第10話後編 越えるべき壁②
恐る恐る魔王城に足を踏み入れた俺たち。辺りを注意深く見回しながら、1歩ずつ奥へと進んでいく。
……てっきり、中でグランヴェールが待ち構えてるのかと思ってたんだけどな。
魔物たちの本拠地であるはずなのに、城内は妙に手薄。
俺だけでなく、シャーロットとアーサーまでもがつい小首を傾げる。
「本当に、魔王はここにいるのだろうか……」
「そのはずですわ。奥の方に強い魔力反応が——」
そこまで言ったシャーロットは、ふと言葉を切って足元に目を落とした。
「姫様?」
「……妙ですわね。下からも、魔力反応がありますわ」
「えっ!?」
思わず俺は声を上げる。
「魔王が2人いる、なんてことはさすがにないよな?」
「それはないと思いますけど——」
その時、複数の足音と、金属がぶつかり合うような音が近付いてきた。
俺たちは素早く戦闘態勢を取り、音の方向をじっと見据える。
そこから現れた数体の魔物は、俺たちの姿に気付くやいなや、驚いたように声を上げた。
「なっ!? 何故、こんなところに人間が!?」
「まさか、あのグランヴェールが破られたのか!?」
そんな魔物たちの様子に、俺たちは顔を見合わせる。
「ひょっとして、あの門にかけられてた魔法がグランヴェールだったってことか……?」
「そうかもしれぬな。だが、今はっ!!」
素早く魔物に斬りかかるアーサーに、俺とシャーロットも続く。
暗い城内を魔法の閃光が照らし、剣や槍が弾き合う音が響き渡る。
言葉を話してる時点で薄々予想はしてたけど——こいつら、強いっ!!
相手から放たれた魔法を障壁で防ぐも、その勢いに後ろに押し返され、膝をつく。素早く体勢を整えると同時に、腰元からミアの声が響いた。
『勇真さん、右斜め後ろです!』
「っ!?」
振り返るより早く身体を捻ると、その瞬間今まで居た場所に鋭い槍の先が現れる。その槍を剣で弾き返すと、魔物に向けて氷魔法を叩き込んだ。
倒れ込む魔物を、俺は肩で息をしながら見下ろす。
「あ、危なかった……ミア、ありがとな」
『ご無事で何よりです』
そう告げるミアのバッテリー表示は、いつの間にか赤色に変わっていた。
残量は、既に20%——あれから、何がどれだけ失われた?
こんなところで、足止めを喰らっている場合じゃない。
俺は剣を握りしめると、そのまま残りの魔物を倒しにかかる。
シャーロットとアーサーとも連携して、ようやく最後の1体を切り伏せた。
「さすがに、強いな……」
「同感だ。魔王との戦いで、万が一後ろに回り込まれると致命的だな。進路上で遭遇した魔物は、確実に倒しておくべきであろう」
「どちらにせよ、城内の構造がわからなければ進めませんわ。地図か何かがあれば良いのですが……」
シャーロットはそう言いながら、魔物たちが残した荷物を漁る。俺とアーサーもそれに倣うが、特に役に立ちそうなものは出てこなかった。
「ひとまず、魔物たちが出てきた方に進んでみよう」
俺たちは右手にあった通路を揃って進んでいく。
周囲を警戒しながらしばらく歩いていると、途中にドアの開けっぱなしになった小部屋が目に入った。
そっと中を覗くも、誰もいない。俺たちは室内に足を踏み入れると、辺りを見回す。
「詰め所、のようなものでしょうか……」
