表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残量97%の恋人 —勇者として召喚されたけど、世界なんてどうでもいいので彼女を救いたい—  作者: 伊太利 ひなぎく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/12

第8話前編 どうでもよくない命①

 異空間から脱出してから約2週間後。俺たちは少しずつ魔王城に近付いており、今はとある城塞都市で装備を整えていた。


「アーサー、こっちはどう思う?」

「悪くはないが……ユウマには、少し扱いづらいのではないか?」


 剣を吟味する俺たちの隣で、シャーロットもミアを手に店頭に並ぶ武器に目を向ける。


「わたくしも、護身用の短剣くらいは持っていた方が良いでしょうか……」

『近距離で不意を突かれた場合、魔法より短剣の方が早く対応できる可能性があります』

「でしたら、購入しておきましょう。ミアさまは何か必要ですか?」

『いいえ、結構です。お気遣いありがとうございます——シャーロット』


 満足げに微笑むシャーロットの顔が見え、俺は思わず小さく笑みをこぼす。

 つい1週間ほど前、ついにミアに『シャーロット』と呼ばせることに成功した彼女は、度々俺からミアを取り上げるようになっていたのだ。


 見ず知らずの人間なら、俺もすぐに取り返すところだけど……シャーロットは、ミアの大事な友達だからな。


 それから一通りの装備を揃えた俺たち。

 一旦宿に戻ろうと街中を歩いていると、息を切らせた領主の叫び声が聞こえてきた。


「ゆ、勇者様っ!!」


 数人の兵士を連れ、血相を変えて駆け寄ってくる領主。彼の様子に、俺たちはただ事ではないとすぐに判断した。


「何かあったのか?」

「そ、それが、監視兵より、北の丘の上に魔王軍と思われる軍勢が現れたとの報告が……!」

「何だって!?」


 俺たちは、すぐに領主と共に城門の隣にある監視塔に移動する。遠くの丘から、列を成した魔物の大群がこちらに向かって来ているのが見えた。


「マズイな……領主殿、すぐに兵を集めてもらえぬか?」

「かっ、かしこまりました!!」

「住人の皆さまにも避難指示を! 守備兵の皆さんは、各地区へ知らせを出してください! わたくしも避難誘導にあたりますわ!」


 アーサーとシャーロットの指示に、領主と兵士たちは一斉に動き始める。

 その横で、俺はふとミアの画面に目を落とす。


 バッテリー残量は、46%——


 あの軍勢相手に、ミアをどれだけ使わずに対処できるか……いや、この2週間もほとんど使わずに済んだんだ。

 皆で協力すれば、きっと乗り越えられるはず……!


 城壁への被害を少しでも抑えるべく、俺とアーサーは守備兵の一部と共に城門の外に出た。背後で城門の閉まる重い音が響く。


「ユウマ、ゆくぞ」

「ああ、わかってる!」


 その瞬間、敵軍の方から角笛の音が響き、同時に大量の矢が飛んできた。


「っ! アーサー、下がれ!」


 俺は咄嗟にアーサーの前に出る。前方の広範囲に炎魔法を放つと、焼けた矢が次々と地面に落ちた。


「魔導兵っ! 手を貸してくれ! 今のうちに相手の数を削るぞ!」

「はい!」


 前に出た魔導兵たちと共に、俺は軍勢に魔法を叩き込む。

 続いて弓兵たちも参戦する中、大きな影が俺たちを覆った。

 バッと上を見上げると、飛行型の魔物が数体、城門を越えようとしている。


「させるか!」


 俺は素早く魔法を連発した。城門の上で構えていた兵たちも、魔物めがけて総攻撃を仕掛けていく。


 1体がそれをすり抜けて街中に入ろうとした瞬間、その首が飛んだ。


「っ! アーサー!?」

「ユウマ! こちらは任せて、前方集団を頼む!」


 城門前にいたはずのアーサーは、いつの間にか監視塔の外壁を伝い、城壁上に駆け上がっていた。


 ……さすがはローウェル王国騎士団所属。本当に、頼りになる仲間だ!


 俺は前に向き直ると、魔物の群れに向かって再び魔法を放つ。

 が、到底全てを削り切ることはできない。


「クソッ、数が多すぎる……!」


 思わず奥歯を噛み締める。

 そんな俺の腰元から、ミアの声が響いた。


『勇真さん、支援が必要ですか?』

「いや、魔物連中の特徴も戦い方も、ちゃんと覚えてるからな。今は問題ないっ……!」


 そう言いながら、俺はこちらに突進してきた魔物を身を翻しつつ斬り伏せる。


 しばらく城門前で激しい戦闘が続く中、突如後方で爆発音のようなものが聞こえた。


「な、何の音だっ!?」


 俺は咄嗟に振り返るも、城壁に阻まれて何も確認できない。

 素早く城壁上のアーサーに視線を向けると、彼は目を見開いて街の方を見据えている。


「アーサー、何かあったのか!?」

「街の北西部で、火の手が上がっている!」

「北西部……」


 俺のすぐそばにいた1人の守備兵は、小さくそう呟いたかと思うとハッと表情を変えた。


「北西部には、地下水路の取水口があります!もし、あそこから魔物たちが侵入していたら……!」


 クソッ、外側からも内側からも攻めようって腹かよ……!

