第8話後編 どうでもよくない命②
数人の守備兵を連れて、中央避難所へと急ぐ俺とミア。途中の十字路に差し掛かったところで、敵軍の魔物たちと出くわしてしまう。
クソッ、こんな時に——
剣に手をかけた瞬間、横道から高火力の魔法が飛んだ。
魔物たちは残らず吹き飛ばされ、俺は顔を腕で庇いつつ、素早く魔法の出所に目を向ける。
「っ! シャーロット!?」
十字路から姿を現した彼女も、驚いたように目を丸くした。
「ユウマさま、なぜこちらに!?」
「実は……」
俺は、即座にシャーロットにもミアの予測を共有する。
「そんな……! では、向こうの狙いは——」
『中央避難所への攻撃を皮切りに、この街を内部から崩壊させるつもりだと推定されます』
「シャーロットも来てくれ! 中央避難所の住人たちを退避させるのに、人手が必要だ!」
「もちろんですわ!」
シャーロットを加えた俺たちは、ようやく中央避難所へたどり着くと、即座に中に飛び込む。
幸いまだ魔物たちには先を越されておらず、俺はホッと息を漏らした。
……って、安心してる場合じゃない。
「ミア、どの避難所が一番安全だ?」
『……現時点での情報では、西避難所と南避難所の安全度がより高いと推定されます』
西の方が近いけど、キャパが小さいな……二手に分かれると、ミアのリアルタイム解析が使えないし——
「よし、負傷者と子ども、高齢者は西に。残りは南避難所へ移動させよう。西避難所までは一旦全員でまとまって移動して、その後に南へ向かうのが良さそうだな」
「そうですわね。守備兵の皆さまは、なるべく補助の必要な方についていただけますか?」
「はいっ!!」
守備兵が住人たちに移動を告げると、避難所内がざわつく。が、ただならぬ俺たちの様子に、住人たちは素直に守備兵の指示に従い始めた。
その時、腰元から再びミアの声が聞こえる。
『勇真さん、西避難所を経由し、南避難所へ向かう安全性の高いルート候補を表示します。確認してください』
「悪いな、ミア」
俺とシャーロットは近くにいた守備兵数人と素早く話し合い、ルートを決定する。
後から魔物たちが追ってくる可能性を考えると——
「後ろは俺が引き受ける。シャーロットは、前で皆の誘導を頼めるか?」
「もちろんですわ」
『引き続き、最新情報に基づいて安全なルートを再計算します』
「……わかった。頼りにしてるぞ、ミア」
俺たちは、住人たちを順番に避難所の外へと誘導していく。
泣きじゃくる子どもを抱いて宥める母親。
守備兵の肩を借りなければ、歩くことすらままならない老人。
血の滲んだ腕を押さえながら、家族の名前を呼び続ける男——
俺は腰元のミアに目を向ける。
バッテリーは、残り41%……だからって、この人たちを見殺しにする選択肢なんて——選べるわけ、ない。
俺は深呼吸してから前に向き直ると、住人たちに続いて中央避難所を後にした。
時折ミアがルートを修正しつつ、西に向かって足早に進んでいく俺たち。
ようやく西避難所の建物が見えた、その時——
『勇真さん、後方に複数の魔力を検知しました。状況より、敵勢力の追手と推定されます』
「クソッ、このタイミングでかよっ!!」
俺は列から身を乗り出して、前方のシャーロットに向かって叫ぶ。
「シャーロット! 追手だ!!」
「っ!?」
「俺が食い止める! シャーロットは、住人たちを早く避難所に!」
「わかりましたわ!」
避難所に向かって駆けていくシャーロットたちを見送った俺は、後ろに向き直って剣を抜いた。
近付いてくるのは、20はいるであろう魔物の群れ。
あんな数、1人で相手したことなんてないけど……でも、ここを通すわけにはいかない! 先手必勝だ!
