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【完全版】GWO~麗しき女神の秘宝~  作者: 齋藤 雅


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第六話 【魔法剣】

翌日――。


男子校との模擬戦を前に、リョウコたち五人は待機区画へ集められていた。


装備を確認していたカスミが、ふとリョウコへ目を向ける。


「そういえばリョウコ。昨日の怪我、もう大丈夫なの?」


「うん。ポムが魔法で治してくれたの」


「魔法で?」


カスミが驚いてポムを見る。


ポムは何でもないことのように笑った。


「回復魔法だよ」


昨日まで全身傷だらけだったリョウコを、カスミがもう一度見直す。


「……魔法って便利だな」


「でしょ?」


ポムは嬉しそうに笑うと、今度はリョウコの剣へ目を向けた。


「じゃあ模擬戦の前に、もう一個だけ覚えよっか」


「え?」


ポムが人差し指を立てる。


「魔法剣!」


「今から!?」


「今から!」


リョウコの顔が引きつった。


ポムは腰からサクラを抜いた。


透き通った桜色の刃に、淡い桃色の魔力が宿っている。


「まずは剣に魔力を流してみて」


リョウコは訓練用の剣を握り直した。


「昨日みたいに?」


「そうそう。今度は手で止めないで、そのまま剣まで」


リョウコは胸の奥にある魔力を探す。


もう感覚は分かっていた。


腕へ。


右手へ。


そして、中指のリットブレイカーへ流す。


だが。


指輪は何の反応も見せない。


それでも、内部を通った魔力は不思議なくらい扱いやすかった。


「……流しやすい」


ポムが頷く。


「そのまま剣へ」


リョウコは魔力を柄から刀身へ流していく。


ふわっ――


剣全体に淡い光が灯った。


「出来た!」


ポムが嬉しそうに笑う。


「じゃあ次は、そこに炎を乗せてみよ」


「もう?」


「大丈夫。今の感じのままだから」


リョウコは少し不安そうに剣を見る。


炎。


熱。


燃える赤い光。


それを思い浮かべた瞬間。


ボッ――!


