第3話〜生きるか死ぬか
もしもこの世界で、「復讐」が法で認められた正当な権利であり、誰もが誰かの命を合法的に狙える娯楽であり日常だとしたら——あなたならどう生き延びるだろうか。
どこにでもいる普通の高校生だった僕が目を覚ますと、そこは日常のすぐ隣に「仇討ち」のルールが当たり前のように組み込まれた、狂気と理不尽が支配する街・世田谷だった。右を向けばポイント稼ぎを企む刺客、左を向けば血気盛んな巨漢。頼れる仲間も、都合のいいチート能力も存在しない。あるのはただ一つ、学校のテストで幾度となく赤点を回避してきた、あのしぶといまでの「観察眼」と「悪知恵」だけだ。
サイン・コサイン・タンジェントの波形すら逃避の道具に変え、チョークの粉煙と毒針の山を潜り抜けながら、僕は今日も青空の下を必死で駆け抜ける。これは、仇討ちが普通の世界にたった一人で放り込まれた僕が、己の意地とローキック一本で命を繋ぎとめる、決死の生存記録である。
「ゲホッ、ゲホッ……冗談じゃない! 僕が何で自爆覚悟でこんな目に遭わなきゃいけないんだ!」
白い粉塵が充満する店内の中、僕は涙と鼻水で顔をグチャグチャにしながら叫んだ。
「サイン・コサイン・タンジェントだかなんだか知りませんがね、公式を丸暗記しただけの単細胞な振り下ろしなんて、僕の伊達に赤点回避し続けてない観察眼で見切れますよ!」
目の前を当てずっぽうに薙ぎ払う巨漢の巨大木刀。その軌道は、まさに教科書通りの単純な正弦曲線——サイン波そのものだった。僕は煙の中で低く身をかがめると、死角から足元へ滑り込む。
「喰らいやがれ! 『赤点回避のための底力ローキック』!!」
「ぬおおっ!? 煙で見えんっ……ぐはぁ!?」
軸足をすくわれた2メートルの巨漢が、派手な音を立てて陳列棚の「あからさまに毒が塗られた吹き矢」の山へと倒れ込んでいく。
「痛ぇぇぇ!? 毒針が、毒針が尻に刺さったぁぁあ!!」
「おいおい、俺の売り物をケツで踏み潰すんじゃねえ! 毒のクリーニング代を請求するぞ!」
店主の怒号と巨漢の悲鳴が白煙の中で交錯する。僕は煙が晴れる前に『暫定仇討ち免許証』を懐に深く仕舞い直し、入口の暖簾をくぐって勢いよく通りへと飛び出した。
「横取りなんて絶対にさせませんからね! 練習台にされるのも嫌だけど、見知らぬ巨漢にポイント稼ぎで殺されるのはもっと嫌だ!!」
世田谷の青空の下、僕はチョーク粉末で真っ白になった制服のまま、命がけの逃走劇をスタートさせたのだった。
【第3話・完】
第3話をお読みいただきありがとうございます!
サイン波の軌道を見切り、赤点回避の底力ローキックでなんとか巨漢を撃退した主人公。
チート能力も仲間もない中、観察眼と悪知恵だけでこの狂気の世田谷をどこまで生き延びられるのか……!
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