俺は、前方に向けて何度も激しく魔法を放つ。爆炎が群れを呑み込み、前列の魔物が断末魔と共に次々に倒れていく。
それでも十体近くの魔物が炎を抜けて、一斉に俺の方へと向かってきた。
身を翻して、連中の攻撃をかわす。
こいつの弱点は——
ミアと共に覚えた魔物の特性を必死に思い出しながら、剣を振るい、呪文を唱える。
直後、横から振り下ろされた魔物の鋭い爪を、剣で受け止める。腕に重い衝撃が走ったが、そのまま刃を滑らせ、がら空きになった相手の脇腹に一気に炎を叩き込んだ。
「次っ……!」
手近の魔物に斬りかかるも、目測を誤り、剣が空を切った。すぐに体勢を立て直して、相手の攻撃を防ぐ。
そんな攻防を繰り返しつつ、1体1体を確実に切り伏せていく。
最後の1体を魔法で貫く頃には、すっかり息が上がっていた。
「案外、何とかなるもんだな。火事場の馬鹿力ってやつ——」
『勇真さん、上です!』
「っ!?」
ミアの声に、俺は咄嗟に頭の上に剣を振り上げた。同時に、何かが剣にぶつかる甲高い音が響く。
「ぐっ……!」
中型の魔物が振り下ろしてきた斧を押し返し、相手が体勢を整えるより早く魔法を放つ。
動かなくなった魔物を見下ろす俺の心臓は、バクバクと音を立てていた。
「ミア、助かった」
『お役に立てて何よりです。勇真さん、お怪我はありませんか?』
「ああ、大丈夫だ」
とりあえず、シャーロットたちに合流しないとな。
俺はクルリと踵を返すと、西避難所へとまっすぐに走る。
ちょうど西避難所への搬送が終わったところだったらしく、中から出てきたシャーロットたちと鉢合わせた。
「ユウマさま! ご無事でしたか……」
「何とかな。そっちは問題ないか?」
「はい。これから南へ向かうところでしたの」
「よし、なら急ごう」
足早に南避難所へと向かう俺たち。
ミアのバッテリー表示に目を落とすと、38%の文字——
リアルタイムでいくつもの分析を並行しているだけあって、さすがに消費量が多すぎる。早いとこ、状況を好転させないと……
何とか魔物の群れに遭遇することなく住人たちを避難所に送り届けると、守備兵に後を任せて俺とシャーロットは外に出た。
「……休んでる暇はないな。次は入り込んだ魔物の処理か……ミア、解析できてるか?」
『はい。魔物の動向から侵入経路を予測しました。各地区の守備隊配置と併せて、一覧を出力します』
パッとミアの画面が切り替わり、俺とシャーロットはそれを覗き込む。
「北西の取水口は塞いだ、という話でしたわね」
「ああ。地上には守備兵もいるし、まずは地下水路から片付けよう」
俺とシャーロットは、最寄りの入り口から地下水路へと降りた。
通路の影からそっと奥を覗き込むと、中央地区の方へと向かっていく魔物たちの姿がちらほらと見受けられる。
俺はシャーロットと顔を見合わせると、小さく頷き合った。
通路から飛び出し、同時に魔物に向けて魔法を放つ。
地下の構造を崩すわけにはいかない。
壁や天井へのダメージを最小限に抑えつつ、剣も併用して魔物を確実に仕留めていく。
次の瞬間、前方から業火が迫り、俺は慌てて障壁を展開してそれを凌ぐ。
何かがすぐそばを素早く横切った気がして、慌てて後ろを振り返る。
「っ!? シャーロットっ!!」
魔物が1体、他の魔物の相手をするシャーロットを目がけて飛びかかろうとしているのが目に入った。
それに気付いた彼女は、目を見開いて硬直している。
マズイ……!
