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残量97%の恋人 —勇者として召喚されたけど、世界なんてどうでもいいので彼女を救いたい—  作者: 伊太利 ひなぎく


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第4話 助けたつもりが…

 ガルヴァロスを撃破してから約1週間。

 俺は地下坑道の入り口前で、地図を広げていた。


「ユウマ、何度も言うが……ここを通るより他にはないぞ?」

「街道のある地域一帯が魔王軍に占領されている、という話は、ユウマさまも街で聞かれたでしょう?」

「それは、わかってる。だけど……」


 仮に迂回しても、少なくとも3週間はかかる。

 その間に、また魔王軍やその幹部と遭遇してもおかしくない。


『勇真さん、ルートを検索しますか?』

「いや、いい。頼むから、ミアは少し休んでてくれ」


 腰元のミアに視線を落とす。

 表示されたバッテリー残量は、77%──


 街での後処理だの何だので、更に2%も減ってしまった。

 魔王を倒して、報酬として秘宝の願いを使わせてもらう。

 現状、ミアを助けられるとしたらこの手しかない。

 でも、そのためにミアのバッテリーがなくなったら、意味がないんだよっ……!


「ユウマさま、わたくしもミアさまの友人です。大切な人を失いたくない気持ちは、理解しているつもりですわ」


 迷いなくミアを友人と呼ぶシャーロットの言葉に、僅かに心が揺れる。


「だけど──」

「だからこそ、しっかりと決断をするべきです」


 凛としたシャーロットの声が響く。


「この地下坑道は、元々普通の交易路として使われていました。強い魔力を検出して以降、長年封鎖されていますので、魔物が住み着いて半ばダンジョン化している可能性は否定しませんが……構造自体は複雑ではありませんわ」

