第10話前編 越えるべき壁①
魔王城に向かって、崩れかけた石橋を慎重に渡っていく俺たち。
「何かこう……裏からこっそり入り込む、みたいなことってできないのか?」
「そうしたいのは山々だが……魔王城には、何故か正門しか入り口が設けられていないのだ」
「上階の窓から、という手もありますが……ほぼ確実に、何かしらの罠が仕掛けられていると思いますわ」
2人の説明に、俺はつい肩を落とす。
「正面突破が一番確実ってわけか……」
「そうとも限らぬ。魔王城には、不落将グランヴェールと呼ばれる門番が待ち構えているそうだからな」
……不落将、か。嫌な通り名だな。
「今まで、各国の兵士たちが突破を試みたそうですが、ことごとく返り討ちにあったそうです」
「ただ、生き残った数少ない者の証言では、『漆黒の騎士だった』『恐ろしい大魔導師だった』などと皆言うことがバラバラでな……」
「それ、門番はグランヴェール1体じゃないってことか……?」
「おそらくは、そうであろうな」
騎士に大魔導師——魔王城に入る前に、また総力戦になりそうだな。
俺は腰元のミアに目を向ける。
……ミアに負担をかけるわけにはいかない。これ以上、ミアの記憶が消えることになったら、俺は——
「ユウマさま、見えてきましたわ」
シャーロットの声に思考をかき消され、俺はハッと顔を上げた。正面には、頑丈そうな巨大な鉄製の城門がそびえ立っているのが見える。
俺は一瞬身構えるも、門番やその配下の姿が見えず、小首を傾げた。
「誰も、いない?」
「妙だな……魔物1体すらも見当たらぬぞ」
「身を隠しているのではありませんか?」
俺たちは、周囲を警戒しながら1歩ずつ門に近付いていく。が、予想に反して魔物が飛び出してくることもなく、あっさりと門前にたどり着いた。
……中の守りを厚くしてるってことなのか?
俺は門を開けようと手を伸ばす。
その瞬間、辺りの魔力が渦を巻き始めた。
「っ!? な、何だ!?」
「わからぬが……気を付けろ、ユウマ!」
「ユウマさま、アーサー! あれを!」
俺は、即座にシャーロットの指差す先に目を向ける。
渦巻く膨大な魔力が、俺たちの周囲を一度取り囲んだ後、門に向かって一直線に流れていく。魔力が門に吸収されたかと思うと、門前に3つのどす黒い魔力の塊が現れた。
俺は瞬時に剣を構えると同時に、息を呑む。
「っ!?」
魔力の塊が——俺とシャーロット、そしてアーサーと全く同じ姿へと形を変えた。
証言がバラバラだったって……こういうことかよっ!
俺のコピー体は剣を抜くと、俺と全く同じように構える。影のような色をしたコピー体には表情はなく、無言でそれぞれのオリジナルに視線を向けていた。
「……門番は自分自身ってわけか。見た目で判別できるのは、不幸中の幸いかもな」
「そこには同意するが……どこまで我々を模倣しているのか読めぬ以上は、気を抜くな」
「それなら、試してみるまでですわ!」
シャーロットが高火力の魔法をコピー体に向けて勢いよく放つ。
コピー体もほぼ同時に同じ魔法を放ち、魔法は轟音を立てて相殺される。
俺とアーサーは、魔法がぶつかり合った際の閃光に紛れ、素早くコピー体に切り掛かった。
が、剣はそれぞれのコピー体に易々と受け止められる。
「くっ!」
俺は素早く後退して、体勢を立て直す。
あいつら……俺たちの姿だけじゃなくて、動きも戦い方も、何もかもコピーしてるのか!?
その時、自分のコピー体の腰元にミアとそっくりな端末が下げられているのが目に入った。
「……ミアのコピーまで作れるのかよっ!」
思わず奥歯を噛み締めた直後、ミアの声が聞こえてくる。
『……勇真さんの複製個体に、私と同形状の物体を確認しました。ただし、私と同様の動作反応は確認できません』
「は?」
思わず声を上げて、ミアを凝視する俺。
「ミアは、見た目だけコピーされてるってことか?」
『先ほどの魔力の渦は、勇真さんたちの身体情報と魔力反応を走査していた可能性があります』
「身体情報と、魔力反応……」
『はい。私は生体ではなく、固有の魔力構造も持たないため、勇真さんの装備品として外形のみ再現されたと推定されます』
「なるほどな……」
少し考えを整理しようとするも、コピー体は間髪入れずに攻撃を仕掛けてくる。
「クソッ、考える時間も与える気はないってのか!?」
何とか応戦を続けるも、俺たちとコピー体との実力は完全に互角。
次第に息が上がり、魔力も徐々に削られていく。
俺は、自分のコピー体を睨みつけた。門から魔力が供給され続けているのか、コピー体に疲れた様子は微塵も見られない。
シャーロットもアーサーも、それぞれのコピー体相手に苦戦していた。
……マズイ。このままじゃ、間違いなく先に俺たちが倒れる。
その時、俺はふとあることに気付いた。
「なあ、ミア。あいつら、さっきから、それぞれのオリジナルしか狙ってないんじゃないか?」
『……分析を開始しますか?』
ミアの言葉に、俺は思わず言い淀む。
「……いや、今はいい。まずは、俺たちで検証すべきだ」
俺はそう告げると同時に、アーサーのコピー体に向かって地面を蹴った。
予想通り、俺のコピーは俺を追いかけてくる……それなら、アーサーのコピーはどう反応する?