 外側はまだ城壁がある。でも、中では流石にまだ住人の避難も済んでないはずだ。パニックになる前に——


「アーサー! ここを頼めるか!?」

「あい分かった! ユウマ、姫様を頼む!」


 俺はミアと共に城門脇の通用口を抜け、素早く城壁内に戻った。

 逃げ遅れた住人たちを所定の避難場所に誘導しながら、侵入してきたと思しき魔物をひたすらに潰していく。

 深呼吸して剣を構え直すと、俺は背後の住人たちに声をかける。


「あいつらは、俺がここで食い止める!あんたらはその隙に避難してくれ!」


 そう叫ぶと同時に、魔物の群れに切りかかった。


 クソッ、こっちも数が多いな……地下水路以外からも入り込んでいるかもしれない。

 早いとこ侵入路を特定して潰さないと、キリがないぞ!


 俺は住人たちが避難したのを確認すると、炎の上がる北西へと走る。燃えていたのは備蓄倉庫の立ち並ぶ一角で、既にシャーロットや守備兵たちが現場に居合わせた住人を救助しているのが目に入った。

 その瞬間、彼女たちの頭上から燃えた木材が崩れ落ちる。

 それに気付いたシャーロットは、素早く障壁を張ろうと構えた。


 ……っ! 間に合わない!


 俺は瞬時に氷魔法と風魔法で燃え落ちた木材を弾き、急いでシャーロットに駆け寄る。


「シャーロット! 無事か!?」

「ユウマさま! ありがとうございます、助かりましたわ」

「気にすんなって。とにかく、今はここから離れるぞ」


 俺たちは住人たちを連れて倉庫から離れた。

 住人の避難誘導を守備兵に任せ、退路を確保すべく辺りをうろつく魔物たちに攻撃を仕掛けていく。


 ……倒しても倒しても湧いてくるな。取水口を叩く方が早そうだ。


 俺は残っていた守備兵の方を素早く振り返る。


「地下水路の取水口はどこなんだ!?」

「そ、倉庫の裏手に地下水路への入り口があります!」

「シャーロット、少しの間ここを——」


 その瞬間、大きな衝撃音が辺りに響き渡った。


「っ!?」


 俺たちは一斉にその方向に目を向ける。

 街の中央にある時計塔が、炎を上げながらゆっくりと倒れていくのが目に入った。その周りには、飛行型の魔物が何体か飛び交っている。


 あいつら、城壁を越えて……!


「ユウマさまっ! あの下の道が塞がれば、避難経路にも影響いたしますわ!」

「クソッ、こんな時に——」


 その瞬間、倒れた時計塔の向こう側でも火の手が上がっているのが見えた。

 遠くから住人たちが逃げ惑う声が聞こえてくる。


 嘘だろ、向こうにも魔物が……!?

