ぬいぐるみ
ゆっくりと進んでいく馬車の車窓から、ぼんやりと外を眺めてるいと、遠く聳えていた山脈がだんだんと近付いてくる。
車窓をしめる緑の割合が大きくなっていく。
空は快晴。
道はいいし、馬車はサスが効いていて乗心地は快適。
魔物も野盗も出ない。
異世界アルアルとはかけ離れた、最高の旅だ。
ガタゴトと、車輪の奏でる音が変る。
身体を起して車窓を覗くと、大きな川を渡っているところだった。
川を渡ると草原は花畑に変っていた。
コトリと音がするのでテーブルに顔を向けると、メイドさんが座席の前に広げられたテーブルに飲み物の入ったコップを置いた所だった。
シュワシュワしてる。
桃の香りがする。
醸造処で飲んだ桃の果汁を炭酸で割った飲み物のようだ。
そして冷い。
魔法か?
ちょっと話を聞こうかとヒューさんを探すと、ハンモックでお休み中のご様子。
気持ち良さそうだ。あとで代ってもらおう。
じゃあ、メリルちゃんは?と探すと、ハンモック手前の机に妖精さんたちが集っている。
机の上には、バスケットボールくらいの大きさをした黒い毛玉?が二つ。
良く見ると、馬車を引く巨サイをコミカルに模したぬいぐるみの様だ。
そういえば昔、クレーンゲームの景品で、競走馬のぬいぐるみが流行ったっけ。
そんな感じの巨サイのぬいぐるみに、妖精さんたちが順番に並んで跨り、乗馬ごっこをしている。
可愛い。
手前のぬいぐるみに跨っている妖精さんが俺に気が付き手を振ってくれる。
とても可愛いな。
妖精さんがぬいぐるみの上で跳ねると、ぬいぐるみがカタカタと揺れる。
これって俺は妖精さんが見えるから気にならないけど、見えない人にはポルターガイスト案件だな。
妖精さんズに癒されてほっこりとしていると、列から二人、妖精さんがふよふよと飛んでくる。
メリルちゃんじゃないか。
メリルちゃんも並んでたのか。
もう一人は、コミックのコピーをしてくれる見慣れた庭妖精さんの一人だよね?
「あの毛玉は、この馬車を引いている動物のぬいぐるみですか?」
「ぬいぐるみ?」
メリルちゃんは、ぬいぐるみを御存じない様子。
「ぬいぐるみは、綿とかを布で包んだ人形です」
俺の説明にフンフンと頷くメリルちゃん。
「アレの中は、少し固い、小さな、木の実、だと思います」
へー、中身は綿じゃなくて小豆とかそば殻っぽいのかな?
メリルちゃんによると、やはりアレは巨サイのぬいぐるみで、牧場の土産売場で売っていたらしい。
メイドさんが個人的に買ったそれを、妖精さんに貸してくれているのだと。
向こうの茶色がケイトさんのですか。
「*****」
列を離れてやってきた庭妖精さんが、なにかいってるのをメリルちゃんが通訳してくれる。
ほほう。侯女ちゃんとメイドちゃんも買ったの?
俺も土産物屋をちゃんと見ておけばよかった。
「*****」
ぬいぐるみの待機列から声がかかる。
メリルちゃん、呼ばれてるんじゃない?
「ちょっと、跨ってきます」
メリルちゃんの順番が来たらしい。
ヒュンと飛んで、嬉しそうにぬいぐるみ跨るメリルちゃん、可愛いな。
今度メリーゴーラウンド作るのはどうだろう。
妖精さんサイズなら、木工さんに頼めば直ぐできるんじゃないかな。
「*****」
なんとなく癒される感じで、妖精さんたちを見ていると、メイドさんがヒューさんを起している。
そろそろ昼食ポイント到着か?
窓から頭を出して車列の先を覗くと、街道沿に建物が並んでいる。
宿場の集落?
目を戻すと、ヒューさんがハンモックからもぞもぞと起き上がるところだった。
少し着崩れているが、俺たちが着ているのはもともと安い部屋着のようなだぼっとした服なので、あまり色っぽくはない。
メイドさんが慌ててヒューさんの身なりを整えている。
あれ?
ヒューさんが抱えている茶色い枕のようなものも、巨サイのデザイン?
妖精さんたちがじゃれているぬいぐるみより少し大きくて、胴が長くひらべったい。
布ものの雑貨屋で売っている動物型枕の様なものっぽい。
可愛いじゃないか。そんなのもあったのか。
まったく、おっさんだって可愛いもの好きで好いじゃないか。
おしえてくれればいいのに。
俺も土産物屋をちゃんと見ておけばよかった。
ほどなくして宿場町に到着。
町の入口にはひょろい木で組んだ柱?が道の両側に建っていて、どうやらそれが町の門ということらしい。
馬車の列は特に停る事もなく門?をくぐっていく。
街道筋にはどことなく日本風な、間口の広い黒塗り木造の店が連なっている。
民族衣装なのだろうか、街行く人達は白を基調とした布を卷いた風な服だ。
俺達の乗った馬車は、馬車溜りの様な広場を通り抜け、一軒の大店の前に停った。
ここでお昼御飯を食べるのだろうか。
メイドさんの先導でヒューさんが馬車を飛び降り、その後に妖精さんたちが、ワーと飛び出していく。
続いて俺も頭にメリルちゃんとエマさんを載せ、足元を確認しつつヨロヨロと馬車を降りた。
「*****」
俺に付いてきた妖精さんたちと異なる、車窓から見たこのあたりの民族衣装の様な白い布を卷いた妖精さんがやってきて、なにか言っている。
「*****」
メリルちゃんが俺の頭から降りてきて対応。
情報交換でもしているのだろうか。
うちの妖精さんズのところにも現地妖精さんがワラワラと集ってきて、倍増している。
後ろから侯女ちゃんとメイドちゃんが馬車から降りてきて、メイドちゃんが妖精さんの多さにビックリしている。
妖精さんの見えない侯女ちゃんはそのまま大店の入口へ進み、店の前で待ち構えていた店主?と挨拶を交す。
侯女ちゃん、まだちっこいのにしっかりしてるな。
多分、この車列の中で、侯女ちゃんの格が一番高いのだ。
一応大人ではあるが庶民で、とはいえ侯爵家の客人という立場の俺は、どう立ち回っていいか判断しかねる。
とりあえずヒューさんの隣、少し外側に立って控えておく。
ヒューさんは貴族子女だから、対外的には俺より上座で良いんだよな?
あれ?もしかして俺はメイドちゃんより下か?




