表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したのに動かない!? ~石になった俺、気づいたら守り神やってます~  作者: シラフ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/20

第10話「石喰い、現る」


 石を食う魔物がいるらしい、ということを、俺は今日、初めて知った。


 しかもそれは、ちょうど俺のポケットに飛びかかってきた、目の前のやつだった。


(おい。俺、今、食われかけてないか?)ポケットの中で、そう念じた。


   ◆


 ——話は、少し戻る。


 ネアが雑貨屋の裏手で、いつもの仕分けをしていた昼前のこと。


 指の動きは淡々としていた。鼻歌もない。ため息もない。集中している時のネアだった。


 そこに、気配が来た。


『ネア』


「……ん」


『何か、近づいてない?』


 ネアの手が、一瞬止まった。


「……」


 答えない。


 でも、答えなかったということが、答えだった。ネアも気づいている。気づいていて、言わないだけだ。


   ◆


 カタ。


 乾いた音がした。硬い何かと、硬い何かが当たる音。斜め前あたり、ネアの足元。


 ネアの呼吸が、一瞬止まった。何かに気づいた時の、あの止まり方だった。


 仕分けの手を止める。持っていた物を台の上に置く音。


「……」


 何も言わない。でも、動きが「構え」の動きになった。肩が少し下がって、重心が前に移る。半年ポケットで揺られてきた俺には、そのくらい分かる。


 カタ、カタ。


 音が、近づいてくる。


 這っているのではなかった。跳ねている。小刻みに、地面の硬い部分を叩きながら移動している。足はあるのか、ないのか。あるとしても、とても小さいらしい。


 大きさは、たぶん、手のひらより少し大きいくらい。重さは、地面を叩く音の鈍さからして、そこそこある。表面は硬い——鱗のような、骨のような、何か。そういう硬さの音だった。


(何だ、こいつ)


 ネアが片足をわずかに引いた。


「……しっし」


 犬猫を追い払うような、でも、棒読みの「しっし」だった。気合いが入っていない。淡々と、手順として声を出した感じ。


 カタ。


 音が止まった。


 でも、気配は消えていない。じっと、そこにいる。


(居座ってるな、こいつ)


   ◆


 次の瞬間、空気が鋭く動いた。


 小さい。速い。跳ね上がる勢いが、地面の振動から伝わってくる。そして——ネアの腰の、俺の入っているポケットに向かって、真っ直ぐに飛びかかってきた。


(は?)


(——俺?)


 ここまでの半年で、俺が誰かに「襲われた」のは、これが初めてだった。踏まれたことは何度もあるが、狙って襲われたのは、初めて。


 ネアが腰をひねった。片手で軽く払ったらしい。硬いものが跳ね返る音。地面に転がる気配。


 カツン、カツン。


 3回ほど跳ねて、止まった。でも、気配は動いている。


 起き上がる。——また、起き上がった。


「……石喰いだ」


 ネアが、ぽつりと呟いた。


(石喰い)


 名前は知らなかった。でも、言葉通りなら——石を食うやつ、だ。


(俺、今、狙われてるってことか?)


 ネアの鼓動は、落ち着いていた。怖がってはいない。むしろ「面倒なやつに出くわした」という温度だった。


 ——つまり、知ってるんだな、こいつを。廃都で生きてきたら、普通に出くわすやつらしかった。こっちは初対面だが。


   ◆


 カタ、カタ、カタ。


 石喰いが、また近づいてくる。


「……あっち行って」


 ネアが、もう1回、棒読みで言った。


 当然、聞かない。


 ネアが靴の先で、軽く蹴った。カチン、と乾いた音。何かが吹っ飛んだ。


 カツン、カツン、カツン。


 転がる音。そして——また、起き上がる気配。


(しぶといな、お前)


「……」


 ネアがため息をついた。長めの、今日初めてのやつ。


   ◆


 それからは、同じリズムが繰り返された。


 石喰いが飛びかかる。ネアが腰をひねって、俺の入っている側のポケットを、反対側に回す。石喰いが回り込む。ネアも回る。足で蹴る。転がる。また起き上がる。飛びかかる。


 カタ、カチン、カツン。カタ、カチン、カツン。


(……慣れてるな、この子)


