表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
39/40

第39話 星屑の鉱脈を穿て、輝ける未来への採掘狂騒曲


 アストライア島を包み込んでいた茜色の夕暮れが、ゆっくりと群青色の夜の帳へと溶けていく。


 地下造船ドックの作業テーブルに積み上げられた『浮遊石の塊』の山は、夕陽の名残を反射して微かに青い光をまたたかせていた。その周りでは、自動精製ラインが途切れることなく稼働を続け、カシャン、カシャンという規則正しい金属音と共に、『神代軽量チタン合金』の装甲板を次々と定位置に積み上げていく。


 俺は、作業用ゴーグルを額に押し上げ、流れる汗を手の甲で拭いながら小さく息をついた。

 一日の終わり。肉体的な疲労はもちろんそれなりにあるが、それ以上に胸を満たしているのは、目の前で着実に形になっていく巨大なプロジェクトへの確かな手応えだった。


「マスター、お疲れ様です!  本日の第一次調達フェーズにおける素材インベントリのデータ集計、完璧に完了しましたよ!」


 軽やかな足音とともに歩み寄ってきたライムが、空中に巨大な円グラフとステータスが並ぶ管理ウィンドウをパッと展開した。

 若草色の瞳を嬉しそうに細めながら、彼女は指先でウィンドウをシュッと弾いて詳細な内訳を示していく。


「見てください!  『浮遊石の塊』の初期ノルマは完全達成!  さらに、地下プラントで自社生産している『神代軽量チタン合金』も、予定を二十パーセント上回る備蓄スピードを記録しています。この調子でいけば、数週間後には次のステップへ完全に移行できちゃいます!」


「おお、すげえなライム。お前の的確なデータ管理とシステム修復があったからこそだ。ありがとう」


 俺がねぎらいの言葉をかけながら彼女の頭を軽くポンと撫でると、ライムは「えへへ、マスターのお役に立てて嬉しいです!」と嬉しそうに目を細めてスカートの裾を軽く揺らした。


 その様子を、少し離れた作業台の端から、シオンが優しげな笑みを浮かべながら見守っている。

 彼女は自分の纏う『アーク・エルフ』の衣装の微細なほつれを魔法の糸で丁寧に繕いながら、静かに口を開いた。


「順調なのは何よりだけど、ユウ、油断は禁物よ。ライムがまとめてくれたデータの一番下を見てみなさい。明日から始まる『星屑の洞窟』の本格採掘と、それに伴う魔獣の警戒レベルの数値が、跳ね上がり始めているわ」


 シオンの指摘に、俺は再び管理ウィンドウへと視線を戻した。

 確かに、項目リストの後半─高純度星晶石アストライア・クリスタルの一万個採掘に向けた予備スキャンデータの欄には、不気味な赤い警告マークが点滅していた。


「あそこか……昼間の雲海エリアとは違って、『星屑の洞窟』は島の地底深く、古代の防衛機構や未知の生態系が入り交じる特殊な環境だ。しかも、その奥には次の重要素材の手がかりが眠っている」


 俺の呟きに、ドックの重厚な空気がほんの少しだけ引き締まる。

 戦艦の骨組みであるキール(竜骨)が、脈打つ魔導回路の光に合わせてフワリと明滅した。まるで、俺たちの次の行動を促しているかのように。



   §



 翌朝。

 ヴァーチャル空間の空に再び眩い太陽の光が昇り切った頃、俺たち三人はアストライア島の東側斜面にぽっかりと口を開けていた『星屑の洞窟』の入り口に立っていた。


「うわぁ……すごい……!  ここ、外の空気と全然違います!」


 洞窟のアーチをくぐった瞬間、ライムが感嘆の声を上げて両手を広げた。


 それもそのはずだった。洞窟の内部は暗い岩肌ではなく、壁面全体に無数の微細なクリスタルがびっしりと埋め尽くされていて、洞窟そのものが青や紫の幻想的な光を自ら放っているのだ。まるで満天の星空をそのまま地中に閉じ込めたかのような、言葉を失うほどの絶景が広がっている。

 そして、その空気に満ちているのは、濃厚で純度の高い魔力のざらめきだった。深呼吸をするだけで、肺の奥までがクリアな魔力で満たされていくような感覚がある。


「ここが『星屑の洞窟』……文献やルキウスの残した古い記録にあった通りね。この壁面を覆っているクリスタルの一粒一粒が、戦艦のエネルギーシールドや各種魔導回路の心臓部になる『高純度星晶石』の原石だわ」


 シオンは手に持った複合剣の柄からそっと手を離し、壁面に埋め込まれた青く輝く結晶にそっと指先を触れた。


 指先が触れた瞬間、クリスタルが嬉しそうに波打つように強く光を放ち、シオンの纏う魔力フィールドと共鳴して微かな鈴の音のような高周波を響かせる。


「ああ。この洞窟全体の結晶脈をすべて掘り尽くすには、ただツルハシで叩くだけじゃなくて、俺の固有スキル〈錬金創成〉の魔力共鳴を使って、純度の高い部分だけを効率よく剥離させなきゃならない。それに、この豊かな魔力に引き寄せられて、周辺の原生生物や地底の魔獣たちが集まってきやすい環境でもある」


 俺が警戒を促すように周囲の暗がりに目を凝らすと、洞窟の奥からカサカサ、と無数の小さな足音が響いてきた。

 天井の岩陰や結晶の隙間から、ルビー色やサファイア色に光る複眼をぎらつかせた、結晶質の外殻を持つ地底虫型の魔獣──『クリスタル・スクレイパー』の群れが、一斉に姿を現したのだ。