突然、ピックに炎が燃え移った。


「あっつぅぅぅぅ!!」


「ひゃっ!」


リョウコが驚いて剣を遠ざける。


そのまま炎は刀身へ走り、剣全体を包み込んだ。


「燃えた!」


「成功成功!」


ポムが嬉しそうに拍手する。


その横では、ピックが慌てて自分の身体を叩いていた。


「成功じゃないよ! ボク燃えたんだけど!!」


「リョウコちゃん、また一発だね」


「これ、熱くないの?」


恐る恐る柄を見るリョウコに、ポムが首を横へ振る。


「ちゃんと魔力で制御出来てれば大丈夫」


その横で、まだ身体をぱたぱた叩いていたピックが振り返った。


「熱いって言ったじゃん!」


「ごめんってば」


リョウコは炎を纏った剣を見つめた。


普通の剣だったはずなのに。


今は、まるで別の武器に見える。


「これが……魔法剣」


少し離れたところで見ていたカスミが、驚いたように目を丸くした。


「何それ……?」


ミカコも、炎を纏う剣をじっと見つめている。


タカノは何も言わなかった。


ただ、その視線だけはリョウコの剣から離れていなかった。


ポムが嬉しそうにサクラを持ち上げる。


「魔法剣だよ」


そう言うと、今度は刃へ冷気を纏わせた。


「慣れれば属性も変えられるよ」


「例えば?」


「炎から――」


白い冷気が走る。


「氷」


サクラの周囲に薄い霜が広がった。


リョウコの目が輝く。


「やってみたい!」


「じゃあ炎を消して、今度は冷たいものを想像して」


リョウコは頷いた。


炎が消える。


少し間を置いて。


パキッ――


今度は訓練用の剣を白い冷気が包んだ。


「……出来た」


ポムの笑顔が少し引きつる。


「やっぱり早いなぁ……。」


その横でピックが腕を組んだ。


「だから言ったでしょ。リョウコちゃん、魔力すごいんだって」


リョウコは嬉しそうに剣を見つめる。


だが。


右手中指のリットブレイカーは、相変わらず何の反応も見せていなかった。


────


上階。


監督席では、数人の教官たちがリョウコを見下ろしていた。


モニターには、通常とは異なるエネルギー反応の数値が表示されていた。


「また反応が変わったな」


監督が画面を睨む。


「炎の時と、氷の時で波形が違う」


「属性変換まで出来るのか」


監督が腕を組む。


「通常の武器よりは、遥かに強いな」


「問題は――」


教官の視線が、リョウコの右手へ向いた。


「それがリットブレイカー本来の能力なのかどうかだ」


誰も答えない。


伝承に残るほどの遺物。


その力としては。


あまりにも地味だった。


────


しばらくして。


模擬戦の開始時刻が迫る。


フィールドの反対側には、男子校の代表五人が並んでいた。


中央に立つのは、大剣を背負った長身の男子。


整った顔立ちに、少し長めの髪。


その左右にも。


槍。


籠手。


銃。


片手剣。


それぞれ違う武器を持った四人が並んでいる。


大剣の男子が一歩前へ出た。


「レン。こっちのリーダーだ」


続いて。


槍を持った男子が軽く会釈する。


「ジン」


大柄な男子が、籠手を打ち合わせた。


「ゴウ! よろしくな!」


銃を肩へ担いだ男子が、片手を上げる。


「ユーキ。ま、お互い怪我しない程度にな」


最後。


片手剣を持った男子が、短く名乗った。


「ソウマ」


タカノが二本の剣を肩へ乗せる。


「タカノだ」


カスミも棒を構えたまま続く。


「カスミ」


「ミカコ」


ミカコは短く答える。


リョウコは少し遅れて、小さく頭を下げた。


「リョ、リョウコです」


最後に。


ポムが元気よく手を上げた。


「ポムです!」


男子五人の視線が、一斉にポムへ向いた。


昨日。


一人でタカノを圧倒した少女。


レンがポムを見ながら、僅かに目を細める。


「……あんたがポムか」


「うん!」


何の警戒もなく、ポムは笑った。


その時、監督が一歩前へ出た。


「模擬戦のルールを確認する」


両チームの視線が監督へ向く。


「相手を殺した場合、その時点で殺した側のチームを反則負けとする」


「戦闘不能の判定は、本人がギブアップするか、気絶した場合だ」


「戦闘不能となった選手は、その時点で戦線離脱。以降の戦闘参加は禁止する」


監督が両チームを見渡す。


「訓練だからといって手を抜く必要はない。倒せ」


一瞬。


「ただし――殺すな」


張り詰めた空気の中。


監督が今度はポムを呼び止めた。


「ポム」


「ほぇ?」


「お前は、直接戦うな」


ポムが目を瞬かせる。


「え?」


「昨日の戦闘は見た」


監督は淡々と言った。


「お前が本気で参加すれば、模擬戦にならん」


「…………。」


ポムは少し考えてから、首を傾げた。


「じゃあ何すればいいの?」


「補助に徹しろ」


「分かった!」


あっさり返事をするポムに、監督は僅かに眉を寄せた。


監督にとって、魔法はまだ未知の力だった。


まして。


ポムが『補助』だけで何を出来るのかなど、知るはずもない。


────


『模擬戦開始まで、十秒』


自動音声が流れる。


リョウコが剣を握り直した。


隣ではタカノが前を見据えている。


カスミ。


ミカコ。


そして。


少し後ろにはポム。


『五』


リョウコの心臓が速くなる。


けれど。


昨日とは違う。


右手には剣。


その中には、自分の魔力が流れている。


『三』


ポムが後ろから声を掛けた。


「リョウコ!」


振り返る。


ポムは笑っていた。


「楽しんでね!」


リョウコも。


少しだけ笑う。


「うん!」


『一』


一瞬の静寂。


『開始!』


同時に。


タカノが床を蹴った。


「行くぞ!」


カスミとミカコが続く。


リョウコも遅れて駆け出した。


炎を纏った魔法剣を握りながら。


男子側も、一斉に動いた。


先頭を走るのは、大剣を背負ったレンだった。


「散開!」


その一言で。


ジン。


ゴウ。


ユーキ。


ソウマ。


四人が左右へ広がる。


最初にぶつかったのはタカノだった。


ギィィンッ!!