俺は勢いに任せてアーサーのコピー体に切り掛かった。やつは瞬時に俺の方に顔を向けると、俺の攻撃を弾き、そのままアーサーの方に再度向き直る。
俺は体勢を整え、素早くアーサーのそばに駆け寄った。
「アーサー、手を貸してくれ。試したいことがある」
「構わぬが……何をすれば良い?」
「アーサーは、俺のコピーを狙ってくれ。俺はアーサーのコピーを引き離してみる」
「あい分かったっ……!」
アーサーは素早く俺のコピー体に剣を振りかぶる。俺のコピー体はそれを難なく受け止めると、剣を弾いて俺に視線を向けた。
アーサーは間髪入れずに俺とコピーの間に割って入り、俺のコピー体に攻撃を仕掛け続ける。
2人が膠着している隙に、俺はアーサーのコピー体に魔法で衝撃波を喰らわせた。
数メートル吹っ飛んだヤツは、素早く立ち上がると俺の姿には目もくれず、アーサーをじっと見据える。
こいつら……やっぱりそうだ。
攻撃されれば最低限の防御・反撃はするけど、追撃には消極的。基本的には、自分のコピー元の阻止を優先する仕様か……!
「アーサーっ!」
俺の声に、アーサーは素早く俺のそばに駆け寄ってきた。
「ユウマ、何かわかったのか?」
「ああ。実は……」
俺は気付いたことを手短にアーサーに伝える。
「なるほど、そういう行動原理か……であれば、連携して1体ずつ潰していくのが良さそうであろうな」
「向こうにはミアがいない。数を減らすなら、俺のコピー体からだ」
「あい分かった。私がメインでユウマの複製体を引き受ける。お前は姫様も含めてサポートを!」
「了解っ!」
俺とアーサーは素早く左右に散った。
俺は、一旦シャーロットのコピー体に向けて魔法で攻撃を放つ。
「ありがとうございます、ユウマさま!」
「シャーロット、悪いけどもうちょっとだけ耐えててくれ!」
シャーロットに本人のコピー体を任せ、俺はアーサーのコピー体に向き直った。
衝撃波を立て続けに放ち、アーサーを追おうとするコピー体を強引に後方へ押し戻していく。アーサーは俺のコピー体の動きを易々と読みつつ、攻撃を仕掛ける。
さすがは俺の師匠。俺の動きは全部わかってるよな。
とはいえ、アーサーは魔法への耐性が……
俺は、チラリとシャーロットに視線を向けた。
ただでさえ、シャーロットも魔法戦で……いや、迷ってる時間はない!
「シャーロット! 少しの間、アーサーのコピー体の足止めを頼む!」
「わかりましたわ!」
シャーロットは、自分のコピー体からの魔法をかわしながら、アーサーのコピー体へ捕縛魔法を放つ。
その隙に、俺はアーサーのもとに駆け寄った。同時に、俺のコピー体の放った高火力の魔法を同じ魔法で相殺する。
「かたじけない、ユウマ!」
「気にすんなって! さっさとカタをつけよう!」
俺は魔法で2本の剣を強化すると、アーサーと共に構えた。
「ゆくぞ!」
「ああ!」
俺とアーサーは、左右から一直線に俺のコピー体に斬りかかる。
コピー体が俺の剣を受け止め、アーサーに魔法を放とうとした瞬間——
「させるかっ!」
俺は左手で捕縛魔法を展開し、魔法を放ちかけたコピー体の手を強く引いた。
「っ! アーサー、今だ!」
「ああ!」
アーサーはそのまま剣を振り下ろし、同時にコピー体は動きを止める。
コピー体を作り出していた魔力が離散すると、俺とアーサーは揃って息をついた。
「よし、次はシャーロットのコピー体だな」
「早く姫様のもとに——」
そこまで言ったアーサーは、目を見開いて門を凝視する。
……何だ?
俺もアーサーに倣う。その瞬間——
「……嘘だろ?」
門の前には、再び魔力の塊が渦巻き——俺のコピー体が生成され始めた。
「クソッ、倒してもすぐに再生成されるのかよっ!」
俺は鉄門をまっすぐに見据える。そこに浮かび上がる複雑な模様に、眉をひそめた。
……ひょっとして、あの門自体にコピー体を作るための術式が施されてるってことなのか?
