またいつか
マエスを倒した後。
「レイト、頼む」
「ああ」
律はマエスを倒して取り返したキューブをレイトに渡す。
「【開錠】」
レイトがそう言った瞬間キューブに輝く南京錠のようなものが現れ、ガチャ、と音を立ててそれが解ける。
「これでいつでもだれでも開けられるようになったぜ」
レイトはそう言って律にキューブを手渡してくる。
すぐにミルクの母を開放するのではなく【開錠】だけに留めた辺り、律を、いやミルクを気遣ってくれたのだろう。
「ありがとう」
律はその気遣いに心から礼を言い、前に向き直る。
「さて、帰るとするか」
律がそう言うと、ミルクが不思議そうにこちらを見てきた。
「帰るって……どこにですか?」
そう思うのも無理はない。
なにせここが律の家で、現在ミルクが住んでいる場所でもあるからだ。
そんなミルクの当然の疑問に、律は笑って答えた。
「そりゃもちろん―――――」
約1時間後。
―――――の家。
「リツさん、ここは……」
連れてこられた場所を見て、ミルクは目を見開いて聞いた。
「ああ、ミルクの家だ」
「どうして場所が……?」
「あらかじめレイトに聞いておいたんだ。いつかキューブを取りもどした時、母親と再会するならいつもの場所がいいだろ?」
ちなみにレイトは既にアジトに戻っている。
律の言葉を聞いて、ミルクの頬に涙が伝う。
「あ、ごめんやっぱりだめだった?」
ミルクの顔を見て、律が焦ったように謝罪する。
「いえ、ありがとうございます……」
ミルクがそう言って、顔を隠すように涙を拭う。
それをみて少し安堵した律が、ミルクにキューブを手渡す。
「私がやっていいんですか……?」
「むしろミルクじゃなきゃだめでしょ。ほら、もうミルクでも解けるようになってるから」
「はい……」
ミルクは控えめに言い、律からキューブを受け取る。
「じゃ、俺は席を外してるから」
そう言った律はかつてミルクが住んでいた家の中にミルクを押し入れ、ミルクが何か言う暇もなく出ていこうとする。
「本当に、ありがとうございます」
振り返らずに去っていく律の背中に、小さなその言葉は確かに届いていた。
「ふう」
外開きのドアを閉め、律は一息つく。
「いいのか?」
そんな律に後ろから声がかかる。
「ついてきてたのか」
「まあな」
その声の主は、後ろからこっそりついてきていた魔王だった。
「なんでついてきた?」
律はあくまでただの疑問というように尋ねる。
「少し話をしに来るついでに驚かせてやろうとな」
律はいたずら好きな魔王様に苦笑する。
まあ、あの状況で話しかけずに黙っているくらいの常識はあったようだが。
「それで話を戻すが……」
魔王はそう言い、先ほどと同じ言葉を放った。
「いいのか?」
「別に」
律は何ともないというように答える。
「せっかくの家族の再会に水を差すほど、空気が読めないやつじゃないさ。魔王も同じだろ?」
確かに、魔王もさっき同じような判断をした。
「分かって言っているだろう?聞きたいのはそのような話ではない」
そう言って魔王は逸らされた話を戻す。
「魔王の眼はごまかせないぞ?お前、このままミルクと離れようとしたな。それでいいのか?」
鋭い魔王の言葉に、律はただただ苦笑するしかない。
「ああ。ミルクは母親と再会できたんだ。これ以上一緒にいる事はない」
「そうだとしてもだ。なぜ何も言わずに立ち去ろうとする?」
何とも思っていないような表情でそう言う律を、魔王はさらに問い詰める。
「分かるか?」
律は顔を俯け、話し出す。
「俺はな、マエスを殺したんだ。たとえそいつが極悪人だとしても、俺は確かに人を殺した」
「それは言い方が正しくないな。お前は殺したのではなく、封印したのだ」
「結果は同じだ。マエスっていう人の、人生を奪った」
律を庇おうとした魔王の言葉を、他でもない律自身が否定する。
耳を澄ませば、母親と再会したミルクと、母親が泣きながら笑い合う声が聞こえてくる。
「そんなやつが、そんな俺が、ミルクとなんか一緒に居ちゃいけない。一刻も早く立ち去らなきゃいけないんだ」
律は泣きそうになりながらも、言葉を綴っていく。
「これは他でもない俺自身が犯した罪だ。その責任は俺にある」
律は魔王に向き直り、ミルクがいる家に背を向ける。
「だから、俺はミルクとはもう会わない。二度と」
その眼には覚悟が浮かんでいた。
