魔王の戦い3 最後の戦い・序
少し遡り。
魔王サイド
魔王は、次々と出てくるマエスを蹂躙していた。
「【借力・結合洗練技】」
魔王は手に持った剣に雷炎を纏わせ、暴風を巻き付け、時空切断を付与する。
「【賽目雷炎竜巻】」
辺りの地面とマエスたちに剣閃が走り、遅れてそこを雷炎の竜巻が抉る。
「【時空切断】」
魔王がそうつぶやくと同時そこに時空切断が上乗せされ、ギリギリ原型を留めていたマエスたちがついに崩壊する。
それでも、マエスたちは止まらない。
塵となって消えていく仲間(?)たちの屍を踏み越え、魔王を倒さんと進軍する。
「ふむ。厄介だな。面倒極まりない」
魔王は拳に炎を纏い、その身体を光と化す。
「だが」
さらに雷、暴風を上乗せし、スピード、攻撃力共に強化する。
「急ぎの用がある。少々本気で行かせてもらう」
瞬間魔王の姿は消え、立ち昇る魔力を置いて、1人目の前に到達する。
そして突き出された拳は一瞬のうちに千を超え、マエスの身体に大量の風穴が空く。
この間、約0.0001秒である。
魔王は動きを変えつつ魔力を上乗せし、さらに撃破の効率を底上げする。
集団に突っ込み、すれ違いざまに心臓に穴を空ける。
マエスは突っ込んでくる魔王になんとか対応しようと水銀を召喚するが、それすら間に合わず気付いた頃にはもう通り過ぎており、身体を拳が貫いている。
さらに魔王は一瞬の間に剣を持ち、スキルを使用する。
「【賽の目】【光閃】【光貫】」
【賽の目】が身体を斬り刻み【光閃】で両断され、最後に魔王が【光貫】で中心を貫く。
所詮分身であるマエスにこれは防げないが、やはり分身は分身。
いくら倒しても、それはマエスの魔力をほんの僅か削ったに過ぎない。
故に、魔王は打開策を探している。
「ふむ。どうやってこいつらを倒し切るか」
いや、そもそも倒し切れない。本体が死なない限り分身は尋常ではない速度で召喚され続け、一度殲滅してもまたすぐに復活してしまう。
ならば――――
「倒し切る必要はない、か」
魔王は挑戦的な笑みを浮かべ、目の前の大軍に目を向ける。
そして一瞬でそこに到達し、その1人に触れる。
「【借力】」
魔王は固有スキルを発動し、分身に魔力を分け与えると同時にそのスキルをコピーする。
「ふむ。まだ足りぬな」
本体ではないため、一体に魔力を分けた程度ではスキルをコピーしきれない。
だが、使用可能な技を絞り、制限時間ありなら十分に行使が可能だ。
「【借力・結合洗練技】」
魔王は銀の光と神の光、そして自らの魔力を掌で練り合わせる。
「【連合軍勢銀神魔軍】」
直後魔王の魔力を持つ大量の兵士が召喚され、軍を成す。
だが、この魔法はまだ完成していない。
「✕」
魔王が掌で練り終えた魔力を、軍勢に向かって投げる。
「【一騎当千】」
魔王の魔力、軍神の力、そしてマエスの水銀が上乗せされた事により、召喚された全ての兵士はかつての【一騎当千】と同等の強さを手に入れた。
だが、それでもまだ足りない。
「【魔王借力】」
魔王が固有スキルを発動し、先代の魔王から力を借りる。
「再現の魔王、レクレア・レイデモ。軌跡の魔王、トラゲト・レイデモ。乗算の魔王、モルデ・レイデモ」
魔王がその3つの力を結合し、軍勢の数、質を底上げする。
「【模倣追憶乗】」
質を上げ、数を上げようやく互角。
だがそれも長くは持たない。魔王は兵士を召喚し続けているが、新しく召喚される兵士には強化がかからないからだ。
「まずは原因を断つところからだな」
魔王は全体を俯瞰するため、固有スキルを使用する。
「【借力】天上の眼、ヤリビ・ベブ」
魔王はそのままスキルを発動すると範囲を広げ、戦場の全てを一目で把握した。
「ふむ。律の方も長くは保たなそうだ。早く行ってやるとしよう」
言いつつ、魔王は移動する。
そのまま歩き続け、やがてある地点で停止する。
そこは障害物も無ければ、分身たちが守っているわけでもない、何ら変哲のないただの地面。
「常人ならそう思うのだろうがな」
魔王は地面の底をじっと見つめる。
