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蜂蜜と蜜蜂

連載六年。異世界滞在8日。

おかげさまで、ブックマーク登録 1,000 件になりました。

今後ともよろしくおねがいします。

 自分の立場を再考しつつ、みんなに付いて建物の中へと進む。

 侯女ちゃん、メイドちゃん、ヒューさん、俺の順だ。

 これが正しいのか、あまり五月蝿くないのか判らないが、何処からも突っ込みは無い。

 いい大人なのでおどおどとするつもりはないが、若干きょどっているかも。

 そこはまあ、妖精さんの傍若無人ぶりに心慯めている態で誤魔化す。

 侯庁舎へ行ったときも、結構やりたい放題なところはあったが、妖精さんズにはちょっとハラハラする。

 今も半数くらいは建物の中を飛び回っているし、残り半数は建物に入らずどこかへ飛んでいってしまった。

 店内はどこか地方の街道沿いに建つ大きな古民家風そば屋を彷彿とさせる作り。

 案内されたのは衝立で仕切られた小上がりで、侯爵の屋敷で魔法使いと二人で食べた堀ごたつ風。

 ひとつのテーブルを四人で囲むと土間席からは隔離される。

 衝立越しに土間席をのぞくと、衝立のすぐ裏の席にメイドさん。其の向うの席に護衛の騎士さんたちや御者さんが乱雑に座っている。

 この店に収まっているのが、侯爵家の主要メンバーらしい。

 衝立の反対には大きめな窓。

 細い枠で蜂の巣状にくみ上げられた手のひらサイズの板ガラスが、半畳ほどの窓枠いっぱいに填まっている。

 窓の外には地平線まで広がる勢いの花畑。

 黄色い小さな花だ。

 レンゲ畑っぽい。

 をお。

 妖精さんが俺の覗くガラス枠に外から張り付き、手を振ってくれる。

 急に現れてびっくりした。


 妖精さんに手を振り返し、テーブルに座るみんなへと向き直る。

 料理は既に決められているらしく、すぐに給仕が料理を運んできた。

 フレンチトースト?


「ちいさな、虫の、集める、蜜。有名デス」


 ヒューさんが旅行ガイドらしき雑誌を広げて差し出してくる。

 文章はわからないが、紙面の半分ほどを占めるイラストが、ほぼ蜂蜜屋のちらしで見た感のあるイラスト。

 外に広がる花畑で、養蜂をおこなっているらしい。

 ちょうどそこに、侯爵家の庭妖精さんが、なにかを黄色い毛玉を抱えて飛んでくる。


「蜜蜂ですな」


 丸くて大きな羽をもった、黄色く毛深い虫。蜜蜂らしい。

 地球のリアルな蜜蜂より丸っこくて、可愛らしくデフォルメしたイラストっぽい。

 妖精さんに大人しく抱かれているのは居心地がいいからなのか、怖くて固まっているのか。

 侯女ちゃんとメイドちゃんはキャイキャイいいながら引いている。

 メイドちゃんはともかく、侯女ちゃんは妖精さんが見えないので、わけわからないだろう。

 ヒューさんはガイドブックのイラストと見比べて頷いている。

 妖精さんが蜜蜂を押し出すようにして、俺にグイグイ寄せてくる。

 いや、そんなに近付けてくれなくていいから。

 もう十分見たから、外で放してあげなさい。


 妖精さんが蜜蜂を外に連れて行くのを見送って、フレンチトーストに向きあう。

 すでに女性陣は蜂蜜たっぷりなフレンチトーストに歓声をあげて、大喜びで食べ始めていた。

 俺もヘラで一口サイズにカットして、いただきます。

 うん。蜂蜜たっぷりのフレンチトーストだ。見たまんま。

 付け合わせの芋も蜂蜜みれで、どう見ても大学芋。


「花畑、これ、取れマス」


 そう言ってヒューさんは大学芋を串に刺し、幸せそうに口に運ぶ。

 眼前に広がる花畑は甘い芋の畑で、トーストのパンも芋がたっぷりと練り込んであるらしい。

 フレンチトーストを食べ終わったところで、給仕さんが飲み物と一緒に大きな陶製のボールを持って来た。

 ボールの中にはプルンとした黄色いものが踊っている。

 それを掬うようにして取り分けていく。

 黄色いプリンかゼリーのようなデザート。

 取り分けてくれたそれを口に運ぶ。

 プリンにもゼリーにも似た、少し違う食感。

 杏仁豆腐?

