魔王の戦い4
「案外、早い再戦になったな」
苦い表情をしているウステに、魔王は笑って話しかける。
「ウステ、あれをやる。時間を稼いでくれ」
ウラントがウステにこそっと話しかける。
するとウステは驚いたような顔をし、魔王を見て、覚悟を決めたような表情を浮かべる。
「切り札でもあるのか?」
魔王が再度話しかけると、ウステが前に出て答える。
「さあ?」
言いつつ、ウステは剣に魔力をこめる。
「時間稼ぎか」
魔王はウステの目的に気づき、拳に魔力を纏わせる。
「まあいい。付き合ってやる」
魔王がそう言った瞬間、ウステが視界から消える。
「ほう?」
そう感嘆の声を漏らした魔王の眼は、転移してきたウステの姿をしっかりと捉えている。
だが、もはや今の魔王に出来ることは技の迎撃のみ。
「【流星断ち】」
ウステの全魔力を叩きつけるようにして放たれた斬撃を、魔王は当然のように手で受け止める。
「ふむ。流石に片手で完全に制御するのは不可能か」
そう言った魔王は斬撃を持った手を横に広げ、勢いに身を任せ回転を始める。
「とはいえ、これくらいは難なくできる」
その回転を利用し、あろうことか魔王は斬撃を投げ返してきた。
「【転移剣】」
ウステはそれを見て、即座に派生技を使用する。
そして転移の効果を剣に纏わせ、その剣で投げ返された斬撃を斬りつける。
すると、斬撃は魔王の背後に転移し、背面から魔王を襲う。
「なるほど。時空切断か」
魔王はウステの行動を見て、閃いたというように声を漏らす。
そして振り返り、迫る斬撃を迎撃する。
「【時空切断主】派生」
魔王は手に魔力を集中させ、時空切断の効果を纏う。
「【時空遮断掌】」
魔王の右手は飛んできた斬撃を見事に掴み取り、手の中でその斬撃を圧縮する。
「!」
ウステが驚愕の表情を見せる。
魔王の手は斬撃を手のひらサイズまで圧縮しきり、完全に掌握していたからだ。
「ただの思いつきだったが、案外出来るものだな」
「⋯⋯どうすればそのような事が?」
ウステは少し迷った末に聞いてみる。
すると、魔王は上機嫌で答えてくる。
「簡単な事だ。手の中に別世界を作った」
それを聞いたウステの顔がますます不可解というように歪む。
「マエスもやっていた事だろう。それを応用し、斬撃を手の中の別世界に閉じ込めただけだ」
少し考えようやく理解したウステは、信じられないといった表情に変わる。
「あなたは化け物か何かでしょうか?」
言いつつ、ウステは再び斬撃を放つ。
魔王は右手を開くわけにもいかないので、今度は左手でその斬撃を掌握する。
「一度成功してしまえば、再現するのはそこまで難しくない」
「ですが、両手は塞ぎました。これ以上は掴めないでしょう?」
「くはは。ちょうどこの斬撃をしまういい場所があってな」
言いつつ、魔王は固有スキルを発動する。
数秒後開かれた魔王の両手には、それぞれ一つずつの立方体が握られていた。
「とある街の借金取りから借りたスキルだ。なかなかに便利だろう?まぁ、本来斬撃をしまえるほどのスキルではないがな」
魔王の言葉が示すように、キューブには魔王の魔力が上乗せされ、時空切断の効果も付与されている。
「ほら、どうした?怖気づいたか?さっさとかかってこい」
「言われなくとも!」
ウステは視界を埋め尽くすほどの斬撃を放つ。
魔王がそれをキューブに収めるため手を伸ばすと、斬撃の中から一条の光が飛んでくる。
魔王はそれに反応し、手でキャッチする。
「斬撃に紛れさせて本体が攻撃⋯⋯というわけでもないか」
魔王がキャッチしたのは剣だけ。
それも魔法で作られた偽物の剣だ。
「本命は――――――」
「こっちです!」
魔王が振り返る。
魔王の視界に映ったのは目の前まで迫る光の剣。そしてそれを持つウステだった。
「【激流突き】!」
背後に迫る斬撃の波をキューブに収めつつ、突き出された剣とすれ違うようにウステの身体を貫く。
「⋯⋯ほう」
魔王が霧散していくウステを幻影だと悟った時、既に本物の剣は己を貫いていた。
「初手の斬撃も、次点の剣も、背後からの攻撃も、全てが囮だったわけか」
「はい。ですが、あなたもこの程度では決して死ぬ事はない」
瞬間、その場に巨大な魔力が出現する。