二本の剣と、レンの巨大な大剣が正面から激突する。


「っ……!」


タカノの身体が僅かに押し返された。


重い。


一本の剣とは、まるで違う。


レンは大剣を両手で握ったまま、その重量ごと押し込んでくる。


タカノは歯を食いしばると、二本の剣を交差させた。


「このっ……!」


身体を捻る。


レンの大剣を横へ受け流し、そのまま左の剣を振るった。


レンが素早く身を引く。


「やるな」


「そっちこそ!」


タカノはすぐに踏み込み、二本の剣で追撃した。


その横では。


長い槍を持ったジンが、カスミの前へ出る。


さらに。


両腕に籠手を装着したゴウが、ミカコと正面からぶつかった。


最後方では、ユーキがポムへ銃口を向けた。


「補助役から潰す」


バンッ!!


殺傷力を抑えた模擬弾が飛ぶ。


命を奪う威力はない。


だが、まともに受ければ吹き飛ばされるほどの衝撃はある。


弾丸が直撃した瞬間、ポムの姿がふっと消える。


「なっ!?」


「こっちだよ」


右から声。


ユーキが振り向いて撃つ。


また消えた。


「今度はこっち」


「ちょっと待て!」


左。


後ろ。


撃つたびに、ポムの幻影だけが消えていく。


監督席の教官が眉を寄せた。


「……確かに直接は戦っていないな」


その間にも。


レンは戦場全体へ視線を走らせていた。


「ジン、右へ回れ!」


「了解」


ジンがカスミとの間合いを一度外す。


そのまま槍を低く構え、ミカコの側面へ回り込んだ。


「えっ――」


ミカコが気付く。


だが。


正面にはゴウ。


「よそ見すんな!」


ゴウが拳を振るう。


ドンッ!!


ミカコがトンファーで受け止める。


そこへ。


ジンの槍が横から迫った。


「っ!」


ミカコが慌てて身体を引く。


今度はゴウが踏み込む。


一人が攻めれば。


もう一人が位置を変える。


一人が下がれば。


別の一人が前へ出る。


男子側は、絶えず互いの位置を見ながら動いていた。


その時。


リョウコの前にも一人の男子が立ちはだかった。


片手剣を構えたソウマ。


「行くぞ」


「……うん」


リョウコも魔法剣を握り直した。


ソウマが一気に踏み込む。


ガキィン!!


炎を纏った剣が、ソウマの剣を受け止めた。


その瞬間。


ソウマの目が見開かれる。


「重っ……!」


魔法剣の力は、普通の剣とは違う。


けれど。


「っ……!」


リョウコの腕が震え、じりじりと押されていく。


「うぅ……!」


ソウマがさらに力を込めると、リョウコの足が一歩、もう一歩と下がった。


それでも剣は離さない。


「まだ……!」


炎が強く揺れる。


その時、リョウコは炎に晒され続けたソウマの刀身を見た。


そして思い出す。


さっきポムが見せた魔法。


炎。


そして。


氷。


「……これなら」


リョウコが魔力を切り替えた。


ボッ――!


纏っていた炎が消える。


次の瞬間。


パキィッ!!


白い冷気が刀身を走り、一気に氷へ変わった。


「なっ!?」


急激な温度差。


ソウマの剣から、小さな亀裂音が響く。


ピシッ――


そして。


ガキン!!


剣が途中から折れた。


「えっ!?」


リョウコ自身が一番驚いていた。


少し離れた場所で、ピックが両手を上げる。


「やったー!」


「熱くした剣を一気に冷やして折るなんて、リョウコちゃん頭いい!」


「出来た……!」


嬉しそうに顔を上げた、その瞬間。


ソウマが折れた剣を放り捨てた。


「まだ終わってねえ!」


「え?」


ドゴッ!!


