第13話〜境川の清掃作業
異世界へ転生した僕を待っていたのは、かつての常識が一切通用しない「仇討ち(あだうち)」が合法化された世界だった。
理不尽な宿怨と刃が交錯する世界で、誰もが血生臭い復仇に身を投じる中、僕が手にしたのは剣でも魔法でもなく、ささやかで穏やかな現代の日常の記憶だった。
時にすれ違い、時に巻き込まれながらも、僕は周囲の人々と繋がり、失われかけた温かな暮らしを守るために立ち上がる。境川の清掃作戦をはじめとする日々の営みを通じ、荒んだ世界に少しずつ芽生えていく新しい絆と選択の物語。
仇討ちが当たり前の世界で、一人の男が紡ぐ、優しくも逞しい日常復興ファンタジー。
「うわぁ、近くで見ると案外ごみが多いんだな……」
川沿いの遊歩道に集まった僕たちは、配られた軍手とトングを手にして境川の河川敷を見渡した。澄んだ水面が初夏の光を浴びてキラキラと輝いている一方で、草むらの陰にはペットボトルやビニール袋、投げ捨てられた缶がいくつも転がっている。
今回の地域清掃イベント「境川クリーン作戦」には、近所のおじいさんやおばあさん、家族連れから僕たち同級生まで、思いのほか多くの人が参加していた。
「何をぼんやり見てるの? ほら、そっちの茂みの中も集めるわよ!」
自治会長の挨拶が終わるやいなや、青いジャージ姿の彼女が大きなゴミ袋を手に声を張り上げる。相変わらず仕事が早い。僕も慌ててトングを握り直し、足元の空き缶を拾い上げた。
作業を始めて一時間ほど経つと、最初は少しぎこちなかった参加者同士の会話も自然と弾み始める。川に棲むカルガモの親子を見守りながらごみを拾い、互いの袋がいっぱいになると見せ合って笑う。ただ黙々と街を綺麗にするだけではなく、川の手入れを通して地域の人々の心がじんわりとつながっていくのを感じていた。
「見て、だいぶスッキリしたんじゃない?」
お昼前、パンパンに膨らんだ収集袋の山を背に、彼女が汗を拭いながら満足げに微笑んだ。見返した境川は、さっきよりもどこか晴れやかに、さらさらと清らかな音を立てて流れている。川を愛する人の手が加わることで、見慣れた景色がこんなにも誇らしく思えるなんて知らなかった。
「お疲れ様! 綺麗になった川を見ると、なんだか気持ちまで洗われるな」
僕がそう声をかけると、彼女は「次はもっと大勢を巻き込みましょうね」と頼もしい笑顔で頷いた。川風が吹き抜け、青空の下で境川の水面が美しく揺れていた。
第13話をお読みいただきありがとうございます!
仇討ちが日常となった殺伐とした世界だからこそ、みんなで境川のゴミを拾い、綺麗になった水面を眺めるような穏やかな時間の尊さが心に染みますね。青ジャージ姿の彼女との少しずつ縮まる距離感や、清々しい川風の空気感を楽しんでいただけたら嬉しいです。