 ネアの動きは、淡々としていた。焦らない。驚かない。ただ、こういう時の手順として、体が動いている感じだった。


 1人で生きてきた子の動きだな、と思った。


 途中、ネアが一瞬、俺のポケットの上から軽く触った。ぽん、と。「まだいるか」の確認だった。俺がちゃんとそこにいると確かめてから、次の動きに入った。


(……守られてるな、俺)


 石なのに。動けないのに。ネアに、守られている。


 ——で、俺の感想としては、


(……そこまでして、食いたいか? 俺、美味しくないぞ)


 石だ。栄養はない。噛んだら歯が折れる。前世なら間違いなく歯医者だ。こっちの世界に歯医者があるのかは、知らないが。


 石喰いの食い意地の源は、謎だった。食って何になるのか。そもそも噛み砕けるのか。あの小さな体で、石を割る顎があるのだろうか。


 ネアの蹴りに何度も跳ね返されて、なお起き上がる執念だけは、立派だった。


   ◆


 何度目かで、石喰いの動きが鈍くなった。息切れしたのか、諦めの入り口に来たのか。


 カタ……カタ……。


 動きが遅くなる。蹴られる。転がる。起き上がる——のだが、1度目より2度目が遅く、2度目より3度目がもっと遅くなっている。


 ネアが最後にもう1回、軽く蹴った。


 カチン。


 今度は、起き上がらなかった。少し離れたところで、動かなくなった。


 ——動かない「ふり」だった。


 気配が消えていない。息を潜めているだけ。俺には、地面の振動で分かる。


(狸寝入り、か)


 ネアも、たぶん、気づいていた。足を止めて、一瞬、そちらに向いた気配があった。でも、蹴り足を伸ばさなかった。止めを刺さなかった。


 何も言わずに、仕分けに戻った。仕分けの音がする。指が台の上で動く、いつものリズム。


 石喰いは、少し離れたところで、じっとしていた。


 ——なんというか、図太いやつだった。ネアも、止めを刺さないあたり、たぶん、この手のやつに慣れている。


   ◆


 夜。


 ネアが眠った後、俺は考えていた。


(石喰い、か)


 石を食うらしい。でも、俺が食われかけたのは、偶然じゃない気がした。


 半年、ネアのポケットで廃都を歩いてきたのに、石喰いに会ったのは、今日が初めてだった。廃都には石なんて、その辺にいくらでも転がっていた。なのに、石喰いは俺を狙ってきた。ネアのポケットに、真っ直ぐに、飛びかかってきた。


(俺のこと、ちょっと普通じゃない石だって、気づいてるのか?)


 仮説だった。食い意地の張ったやつに理屈が通じるかは、別の話だ。


 でも、そう思うと、しっくりくる部分があった。半年間、俺はネアのポケットに入れられて、たくさんの路地を歩いた。そのどれでも、石喰いは来なかった。今日、初めて来た。


 俺が何かを変えたのか、石喰いが何かを察したのか、たまたまタイミングがそうなったのか。


 分からない。分からないが——


(あの執念は、1日で終わる類のものじゃなかった)


 狸寝入りの姿勢のまま、ずっと気配を消さずにいた。諦めていない動物の、溜めの姿勢だった。


(……明日、また来るかもな)


 そう思ったら、少しだけ身構えた。石に身構えるも何もないが、気持ちの上で。


   ◆


 翌日。


 同じ市場。同じ雑貨屋。同じ仕分け。ネアのリズムは、いつも通り。


 昼前。


 カタ。


(……あ)


 カタ、カタ。


 ネアの指が、一瞬止まった。


「……」


 ため息。昨日より、ほんの少しだけ、長かった。


 ——つまり、諦めてないらしい、こいつ。


 ポケットの中で、俺も、少しだけ、溜息を吐いた気分になった。石に肺はないが、気持ちだけ。


「……しっし」


 棒読みの「しっし」で、今日の1日が始まった。


 ネアの仕事に、1つ増えた項目があった。


 石喰いの相手、という項目が。


(お前、美味しくないって、何回言ったら、分かるんだ)


 石喰いには聞こえていないはずの独り言を、俺は念じた。


今日、食われかけた。

石を食う魔物がいるとは、知らなかった。


しかも、翌日も来た。


……美味しくないって、言ってるのに。


☆評価・ブックマーク、もらえると嬉しい。

食われる前に押してほしい。


次回「力石スキルの限界」もよろしく。


——石より

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