拳が、リョウコの頬へまともに入った。


「ぶふっ!?」


リョウコの身体が横へ吹き飛ぶ。


「リョウコちゃーん!!」


ピックが両手を口元へ添え、大声で応援する。


「立ってー! まだいけるよー!」


床を転がったリョウコが、涙目で顔を上げた。


「応援するだけなのぉ!?」


「ボク戦えないもーん!」


「知ってるよぉ!」


それでも。


ソウマは折れた自分の剣を見て、僅かに表情を変えていた。


力では圧倒している。


だが。


さっきまで何も出来なかったはずの少女が。


戦いの最中に、魔法の使い方を変えてきた。


ソウマがリョウコを見る。


「……お前、面白いな」


「え?」


「何でもない」


リョウコは頬を押さえながら、ゆっくりと身体を起こした。


「いたた……。」


殴られた頬が、じんじんと熱い。


そこでリョウコは、昨日ポムに治してもらった時の感覚を思い出した。


温かく、傷を包み込むような魔力。


「……もしかして」


頬へ手を当てる。


治って。


痛くなくなって。


そう思いながら魔力を流すと。


ぽうっ――


淡い光が頬を包み、痛みが少しだけ引いた。


「えっ?」


リョウコが目を丸くした。


「……治った?」


離れた場所で見ていたポムの目も、大きく見開かれる。


「えぇっ!?」


ピックが振り返った。


「何?」


ポムはリョウコを指差した。


「回復魔法!」


「え?」


「まだ教えてないよ!」


ポムは一瞬ぽかんとしたあと。


ぐっ!


嬉しそうに拳を握った。


「やった!」


ピックが呆れたように見る。


「何でポムがガッツポーズしてるのさ」


「だってすごいじゃん!」


リョウコはまだ頬へ手を当てたまま、二人を見る。


完全に治ったわけではない。


痛みも少し残っている。


それでも。


確かに、自分の力で傷を癒した。


「……あたし、回復魔法も使えた」


ポムは満面の笑みで頷いた。


「うん! ちょっとだけだけどね!」


「ちょっとだけって言わないでよぉ!」


────


その頃。


タカノはレンと、真正面から激しく打ち合っていた。


ギィンッ!!


右手の剣で、大剣の一撃を受ける。


重い衝撃が腕まで走った。


だが。


その直後。


左手の剣が、レンの脇腹を狙う。


レンは大剣の柄を捻った。


分厚い刀身が盾のように割り込み、タカノの剣を受け止める。


ガキィン!!


「っ!」


タカノは止まらない。


右。


左。


二本の剣を交互に振るい、休む間もなく攻め続ける。


一本を防げば。


もう一本。


レンは巨大な大剣一本で、それを次々と受け流していく。


ギィンッ!!


ガキィン!!


そして。


僅かな隙。


レンが大剣を横薙ぎに振るった。


ブォンッ!!


「っ!」


タカノが二本の剣を交差させる。


ガァン!!


衝撃に押され、足が床を滑った。


それでも。


タカノはすぐに踏み直す。


二本の剣を構え直し、口元を上げた。


「強いな」


レンも大剣を肩へ担ぐ。


「そっちもな」


二人は互いを見据えた。


次の瞬間。


同時に床を蹴った。


────


少し離れた場所。


カスミは長い棒を両手で構え、ジンと向かい合っていた。


対するジンも。


長い槍を構えている。


互いに間合いが長い。


ジンが先に踏み込み、槍の穂先を真っ直ぐカスミへ伸ばした。


シュッ!!


カスミは棒で軌道を逸らし、その反動を使って一気に回転させる。


ブンッ!!


反対側の先端が、ジンの脇腹を狙った。


ジンが槍の柄で受け止める。


ガンッ!!