「我々も足を踏み入れたことはない。が、古いながらも地図はある。ここを通過するのが、最善だと思うぞ?」

「……」


 俺は無言でミアに視線を落とす。


 ……ここで立ち止まっていても、ミアに残された時間を無駄にするだけ、か。


「よし、地下坑道を通ろう。ミア、悪いけど、念のためにバッテリー消費量の予測だけ頼めるか?」

『……現時点の情報を基に予測します。必要に応じて支援を行った場合、地下坑道ルートでの予想消費量は3〜5%です』

「地下坑道でもそんなに使うのか……とりあえず、地図はミアに頼らない方が良いな」

「そうですわね」


 俺たちは地図に描かれた道を頭に叩き込むと、坑道の入り口に揃って足を踏み入れる。


「地下ってだけあって、さすがに暗いな……何も見えないぞ」

『ライトを点灯しますか?』

「いえ、ミアさまのお手を煩わせる必要はありませんわ」


 シャーロットは魔法で光の球を出現させた。

 周囲がぼんやりと照らされ、俺は辺りを見回す。


 一応、見た感じは地図通りっぽいな。

 これなら、ミアを使う必要もない──


 そう思った瞬間、目の前を黒い影が高速で横切った。


「っ!?」


 即座に剣を抜き、構える。

 アーサーとシャーロットもそれに倣い、俺たちは動き回る影を目で追った。

 やがて、それは天井近くで動きを止める。


「……コウモリ?」


 視線の先で逆さまにぶら下がる小さなコウモリを見て、肩の力が抜けた。


 何だ……ただのコウモリなら、触らないようにさえすれば──


「ユウマ、魔物でないからと気を抜くな! そいつは『吸血種』だぞ!」

「なっ!?」


 俺が慌てて剣を構え直すと同時に、コウモリは俺に向かって一直線に飛ぶ。

 あんぐりと大きく開けられた口には、コウモリらしからぬ長い鋭い歯が所狭しと並んでいた。


 こんなのに噛まれたらっ──


 俺は必死に剣を振る。

 何かが地面に落ちる音が聞こえ、手を止めた。

 足元には、真っ二つになったコウモリの死骸が転がっている。


「た、助かった……」

「いや、安心するのはまだ早いぞ」

「えっ?」


 アーサーの不穏な言葉に、俺の顔がひきつる。


「吸血種は、群れをなす生き物だ。つまり、すぐ近くにそいつの仲間もいるはず……」


 アーサーが周囲を警戒する一方、シャーロットは地面にしゃがみ込んだ。


「シャーロット?」

「いえ、この坑道で採れる魔石があれば、魔法を併用してコウモリ避けを作れるのですが……」


 地面を灯りで照らしながら目を凝らしていたシャーロット。

 しばらくすると、ため息を漏らしながら立ち上がる。


「……遭遇したら、倒すしかないってことか」


 そうぼやいた俺は、ふと遠くの天井に目を向けた。


 ……ん? あそこに、赤い光が大量に並んでるような──


 それが何なのか理解した瞬間、声が出た。


「アーサー、シャーロット! あそこの天井っ!!」

「か、数が多すぎますわ!」

「ここで相手をするには狭すぎる! 中心部まで走るぞ!」


 走り出すアーサーに、俺とシャーロットも続く。

 一斉に天井を飛び立った吸血コウモリどもは、一直線に俺たちを追ってくる。


「群れって、さすがに多すぎだろ!?」

「継続的にエサとなる生物がいなければ、ここまで繁殖することはないはずなのですが……」


 ……ってことは、まさか──


「エサになるヤツらが、大量にいるってことか?」

「いえ、それならコウモリがここまで増える前に、エサ側が全滅しているはずですわ」

「じゃあ、何で──」

「おそらく、定期的に吸血されても影響の出にくい、大型の何かが住み着いているのだろう」

「それ、大型の魔物の群れだったりしないよな……?」


 アーサーとシャーロットは揃って黙り込む。


 可能性アリってことかよ!

 ついこの間、ガルヴァロスを相手にしたばっかりなのにぃぃ!!


 俺たちは広場のような場所に出ると、揃って後ろを振り返った。


「ユウマさま、まずは焼き払いますわよ!」

「わかった!」


 俺とシャーロットは、同時に高火力の炎魔法を放つ。

 甲高い鳴き声が響き渡ると共に、焼けたコウモリの死骸が次々と地面に落ちた。

 それをすり抜けた何匹かのコウモリが、大きな口を開けてシャーロットへと襲いかかる。


「させぬぞ!」


 素早く間に割って入ったアーサーに、コウモリどもは斬り伏せられた。

 シャーロットはアーサーに背中を預けたまま、群れへと魔法を放ち続ける。

 しばらく攻防が続いていたものの、やがて敵わないと悟ったのか、残ったコウモリたちは通路の方へと逃げていく。


「た、助かった……」


 俺がホッと息をついた瞬間、小さなキューキューという鳴き声が耳に入った。

 声を辿っていくと、そこにいたのは大型犬ほどの生き物。

 艶のある黒い毛に覆われた丸い身体に、毛の隙間から覗く小さな目と、ひくひく動く淡いピンク色の鼻先。

 そして、身体に似合わぬほど大きな前脚──


「モグラ……?」


 俺の後ろから覗き込むアーサーも、驚いたように声を上げる。


「この大きさ、まさか新種の魔物ではないのか?」

「でも、襲ってくる気配は無さそうだよな。シャーロット、どう思う?」

「魔力は感じませんし、見た目は可愛らしいですわね……ミアさまに解析していただくわけにはまいりませんか?」


 ……2人が知らない生物なら、安全のためにも確認するべきだな。


「ミア、こいつの分析を頼む」

『わかりました……魔物データに近縁種の登録はありません。魔力反応なし。外見的特徴はモグラと高い一致を示します。身体的特徴から、巨大化した幼体である可能性が高いです』

