気にピンチに追い込まれちゃったよ……!!】
【灰かぶりうさぎ:無理無理無理全員のHPが赤ゲージとかガチで死ぬレベルじゃん!! でもここからの逆転劇がこの物語の真骨頂なんだよな……ユウパパ、みんなを助けて……!!!】
【安倍ノ家:流石は古龍種、まともに食らえばひとたまりもないな。だが、ライムの解析データと各々の温存していたスキルを合わせれば、まだ勝機はある!】
「くっ……! みんな、怪我はないか……!」
俺は崩れ落ちた岩陰から這い上がり、仲間たちの無事を確認する。
シオンもニベアも、セラもティアナも、満身創痍ながらもしっかりと立ち上がろうとしていた。
そして、エンシェント・バーン・ドラゴンはトドメを刺そうと、再び巨大な翼を広げ、俺たちの上空へと舞い上がっていた。
「まだだ……まだ終わってない……!」
俺が両手のガントレットに全ての魔力を集中させようとしたその時、セラのジャケットの背中の星型刺繍が眩い青光を放った。
彼女は新調した特製ジャケットの機動力を最大限に活かし、崩れた岩場を跳び回るようにして古龍の死角へと回り込む。
「ボクの新しいジャケットと二丁銃をなめないでよね! 〈エーテル・スナイプ・バースト〉!」
セラが両手の魔導拳銃を一直線に構え、超長距離からの精密射撃を放つ。
放たれた蒼きエーテルの弾丸は、古龍の視界を眩ませると同時に、弱点である頭部中央の角へと正確無比に直撃した。
──ガキィィンッ!!
「グォォォオオッ……!?」
古龍がバランスを崩し、その巨大な頭部が大きくのけ反る。
その瞬間を見逃さなかったライムが、最後の予備バッテリーを繋いだタブレットを激しく叩いた。
「マスター! 古龍のシールド回路、一時的にハッキング成功しました! 今なら奴の『熱量解放コア』が無防備です!」
「ナイスだ、ライム……ッ!!」
俺は極光の錬金術杖を天高く掲げ、この戦闘で収集したすべての錬金マナを解放した。
「シオン、行くぞ……! 俺たちの全力をこの一撃に込めるんだ!」
「ええ、分かっているわ、ユウ……! 私たちの絆と、この剣に懸けて!」
シオンが複合剣を強く握り締め、その刃に青白く輝くすべての魔力を極限まで収束させる。
彼女の全身から放たれる闘気が、夜空の星々をも切り裂くような圧倒的な輝きを放ち始めた。
「──我が剣閃は虚空を穿つ! 〈秘技・絶刀・エターナル・フロスト〉!!」
シオンが放った神速の居合い斬りが、空間そのものを凍てつかせるような美しい軌跡を描いてエンシェント・バーン・ドラゴンの喉元──弱点である熱量解放コアへと直撃する。
古龍の動きが完全に凍結し、硬直したその刹那、俺は両手のガントレットから無限の錬金マナを奔流のように叩き込んだ。
「そして、これが俺たちの総力の結晶だ……ッ! 錬金創成・〈極光天翔・アルティメット・ギガブレイク〉!!」
──ドォォォォォンッ!! と霊峰の山頂が消え去るのではないかというほどの凄まじい大爆発が巻き起こり、黄金の古龍の巨体はまばゆい光の粒子へと包み込まれていく。
数秒の静寂の後、エンシェント・バーン・ドラゴンは盛大な地響きを立てて地面に崩れ落ちた。
【システム通知】:古の天災竜『エンシェント・バーン・ドラゴン』の討伐に成功しました】
【経験値を獲得し、パーティーメンバーのレベルが大幅に上昇しました!】
プレイヤー名: ユウ レベル:55(+6UP)
プレイヤー名: シオン レベル:55(+6UP)
プレイヤー名: ティアナ レベル:46(+8UP)
プレイヤー名: ライム レベル:54(+6UP)
プレイヤー名: ニベア レベル:49(+7UP)
プレイヤー名: セラ レベル:55(+6UP)
【シグレ:キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!! 古龍討伐完了ぉぉぉっ!! シオン様の絶技とユウくんの錬金奥義のコンボ、マジで鳥肌立ちすぎて涙出てきたよ!!】
