最後の戦い
魔王がウステと戦い始めた頃。
律もまたマエスとの戦いが始まっていた。
「【銀帳】」
マエスによって銀の帳が構築され、それが両者を包み込む。
「【銀球】」
直後マエスが召喚したのは一つの球体。
銀色に鈍く輝く、"虚空"の銀球である。
「【天弓】」
それに対抗するように召喚されたのは白に輝く天の弓。
それに番えられた矢はよりいっそう輝きを増し、マエスに向けて放たれる。
マエスに向けて放たれた矢は光速で突き進み、マエスにまっすぐ当たる、美しい軌道を描く。
それがマエスの眼前まで来た時。
「【虚空】」
光の矢は、虚空の銀球に吸い込まれた。
「⋯⋯!」
律は目を見開き、マエスは笑みを見せる。
そして〘AI〙は、【天弓】を大量に叩き込む。
〘AI〙による予想外の行動にマエスは不意を取られるが、そんなマエスの意思とは関係なく銀球は発動する。
〘自動で発動するっぽいね〙
〘AI〙はそうつぶやき、無数の複製を召喚する。
〘【天弓】〙
次の瞬間、全方位から光の矢が放たれる。
「【銀球】」
マエスはさらに複数の銀球を召喚し、その矢の迎撃に成功する。
〘AI〙が苦い表情(?)を浮かべる中、律は矢の吸い込まれた銀球に向かって手を伸ばす。
魔王と繋がれた魔法線から魔力を借り、その魔力を吸い込まれた矢にこめる。
「⋯⋯?」
数秒後、マエスが銀球に違和感を覚える。
銀球の中、そこにある矢の何かが、変わった。
マエスは感覚でそう理解し、その感覚と弾き出した答えに間違いはない。
唯一間違っていたとすれば、自らの銀球を破る事は出来ないと高を括っていた点だ。
「!?」
マエスの【銀球】を、律の【天弓】が突破する。
だが、ついに解放された矢には光ほどの速度はない。
律は【天弓】に付与された特性を変えていた。
時空切断と光と電気。その3属性を全て時空切断に集中させ、それに魔王から借りた魔力を上乗せする。
そうする事により、光の矢はマエスの銀球を突破してみせた。
だが光速を出せない今の【天弓】を、マエスまで届かせる事は出来ない。
「なら!」〘【魔法砲撃・屈曲】!〙
律は【天弓】による矢を媒介として、時空切断の魔法陣を2つ召喚する。
それとタイミングを合わせ、〘AI〙が【魔法砲撃】を発動させる。
〘【雷神雷槌】〙「【転移】」
〘AI〙の召喚した巨大な雷槌が、それを捕捉したマエスの視界から消える。
直後、〘AI〙の放った【雷神雷槌】は、突如としてマエスの目の前に現れた。
属性を変えた光の矢によって、銀球は既に破壊されている。
再発動も間に合わず、マエスは至近距離での【雷神雷槌】をモロに食らってしまう。
「あー、もういいや」
まだ収まらない雷鳴が響き渡る中、マエスの声が律の耳まで飛んでくる。
「負けを認めるって事か?」
「いいや?」
マエスに向かって律がそう問うと、マエスは笑みが見えてくるような軽薄な声が飛んでくる。
まだマエスの姿は見えない。
「なるべく手加減してキミに勝とうと思ってたけど、思ってたより成長してたみたいだ」
マエスの魔力が跳ね上がり、その姿があらわになる。
「本気を出すとしよう」
マエスの身体は銀に染まり、鈍く輝く。
だが前とは違い、完全に水銀にはなっていないようだ。
液体になって攻撃力がなくなるわけでも、固体になって攻撃の受け流しが出来なくなるわけでもない。
〘バランス型かな?〙
「さぁ?どうだろうね?」
マエスはまだ自分の本気を試したことがないようで、興味深そうに自らの身体を眺める。
「試してみるかい?」
不敵な笑みと共にマエスから放たれたその言葉に、〘AI〙は攻撃でもって答えた。
〘【魔法砲撃・屈曲】〙
〘AI〙が【魔法砲撃】による光線を操り、それは2つの物体を創り出す。
〘【炎帝】【天弓】〙
光り輝く【天弓】に光の矢が番えられ、その矢に【炎帝】の炎が上乗せされる。
〘【炎光閃矢】〙
直後、燃え盛る光の矢が放たれ、およそ反応など不可能な速度でマエスに迫る。
「⋯⋯!」
マエスは前に手を伸ばし、後ろにバックステップしつつ、何かを掴む仕草をする。
「よく見えるね、この身体だと」
マエスの手に握られていたのは、炎に包まれた光の矢だった。
人には反応出来ない速度で放たれたそれを、マエスは片手で、いとも簡単に掴んでいた。
