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残量97%の恋人 —勇者として召喚されたけど、世界なんてどうでもいいので彼女を救いたい—  作者: 伊太利 ひなぎく


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第7話 そばにいるだけで

 鬱蒼と木々が生い茂る森の中を、小一時間ひたすらに歩き続けていた俺たち。


「いい加減、抜けたいんだけどな……今どこにいるのか、見当もつかないぞ」

「植物の生態系からして、グレイフォードより南部だとは思うのですが……」


 そう告げるシャーロットのすぐそばで、アーサーは再度地図に目を落とす。


「ひとまずは、水場を探しましょう。水の補給も必要ですし、現在地特定の目印になるやもしれませぬ」

「そうですわね」


 周囲を警戒して歩きつつ、俺は腰に下げたミアに視線を向けた。

 応急処置として、壊された鎖の代わりにつけた革紐に揺られるミア。


 ミアには、サルヴェイン戦でも異空間でもかなり無理をさせてしまった。

 この森を抜ける程度は、俺たちで何とかしないと……


 半分を切ってしまったミアのバッテリー残量を思い、俺は思わず拳を握りしめる。


 絶対に、間に合わせる。


 決意を新たにして前に向き直った瞬間、木々の隙間に細い水の流れが見えた。


「っ! シャーロット、アーサー!」

「川ですわ!」


 俺たちは小川に駆け寄ると、その場で地図を広げた。


「この規模の森を川が通っている場所は……グレイフォードより南部では、4ヶ所だな」

「しかも、位置が全部バラバラなのかよ……まいったな」

「ひとまず、上流に向かいませんか? この水量では、水の補充もままなりませんもの」


 そのまま川に沿って上流へと進んでいくこと約20分。

 俺たちは、少し開けた場所にある滝壺にたどり着く。

 水筒に魔法で浄化した水を補充すると、疲れた足を冷たい水に浸しながら地図に目を落とした。


「これだけ大きな滝なら、地図に載っててもおかしくないんじゃないか?」

「ユウマの言う通りだな……」


 俺たち3人はひたすら地図に目を凝らす。

 しばらくして、シャーロットが小さく声を上げた。


「あっ、ここではありませんか?」


 彼女の示す先を確認した俺は、辺りの地形と地図を素早く見比べる。


「……確かに、そうみたいだな」

「となると、我々は随分と魔王城に近付いたらしいな」


 この森の位置は、グレイフォードと魔王城のちょうど中間辺り。どうやら、かなりの道のりをスキップできたらしい。とはいえ——


「先に進むには、まずこの森を抜けないとな」

「暗くなる前の方が良いですわね……ミアさまに、最短ルートを出していただきますか?」

「それは……」


 思わず俺は言い淀む。


 ミアには、最短ルートだけを出してもらうか?それを俺たちで地図にメモして、それに沿って進めば、バッテリーはほぼ消費せずに済むはずだ。

 いやでも、森の中の状況は地図だけじゃわからないし……


「ミア、最短ルートを出すのにどのくらいバッテリーを使うんだ?」

『ルートの最適化には、森林内のデータ収集が必要です。地図上での森林の規模から、2〜4%の消費が推定されます』

「だそうだ。ユウマ、どうする?」


 魔王城に近付いたとはいえ、時間もミアのバッテリーも無駄にできるわけじゃない。

 街道に向けてまっすぐ歩き続けるってわけにもいかないし……やっぱり、ミアの力は必要だ。

 でも——


「ルート候補は、ミアに出してもらおう。だけど、データ収集はできる限り俺たちでやるぞ」

「当然だ。であれば、まずは役割分担だな」


 俺たちは、頭を突き合わせて担当を決めていく。


「んじゃ、俺はこの辺りの獣道と地形情報の収集。アーサーは木の上から周辺状況と方角の確認……って、ホントに大丈夫なのか?」

「そのために、姫様に補助に入っていただくのだ」