ここに灰かぶりうさぎの限界オタクカプ厨らしいハイテンションなコメントを書いて
【灰かぶりうさぎ:待って待って待って息できない無理しんどい尊い好き!!!!!! 最初のセラちゃんの新調ジャケット見せ場からのライムちゃんの超速ハッキングで私の全メンタルがすでにオーバーヒートしてたのに、その直後のユウくんとシオンちゃんのアイコンタクトからのクロスコンボとか聞いてないんですけど?!??!?! 『私たちの絆と、この剣に懸けて!』って言った瞬間のシオンちゃんの表情と声のトーンがガチすぎて私の全オタク生命が燃え尽きたわ……からのユウくんのアルティメット・ギガブレイクで完全にトドメ刺された、無理、パーティー全員のレベルアップ画面の並びすら愛おしすぎて一生寝られない助けて!!!???】
【安倍ノ家:見事な逆転劇だったな。絶望的なピンチからの、セラとライムのサポートを起点としたシオンとユウのフィニッシュブロー。文句なしの満点作戦だ】
そうして、戦いが終わり、静けさを取り戻した霊峰の山頂には、勝利の達成感に満ちた穏やかな空気が流れていた。
俺は消え去った古龍の足元に落ちていた光り輝くアイテムへと歩み寄り、そっと拾い上げる。
「……よし、『古代竜の逆鱗』と、純度抜群の『古代竜の魔石』を完全に回収したぞ」
俺がインベントリにそれらを掲げると、仲間たちがパッと顔を輝かせて駆け寄ってきた。
「やったね、ユウ! これで欲しかった素材が全部揃ったんだね!」
ニベアが飛び跳ねて喜び、セラも自分の新しいジャケットの裾を翻しながらニッコリと笑った。
「さすがユウのパーティーだね。こんなすごい古龍の素材までゲットしちゃうなんてさ。まあボクもその一員なんだけど」
「はい! これで、私たちがずっと進めてきたあの計画が、ついに完成しますね……!」
「ええ、いよいよです!」
ライムとティアナが嬉しそうに顔を見合わせる。
そう、この『古代竜の逆鱗』と『古代竜の魔石』こそが、アストライア島の地下ドックで現在建造を進めている『魔導戦艦』のコアエンジンとメインフレームを稼働させるために必要不可欠な、最後のピースだったのだ。
「ああ、その通りだ。今、ラボで進めている建造中の素材とこの竜の素材が完全に噛み合えば、いよいよ、俺たちの夢の結晶である『魔導戦艦』が完成するぞ!」
俺が高らかに宣言すると、シオンは満足そうに微笑みながら複合剣を背中に納めた。
「長かったわね……でも、私たちの旅はここからが本当のスタートよ。さあ、ラボへ戻りましょう! ……ん? あれ、なに?」
シオンが足を止め、光り散る消えかけの古龍の残骸の中心へと視線を向けた。
ドロップアイテムとは別に、静かに残された一つの気配。
それは、微かに温かな光を放つ、巨大な卵のようだった。表面には美しい竜の紋様が幾何学模様のように浮かび上がり、規則正しく脈打つような鼓動を伝えてくる。
「ユウ、あれ、古代竜の卵じゃない?」
「ああ。おそらく、あの古代竜が生まれ変わるための……次代の命の核だ」
驚きに目を見張るシオンの問いに、俺は慎重に歩み寄りながら答えた。強大な古龍の脅威を退けた果てに、新たな生命の芽生えと出会うとは思いもしなかった。
「どうする?」
シオンが少し心配そうな、しかし慈しむような目を向けて意見を求めてくる。他のメンバーたちも息を呑んで俺たちのやり取りを見守っていた。
「このまま放置していくわけにもいかないだろ。それに、こんな場所じゃ他の魔物に狙われちまう。とりあえず持って帰ろう」
俺が優しく卵に手を触れると、心地よい温もりが指先を通じて全身に広がった。
こうして俺たちは、勝利の証と最高の素材、そして思いがけない新たな命の予感である卵を抱え、次なる大空のロマンへ向けて、足取り軽く下山を開始したのだった。




