銀の街
マエスの分身を倒した後。
律たちはピンの指し示す先へと向かっていた。
マエスの分身を倒した場所からかなり近く、あと数分で着くというところまで来ていた。
「!あれは⋯⋯!?」
そんな律たちの視界に映ったのは、そびえ立つ巨大な城。
その城は水銀で出来ており、鈍い光を放っていた。
「!」
直後律たちの前に降りてきたのは水銀の塊。
その中から出てきたのはマエスだった。
「やぁ、リツクン。こうして直接会うのは初めてかな」
マエスが笑みを浮かべて話しかけてくる。
律はそんなマエスに、静かに怒っていた。
「ミルクの母親を返してくれ」
それでも律はなんとか冷静を保ち、マエスに言葉を投げる。
「別にいいけど⋯⋯今はだめかな」
「どうしてだ?」
律は怒りを押し殺しながらマエスに問いかける。
「ここまで来た事だし⋯⋯特別に教えてあげるよ」
そう言ってマエスは話し始めた。
「ボクの目的から教えようか。簡単に言えば⋯⋯世界征服ってやつかな。そのためにキミのスキルが必要だった。彼女の母親を攫ったのも君をキミおびき寄せるためだよ」
マエスはミルクを指差しながら言う。
「ま、現にキミがこうしてボクの前に来てくれたわけだからね。彼女の母親にはもう用はないってわけ。でも今母親を返したらキミは逃げるかも知れない。だから返せない」
マエスは至って真面目な表情で言う。
「どうしたら返してもらえるんだ?」
「キミが大人しく捕まってくれるなら返してあげるけど⋯⋯そうするつもりはないだろ?」
そう言うマエスに律は頷く事で答える。
「だから今は返せないし⋯⋯っていうかさ」
真面目な表情だったマエスの顔が狂気じみた笑みに変わる。
「ボクを倒せば全部解決するじゃん」
その瞬間奥の城が水銀となりマエスに集まる。
律も【魔法砲撃】にて応戦し、大量の複製を一気に召喚する。
「【錬金・銀街】」
マエスがそのスキルを発動した途端、地面が揺れ始める。
その揺れは律とマエスがいる場所だけに収まらず、世界規模で大地を揺らしていた。
〘足元から何か出てくる!注意して!〙
一つの複製を操って【探知】を使っていた〘AI〙から、律に報告が入る。
直後揺れが大きくなり、地面からは水銀で作られた何かが姿を現した。
「!?」
〘これは⋯⋯〙
地面から生えてくるように姿を現したそれは、鈍く光を反射する水銀の街だった。
それは全世界に同時に現れ、かつて律と戦った者のもとにも現れていた。
魔王サイド。
「魔王様!揺れにご注意を!」
魔王四天王、エスペ・ヒズモが魔王に声をかける。
「ふむ。ただの揺れではなさそうだ」
「といいますと?」
魔王が下の方に眼を向け、エスペたち魔王四天王に注意を促す。
「下から何か来る。気をつけろ」
魔王がそう言った直後、地面から銀の街が現れる。
「ほう?流石に想定外だな」
その言葉とは裏腹に魔王に焦りや驚愕は見られず、落ち着いて周りを俯瞰する。
「【借力】天上の眼、ヤリビ・ベブ」
魔王がスキル【借力】を発動し他人のスキルを使用する。
「【天眼】」
瞬間魔王の視野が一気に広がり、辺り一帯をその天眼に捉える。
「ほう?」
魔王が笑みを漏らす。
銀の街の全貌がが【天眼】をもってしても捉えきれなかったのだ。
魔王がスキルにかける魔力を増やし、その視野をさらに広げる。
10倍、100倍、1000倍まで広げてもまだ捉えきれない。
「ふむ」
魔王はある程度広げたところで【天眼】を解除する。
「恐らく世界規模でこの街が生まれているな。尋常ではない大きさだ」
この緊急事態に、魔王は立ち上がり魔王城の外に出た。
「とりあえず魔王城周りの邪魔なところは消しておくか」
そう言うと同時、スキルを発動して銀の街を一気に焼き払った。
そして続くスキルで浮遊し、どこかへ向かう準備を整える。
「お出かけになさるのですか?」
エスペがそう尋ねると、魔王は笑みを浮かべて答えた。
「ああ、少々遊びにな。お前らは城を守っていろ」
魔王はそう言うと、一気にスピードを上げて飛んでいった。
律サイド
「さぁ、始めようか」
完全に狂気に染まった眼でそう言うマエスを、律は注意深く観察する。
〘来るよ!〙
〘AI〙がそう言うと同時、大量召喚された水銀の波が襲ってきた。
