魔王の戦い2 律の戦い2
「【雷炎絶渦】」
「【銀渦】」
魔王の召喚した雷炎、マエスの召喚した水銀、その二つが渦を成しぶつかり合う。
マエスの銀渦の威力はかつて律と戦った時とは比べ物にならないほど上昇しており、それに比例した大きさの渦が辺りの地面をえぐり荒らすのも納得がいくほどだった。
だが魔王の魔法にこめられた魔力量も上がっており、その雷炎はマエスの水銀を十分に焼き尽くせるものだったのに疑いの余地はない。
それでも、【銀渦】は【雷炎絶渦】と渡り合っている。
「ふむ」
視線の先でせめぎ合う二つの渦を眺めながら、魔王は小さくつぶやく。
「なにか特殊効果があるな。大方……腐食、溶解といったところか。本来炎や雷には作用しないものだが……まあ魔法だ、どうとでもなる。」
魔王は楽しそうにつぶやき、身体に魔力を纏わせた。
そしてぶつかり合う渦に向かって走り出す。
当然巻き込まれればただでは済まないが、渦にぶつかる直前、魔王は固有スキルを発動した。
「【残像】」
直後魔王の身体が揺らぎ、一瞬にして消失する。
そして次に現れた時には剣を持ち、マエスの前に立っていた。
「!」
「【賽の目】」
魔王の手元が消え、空間を埋め尽くすほどの斬撃が放たれる―――――直前、マエスは身体を水銀で覆い、魔王の剣を溶かそうと水銀を飛ばす。
結局【賽の目】は発動され、マエスの身体はダメージを負うが、直前に飛ばした水銀のおかげでなんとか即死は免れた。
そして、マエスは掌に水銀の球を浮かび上がらせる。
魔王はそれを無言で見つめる。
瞬間斬撃が発生し、魔王の身体を斬撃が襲う。
「ほう?」
魔王は笑いながらも斬撃を手刀で受け流し、マエスと2メートルほど距離をとる。
魔王は無効化しきれずに一滴垂れた自らの血を見つめ、一つの結論に至る。
「なるほどな」
魔王は笑みを見せ、無言のマエスに向かって笑顔で語りかける。
「今さっきお前が放った斬撃は【賽の目】。それも俺が放ったのと同じ、【時空切断】が付与されたものだ」
魔王は手についた傷を見せながら、続く言葉を発する。
「だが、俺の【賽の目】よりかは幾分威力が低い。その上範囲も狭まっている。つまりだ」
魔王は魔力をこめ、魔方陣を浮かべながら言った。
「お前は俺の攻撃の一部を吸収、再利用できる。相手の攻撃の威力を減らしつつ、自分の手札を増やす。実に合理的な技だ。」
魔方陣からは魔力の光が漏れ、今にも放たれそうなほど魔力が強まる。
「だがまだ確証が持てない。故に今から試す。頼むから……」
魔王は挑戦的な笑みを見せ、魔法と同時に言葉を放った。
「死んでくれるなよ?」
直後魔王から放たれたのは光。
圧倒的な手数と速度に、時空切断を上乗せして水銀を突破する。
それが魔王の出した答え。
少なくともマエスはそう解釈し、一回における水銀の最大召喚で迎撃した。
「はずれだ」
マエスの後ろから響く声。
それにマエスが振り返った頃には、既に魔王の手がマエスの身体を貫いていた。
光速の攻撃でマエスの意識を逸らしつつ、光を超える速度で背後に回り込む。
それが魔王の策略の全てだった。
そして、それにまんまとハマったマエスの身体はボロボロと崩れていく。
「ふむ。分身か」
魔王がそれに一目で気づき、律のところに向かおうとする。
「【微塵】」
「【残像】」
唐突に現れた水銀の球。
それを斬り裂くように放たれた無数の斬撃を、魔王は固有スキルにて回避する。
「そういえば、まだ始末していなかったな」
魔王が目の前のウステに向かって話しかける。
「次はお前が相手か?」
魔王はぐっと拳を握り、構えをとる。
「残念ながら」
ウステを守るように水銀が飛び出し、マエスに変わる。
それだけに留まらず、辺りには大量のマエスが召喚され始める。
「私の役目はここまでです」