そしてそれを溶かし、力任せにへし折る。
「さて」
マエスが割れて溶けた矢を捨て、律の方に向き直る。
「次の策はあるのかな?」
「当然」
〘【雷神雷槌】〙
マエスの問いに律が答えた瞬間、〘AI〙の【雷神雷槌】が炸裂し、ダメージ以上にマエスの視界を塞ぐ。
振り注ぐ雷を前に、マエスは片手を上げる。
そして雷の槌をその身体で受け止め、水銀で溶かしつつその威力を殺していく。
やがて雷が止み、バチバチと小さな電気が残るだけになった時、マエスの前には巨体が立っていた。
「それが次の策?」
マエスは目の前の機械兵士を見上げ、次の瞬間には来ているかもしれない攻撃に備える。
〘【時空遮断剣】〙
〘AI〙がそうつぶやくと同時、ロボの持つ剣が光、いや光線に包まれる。
「またボクの知らないスキル⋯⋯」
言いつつも、マエスは水銀を放つ。
その放たれた水銀は一点に収束し、渦を成し、だんだんと肥大していく。
それは、かつて律に放たれた水銀の渦。
「【銀渦】」
初めてマエスと戦った時と同じ見た目で、それでいて威力も大きさも全く異なるもの。
その強大な力に向かって、律は剣を振り下ろす。
「【断絶斬】」
この一撃で、マエスの銀渦は消滅する。
時空ごと斬り裂かれ、威力を消され、剣に吸収され、その存在すら消されたのだ。
「その剣の効果はそれか」
マエスは合点がいったと言うように、そんな言葉を漏らした。
「もちろんボクにもその効果は効くんだろうね」
そう言ってマエスはロボと距離を詰める。
マエスが言ったのは、その剣に斬られれば、自分も銀渦と同じように存在ごと消される、ということだ。
つまり、今マエスはとてつもないリスクを背負ってロボに接近してきている。
「そう簡単には当たってやれないよ!」
マエスは走りながらそう言い、振り下ろされる剣を避け続ける。
〘【天弓】〙
「っ!」
死角から放たれた光の矢に、マエスは辛うじて反応し、その矢を掴み取る。
だがそれによりマエスには僅かな隙が生じ、その隙は律が剣を振り下ろすに足りるほどのものとなった。
あとほんの少しで手が届く。
そんな距離で詰んだマエスに、律は僅かに油断する。
だから反応が遅れたのだろう。
「【錬金・銀剣】」
マエスは銀の剣を生成し、咄嗟にロボの剣を受け流す。
無論銀剣は破壊され即座に吸収されるが、それを犠牲にしてなんとかマエス本体は危機を免れる。
そのまま一気に加速、距離を詰めて、ロボに肉薄する。
「【銀渦】」
マエスは自らの拳に銀渦を纏い、突きで【魔法障壁】を破壊する。
そのままの勢いでロボの外壁を破壊し、ついに家の内部へと侵入した。
律の魔力を感じる場所まで一直線に走っていたため、壁を突き破ればすぐに律の姿が見える――――――はずだった。
「!」
マエスの視界を覆うのは銀の渦。
それは、紛うことなき【銀渦】だった。
ロボが持っていた剣はマエスの技を吸収し、いつでも解放して撃ち出すことの出来る状態だったのだ。
「【錬金・銀刀】」
マエスは咄嗟に銀の刀を生成し、そこに纏っていた銀渦を移す。
そのまま振り下ろし、銀渦を一刀両断。
そして迷わず前へ――――――
グサッ
マエスの胸に剣が突き刺さり、その身体からは血の代わりというように水銀が溢れる。
突き刺しているのは律本体で、ロボでも海賊船でもない。
そして突き刺されている剣は先ほどまでロボが持っていたはずの、【時空遮断剣】だった。
「あの剣も所詮は複製だからな。サイズを変えれば、いつでも俺の手元に呼び出せる」
律は淡々と説明し、【時空切断】の効果を発動する。
「【断絶斬】」
直後マエスの身体は両断され、魔力の塵となり剣に吸収されていく。
「やれやれ⋯⋯ここまでか⋯⋯」
吸収される間際、マエスは悔しそうに目をほそめる。
「思ってたより成長してたみたいだ⋯⋯。キミも、魔王もね」
結界の外では既に魔王が戦いを終えており、律から見れば全てが解決した事になる。
「返すよ、これ」
マエスは、水銀と化した体内から一つの立方体を取り出して律に手渡す。
「んじゃ、キミがボクを抑えきれなくなったら、また勝手に出てこようかな」
恐らく、そんな日は来ない。
「それまで震えて待っているといいよ」
そう言って、マエスは剣に吸収された。
なんかよく分からん終わり方になってしまった⋯⋯(震)