「俺には視えるぞ。ここの地下深く」
魔王は呼びかけるようにそう言い、続ける。
「お前の本体が居るな」
たとえ本体を見つけたとしても今の魔王には仕留めるほどの時間はない。
だが、本体と繋がった魔法線、つまり分身の召喚に必要な電線を斬るくらいは出来る。
「すぐに俺たちがお前を仕留めに行く。それまで大人しく待っているとよい」
そう言って魔王は魔法線を断ち、分身たちの戦場へ向かう。
到着すると同時に跳び、戦場の中心、その真上へと躍り出る。
「【借力・結合洗練技】」
魔王は強化用の魔法陣を追加で召喚し、数百枚重ねる。
「【時空切断水素火雷爆】」
直後召喚された魔法の爆発砲弾は多重魔法陣を通り、その大きさを数十倍に膨れ上がらせて突進する。
突如現れた圧倒的な滅びの輝きに、マエスたちは成す術なく焼き尽くされた。
轟音が響く中、魔王はその烈火の中心を悠々と歩く。
「次は律のところか。上手く持ちこたえているとよいがな」
魔王はそうつぶやくと固有スキルを発動し、律のところを見る。
そこには氷で拘束され、ウステに斬られかけている律の姿。
「やれやれだ」
魔王は一言言うと、脚に力を込め律のいる場所まで一瞬で移動する。
そして剣が振り下ろされる前に氷を砕き、【魔法障壁】に穴を空け、家の壁を貫通して律と周りの人間を持って外に出る。
律どころかウステの眼にすらその様子は映らなかったが、確かに魔王は律を助けていた。
そして、現在に至る。
「律。とりあえず家を召喚しろ。その時間くらいは稼げる」
律は無言で頷き、家を構築し始める。
当然ウステとウラントはそれを妨害しようとするが、魔王がそれを防ぐ。
「【氷霧】」
「【熱波】」
ウラントが召喚した氷の霧を、魔王が熱波で押し返す。
「【転移】派生」
ウステは巨大な剣を召喚し、それを【賽の目】と同時に振り下ろす。
「【時空飛斬撃】」
放たれたのは時空を跨ぎ転移する無数の刃。
「【時空切断主】派生」
魔王は片手を上げ、時空の狭間にいる斬撃に手を伸ばす。
「【時空干渉】」
魔王はウステが斬撃を飛ばした時空に干渉し、その方向を変える。
直後、斬り刻まれたのはウラントの身体だった。
「【癒氷】」
ウラントは咄嗟に身体を治癒効果のある氷で覆い、斬撃を防ぎつつ斬撃の跡が残る身体を癒す。
「そろそろ終わったか?律――――」
魔王がそう言って振り返ったところで、魔王の身体に何かが突き刺さる。
「ほう?」
魔王がそちらに目を向け確認し、目を細めて笑う。
「やっと出てきたか、黒幕」
魔王の身体に突き刺さっているのは銀の槍。そしてそれを突き刺したのが今魔王の目の前にいる男、マエスだった。
「〘!〙」
律と〘AI〙、そして魔王が同時に理解する。
今目の前にいるマエスは今までの分身とは違う。
まだ未完成だった数分前の本体とも違う。
今目の前にいるのは―――――――
「本物⋯⋯!」
「完成形というわけだ」
律が慄き、〘AI〙が敵意を見せ、魔王が面白そうに笑みを浮かべる。
「準備は完了したし、キミたちが会いたそうにしてたから、出てきてあげたよ」
マエスが退屈そうな目で言う。
「俺、というよりは、俺の友がお前に会いたいそうでな。まぁ、ぜひ戦ってみたくはある」
魔王はそう言うと、律が構築した家の中に転移し、律の背中に触れる。
恐怖からか興奮からか、僅かに震えているその背を魔王がトントンと叩き、自らと魔法線を繋げる。
「あいつらの相手は俺がしよう」
魔王はウステとウラントを指差しながら言い、さらに続ける。
「魔力は貸してやる。好きなようにやってこい」
魔王はそう言って背中を押すと、家の外へと転移していった。
「ありがとう」
律は魔王にそう言って、まっすぐ前を向く。
胸にはミルクの涙、〘AI〙の忠誠、魔王の友情がある。
気づけば、体の震えはもう収まっていた。
「マエス」
律は短く言うと、退屈そうに佇む本体に向かって言い放った。
敵意と怒りをこめて。
「今度こそお前を倒して、全て終わらせる」
律の最後の戦いが、今始まった。