俺は、魔物を撃ち落とそうと急いで構えた。
クソッ、間に合わない——
その瞬間、硬直していたシャーロットの手が、咄嗟に腰の短剣へ伸びる。
飛びかかってきた魔物へ刃を突き出すと、甲高い叫び声が地下に響き渡った。
「あ……」
魔物が地面に崩れ落ちると同時に、力が抜けたように地面にへたり込むシャーロット。
俺は魔物たちにダメ押しで魔法を浴びせてから、顔を青くしている彼女に駆け寄った。
「シャーロット、無事か!?」
「は、はい……何とか」
震える声でそう答えたシャーロットは、一瞬手元の短剣に目を落とすと、俺の腰元のミアを見上げる。
「……ミアさまのアドバイスのおかげで、命拾いしましたわ。ありがとうございます」
『ご無事で何よりです、シャーロット』
「立てるか?」
「はい、大丈夫ですわ」
シャーロットは俺の手を取って立ち上がり、軽く埃を払う。
「ユウマさま、ミアさま。参りましょう」
「ああ」
『はい』
ミアの出した分析結果をもとに、俺たちは引き続き地下の魔物を倒していく。小さな排水口も見逃さず、土魔法や瓦礫を使って連中の侵入口を次々と塞いだ。
「よし、地下はこんなもんだな」
「そうですわね……あとは、地上の魔物を減らしましょう」
『私も引き続き支援します』
そう告げるミアのバッテリーは、既に32%を示している。
どうする? 少しの間、解析を止めるか? だけど、この状況でそんなことをしたら……
俺は思わず奥歯を噛み締めながら、シャーロットと共に地上へと出た。
ミアのリアルタイム解析を頼りに、守備兵たちと協力して魔物を倒していく。入り込んだ魔物たちは次第に逃げ場を失い、城壁の外へ逃げようとするものも現れ始める。
「逃すかっ!!」
大型の魔物を仕留めた俺は、素早く辺りに目を向けた。
……数もだいぶ減ったな。これなら、シャーロットと守備兵だけで何とかなるはずだ。
俺はシャーロットに向かって叫ぶ。
「シャーロット! 俺は、アーサーに助太刀してくる!」
「わかりましたわ! ここは、わたくしたちにお任せください!」
俺はミアと共にその場を離れ、城門へと向かう。
状況確認のために城壁に登ると、外ではまだアーサーたちが軍勢を食い止めている真っ最中だった。
守備兵たちには疲労の色が見られ、魔力切れの魔導兵すらも城壁内に戻らずギリギリの肉弾戦を続けている。
その先頭で、傷だらけのアーサーが兵士たちを何とか鼓舞していた。
「踏ん張れ! 城門に奴らを1匹たりとも近付けるな!」
その向こうには、まだ大量の魔物の群れが残っている。
……ここまでミアの力で繋いだ命を、俺の迷いで失わせるわけにはいかない。
俺は、腰元のミアに目を落とした。
「……ミア、解析を続けてくれ!」
『わかりました。敵勢力の分析及び戦闘支援を続けます』
俺は風魔法で落下速度を相殺しながら、城壁から外に飛び降りる。すぐにアーサーのそばに駆け寄ると、彼を狙っていた魔物に剣を振るった。
「っ! ユウマ!」
「アーサー! 何とかして連中を退けるぞ!」
「あい分かった!」
俺は魔物の相手をしつつ、状況を確認する。
明らかに、戦力不足だ。このままじゃ、ジリジリ削られていく……でも、今ここで城壁内の守備兵を呼ぶわけにも——
『勇真さん、先日購入した魔力回復薬は所持していますか?』
「えっ?」
次の瞬間、ミアの言わんとすることを察した俺。荷物に入っていた魔力回復薬を、近くにいた魔導兵に全て投げ渡す。
「使ってくれ!」
「勇者様っ……! ありがとうございます!」
魔導兵が戦線復帰すると、押し込まれていた前線が僅かに持ち直した。
が、敵軍の後方からは次々と新手が押し寄せ、減ったはずの隙間が瞬く間に埋まっていく。
「ユウマ、まだいけるか!?」
「ああ、何とかな!」