「人を飛行させるのは流石に無理ですが、落ちないように支える程度でしたら問題ありませんわ」

「なら良いけど……2人とも、怪我だけは気を付けてくれよな」


 シャーロットは小さく頷くと、少し屈んでミアに声をかける。


「ミアさまは、しばらく休んでいてくださいね」

『お気遣いありがとうございます、シャーロットさん』


 俺はミアと共に滝壺を離れ、周辺の調査を開始した。

 しばらく辺りを見て回っていると、下からミアの声が聞こえてくる。


『勇真さん、記録のためにカメラを起動しますか?』

「いや、大丈夫だ。あとで、俺が口頭でちゃんと伝える」

『私にお手伝いできることは、ありますか?』


 俺は思わず苦笑いしてしまう。


「あのなぁ……シャーロットも言ってたろ? 『ミアは少し休んでてくれ』って」

『私に休息は必要ありません』

「いやまあ、それはそうなんだけど……」

『勇真さんのお役に立つことが、私の役目です』


 ……ミアの言いたいことはわかってる。

 でも、俺にとっては——


「ミアがそばにいてくれるだけで、十分俺の役に立ってるんだけどな」


 俺の言葉に、ミアは一瞬黙り込んだ。


『……そばにいることが、勇真さんのお役に立つのですか?』

「ああ。そばにいてくれるだけで良い」

『……そのような効果は、私の機能一覧には登録されていません』

「まあ、機能じゃないからな」

『機能ではない……』


 会話中には珍しく、ミアは熟考するかのように無言になる。


『……わかりました。では、しばらく勇真さんのそばで待機します』

「うん、それで良い」

『ただし、危険や異常を検知した際は警告します』

「はいはい、わかってるって。そこは頼んだぞー」


 ミアを腰元で揺らしながら、俺は周辺の調査を再開した。


 小一時間して滝壺に戻ると、シャーロットとアーサーが地図を広げて何か話し込んでいるのが目に入る。


「ユウマ、戻ったか」

「ああ。そっちは何かわかったのか?」

「はい。一通りは地図に書き込んでみましたわ」


 俺はシャーロットから受け取った地図を確認する。

 一通りの情報を整理してから、それをミアに伝えた。


「……よし。ミア、これでルートの候補を出してくれ」

『わかりました』


 ミアの画面が読み込み画面に切り替わる。

 1分ほどすると、パッと画面にルートが数本表示された。

 俺は素早くそれをメモに取ると、ミアのバッテリー残量に目を向ける。


 残り、48%——

 減ったのは、たった1%。俺たちの力は、無駄じゃなかった。


「ミア、ありがとな。もう大丈夫だ」

『お役に立てて何よりです』

「さて……どれにするかは、わたくしたちで決めなくてはいけませんわね」


 それぞれのルートをじっくりと吟味する俺たち。話し合いつつ1本のルートに絞ると、荷物をまとめ直して滝壺を出発した。


 3時間ほどが経った頃、幸い魔物に襲われることもなく、すんなりと森を抜ける。

 草原の向こうには、沈みかけた赤く輝く夕陽と、城壁に囲まれた街が見えた。街の入り口付近では、人々や馬車が忙しなく行き交っている。


「本当に、あの異空間を抜けられたのだな……」

「森の中だと人けがなさすぎて、何となく実感薄かったもんな」

「日が暮れる前に、わたくしたちも街に入ってしまいましょう」


 足早に街に向かう俺たち。簡単に夕食を済ませて宿を取ると、俺たちはそれぞれのベッドに沈み込んだ。


 翌朝。俺たちはグレイフォードで補充し損ねた物資を買い集めるべく、街の市場を回る。


「えっと……あとは、食料もなるべく詰めた方が良いよな?」

「そうだな。私が長期保存に向いているものを調達して来よう」


 そう言ってその場を立ち去るアーサーを見送った俺は、シャーロットの視線に気付いた。


「どうした?」

「その……ミアさまの鎖を、新調された方がよろしいのではありませんか?」


 俺は思わず腰に下げたミアに目を向ける。


 確かに革紐だけじゃ心許ないし……でも、鎖もまた切られるかもだよな?