「よ、幼体っ!? このサイズで!?」


 俺は驚きつつも、しゃがみ込んで子モグラをよくよく観察する。

 柔らかそうな毛並みの中に何箇所も噛み跡があり、血が滲んでいた。

 さらに、少し離れたところには、一回り二回りほど小さな子モグラの死骸が数体転がっている。

 同じように、コウモリのものと思われる噛み跡が残っていた。


 こいつ、ひょっとして──


 思わず子モグラに手を伸ばすと、モグラは俺の手を警戒するように僅かに後退りする。


「怖がるなって。とりあえず、その怪我治さなきゃだろ?」


 シャーロットから習った治癒魔法を唱えると、子モグラは柔らかい光に包まれる。

 幸い傷はすぐに塞がり、俺たちは揃ってホッと胸を撫で下ろした。


「もう大丈夫だからな」


 俺は軽く子モグラを撫で、ふと違和感を覚える。


 やけに、骨ばった身体つきだな……


「なあ、ミア。モグラってこう……骨格が目立つものなのか?」

『一般的に、モグラはずんぐりとした円筒形の引き締まった体型をしています。骨が目立つ場合、痩せ傾向である可能性が疑われます』

「おかしいですわね。この地下環境であれば、モグラがエサに困ることはまずなさそうですが──」

「姫様! ユウマ!」


 辺りを警戒していたアーサーの声が聞こえ、俺たちは立ち上がる。

 手招きする彼のそばに駆け寄ると、そこには馬くらいの大きさの痩せこけたモグラが倒れていた。


「うわっ、デカいな……これ、あいつの親か?」

「そうかもしれませんわね。でも、もう……」


 目を伏せるシャーロットの足元で、子モグラは親モグラの死骸に向かってキューキューと何かを訴えかけるように鳴き続けている。


「……親にはコウモリの咬み傷は見られぬ。痩せ方から見て、おそらく餓死したのであろうな」

「餓死……」


 俺は、動かない親モグラに必死で鳴き続ける子モグラを見つめた。

 その姿に、ふいにミアのことが頭をよぎる。


 万が一、ミアのバッテリーがなくなるようなことがあれば……俺も、あんな風に──


 その瞬間、背後から何かが弾けるような大きな音が響く。


「な、何の音だ!?」


 振り返った俺たちの目に飛び込んできたのは、破壊された石造りの床と、舞い上がる砂煙──そして、何メートルあるのかわからないほど巨大なムカデの群れだった。


「何だよ、あれ……」

「っ!? かなり強い魔力反応がありますわ!」


 俺たちは一斉に構える。

 俺の視界の端で、子モグラが怯えるように縮こまっていた。


「おい! 危ないから、お前は隠れてろ!」

「キュー……」


 クソッ、通じないか……!


 俺は何とか子モグラを抱き抱えると、大きめの岩陰にそいつを隠す。


「いいか、ここから絶対に出るなよ? わかったな?」

「キュー、キュー!」

「絶対だぞ!」


 無駄だと思いつつも子モグラにそう言い聞かせ、俺はシャーロットたちに合流する。


「ユウマさま、あの子は?」

「とりあえず隠してはきたけど、大人しくしてる保証はないな」

「とにかく、我々はあのムカデを何とかするぞ!」


 俺たちは、一斉に巨大ムカデたちに攻撃を仕掛けた。

 が、硬い装甲に傷一つつけることなく、剣も魔法も弾かれる。


「硬っ!? ガルヴァロス以上じゃないか!?」


 そう叫ぶと同時に、俺は剣の刃が僅かに欠けていることに気付く。


「アーサー!」


 俺はアーサーと自分の剣に強化魔法をかけ、再度態勢を整えた。


 ムカデって、全身こんなに硬いのか? ムカデの生態なんて、知ってるわけないだろ……!

 クソッ、こうなったら──


「ミアっ! 一般的なムカデの体はどうなってる!?」

『……ムカデは背中側は硬い甲羅に覆われていますが、お腹側は非常に柔らかいです』

「ってことは、狙うは腹か……」


 とはいえ、どうやって腹を攻撃すれば良い?

 魔法で吹っ飛ばして、ひっくり返すか?