……とはいえ、決定打に欠けるのは確かだ。また魔力切れを起こせば、回復支援はしばらく望めない。
ここで、何とかして決めないと——
『勇真さん。北西方向から、複数の魔力反応が接近しています』
「クソッ、こんな時に向こうの援軍かよ……!」
俺は北西の丘に目を向ける。
そこに見えたのは、魔王軍の旗ではなく——
「あれって……確か、グレイフォードの?」
グレイフォードの旗を掲げた、騎兵隊と思しき集団。その先頭には、見覚えのある人物が馬に乗っていた。
「っ! ユウマ、あれはセドリック殿ではないか!?」
「嘘だろ!? 本物、なんだよな? 何でこんなところに……」
セドリックたちは一斉に丘を駆け下り、そのまま魔王軍の後方へ突撃した。不意を突かれた魔物たちの陣形が、大きく崩れる。
セドリックは馬上から騎兵隊へ的確に指示を飛ばし、迫る魔物だけを剣で斬り払いながら、俺たちの方へと進んできた。
「勇者殿! グレイフォードでのご恩返しに参りましたっ!」
「いや、さすがにタイミング良すぎだろ!?」
「貴殿らを援護しようと後を追っていたところ、黒煙を確認し、急行したのです!」
……なるほど、元々俺たちに追いつこうとしてたってことか。
全く、義理堅いというか何というか……いや、でも——
「悪い、助かった!」
「礼は不要です! 今は、魔物をっ!!」
俺たちは気を取り直して、それぞれ魔物に攻撃を仕掛けていく。
しばらく激しく抵抗を続けていた魔王軍だったが、やがて敵陣の奥から、これまでとは異なる角笛の音が響いた。それを合図に、魔物たちが少しずつ隊列を組み直し、丘の向こうへと退き始める。
『……敵勢力の後退を確認しました。撤退行動に移行したと推定されます』
ミアの分析に、俺は思わずガッツポーズしてしまう。
「よしっ!」
「最後まで気を抜くな、ユウマ! 撤退を確認するまで、戦列を崩すな!」
俺たちは、魔王軍との距離を測りつつも攻撃姿勢を保つ。
最後尾が丘の向こうへと姿を消してしばらくすると、腰元からミアの声が聞こえてくる。
『魔王軍が戦闘区域から離脱したことを確認しました。現時点では、再攻撃の兆候は見られません』
その言葉と同時に、監視塔の守備兵が鐘を鳴らした。守備兵や魔導兵たちが、一斉に歓喜の声を上げる。
勝った……人も、街も守れたんだ……!
俺は深く息をつきながら、その場に座り込んだ。
「お、終わった……」
「まだやることは山積みだぞ、ユウマ。負傷者の手当ても必要だ」
「それでしたら……」
セドリックは北西の丘へと視線を向ける。俺とアーサーもそれに倣うと、丘の向こうから物資を積んだと思われる荷馬車が数台こちらに向かってくるのが見えた。
思わず目を丸くする俺とアーサー。そのすぐ隣で、セドリックは穏やかな笑みを浮かべる。
「これで足りるとは思っておりません。他に我々にできることがあれば、何なりとお申し付けください」
「……本当に、セドリック殿は義理堅いお方だな」
アーサーたちの会話を微笑ましく思いつつ、俺はふと視線を落とす。
ミアの画面に表示されていたバッテリー残量は——28%。
勝利の余韻が、一瞬で吹き飛んだ。火照っていたはずの身体が、急速に冷えていく。
……俺が選んだ結果だ。間違いだったとは思わない。
だけど、この戦いだけで失った18%を、簡単に受け入れられるわけないだろ……?
「ユウマ、どうした?」
「あ……いや、何でもない」
俺は咄嗟に取り繕うと、兵士たちの治療に当たるセドリックたちのもとへと足早に向かうのだった。
本作では、AIヒロイン「ミア」の口調や思考を一貫してAIらしく保つため、対話型AIを壁打ち、文体確認、台詞の検討に利用しました。
AIが提示した短い台詞・表現の一部を本文に使用していますが、物語の設定・構成および本文全体の執筆・編集は、作者自身が主体となって行っています。