 それなら、いっそのことケースごと新調するのも手かもしれない。


「それもそうだな。あとは、ガラスも直せるか確認したいし……」

「でしたら、あちらの方に工房関係の出店がありましたわ」

「じゃあ、俺はちょっとそっち行ってくるわ」

「わかりました。後ほど宿でお会いしましょう」


 俺はシャーロットと別れ、職人たちの集まる出店へと向かう。

 とある出店に集まって駄弁っている職人たちを見つけ、声をかけた。


「すみませーん」

「ん? にいちゃん、どうした?」

「実は、ご相談が……」


 俺は、ミアのガラスの修理とケースの新調について簡単に説明する。

 職人たちは揃って腕を組みつつ、ミアにじっと視線を向けた。


「うーん……ガラスはちょいと難しいなぁ」

「まあ、入れ物の方なら何とかなるけどな。ただ、特注になるぞ?」

「それでも構いません! もう、二度と傷つけたくなくて……」

「わかったわかった。どんな感じの入れ物にするんだ?」

「えっと……」


 俺はミアを手に取る。


「この画面部分は、見えるようにしてもらいたいんです。あと、こっちのカメラとセンサーも塞がないようにして、すぐに取り出せるように——」

「にいちゃん、ちょっと待った! そう一気に言われても、わかんねぇよ……」


 俺を遮った1人の職人は、苦笑いで紙とペンを取り出すと、そのまま俺に手を差し出した。


「ちょいと貸してくれるか? まずは、寸法測っとかねぇとな」


 俺はサッと出店の台の埃を払うと、ミアをそっとその上に置く。

 職人は素早くミアのサイズを測ると、紙にメモを取り始める。


「よし。で? どこを塞がねぇようにすれば良いんだって?」

「この画面と……」


 俺は職人と話をしながら、ミアのケースのデザインを固めていく。他の職人たちも興味津々にそれを覗き込みつつ、度々アドバイスを挟む。

 ようやく完成したデザイン画は、ベルトと一体型になった革製のケースだった。


「にいちゃんの希望を盛り込むと、こんなもんだろうな。ちょうど使えそうなベルトと革もあるし、明日の朝には仕上げてやるよ」

「良いんですか? ありがとうございます!」

「にしても、わざわざ専用の入れ物なんてよ。随分と大事な道具なんだなぁ」


 職人のその言葉に、思わず俺はムッとしてしまう。


「……道具じゃありません。恋人です」

「は……?」

『勇真さんの発言に誤りはありません』


 いきなり話し始めたミアに、職人たちは揃って驚きの声を上げた。


「な、何の声だっ!?」

「板が、喋ったぁぁ!?」

『板ではありません。私は、勇真さんを支援するための対話型人工知性です。勇真さんには、秘書兼恋人として運用されています』

「……」


 職人たちは無言で顔を見合わせる。


 ……普通は、変に思うよな。


 思わず身構えた俺に、職人の1人はニッと笑いかけた。


「ま、そういう種族もいるんだろうな。俺ぁ聞いたことねぇけどよ」

「種族を超えた愛、ね。良いじゃねぇか。にいちゃん、彼女のこと大事にしてやれよ?」


 声を上げて笑う職人に、俺はバンバンと背中を叩かれた。


 ……そうか、ミアはここじゃ『道具に見える種族』扱いになるのか。

 日本にいた時は、理解してくれる人も受け入れてくれる人も、ほとんどいなかった。異世界で、こんな風に当たり前のように受け入れてもらえるなんて——


 胸の奥が僅かに熱くなる。

 俺は照れ隠しに小さく首を振ると、職人たちに向き直った。


「もちろんです! ケース、よろしくお願いしますね」

「おうよ、任せときな!」


 ケースのことは職人たちに任せ、俺は出店を離れる。

 シャーロットとアーサーにケースのことを説明し、その日は残りの物資を買い集め、街でもう一泊することになった。


 そして翌朝。俺は再び職人の出店を訪れていた。

 職人から受け取ったベルトを腰に巻き、ミアをケースに入れる。


「どうだ? 調整が必要なら、遠慮なく言ってくれよな」


 俺は試しに出店の周りを一周歩き、更にミアをケースから出し入れする。


「……俺の方は問題無さそうだな。ミア、カメラとかセンサーは大丈夫そうか?」

『はい。カメラおよび各種センサーへの遮蔽は確認されません。正常に作動しています』

「よし、それならこれで大丈夫です。ありがとうございました」

「良いってことよ! お幸せになぁ〜」


 俺は職人たちに代金を払い、改めて礼を告げると、そのまま城門へと小走りで向かう。

 俺の姿に気付いたシャーロットは、小さく手を振った。


「悪い、待たせたな」

「気にしないでください。まだ荷積みも終わっていないようですから」


 シャーロットは、チラリと商人とアーサーが馬車に荷物を積んでいる様子を一瞥する。

 次の街まで行き先が同じだったこともあり、宿で知り合った商人が、道中の護衛を引き受けることを条件に馬車に乗せてくれることになったのだ。


「ミアさま、新しいケースはいかがですか?」

『……従来より振動が少ないため、移動中の映像認識精度の向上が見込まれます』

「うふふ。それは良かったですわ」

「さて、俺らも手を貸すとするか」


 必要な荷物を積み終わり、馬車はゆっくりと街を発つ。

 俺は新しいケースに収まったミアの確かな重さを感じながら、馬車に揺られる。

 残り、48%——それでも、ミアがまだこうして俺のそばにいることを、今は何よりも大切に思えた。

本作では、AIヒロイン「ミア」の口調や思考を一貫してAIらしく保つため、対話型AIを壁打ち、文体確認、台詞の検討に利用しました。


AIが提示した短い台詞・表現の一部を本文に使用していますが、物語の設定・構成および本文全体の執筆・編集は、作者自身が主体となって行っています。

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