そう言いながらウステは斬撃を放ち、魔王がそれに対処した頃には彼の姿は消えていた。
「まぁ、とりあえずはお前らの相手だな」
魔王は目の前の分身たちに目を向ける。
分身は数え切れないほど増加しており、今もその数を増やし続けている。
そして、その全てが先ほど戦った分身と同等の力を持っている。
「なるほど。これがピンチ、というものか」
魔王は心底楽しそうに笑い、魔力を解放する。
「全く、最近は強い敵が多い」
脳裏に浮かぶのは、かつて戦い友となった1人の男。
「まぁ、悪くはない」
そう言った魔王は魔法を発動し、友のための戦いを始めた。
同刻、律サイド
「こうして相見えるのは、2回目ですね」
「出来れば再戦はしたくなかったな」
目の前のウステを見て、律は率直な感想を口にする。
「私もですっ!」
そう言うと同時、ウステが斬撃を放つ。
その斬撃には当然時空切断が付与されており、当たればたとえ【魔法障壁】だとしても切断される。
そのため、律は空間を埋め尽くすような斬撃を慌てて避ける。
「【転移】」
背後から聞こえてくる声。
律はばっと振り向き、【魔法砲撃】を構えながら対策としての機能を使用する。
律が振り返ると同時視界を埋め尽くしたのは、無数の斬撃。
そして、家くらい軽く両断するような巨大な剣だった。
「【光貫】」
だが、これは囮に過ぎない。
本命のウステによる光速突進はもう間近まで迫っており、今から律に入れる保険はない。
「!」
そう、保険とは先に入っておくものだ。
ウステが確かに貫いた家は揺らぎ、幻影となって消えていく。
その直後ウステの視界に映ったのは、次々に現れ始める大量の海賊船。その形をした家である。
立ち込め始める霧の中、それでもウステは何かを伝えるように片手を上げる。
そして空中に跳ぶと、剣を構えた。
それに律が警戒した瞬間、視界を氷が埋め尽くした。
「【氷山壁】」
家が幻影ごと凍りつき、上空からは剣を構えたウステが斬撃と共に降ってくる。
「【賽の目】」
「【瞬間冷凍】」
そしてその斬撃が凍りつき、一欠片の氷に圧縮される。
ウラントがその一欠片の氷を投げ、ウステがそれを叩き斬る。
「【微塵】!」
「【急速解凍】」
圧縮された【賽の目】に【微塵】が上乗せされ、凍りついて動けない家に容赦なく襲いかかる。
「【変形合体】」
律がそのスキルを発動した瞬間氷の中で家が蠢き、その形を変えていく。
その途中に複製も追加され、さらにその体積を増す。
「【巨人剣】」
光と共に氷を突き破ってくる律に対抗するため、ウステは巨大な剣を召喚し振り下ろす。
「【魔法砲撃・屈曲】」
光がロボの姿に変わり、その手には巨大な剣が握られる。
そしてそこに光線が纏われ、その光線に時空切断の効果が付与される。
直後、ぶつかり合うのは時空を切断する刃。
その2つの刃はお互いを破壊せんとせめぎ合い、周りの時空は歪みつつも、辛うじて均衡を保っている。
「【大氷河】」
放たれた氷によってついに均衡は崩れ、時空ごとロボが切断される。
さらに時空切断同士のぶつかり合いによって時空が歪み、もはや通常攻撃では軌道すら歪みまともに飛べなくなる。
そんな歪みに歪んだ時空を斬り裂いて、ロボを斬り刻もうと剣を振るうのはウステ・バザー。
彼が振るった剣は時空ごと律の乗ったロボを叩き斬った。
その剣の速度は律に【転移引っ越し】を使う隙すら与えず、何人たりとも間に合わないほどのスピードで振り下ろされた。
ただ1人を除いて。
「!」
ウステとウラントが律の方を見て、いや現れた人物を見て驚愕する。
「少し目を離した隙に死にかけているな、律。俺とて流石に心配するぞ?」
唐突に現れて律を救った魔王は、ウステとウラント、そして空から感じるマエスの魔力に向かって敵意を向けた。