「おそらくは。先ほどの魔物どもは、ここに待機していたのでしょうな」
シャーロットたちの会話に耳を傾けつつ、俺は紙切れが何枚も広げられたテーブルに目を落とした。その中に魔王城内の簡易的な地図を見つけ、手に取る。
それに気付いたアーサーも、俺の隣からそれを覗き込んだ。
「これがあれば、問題なく進めるのではないか?」
「ああ。でも、地下階は載ってないな……」
「そうなのですか?」
テーブルの上の紙切れに目を向けていたシャーロットは、驚いたように顔を上げる。
「妙ですわね……確かに、魔力の反応はありますのに」
「地図を見る限り、魔王のいるであろう玉座の間は、魔王城最奥ですな」
「それなら、地下の魔力は何なんだ?」
俺たちはそれぞれ首を傾げるも、思い当たる節はない。
俺がふとテーブルの上に視線を戻すと、シャーロットは紙切れの1枚に手を添えた。
「これは、魔王軍側の秘宝捜索隊への命令書や報告書のようですわね」
「こちらは、城内の警備と巡回の配置表といったところか……」
俺はそれらにじっと目を凝らす。
……なるほど。資料を読む限り、魔王軍の主力は秘宝の捜索や、各国の捜索隊を妨害するために城を離れているらしいな。
そして、肝心の秘宝は魔王軍もまだ見つけてはいない……ありがたいのは確かだけど、でも秘宝が見つからないってことは——
腰元のミアに目を向けて、思わず眉を寄せる。
そんな俺の様子に気付いたらしいシャーロットは、ハッと顔を上げた。
「秘宝が見つかっていない今こそ好機ですわ。急いで、玉座の間へ向かいましょう」
俺は力強く頷くと、シャーロットたちと詰め所を出て、地図を見ながら最奥を目指す。
廊下の角からそっと顔を覗かせては、辺りの様子を確認してから素早く次の通路に移動する。
シャーロットやアーサーと連携し、消耗しながらも、何とかミアの力を借りることなく遭遇する魔物たちを倒していく。
玉座の間に近付くにつれて、徐々に魔物の姿が減っていき、辺りに漂う空気がどことなく禍々しく感じる。
「えーっと、次の角を右だな。正面に、玉座の間への扉が見えるはずだ」
地図を確認しながら、俺は右に曲がろうとした。その時——
「えっ?」
思わず地図と自分の正面を見比べる。
玉座の間に続く扉のあるはずの通路が、ない。
シャーロットとアーサーも、俺の両隣から地図を覗き込む。
「位置は合っていますわね。ひょっとして、古い地図だったのでしょうか……」
「さすがに、魔物どもも詰め所に使えぬ地図を放置することはないかと思いますが……」
「とりあえず、他に道がないか見てみよう」
俺たちは周辺の通路を確認していく。が、全て地図の記載通りで、抜け道のようなものは見当たらなかった。
「となると、壁に何か仕掛けがあるのか?」
「調べてみましょう」
俺はシャーロットたちと共に壁の前に立つと、そっとそこに手を触れる。
その瞬間、突如壁に赤い紋様が現れ、点滅し始めた。
「何だ!?」
俺たちは慌ててその場から飛び退く。
「罠だったのですか!?」
「わかりませぬが……ユウマ、警戒を怠るな!」
俺は素早く剣を構えると、辺りに目を向ける。
左右から足音が聞こえたかと思うと、両脇から魔物数体が現れた。
クソッ、あれは侵入者を知らせるアラームだったのか……!