それなら——
俺は素早く地面を蹴ると、風魔法で加速しながら鉄門に向かってまっすぐに飛ぶ。
剣に魔法を重ね、斬りかかった。
甲高い音が辺りに響くと共に、俺は衝撃波に吹き飛ばされる。
「ユウマさまっ!」
シャーロットが魔法で俺を受け止め、俺は地面に転がり落ちた。
「門にも結界が貼ってあるのか……!」
「そのようですわ。ただ……」
シャーロットは言葉を切ると、再生成しきられた俺のコピー体を僅かに目を細めて見据える。
「シャーロット?」
「……複製体を生成している最中、ほんの僅かですが、門の結界が弱まりましたの」
「っ!? それ、本当か!?」
「おそらく、周囲の魔力を供給源にしているのですわ。複製体の再生成と結界の維持を同時に行えば、その分だけ魔力が分散するのかもしれません」
……おそらく、コピー体の生成を止めるには、門を術式ごと破壊する必要がある。
門を破壊するには、結界を弱めなきゃならない。
1体の再生成だけでも、結界は僅かに弱まった。それなら——
「コピー体を3体同時に倒せば、門を壊せるくらいに結界が弱まるかもしれない」
俺は、腰元のミアに目を落とした。
「……ミア。必要な範囲だけでいい。3体を同時に倒すタイミングと、門の結界が弱まったタイミングを算出して知らせてくれ」
『わかりました。分析を開始します』
ミアに読み込み画面が表示されると同時に、バッテリー表示が24%から23%に切り替わる。
今の1%で、今度は何が——
俺は一瞬動きを止めるも、すぐにシャーロットとアーサーを呼び寄せた。
「自分のコピー体以外を狙うんだ。本人が囮になって、別の1人がその隙を突く形にして、それぞれのコピー体を同時に削っていこう」
「同時に倒すとなると、決定打が必要であろうな。相性を考慮すると……」
「アーサーがユウマさま、ユウマさまがわたくし、わたくしがアーサーのコピー体を受け持つのがよろしいのでは?」
「だな。トドメを刺すタイミングは、俺が出す。それまでは倒し切らないように気をつけてくれ」
シャーロットとアーサーが頷くのを確認し、俺たちは3方向に散る。
コピー体の特性を利用しながら、それぞれに連続で攻撃を仕掛けていく。
……こっちには体力も魔力も限界がある以上、あまり時間はかけられない。
剣を振るい、魔法を放つ。
辺りには粉塵が舞い、視界が塞がりそうになるたびに風魔法でそれを払う。
俺はコピー体の動きに目を配りながら、ミアからの指示がいつ来ても良いように耳をすませた。
その時——
『3体すべての損傷が、同時撃破可能域に到達しました。タイミングを指示します』
「よし。シャーロット! アーサーっ!!」
俺の叫びに、2人はハッと顔を上げると小さく頷いて構える。
俺もシャーロットのコピー体の正面に陣取ると、魔力を練り始めた。
『3、2、1——今です!』
「今だっ!!」
俺たちは同時に技を放つ。辺りに轟音が響き渡り、周囲の岩までもが勢いよく吹き飛んだ。
パラパラと小石が飛び散る中、視界を塞いでいた粉塵がゆらりと開ける。
「っ! やった!」
3体のコピー体は跡形もなく消え去っており、怪しげな魔力の塊が辺りを漂う。
それが再び渦を巻こうとした瞬間、ミアの声が響いた。
『勇真さん、門の結界弱体化を検知しました』
「わかった!!」
俺は瞬時に巨大な門に向かって地面を蹴る。再度風魔法で限界まで加速すると、魔法を乗せた剣を勢いよく振りかぶった。
「いっけぇぇえ!!」
力一杯に剣を振り下ろす。
門の硬さに剣が止まりかけ、思わず奥歯を噛み締めた。
クソッ! でも、ここで退くわけには——
「ユウマっ!」
「ユウマさまっ!!」
ハッと振り返ると、シャーロットとアーサーも門に攻撃を加えている。
俺は深呼吸すると剣を通して炎魔法を展開し、そのまま地面まで一気に切り裂いた。
同時に門が強い光を放ち始め、俺たちは急いで距離を取る。
「やったのか……?」
「まだわからぬ! 気を抜くなよ、ユウマ!」
しばらくして門の発光が収まったかと思うと、鈍い音を立てて一筋の亀裂が入った。
ゆっくりと門は内側に向けて傾き、轟音と共に地面に倒れる。
「や、やりましたわっ!」
「良かったぁ……」
思わず肩の力が抜ける。
ふと前方に視線を向けると、倒れた門の向こうに暗い魔王城の内部がぽっかりと口を開けていた。
「……」
俺はキュッと口を結ぶと、姿勢を正しつつ無言でシャーロットたちを振り返る。
小さく頷いた彼女たちと共に、俺たちは揃って魔王城に足を踏み入れた。
本作では、AIヒロイン「ミア」の口調や思考を一貫してAIらしく保つため、対話型AIを壁打ち、文体確認、台詞の検討に利用しました。
AIが提示した短い台詞・表現の一部を本文に使用していますが、物語の設定・構成および本文全体の執筆・編集は、作者自身が主体となって行っています。