「そうか。それはすまなかった」
魔王は律に背を向ける。
「今から話すのはお前の友ではなく、最強の‘‘魔王‘‘だ。分かったな?」
そのまま立ち去るかに思われた魔王は、律に背を向けたまま話し出した。
「俺は魔王だ。魔王として生まれた。全てを支配する者として、その宿命を背負って生まれた」
魔王は言葉を続ける。
「例えば、今俺の魔王城が建っている場所。あそこには元々王国があった。巨大な王国がな」
そう言う魔王の視線は遥か遠くの魔王城に向いており、その眼ははるか昔の王国に向いていた。
「それを潰したのは俺だ。先代の魔王がいた魔王城は人間に壊され、住処がなかった。だが、俺がそこを住処にしたことにより、多くの人間の住処が奪われた」
魔王は昔のことを思い出すように目を細める。
「当時そこに住んでいた人間たちも大量に殺した。それも、罪のない人間たちをだ。」
魔王はさらに続ける。
「当然、殺したよりも遥か多くの人間に恨まれ、殺したよりももっと多くの人間に襲われた」
魔王は自らの掌に視線を移す。
「それを撃退出来るだけの力はあった。だが、その力には、魔王の宿命がついてきた。多くの人間に憎まれ、生まれてきた時から命を狙われる、呪われた宿命だ」
魔王は前を向き直る。
「仕方なかったとは思わない。俺は罪のない人間も、罪のある人間も、確かに殺したんだからな。この世に正義はない。だからどんな殺しも正当化はされない」
魔王は体を振り向き、律の顔を見る。
「それでも、俺は図太く生きてきたぞ。どんなに罪を犯そうと、人間と向き合ってきた。その証が律だ」
魔王は律の肩に手をかけ、ミルクのいる家の方を向かせる。
「俺のようになれとは言わぬ。だが、自分でやったことの責任は自分でとるというのならば、しっかり話してこい」
そう言って、魔王は律の背中を力強く押した。
律は無言で、しかし確かに前を見据えて頷いた。
そして律がドアを開けようとした時―――――
「リツさん……?」
ちょうどそのタイミングでミルクが出てきた。
ミルクと律はぶつかりそうになり、両者は慌てて踏みとどまる。
なんとかぶつかるのを回避し、律は後ろに一歩下がる。
「すみません……」
申し訳なさそうに謝るミルクの顔が少し赤い気がしたが、気にせず律はミルクに話しかける。
「ごめん、ミルク」
「えっ……?」
突然謝られて、ミルクは困惑している。
「このままミルクから離れようとしてた。言い訳をして、二度と会わないようにしてた」
不思議そうな顔と不安そうな顔を混ぜたような表情をしているミルクに、律は全力で謝る。
「ごめん、逃げようとしてた!」
ひたすらに困惑していたミルクが表情を変え、律に言葉をかける。
「リツさんの判断ならそれが正しいと思いますし私はそれに従いますけど……」
ミルクがそう前置きして、自分の思いを告げる。
「お礼くらいは言わせてくれないと、こっちが困ります」
咎めるような口調とは裏腹に、ミルクは爽やかに笑っていた。
そんな笑顔に、律もつられて笑い出す。
かつてのミルクからは考えられないような雰囲気が、その場を包み込んでいた。
しばらく笑いあった後、律はミルクに言う。
「じゃ、そろそろ行くよ」
そう言う律に、ミルクは一瞬寂しそうな顔をする。
「ま、たまには会いに来るよ」
その言葉を聞き、ミルクの表情がぱあっと明るくなった。
そんなミルクを見て律も笑みを浮かべ、召喚した家に入る。
その家の窓から、小さな複製が飛んでくる。
「これは?」
「ミルクになにかあったらすぐに分かるように」
律は窓から顔を出し、言葉を発する。
「お守りだよ」
「ありがとうございます!」
ミルクは心底嬉しそうにそれを握る。
「じゃ」
「はい」
律とミルクは目を合わせ、別れの挨拶を告げる。
といっても、今生の別れというわけでもないが。
「「またいつか!」」
まずはここまで読んでくれてありがとう、ホントに。
本作はこれで最終回となり、ここで一旦完結となります。
いつも応援してくれる皆さんのおかげで、なんとかここまで書き上げられました。
名前分からないけど、いつもリアクションしてくれる人とか本当にありがとう。反応あるととても嬉しい。
新作もそのうちあげるのでこれからもよろしくです。
ではそろそろ終わりましょうか。
最後に。
ここまで読んでくれて、本当に、ありがとうございました~~~~!!!!!!!!!!




