31. 追跡
よろしくお願いします。
馬車で1日走って、もう日の傾いてきた頃合い。
馬車が今日の目的地であるファカンタ市の中に入って運輸ギルドの前に止まったところで、後ろの荷車から飛び降りてきた小さな影があった。
「!」
「え!?」
「おいおい、なんだこいつは?」
「へへ、俺様を置いていこうったって、そうはいかねーぜ兄ちゃん」
目を丸くするオレとミズキ、それから馬車の馭者の前で、ニカッと笑ったその顔は……
「ミック?」
「ミック!?」
そう、今朝からどういうわけか姿の見えなかった、ミックだった。
「あ、アンタ……なんで馬車になんて乗ってるのよ!?」
慌てるミズキに、ミックはヘラヘラ笑いを崩さずに言う。
「家出してきた」
「い、家出!?」
家出とはまた大変な。
見ればミックは最初に会った時の、木の手作り鎧と背中に木剣を差した姿。
横には何やら色々物が入っている様子のズダ袋が置いてある。
確かにこれは、旅に出る格好だ。
「家出なんてダメに決まってるじゃん!家に帰んなよ!」
「やだね!俺はビッグな冒険者になって皆を見返してやるんだ!なあ兄ちゃん、俺のこと弟子にしてくれよ!」
「何度も言っているが断る。お前を旅には連れて行けない」
「ヤダヤダヤダ!俺は兄ちゃんの弟子になるんだ!」
「立て込んでるとこ悪いけど、もう1人乗ってたんなら運賃払ってくれねえかなあ」
言い合っていたオレ達に横から声がかかる。
見るとそこには、苦虫を噛み潰したような顔でこちらを見ている馭者がいた。
確かに、ミックは荷物の中に潜んでここまで来たわけだから、これはいわゆるタダ乗り。
お金を払わないと犯罪で捕まってしまう。
「ミック、お前、お金はあるのか?」
オレが尋ねると、ミックはにへらと笑いを返してきた。
「あるわけねーじゃん。うちの父ちゃんも母ちゃんもケチでさ、全然小遣いくれねーの。マルクスの奴はけっこう金持ってんのにさ。まあここの金は兄ちゃん達で頼むわ。俺がビッグな冒険者になったら返すからさ」
「……ハア」
そんなミックに対して、大きくため息を吐くミズキだった。
さすがに無賃乗車というわけにもいかないので、ミックの馬車代は、ここはミズキが払っておくことにする。
まとわりついてくるミックを連れて運輸ギルドから紹介された宿に部屋を取ると、オレ達はその宿の1階にある酒場でテーブルを囲んだ。
「帰りなさい」
「嫌だ」
対面に座ったミズキとミックが、顔を突き合わせてにらみ合う。
「いらっしゃい!ご注文は?」
「俺ファカンタ牛のステーキ!」
注文を取りに来た店員に、ためらいなく店でも最高額の料理を頼むミック。
その様子に、ミズキが頭を抱えている。
「アンタね……自分でお金持ってないんなら、もうちょっと考えて頼みなさいよ。どうせホテルもここのお金も、私達に払わせるつもりなんでしょうが」
「なんだよ、俺がビッグな冒険者になったら返すって言ってんだからケチケチすんなよな。あ、おねーさん早くしてね。俺もう腹減って死にそーっ」
「ハア……」
再度ため息を吐くミズキが、オレに目配せをしてくる。
実はさっき宿のチェックインをした際、ミックが部屋ではしゃいでいる隙にオレとミズキでちょっと打ち合わせをしていたのだ。
「うほっ、うんめ〜!たまんね〜!」
ミックは早速運ばれてきた料理に夢中になっているので、少しばかり席を外しても気にされることはなさそうだ。
食事を前にして席を離れるのは断腸の思いだったが、やむなくオレは酒場を出て冒険者ギルドに向かった。
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