 俺は構えると、ムカデの足元を狙って魔法を放つ。

 シャーロットも俺に倣うが、ヤツらの俊敏な動きに魔法は地面を削るばかりで、1つも当たらない。


「ユウマさま! これでは、先にわたくしたちの魔力が尽きてしまいますわ!」

「わかってる! でも、何とかしてあいつらの腹を狙わないと──」


 その時、突然ムカデたちの足元が大きく揺れた。

 巨体がゆらりと傾き、その腹部が露わになる。


「は? 一体、何が──」

「ユウマ! ぼんやりしている場合ではないぞ!!」

「っ!」


 アーサーの声で我に返ると、俺は2人と共に一斉にムカデたちの腹に攻撃を仕掛けた。


「よし、次っ!」


 何体目かわからないムカデの腹に剣を突き立て、そこから更に魔法で致命傷を与えていく。

 ふと、先ほど子モグラを隠した岩陰を見る。


「なっ!?」


 い、いない!?

 あいつ、動くなって言ったのに──いや、今はムカデ退治が先だっ!!


 倒れたムカデを足場に次々と飛び移り、最後の一体を仕留める。

 地面に降り立った頃には、すっかり息が上がっていた。


「や、やっと終わった……」

「お疲れ様でした、ユウマさま」

「この数は、流石に堪えますな……」


 そんな俺たちのそばの地面から、不意に音が聞こえてくる。


 クソッ、まだ生き残りが居たのかっ!?


 俺たちが構えた直後、地面に穴が空き、見覚えのあるピンク色の鼻先がにゅっとそこから現れた。


「……は?」


 ヒクヒクと動く鼻先が一旦穴に引っ込んだかと思うと、先ほどの子モグラがひょっこりと顔を出した。


「キュッ!」


 俺たちは揃って目をぱちくりさせると、顔を見合わせる。


「ユウマ、ひょっとして先ほどムカデたちの足元が崩れたのは……」

「この子が地面を掘ってくださっていた、ということでしょうか?」

「何となく、そんな気がするな」


 俺は苦笑いしながら、子モグラの前にしゃがみ込んだ。


「ったく、隠れてろって言ったのに……でも、助かった。ありがとな」

「キュッ! キューッ!!」


 元気に鳴き声を上げる子モグラ。

 その姿が、何となくドヤ顔しているように見えて、俺は思わず頭をクシャクシャと撫でる。


 ……俺たちの方が、助けたつもりだったんだけどな。


 とその時、子モグラの鼻先がヒクヒクとまた動いたかと思うと、子モグラはくるりと向きを変えた。


 何だ……?