「っ!」


互いに一歩下がる。


すぐに。


もう一度。


突き。


払い。


薙ぎ。


棒と槍が、目まぐるしく交差する。


カスミが僅かに笑った。


「同じような間合いね」


ジンも槍を構え直す。


「だから面白い」


再び二人が踏み込んだ。


────


一方。


ミカコは両手のトンファーを構え、ゴウと真正面からぶつかっていた。


「はぁっ!」


右のトンファーを振り抜く。


ガンッ!!


ゴウが籠手で受けた瞬間、左のトンファーが胴へ走る。


「甘い!」


ゴウは身体を捻ってかわし、そのまま太い拳を叩き込んだ。


ドンッ!!


ミカコが両腕を交差させて受け、僅かに後ろへ下がる。


「力だけはあるじゃない!」


「だけって何だ!」


「そのままの意味よ!」


ミカコが踏み込む。


ゴウも退かない。


トンファー。


拳。


蹴り。


籠手。


近距離で激しい攻防が続く。


一歩も譲らない。


その頃。


後方ではユーキが素早く銃口を動かしていた。


ポムへ向ける。


「あっち」


撃つ。


消える。


「こっち」


撃つ。


また消える。


「だから待てって!」


ユーキが完全に振り回されている。


だが。


レンの声が飛んだ。


「ユーキ! ミカコの右!」


「了解!」


表情が変わる。


ユーキはすぐにポムから銃口を外した。


ミカコの右側へ回り込む。


狙うのは。


身体ではない。


ミカコが次に踏み込もうとした、その足元。


バンッ!!


床を弾丸が叩いた。


「っ!?」


ミカコが反射的に足を止める。


その一瞬。


ゴウが大きく後ろへ下がった。


「え?」


逃げたように見えた。


ミカコは迷わず追う。


「待ちなさい!」


だが。


横からジンの槍が伸びた。


ガキィン!!


「っ!?」


ミカコが咄嗟にトンファーで受ける。


その間に。


ゴウが横へ回り込んだ。


「後ろ!」


カスミの声が飛ぶ。


ミカコが振り返る。


遅い。


ドンッ!!


ゴウの籠手が肩へ叩き込まれた。


「くっ……!」


ミカコの身体が大きくよろめく。


その光景に気を取られたカスミへ。


ジンがすぐに槍を返した。


「よそ見するな」


「しまっ――」


シュッ!!


カスミが棒で弾く。


だが。


横から銃声。


バンッ!!


「っ!」


弾丸が棒の中央へ当たった。


衝撃で、カスミの構えが僅かに崩れる。


そこへ。


ジンの槍。


「二人がかり……!」


ジンは淡々と答えた。


「模擬戦だ。誰が一対一って決めた?」


カスミが棒を振るい、槍を弾く。


しかし。


今度はユーキが別方向へ走る。


同じ相手を二人で囲み続けるわけではない。


必要な瞬間だけ加勢し。


すぐ別の場所へ移る。


────


タカノも異変に気付いていた。


先ほどまで正面にいたレンが、突然大きく距離を取った。


「……?」


次の瞬間。


横からジンの槍が伸びる。


タカノが左の剣で弾いた。


直後。


反対側からソウマが飛び込む。


鋭い蹴りがタカノの脇腹へ迫った。


「っ!」


タカノが右の剣の腹で受け止める。


さらに。


後方。


ユーキが銃を構えている。


「そういうことか……!」


タカノの表情が険しくなる。


男子側は、最初から一対一で戦うつもりなどなかった。


レンが全体を見て指示を出し、ジンが隙を作る。


そこへゴウとソウマが飛び込み、ユーキが遠距離から援護する。


「ちっ……!」


タカノがソウマを押し返した瞬間、横からレンの大剣。


ギィンッ!!


受けた直後には、背後からジンの槍が迫る。


「タカノ!」


カスミの声に反応し、タカノが身体を沈めた。


「面倒な戦い方しやがる……!」


距離を取れば、今度はゴウが前へ出る。


女子側は少しずつ攻撃の流れを失っていた。


────


後方。


ユーキは再びポムへ銃口を向けた。


さっきから何度撃っても当たらない。


それでも。


補助役を放置するわけにはいかなかった。


「今度こそ……!」


照準を合わせる。


ポムは少し離れた場所で、何もせず立っている。


バンッ!!