その魔力源に向かって、ウステは呼びかけた。
「私ごとで構いません!やってください!」
「承知した」
ウラントは短く答え、その魔力を冷気に変換する。
「【氷霧】」
直後ウラントから放たれた氷の霧は、遍く全てを氷に変えた。
(ふむ。先ほどまでとは違う。冷気が格段に強化されているな。溶かすにはそれなりの時間がかかりそうだが⋯⋯)
ウラントは当然待ってはくれない。
「【氷山・槍状】」
ウラントのスキルにより氷山が召喚され、それが文字通り槍を形取る。
「【時空切断】」
魔王ごと氷漬けになっているウステが力を振り絞り、その氷槍に時空切断を付与する。
「終わりだ」
ウラントが冷たく息をつき、それと同時に槍を突き刺す。
魔王に迫る氷の槍。
時空切断が付与されたそれは氷すらも軽く突き破り、ウステの剣を遥かに超える質量で魔王を貫くだろう。
魔王は身体にまとわりつく氷を未だ溶かせていない。
避けられる未来は万に一つもない。
「【時空遮断掌】」
そう思っていたのはウステとウラントだけ。
そう気づいたのは、魔王が氷の槍を片手で掴んだ時だった。
「溶かせはせずとも、砕く事なら容易い」
「【冷獣・極】」
間髪を入れず放たれたのは氷の獣。
1度目の戦いで魔王に放たれたそれを凌駕する巨体を持ち、その身体に纏われた冷気は【氷霧】おも上回る。
魔王はその獣に向かって2つのキューブを投げる。
「解除」
直後放たれた斬撃は【冷獣】を斬り刻み、即座に無効化させた。
キューブに閉じ込められたウステの斬撃が、ウラントの氷の獣すらも斬り裂いたのだ。
そして魔王は斬り刻まれた【冷獣】ごと1度解放した斬撃を文字通り手中に収め、再びキューブに封印する。
その隙にウラントはウステの近くまで移動し、ウステを縛る氷を解除する。
「ウステ」
「はい」
魔王に対峙する2人は短いやり取りを交わし、時空切断の剣と冷気を纏う手を重ねる。
「【冷神重時空断絶剣】」
するとウステの体と剣身にウラントの身体が吸い込まれ、その魔力をウステが完全に掌握する。
ウステがふー、と長く息を尽き、集中するように剣を握り直す。
「【冷神断絶】」
ウステの持つ剣から冷気が漏れ、その剣身からは黄金の輝きが溢れる。
「【冷神微塵】」
魔王がそれを掴もうと手を伸ばす。
すると触れてもいないうちに手が凍りつき、掌握することを許さない。
魔王は掴むのは不可能と断定し、行動を回避に移す。
「【大氷河・氷期】」
ウステが大地に剣を突き刺し、魔力を冷気として解放する。
その冷気は大地に余すことなく染み渡り、回避を試みる魔王の脚を氷で包みこんだ。
「【残像】」
魔王は足元の氷を砕き、空間を隙間なく埋めるような斬撃を固有スキルによって回避する。
だが固有スキルの効果が切れ、魔王の姿があらわになった時、既にウステは魔王の真上まで迫っていた。
ウステは剣を頭の上まで持ち上げる。
魔王が対抗するためキューブを頭上に投げ、それを解除しようと魔力を送る。
それよりも早く、投げられたキューブごと叩き斬るようにして、ウステは上段に構えられた剣を振り下ろした。
「【流星断ち】!!!」
ウステの剣が魔王の頭から30センチほどまで迫ったところで、唐突に止まる。
一瞬状況が理解できなかったウステが魔王の身体を見る。
魔王の手は上に伸びており、その先はウステの剣と繋がっている。
「真剣白刃取り、というやつだ」
魔王は時空切断の効果を両手に集中させ、相手の冷気も利用して、自らの手と縫い付けるようにしてウステの剣を止めた。
魔王はしてやったり、という笑みを見せ、即座に腕を切り離す。
「!?」
ウステが魔王の行動に驚いたのも束の間、魔王はその剣に手を伸ばした。
そしてそのまま剣に手をめり込ませ、それと同化したウラントの魂を引っ張り出した。
「そんなに心配せずとも、腕くらいすぐに治せる」
冷気の抜けた剣を握り締め、ぼうぜんとするウステに、魔王は再生させた両手を脱力して揺らしてみせる。
そしてその手をウステとウラントに伸ばし、キューブに封印した。
「なかなかに楽しめたぞ。ウステ、ウラント」
2つのキューブに向かってそう言う魔王の顔には、最高の笑みが浮かんでいた。
ハッピーエンド!(?)