 山の中腹にある果樹園でとれた木の実を使ったデザートだそうだ。

 これも蜂蜜がけ。

 今日の昼食はカロリーが気になる。


 食事が終わると、出発の時間までまだ少しあるというので、店の近くにある土産物店へ移動。

 道の駅にある産直コーナーみたいな店。

 篭に欲しいものを入れて、レジへ持っていくそうだ。

 道中で食べられるような菓子や日持ちの良い加工食品の類いが目につく。

 商品の前に張ってある札には、商品と値段の他に、生産者の名前とか書いてあるらしい。

 日持ちのしなさそうな物もあるが、売れるんんだろうか?

 昼前に買えば、領都の夕餉にはギリ間に合うのか?


「蜂蜜、選ぶ、しマス」


 ヒューさんは、広げたノートを手に蜂蜜コーナーへ行くらしい。

 妖精さんたちが奥へ飛んで行くので、妖精さんズについていく。

 奥の一角で、山のように積んであるのは蜜蜂のぬいぐるみ?

 ソフトボールくらいのからバスケットボールくらいまで、数サイズのぬいぐるみが売っている。

 巨サイのに比べるとちょっと固め。

 もう少し柔くて厚みがなければ枕がわりに買うんだが。

 エマさんと数名の妖精さんが、ソフトボールくらいの蜜蜂ぬいぐるみ抱えて俺に寄ってきた。

 買って欲しいの?

 でも俺、お金持ってないし。


「*****」


 すると直ぐ後ろから声がして、ケイトさんが妖精さんの持つ蜜蜂のぬいぐるみを篭に収める。

 買ってくれるらしい。

 ひとり一個にしとこうね?


 妖精さんが蜜蜂のぬいぐるみ選びに群がってしまったので、俺はヒューさんのいる蜂蜜コーナーへ移動。

 ヒューさんはノートと蜂蜜を見比べながらアーでもない、コーでもないとやっている。

 そのノートにはラベルが貼り付けてあり、その横になにやら書いてある。


「友達、お勧め、欲しい、頼まれる、しました」


 ノートに貼ってあるのはこの辺りで買える蜂蜜のラベルで、各々好みのブランドの蜂蜜を土産に頼まれたらしい。

 同じ馬車に乗っていたメイドさんが一人、篭を手に一緒に探している。

 メイドさんの持った篭にはすでに半分くらい蜂蜜の瓶が入っていて結構重そうだ。

 ここで手を貸して好感度を上げるのがナデポ系異世界アルアルだけど、へたに手を出すとメイドさんの仕事を取ることにもなる。

 そこでどちらが正解なのだろうかと悩むのが最新の流行りだろうか。

 どのみち俺に持てる重さを超えてそうなので黙っている。

 と、篭に詰った蜂蜜の山に上客と判断したか、店のおばさんが新しい篭を手にやってきた。

 俺は場所をおばさんに譲り、侯女ちゃんを探す。


 すると、丁度俺の目の前を、蜜蜂のぬいぐるみを抱えた妖精さんが一列になって飛んで行く。

 ケイトさんの後ろに並んでいて、支払いにレジまで行くところの様だが、回りからどよどよと声がする。

 妖精さんが見える人にも、見えない人にも、驚きの光景なのだろう。

 普通の人には蜜蜂のぬいぐるみが列をなして飛んでるように見えるし、見える人にとっても、妖精がぬいぐるみを抱えて飛んでるなんて、見たこともない出来ごとらしい。

 俺のまわりの妖精さんは、いつもあんな感じのような気がするが、普通妖精っていうのは、もっと超然とした存在のイメージなんだとか。

 なんか次に来た時にはあの蜜蜂ぐるみの籠に、「妖精にも大人気!の蜜蜂ぐるみ」とかポップが貼られてそうだな。

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