命中。


したはずだった。


だが。


ポムの身体が、ふっと消える。


「またかよ!」


「こっちー」


右。


ユーキが即座に銃口を向ける。


バンッ!!


消える。


「こっちだよ」


左。


バンッ!!


また消える。


「だから!」


今度は後ろ。


「ユーキくーん」


「名前覚えんな!」


振り向きざまに撃つ。


やはり消える。


少し離れた場所では、本物のポムが楽しそうに両手を後ろへ組んでいた。


ピックが呆れたように見る。


「何してるの?」


「直接戦っちゃ駄目って言われたから」


「それは分かるけど」


ポムがにっこり笑う。


「避けてるだけ」


その瞬間。


バンッ!!


本物のポムの額を弾丸が撃ち抜いた。


「おっ!」


ユーキの顔が明るくなる。


だが。


そのポムまで、ふっと消えた。


「それも偽物かよ!!」


別の場所から。


「こっちだよー」


「何人いるんだお前は!!」


監督席で見ていた教官の一人が、何とも言えない顔になる。


「……あれは補助なのか?」


監督も黙ったまま答えなかった。


少なくとも。


直接攻撃はしていない。


それだけは確かだった。


────


一方。


前線では、女子側が明らかに押され始めていた。


タカノがレンの大剣を受ける。


ギィンッ!!


そこへジンの槍。


さらに。


遠くからユーキの援護射撃。


「くそっ!」


タカノが身体を捻り、辛うじて避ける。


カスミも。


ミカコも。


一人を相手にしているつもりが。


気付けば別の誰かが割り込んでくる。


そして。


攻撃が終われば、すぐに離れていく。


追えば。


その先に別の男子が待っている。


完全に。


男子側の流れだった。


カスミが棒を振るい、ジンの槍を弾く。


その直後。


ゴウが横から踏み込んだ。


「っ!」


カスミが慌てて棒を返す。


ドンッ!!


籠手と棒がぶつかる。


「カスミ!」


ミカコが駆け寄ろうとする。


だが。


ソウマがその前へ滑り込んだ。


「行かせない」


「邪魔!」


ミカコがトンファーを振るう。


ソウマは身体を沈めてかわすと、そのまま足払いを放った。


「っ!」


ミカコが咄嗟に跳ぶ。


着地した時には。


ソウマが再び目の前へ立ちはだかっていた。


その光景を。


少し離れたところで、リョウコが見ていた。


誰かが攻撃されれば。


男子側はすぐに助ける。


一人が押されれば。


別の誰かが入る。


でも。


自分たちは。


「……みんな、バラバラ」


リョウコが小さく呟いた。


その声を。


近くにいたカスミが聞いた。


「え?」


リョウコは戦場を見回す。


「男子は、ずっとみんなで戦ってる」


タカノもその言葉に反応した。


レンの大剣を受け流しながら、周囲を見る。


ジン。


ゴウ。


ソウマ。


ユーキ。


全員が。


誰か一人だけを見ているわけではない。


「……なるほどな」


タカノが大きく後ろへ跳んだ。


「カスミ! ミカコ!」


二人が振り向く。


「一回集まれ!」


「何?」


「こっちも同じことやるぞ!」


カスミがすぐに意図を理解した。


「一人を狙う?」


「そうだ」


ミカコが口元を上げる。


「最初からそうすれば良かったじゃない」


「今気付いたんだよ!」


「遅い!」


言いながら。


三人が一気に距離を詰めた。


狙う相手は。


ゴウ。


「お?」


ゴウが構える。


最初にタカノ。


二本の剣で正面から攻める。


ガキィン!!


ゴウが籠手で受ける。


その瞬間。


横からカスミ。


棒が足元へ走る。


「っ!」


ゴウが跳ぶ。


そこへ。


ミカコ。


「もらった!」


トンファーが胴へ迫る。


「ゴウ!」


レンの声。


ジンが即座に動いた。


槍がミカコの側面へ伸びる。


ユーキも銃口を向ける。


ソウマも走る。


三方向。


一斉に。


ミカコへ攻撃が集中する。


「えっ――」


避けきれない。


その瞬間。


「ミカコ!」


リョウコが飛び込んだ。


ドンッ!!