律はスピードを一気に上げて回避し、一度マエスから離れる。
強大な魔力を感じたのは、その瞬間だった。
「【錬金・神格】」
直後マエスの魔力が跳ね上がり、その身体は神のごとく強靭な肉体となる。
「勝てるのか⋯⋯これ?」
律がそう弱音を漏らしてしまうのも無理はない。
なにせ今のマエスは本気を出した魔王と同格レベルの魔力を放っていたからだ。
「流石に一旦退避したほうが――――――」
そこまで言った時、律の頭の中に声が響いた。
『その必要はない』
その声の主は―――――――
「魔王!?」
『ああ、俺のところにも銀の街が現れてな。今そちらに向かっている』
そこまで聞こえてきたところで、律の近くに何かが降ってきた。
「ちょうど着いた」
魔王が現着し、今のマエスへの勝率が一気に跳ね上がる。
「うーん、邪魔が入っちゃったなー」
マエスが魔王を恐れた様子もなく呑気にいい、律を指差した。
「リツクン、キミが持ってるそれ、手放した方がいいよ」
マエスが言っているのは、かつて律と戦いキューブに閉じ込められているコンドやギガント。
「だってそれには⋯⋯」
マエスが勿体ぶるように十分に溜めてから言う。
「"保険"が掛けられてるからね」
直後キューブから銀の光が漏れ、マエスと共鳴するように輝きを放つ。
律たちの視界が銀の光で埋め尽くされ、次に目を開けた頃には別の世界にいた。
「ここはボクが作った水銀世界。なかなか広いだろ?」
マエスが顔に笑みを浮かべて語り出す。
「さ、これで一対一だ」
「⋯⋯!」
マエスが顔に狂気の笑みを浮かべ、律は表情を険しくする。
マエスと律。
両者の戦いの火蓋は、切って落とされた。
魔王サイド
「ふむ」
魔王は律とマエスを覆うように展開された結界を見て、小さくつぶやいた。
「まぁ、壊せなくもないか」
そう言うと、結界に手をかけ破壊しようとする。
魔王が視界の端に魔力を捉えたのは、その時だった。
自らを飲み込むように襲ってくる魔力を感知し、魔王は咄嗟にバックステップする。
「ほう?」
襲ってきたのは冷気。
冷気と言ってもただの冷気ではなく、尋常ではない冷たさだ。
(手持ちのスキルであれを上回る凍結系は⋯⋯ないな。歴代魔王よりも上のスキルか)
魔王はそれを上回る凍結系スキルがない事を確認し、楽しそうに笑った。
「初めてだな。同系統のスキルで歴代魔王よりも上のスキルは」
魔王はそう独り言をつぶやき、目の前の者をまっすぐ見据えて話しかける。
「名乗れ。お前は何者だ?」
「⋯⋯」
目の前の冷気使いは数秒考えた後、深く被っていたフードを外し言った。
「極獄の白、ウラント・スペロ」
ウラントはそう言うと、静かに魔力を発した。
「借力の魔王アンドロ・レイデモだ」
魔王もそれに応じるように魔力を身体から立ち上らせる。
お互いがお互いを牽制し合っている状況。
先に動いたのは――――――――ウラントだ。
「【冷極】」
直後、魔王の身体を氷点下の霧が襲う。
「⋯⋯受けてみるか」
魔王は身体に防御用の魔力を纏い、その冷気を身体に受ける。
すると身体がパキパキと凍りつき、身動きが取れなくなる。
「ほう。なかなかいい魔法だ。少々動きづらい」
魔王が相手を称賛したところで、別の魔力が現れる。
「【至高剣術】【時空切断主】」
その魔力の持ち主は手に持った大剣大きくを振りかぶり、技を使用する。
「【微塵】」
魔王が氷を力任せに砕き、空間を埋め尽くすほどの斬撃を防ぐ。
「ふむ」
斬撃が止み、魔王は身体にまとわりつく氷を完全に砕き切る。
その手から、血が一滴垂れる。
「完全に防いだはずなんだがな」
魔王は不思議そうに傷口を見つめ、スキルの正体に気付く。
「空間ごと断ち切るスキルか。いいスキルだ。手に入れておきたい」
魔王は斬撃の拍子に舞い上がった土煙の向こうを見据える。
「先ほどの冷気使いとは違う者だな。名乗るといい」
「至高剣士ウステ・バザー」
ウステは迷いなく答え、大剣を握り直す。
「時間稼ぎ要員というわけか。つまらぬことをする」
魔王は呆れたような言葉を発しつつも、楽しげに笑みを浮かべる。
「まぁ、よい。相手してやる。かかってこい」
魔王は拳を構え、迎撃の姿勢をとる。
魔王側の戦いも、ようやく始まろうとしていた。