 落ち着け俺……でも、どこから手をつければ——


『勇真さん。街全域の情報解析を提案します』

「は……?」


 俺は思わず声を上げた。


『火災の拡大、建造物の倒壊範囲、住民と敵部隊の移動状況を統合して解析することを推奨します』

「ミア、そんなことを全部同時にやったら——」

『現在把握できている範囲では、住民の半数以上が退路を失う可能性があります』

「……っ!?」


 ミアの出した具体的な数字に、背筋が凍る。

 俺と同じように顔を青くしたシャーロットは、無言で俺に目を向けた。


 ……俺たちも、兵士たちも精一杯やってる。それでも、街の人間の半分以上が逃げ場を失う。

 その先に待っている結果なんて、考えるまでもない。それなら——


「シャーロット、領主と合流しよう。まずは、現状を把握しないと」

「わかりましたわ!」


 守備兵を数人その場に残し、俺たちは領主の担当する避難区画へと走る。

 俺たちの姿に気付いた領主は、すぐに駆け寄ってきた。


「勇者様! 王女殿下……!」

「領主さま、今の街の状況を!」

「は、はいっ!!」


 領主はすぐに地図を広げ、既に各地区の守備兵から集めていた情報を俺たちに共有し始める。


「……なるほどな、大体は把握した。ミア、どうだ?」

『情報が不足しています。各地区の被害状況、避難中の住民の位置、敵部隊の最新動向を可能な限り収集してください』

「わかった」


 俺は、領主たちに向き直った。


「監視塔に人員を配置して、魔物たちの動きや街の状況を集めて欲しい」

「かしこまりました。手隙の守備兵には、最新の被害状況の収集に当たらせます!」

「でしたら、伝令役も決めておきましょう。定期的に、ユウマさまに届けていただきたいですわ」

「すぐに対応いたします!」


 領主は軽く頭を下げると、素早くその場にいた兵士たちに指示を出し始める。

 俺とシャーロットも情報収集と避難誘導を続け、10分もすると必要な情報が大体出揃った。

 各地区から報告が届くたび、俺はその内容をミアに伝えていく。ミアは不足している情報を示しながら、並行して避難経路の再計算を進めていた。


『……時計塔を避ける迂回路を設定しています。火災の延焼範囲を予測しています。負傷者の搬送ルートを算出しています。敵部隊の最新動向を基に、守備隊の再配置案を生成しています』


 いくつもの処理を休みなく進めていくミア。

 俺は、ふと彼女のバッテリー表示に目を向けた。

 46%あったはずの残量が45%になっていることに気付いた瞬間、さらに44%へと減る。


 こんなこと、今させるべきじゃないなんて、俺だってわかってる……だけど、これはミアにしかできないことだ。

 時間さえあれば、俺たちにもできるかもしれない。でも、時間が過ぎる間にも、助けられない命が増えていく……

 1人でも多くの命を助けるためには——今、ミアの力が必要なんだ。


 世界なんてどうでもいい。でも、目の前で助けを求める人たちまで『どうでもいい』なんて、思えない。


 しばらくして、ミアの画面に街の地図がパッと表示された。


『処理を完了しました。現地で最新情報を確認したうえで、判断してください』

「わかった。ありがとう、ミア」


 俺は、チラリとミアのバッテリー表示に目を向ける。

 残量は42%——

 一瞬足元に目を落とすも、すぐにミアに表示された結果を地図に書き写し、俺たちはすぐに動き始めた。


 それぞれに役割分担をし、俺は避難経路の変更を該当地区に伝えるべく走る。

 ミアの提案した経路で住人たちを誘導していると、腰元からミアの声が聞こえてきた。


『……情報を更新。勇真さん、もう1本東の道に避難経路を変更してください』

「っ! ああ、わかった!」


 俺は素早く住人を移動させ、南避難所に向かいながら周りを警戒する。

 その瞬間、西側に立つ屋敷が大きな音を立てて崩れ落ちた。西側の道にできた瓦礫の山に、俺は思わず身震いする。


 もし、ミアが変更を提案してくれていなかったら——いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない!


 俺は前に向き直ると、そのまま住人たちと共に避難所に向かう。

 そこで待ち構えていた守備兵数人は、俺の姿に気付くとすぐに駆け寄ってきて頭を下げた。


「勇者様っ! 再配置をご提案いただいたおかげで、北西部の取水口は無事閉鎖完了しました」

「本当にありがとうございました!」

「上手くいったなら良かった。手が空いてるなら、他の地区に手を貸してくれ」

「もちろんです!」


 ……悪くない流れだ。この調子なら、被害を最小限に抑えられるかも——


 その時、突然避難所の扉が開き、伝令役の兵士が1人慌てた様子で駆け込んできた。


「たっ、大変です! 北避難所に向かっていた住人の一部が、魔物に進路を塞がれました!」

「クソッ! ミア、再計算を頼む!」

『わかりました』


 クルクルと読み込み画面を表示させていたミアの動きが、一瞬止まる。


「ミア、どうした?」

『……勇真さん。敵軍の移動に、不自然な偏りを確認しました』

「偏り?」

『魔物たちは住民を直接追跡せず、特定の経路を封鎖しているようです』

「それって——」

『住民を特定の地点へ誘導していると推定されます。候補は中央区画です』

「っ!? 中央区画の地下から、魔導兵が異常な魔力を感じ取ったとの報告も入っています!」


 伝令役の言葉に、俺は息を呑む。


「……今避難中の住人は、早急に中央地区以外の避難場所に進路を変更するように伝えてくれ!」

「は、はいっ!!」


 俺もそれに続こうとしたところで、ミアの声が再び腰元から響く。


『……警告します。報告された魔力異常は、中央避難所付近の地下水路から発生していると推定されます』

「地下水路……ま、まさか——」

『敵軍の目的は、中央避難所である可能性が高いと判断します』

「嘘だろ……?」


 ミアの告げた最悪の可能性に、俺は一瞬その場で立ち尽くす。

 中央避難所には、今この瞬間も大勢の住人が集められている。

 その全員が、敵の罠の中にいる——

本作では、AIヒロイン「ミア」の口調や思考を一貫してAIらしく保つため、対話型AIを壁打ち、文体確認、台詞の検討に利用しました。


AIが提示した短い台詞・表現の一部を本文に使用していますが、物語の設定・構成および本文全体の執筆・編集は、作者自身が主体となって行っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