俺は迷いなく襲いかかってくる魔物の攻撃をかわし、剣を振るう。
1体1体を確実に潰していき、残り3体ほどとなったタイミングで、魔物たちは不意に攻撃を止めた。
何事かと構える俺たち。
そんな俺たちをよそに、魔物たちは互いに顔を見合わせると、紋様の浮かぶ壁に向かって一斉に飛んだ。
「なっ!?」
壁にぶつかるかと思われた魔物たちは、それをすり抜けるかのように壁の向こうに姿を消す。直後、壁から複数の魔法が飛んできた。
「っ! ユウマさまっ!!」
素早く反応したシャーロットが障壁を張る。
俺は反撃すべく、相手の魔法の合間を縫って、素早く壁に向かって魔法を放つ。が、それは石壁に触れた瞬間離散した。
「効かないっ!?」
相手の魔法は壁面を僅かに揺らがせながらすり抜け、こちらの魔法は全て無効化される。
どうなってるんだ!? 何とかして反撃を——
「ユウマ! 一旦退くぞ、このままでは障壁がもたぬ!」
「わ、わかった!」
俺たちは横の通路に素早く移動し、身を隠す。
そっと壁の方を覗き込むが、魔物たちが追ってくる気配はない。
「ユウマ、どうする? このままでは、一方的に我々が攻撃されるだけだぞ」
……魔物たちは壁をすり抜け、向こうから放たれた魔法もこちら側へ通過する。
一方の俺たちは、身体どころか魔法すら通せない、か。
そこまで考えた俺は、ふと先ほど魔法が壁をすり抜けた際のことを思い出す。
「そういえば、あの時……壁が揺らいでるように見えたんだよな」
「壁が揺らぐ、だと?」
「ああ。だけど、妙じゃないか? すり抜けてるだけなら、壁が揺らぐこともないだろ?」
「ということは……魔物や魔法を通すために、壁面自体が変質しているのか?」
「俺は、そう思ったんだけどな……」
俺とアーサーの会話に静かに耳を傾けていたシャーロットは、ハッと表情を変えた。
「ひょっとして、魔物たちの魔力に反応して、その瞬間だけ壁が消えているのではありませんか?」
「えっ?」
「透過魔法と防壁魔法を掛け合わせたものかもしれません。特定の魔力反応を持つものだけを受け入れ、それ以外は弾くという術式が施されている可能性がありますわ」
「なるほど……」
魔力に反応して壁が消えるということは、その魔力が壁を通過している間、その部分の壁は開いたまま——これは、使えるかもしれない。
俺は、手近に落ちていた少し大きめの石をいくつか拾い上げた。
「ユウマ、何をするつもりだ?」
「ちょっとした実験だ」
壁の前に何も落ちていないことを確認した俺は、向かいの通路の位置を確認する。
俺が壁の正面を横切るように、反対側の通路へ向かって駆け出すと、間髪入れずに壁から魔物たちの魔法が飛び始めた。
俺はそれを障壁で防ぎながら、壁に向かって石を投げる。そのうちの1つが、攻撃魔法の飛び出た瞬間の壁面に触れ、僅かに壁にめり込むのが視界の端に入った。
「っ!!」
俺はそのまま反対側の通路の影に飛び込む。
素早く体勢を整えて壁に目を向けると、めり込んだはずの石が弾かれて床に落ちるのが見える。
今度はシャーロットたちの方へと向かいながら、飛んでくる魔法を障壁で防ぎつつ壁面にじっと目を向けた。
小さな魔法では拳ほど、大きな魔法では人の頭ほどの範囲で壁面が揺らいでいる。
……これなら、いける!