 何事かと思いつつ、子モグラの後を追う俺たち。

 子モグラは1体のムカデの死骸のそばで止まり、カリカリとムカデの腹部を引っ掻き始めた。


「……腹の中に、何かあるのではないか?」

「えっ!? これ、掻っ捌けってことか?」

「私も手を貸す。ユウマ、そちら側を頼むぞ」

「わかったよ……」


 俺は渋々アーサーと共にムカデの腹に刃を入れる。

 ドロッとした粘液と共に、大きな岩のようなものが鈍い音を立てて地面に転がり落ちた。


「これ、何だ?」


 首を傾げる俺の隣で、シャーロットはハッと目を見開く。


「この強い魔力──間違いなく、魔石ですわ!」

「……こいつ、この魔石に気付いてたのか?」

「強い魔力に反応していた可能性はありますわね。これほどまでの大きさは、わたくしも初めて見ますが……」


 アーサーは十数体が折り重なったムカデの死骸の山を見上げる。


「姫様。魔石の影響で、ムカデが巨大化した可能性はないでしょうか?」

「むしろ、それしか思い当たりませんわね……坑道閉鎖の原因も、これだったのかもしれません。コウモリ避けも必要ですし、この魔石は砕いてしまいましょう」


 俺とアーサーが巨大な魔石を砕き、シャーロットがその破片を加工する。

 小一時間ほどして、彼女は俺たちにブレスレットを差し出した。


「さ、これはユウマさまとアーサーの分ですわ」

「ありがとな、シャーロット」

「ありがとうございます」


 俺たちが揃って腕にコウモリ避けを着けていると、シャーロットはかがみ込んでミアに声をかける。


「ミアさまの分も、念のためにご用意しましたの。コウモリに噛まれて、傷がついても困りますでしょう?」

『はい。ありがとうございます、シャーロットさん』


 シャーロットは嬉しそうな顔で、ミアのケースにストラップのようにしてコウモリ避けを付ける。


「ミア、なかなか似合ってるぞ?」

『お褒めに預かり光栄です、勇真さん』


 俺は女性のファッションには詳しくないし……やっぱり、ミアには女友達が必要だったんだな。


 そう微笑ましく思う俺のそばで、シャーロットは子モグラにもコウモリ避けを見せていた。


「あなたも、ここで暮らすなら必要でしょう? わたくしたちを助けてくださったお礼ですわ」

「キュー??」


 不思議そうに小首を傾げる子モグラ。

 その両前脚に、シャーロットは幅の広いバンドのような形のコウモリ避けを装着した。


「さ、これでもう大丈夫ですわね」

「キュ……」


 子モグラは不服そうに前脚をブンブンと振り始める。


「振り回すな。取れてしまえば、効果はないのだぞ?」

「そうそう。お前もまた痛いのは嫌だろ?」

「それに、わたくしたちとお揃いですのよ?」


 シャーロットは子モグラの前にブレスレットを着けた腕を差し出す。

 俺とアーサーも一瞬顔を見合わせてからそれに倣った。

 子モグラは、俺たちのブレスレットとミアのストラップ、そして自分のバンドを見比べる。


「キュッ! キュキュー!!」

「うふふ、お揃いが気に入りましたか?」

「よしよし、ならもう外そうとするなよ〜」


 俺がそう声をかけた瞬間、子モグラは急に目の色を変えて辺りの地面の匂いを嗅ぎ始めた。

 そこを掘り始め、何かに噛みつくとそのまま地面から引っ張り出す。


「ム、ムカデっ!?」


 それは、先ほどと比べ物にはならないものの、子モグラよりも少し長い程度の大きなムカデだった。

 子モグラはバリバリと音を立ててそれを食べ始める。


「随分と、豪快に食うのだな……」

「お、お腹が空いていましたのね。仕方ありませんわ」

「いや、音と絵面が結構怖いんだけど……」


 なるほどな、ムカデが巨大化したせいでエサにありつけなかったのか。

 そこにあのコウモリ……俺たちがもっと早くここに来ていれば、こいつの親も、きょうだいも──


 俺は頭を横に振った。


 いやいやいや、俺が優先すべきなのはミアだろ?

 今回は、ミアをほとんど使わずに済んだ。

 だから……これで良かったはずなんだ。


「……なあ、そろそろ出発しないか?」

「それもそうだな。先に何があるかわからぬ以上、時間を無駄にするわけにもいくまい」


 俺たちが奥に向かって歩き出すと、すぐ後ろからキューキューと鳴き声が聞こえる。

 振り返ると、子モグラが後をついてきていた。


「おいおい、お前を連れては行けないぞ?」

「キュー……」

「ユウマさま、随分とその子に懐かれたのですね」

「そうみたいだけど……」


 俺は、子モグラの前に膝をつく。


「ここにはエサもあるし、コウモリ避けもあるからもう安全だろ?」

「キューッ! キュー!!」

「俺たちは、先を急がなきゃいけないんだ」


 子モグラはしばらく俺の顔を見上げていたが、やがて小さく鼻を鳴らした。


「……元気で暮らせよ」


 俺は立ち上がって、アーサーたちと再び坑道の奥へと歩き出す。

 一度だけ振り返ると、子モグラがこちらをじっと見てから地面に潜っていくのが見えた。


「……あいつにも、仲間が見つかると良いな」

「本当に、そうですわね……」

「ムカデ問題も解決したゆえ、他のモグラたちがエサ場を求めてくる可能性も十分にあるでしょうな」


 しばらく歩いたところで、背後から微かに土を掘るような音が聞こえた。


「……ん?」


 振り返ってみたものの、向こうには暗い坑道がずっと続いているだけ。


 ……気のせいか。


 歩きながら、俺はチラリとミアのバッテリーを確認する。


 残量は76%──

 この調子なら、間に合うかもしれない。


 そう自分に言い聞かせ、俺は足早に坑道の奥へと進んだ。

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