ミカコの身体を横へ突き飛ばす。


「なっ!?」


直後。


ジンの槍の柄が。


リョウコの脇腹へ叩き込まれた。


「うぐっ!」


さらに。


ソウマの回し蹴りが肩へ入る。


バンッ!!


ユーキの弾丸が、防護装備を叩いた。


「きゃあっ!!」


リョウコの身体が床へ転がった。


「リョウコ!」


ミカコがすぐに駆け寄る。


「何してんのよ!」


リョウコは脇腹を押さえながら、苦しそうに身体を起こした。


「だ、大丈夫……。」


「大丈夫じゃないでしょ!」


ミカコが険しい顔で睨む。


「何であたしなんか庇ったのよ!」


リョウコは少し驚いたようにミカコを見る。


そして。


痛みに顔を歪めながらも、答えた。


「一番弱いあたしが……強い人をサポートする方が」


息を整える。


「戦闘を有利に出来るって、思ったから……。」


ミカコの目が僅かに見開かれた。


「…………。」


リョウコは本気だった。


自分が一番弱いなら、傷付いてでも強い仲間を残した方がいい。


ただ、それだけ。


ミカコは何も言わなかった。


ただ、今までとは少し違う目でリョウコを見ていた。


その時。


後ろから明るい声が飛んだ。


「じゃあ今度は、あたしの番だね!」


全員が振り向く。


ポム。


ユーキも反応する。


「今度こそ!」


すぐに銃口を向けた。


バンッ!!


ポムが消える。


「だから何人いるんだよ!!」


本物のポムは。


さらに後ろ。


両手を胸の前で組んでいた。


その周囲に。


淡い桃色の光が広がっていく。


「みんなー!」


タカノ。


カスミ。


ミカコ。


リョウコ。


四人の身体を。


同時に光が包んだ。


「え?」


リョウコが自分の腕を見る。


さっきまで痛んでいた脇腹。


肩。


身体中の痛みが。


少しずつ引いていく。


「回復……?」


「うん!」


ポムが笑う。


それだけではなかった。


別の光が重なる。


赤。


青。


金。


幾重もの魔力が、四人の身体へ流れ込んでいく。


「速度アップ!」


リョウコの身体が軽くなる。


「攻撃力アップ!」


タカノの二本の剣へ力が宿る。


「防御力もアップ!」


カスミが目を丸くした。


「ちょっと待って……。」


ミカコも自分のトンファーを見る。


「これ、全部同時?」


「うん!」


ポムは満面の笑みだった。


監督席。


教官たちが一斉に身を乗り出す。


「何だ、あれは……?」


モニター上の正体不明のエネルギー反応が、一気に跳ね上がった。


四人同時。


しかも複数の効果が重なっている。


監督が額へ手を当てた。


「……補助に徹しろとは言ったが」


隣の教官が小さく呟く。


「これは……補助ですね」


「…………。」


間違ってはいない。


ただ、明らかに想定していた補助ではなかった。


────


レンも。


男子側の四人も。


女子たちの変化に気付いていた。


ゴウが構え直す。


「何かヤバくねえか?」


ジンが槍を握る。


「さっきとは反応が違う」


ユーキも銃を構え直した。


「あのポムって奴、先にどうにかした方が――」


「無理だろ」


ソウマが即答する。


「撃っても全部偽物だ」


「言うな!」


その前で。


タカノが二本の剣を構えた。


身体が。


驚くほど軽い。


カスミも棒を握り直す。


ミカコも。


トンファーを構える。


リョウコは立ち上がり。


再び魔法剣へ炎を纏わせた。


ボッ――!


赤い炎が刀身を包む。


タカノが男子五人を見据える。


そして。


口元を上げた。


「よし」


二本の剣を前へ構える。


「ここから反撃だ」

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