俺は通路に転がり込むと、素早くシャーロットたちのもとに駆け寄った。
「ユウマさま、何かわかったのですか?」
「ああ。向こうの魔法がすり抜けている最中は、他の物体も壁を通れる可能性が高い」
「だが、どうやって通り抜けるつもりだ?」
「シャーロットの障壁魔法で防ぎながら、突っ切るしかないだろうな」
俺がそう言い切ると、アーサーは軽く眉を寄せた。
「仮にそれしか方法がないとして……壁が消えている間に通り抜けられなければ、どうなるのだ?」
「運が良ければ、壁に弾かれるくらいで済む。運が悪ければ——壁に押しつぶされるか、向こうの魔法の餌食になるかだろうな」
俺の発言に、シャーロットとアーサーは一瞬黙り込む。
その時、腰元からミアの声が聞こえてきた。
『……勇真さん、壁面の透過タイミングを計測しますか?』
俺は、思わずミアの赤いバッテリー表示に目を落とす。
……まだ、魔王との戦いも控えてる。万が一のことを考えれば、ミアの分析は使いたくない。
だけど、この壁が越えられなければ——
「……頼む。俺たち全員が通れるだけの透過範囲が確保された瞬間を教えてくれ」
『わかりました。分析を開始します』
クルクルと、読み込み画面がミアに表示された。
……突破に時間がかかればかかるほど、ミアのバッテリーは減る。
モタモタしてられる時間は、1秒もない。
俺が素早く立ち上がると、シャーロットとアーサーもそれに倣う。
「通り抜けるには、広範囲の魔法を使わせる必要がありますわね……」
「それなら、チマチマした魔法じゃ俺たちを倒せないって判断させれば良いだろ?」
「ふむ……それもそうか。だが、突破まで障壁はもつのだろうな?」
「俺も補助するに決まってるだろ?」
「……わかった。抜けた先では、私が先陣を切ろう。姫様を頼むぞ、ユウマ」
俺たちは揃って通路から飛び出し、壁と対峙する。
壁から再び大量の魔法のつぶてが降り注ぎ始めた瞬間、シャーロットが前方に障壁を展開した。
「シャーロット! 俺も——」
「この程度でしたら、まだ大丈夫ですわ! ユウマさまは、魔力の温存を!」
甲高い音を立てながら、シャーロットの障壁は魔物たちの魔法を弾き続ける。
それでもその衝撃に、少しずつ後ろに押されるシャーロット。
早いとこ、向こうに撃たせるしか……!
俺はシャーロットの後ろから僅かに顔を出すと、壁に向かって大声で叫ぶ。
「勇者様ご一行に、そんなチンケな魔法が効くわけないだろ! 魔王城の魔物連中も、大したことないんだな!!」
……って、ちょっと露骨すぎたか?
一瞬そう後悔しかけるも、次の瞬間ピタリと魔法の嵐が止んだ。
辺りの魔力が大きくゆらりと揺れたかと思うと、壁の向こうから低い音が小さく響く。
この異様な雰囲気、まさかっ……!!
俺は即座に前方に手をかざし、シャーロットの障壁に自分の障壁を重ねる。それとほぼ同時に壁から広範囲の攻撃魔法が放たれた。
『勇真さん、今です!』
「わかった!! 2人とも、行くぞ!」
ミアの合図に、俺たちは一斉に地面を蹴った。
シャーロットが障壁を維持し、俺は風魔法で全員の身体を一気に加速させる。
透過した壁面が元に戻る寸前、俺たちは揃って向こう側へ飛び込み、アーサーは即座に3体の魔物に立て続けに斬りかかった。俺とシャーロットも素早く体勢を立て直し、アーサーに加勢する。
床に崩れ落ちる3体の魔物を見下ろしながら、壁の方を一瞥した。
「……上手くいきましたわね」
「ああ、何とかな」
俺はホッと息をつきながら、ふとミアに視線を落とす。
バッテリー残量は、19%……まだ、間に合うはず。そう信じるしかない。
「ユウマ」
アーサーの声に顔を上げると、目の前にそびえ立つ大きな扉が目に入る。
俺はシャーロットとアーサーと順に顔を見合わせると、そっと扉に手をかけた。グッと力を入れて扉を押すと、それは鈍い音を立ててゆっくりと開く。
広い部屋の奥に、俺たちは揃って足を踏み入れた。
「……貴様が勇者か」
正面の玉座には、禍々しい魔力を纏った魔物が、怪しげな笑みを浮かべながら腰掛けている。
こいつが、魔王——
俺は拳を握りしめ、まっすぐに魔王を見据えた。
本作では、AIヒロイン「ミア」の口調や思考を一貫してAIらしく保つため、対話型AIを壁打ち、文体確認、台詞の検討に利用しました。
AIが提示した短い台詞・表現の一部を本文に使用していますが、物語の設定・構成および本文全体の執筆・編集は、作者自身が主体となって行っています。