「来たわね!」


 シオンは瞬時に身を翻し、腰の複合剣を柄ごと引き抜いた。

 抜刀された剣身が洞窟の星光を浴びて鋭い純白の軌跡を描き、彼女の纏うエルフの気配が戦闘モードへと一瞬で切り替わる。その洗練された佇まいは、百戦錬磨の頼もしい相棒そのものだった。


「ライム、採掘ポイントの安全確保と、ドロップした星晶石の回収を頼む!  シオン、俺は左側の群れの足を止める、右側は任せた!」


「了解!」


「お任せください!」


 俺たちの声が静かな洞窟の反響音とかさなり、激しい戦闘の口火が切って落とされた。


 ──チャキッ、と鋭い金属音が響き、シオンの放った魔法剣の一閃が最初の魔獣の硬質な外殻を真正面から叩き割った。

 ──パチン、と美しいガラス細工が砕けるような爽快な音と共に、『クリスタル・スクレイパー』が鮮やかな光の粒子となって霧散していく。その崩壊の瞬間に、床へとパラパラと零れ落ちたのは、手のひらサイズで眩しく輝く『高純度星晶石』の原石だ。


「よし、一匹目!  続いて二匹目、そこの隙間は見逃さないわ!」


 シオンはまるで舞踏会でも踊るかのようにしなやかなステップを踏み、次から次へと襲いかくる地底魔獣の群れを翻弄していく。彼女の剣には無駄な動きが一切なく、魔獣の弱点である結晶の結合部ピンポイントを正確に貫いていた。


 一方の俺は、洞窟の壁面に手をつき、固有スキル〈錬金創成〉の魔力を地面へと流し込んでいた。

 ──ズズズ……と地底の奥で微かな振動が起き、壁面にびっしりと張り付いていた星晶石の純度の低い部分が自動的に剥ぎ落とされ、純粋なエネルギーを宿した結晶だけがポロポロと足元へと転がり落ちていく。


「マスター!  左側の壁面から、極上の特級星晶石の反応を検知しました!  このペースなら、一日の採掘ノルマの三倍は軽くクリアできちゃいます!」


 ライムが小型の回収ポッドを背負い、ポンポンと跳ねながら落ちてくる星晶石を次々とインベントリへと吸い込んでいく。


 彼女の明るい声と、シオンの剣技の風切音、そしてあちこちで光り輝く結晶の輝きが、危険な地底のダンジョンをまるで一大イベントのステージのような熱気へと変えていく。

 視界の端では、配信モードこそオフにしてはいるものの、洞窟の入り口付近に設置された簡易リプレイモニターのコメントログが、自動録画機能を通じて微かに流れているのが見えた。

 そこには、昨日の配信の余韻を残したリスナーたちの熱い書き込みや、今日の素材集めを応援するコメントが今もなお温かく残されている。


「みんな、画面越しに見守っててくれよ……。俺たちは今、この世界の未来を創るための素材を、一歩一歩確実に積み上げているんだからな」


 心の中でそう呟きながら、俺はさらに錬金術の出力を高め、壁面から巨大な星晶石の塊を綺麗に切り離した。



   §



 数時間に及ぶ激しい戦闘と、地道な採掘作業の果て。

 『星屑の洞窟』の最奥にまで到達した俺たちは、目の前に山のように積み上げられた高純度星晶石の山を見て、揃って大きく息をついた。


「ふう……これだけの量が集まれば、船体の内部回路やシールドジェネレーターの基盤には余裕でお釣りが来るわね」


 シオンは額に滲んだ汗を腕で拭いながら、自分の剣を鞘に納めた。その頬には心地よい疲労の色と、やり切った充実感が浮かんでいる。


「はいっ!  これで『防衛・武装システム』の大部分の素材と、中枢回路のベースが完璧に揃いました!  残る大物は……例のあのエグい奴らだけですね!」


 ライムがピッと指を立てて言うと、俺たちは自然と北の方角──アストライア島のさらに奥深く、常に雲を纏ってそびえ立つ『霊峰の山頂』の方へと視線を向けた。


 ──古代竜の逆鱗×十二枚。

 ──古代竜の超巨大魔石×一個。


 今回の物資調達リストの中でも、一二を争うほどの超危険な難所。

 大陸の伝説に名を連ねる古龍種が潜むその場所は、これまでの魔獣とは格が違う、文字通り命がけのボス討伐戦となるエリアだ。


「ああ。あいつらを攻略しないことには、推進・駆動機関のメインエンジンを動かすことはできない。だが今の俺たちではまだ到底かなわないだろう。さらにレベルアップして装備を充実させる必要がある」


「そうね。古龍の圧倒的な熱量と暴風の壁を突破するには、この洞窟で集めた星晶石をベースにして、私たち自身の装備も一段階も二段階も格上げしてさらにレベルも上げなきゃ勝負にならないわ」


 シオンは力強く頷きながら、複合剣の剣身を夕日に照らされる洞窟の出口へと向けた。


「はいっ!  装備の強化やレベル上げはもちろん、私の方でも古龍の攻撃パターンや弱点属性の予測シミュレーションを徹底的に解析しておきます!  マスター、絶対に負けられない戦いですね!」


 ライムも両手をキュッと握りしめ、頼もしい笑顔で胸を張る。


 二人の言葉を聞き、俺は自然と笑みを浮かべながら、背後にそびえ立つ星屑の結晶の山を振り返った。


「よし、少しずつだけど、俺たちの戦艦は確実に完成に近づいている。行こうぜ、二人とも!」


 俺の号令に合わせ、シオンとライムが力強く頷き返す。


 過酷な試練の先にある未来を見据えながら、俺たちは輝く星屑の洞窟を後にし、アストライア島の拠点へと歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