倒したぞーっ!(〘AI〙)
光線に貫かれた兵士。
それに込められた魔力がみるみる減っていき、身体はボロボロと崩壊を始めていた。
それでも、兵士は最後に抵抗を残していった。
「【時空切断主】派生」
兵士はなけなしの魔力を振り絞り、ミルクの母親が入ったキューブに魔力を込める。
「【転移】」
一瞬キューブが光り、どこかへと飛ばされる。
律に動揺や怒りは見られない。
どこかに転送されるのは覚悟の上だからだ。
最後の魔力を使い果たした兵士の身体は完全に崩れ去り、魔力の塵となって空へ消えていった。
律は空に散る魔力と倒れたまま動かないコンドを見て、小さくつぶやいた。
「次だ」
少し時間が経ち、【飛行】を使って移動中。
律は部屋にこもり、有用そうな機能を片っ端から購入している。
今まではあまり購入はしなかったが、コンドとの戦闘を経て購入するようにしたのだ。
なぜ律は購入しなかったのか。
それは、単純に扱いきれないからだ。
あまり機能を増やし過ぎると判断が遅れ、むしろ不利になってしまうのだ。
だが律は今機能をたくさん増やしている。
それは、作者が戦闘シーンを派手にしたi、ではなく。
【人格付与】の機能が手に入った事により、〘AI〙に全ての対応を任せられるようになったからだ。
「うーん、使えそうなやつ使えそうなやつ⋯⋯【爆弾魔法陣】?とりま買っとくか」
適当に色々追加しておけば〘AI〙が上手く使ってくれるだろう。
そう思っていた律は、聞こえてきた〘AI〙の声で真実を知ることになる。
〘あー、律さん?多分だけど僕にその機能群使わせようとしてるよね?〙
「そうだけどどうした?」
〘僕そこまで性能良くないから全部完璧なタイミングで同時使用とか無理だよ?〙
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」
固まった律が一応聞き返す。
「わんもありぴーとぷりーず?」
〘だから、そんなにたくさん機能あっても使いこなせないって〙
律は謎の虚無感に包まれながら、機能返品のボタンを探し始めた。
〘あーっ。ちょっと待ってちょっと待って〙
そんな律を〘AI〙が慌てて止める。
「何だ?」
心なしかげっそりとした表情の律がなんとか返答する。
〘使いこなせないって言っても、今のままではって事だ〙
「⋯⋯つまり?」
意味をよく理解出来なかった律が〘AI〙に聞き返す。
〘【人格付与】のレベルを上げれば僕の性能も上がる。そうすればこの大量の機能群を使いこなすのも夢じゃない!って事さ〙
「なるほど!」
〘AI〙の言葉を聞いた律の顔が段々明るくなってくる。
律は最速でウィンドウ、【人格付与】のところまで飛び、レベルアップを連打する。
《人格を増やしますか?一つの性能を上げますか?》
「人格を増やす?」
律が表示された文字を見て首をかしげる。
〘それは文字通り、僕以外の人格を追加するって事だよ。それぞれに別の仕事を与えることも出来るから性能を上げるのと得られる効果は同じなんじゃないかな〙
「じゃあどっちの方がいいんだ?」
律が再び〘AI〙に聞くと、〘AI〙は迷いなく答えた。
〘一つの性能を上げた方がいいね〙
「なんで?」
〘あんまり登場人物が増えすぎると会話シーンがめちゃんこ大変になるからだよ〙
「え?」
〘あっ、違う違う今のは忘れて〙
よく分からなかった律が聞き返すと、〘AI〙は慌てて訂正した。
「わ、わかった。詳しくは聞かないでおくよ」
〘うん、ありがとう。いや危なかった〙
律がよく分からないながらもとりあえず言うと、〘AI〙は心底ほっとしたような口調で言った。
「ちなみに、どのくらいレベルアップすれば使いこなせるようになるんだ?」
〘機能の量にもよるけど⋯⋯今ある機能の量なら2回レベルを上げるだけで十分に対応出来ると思うよ〙
「おっけー。それなら余裕を持って3回レベルを上げておこう」
〘賢明な判断だね〙
律は性能を上げる、という選択をして3レベル上げる。
「あと何か必要な機能はあるか?」
〘多分大丈夫じゃない?他の機能も付け足すんだったらもっと性能を上げる必要が出てくるかもだけど〙
「おっけー。とりあえず使えそうな機能追加し終わったらまた呼ぶわ」
〘いつでも呼んでいいからね〜〙
そう言って〘AI〙は家の運転に戻っていった。
「さて、機能探しするかぁ〜」
〘AI〙の声が聞こえなくなって少し寂しさを感じた律だが、すぐに機能探しを再開してウィンドウを見つめ始めた。
「ってかやっぱ機能の数多すぎだろ⋯⋯」
困ったようにそう言う律の表情には、温かい苦笑が浮かんでいた。
律は部屋で機能探し、ミルクはキッチンで料理、レイトは少し気まずさを感じながらリビングで本を読んでいた。
少し前ならこれで全員だったが、今は違う。
家の機能によって現れた最後のメンバー、家の運転を担っているその者の名は――――――――
〘そう!この僕AIだよ!〙
〘AI〙は家を運転しながら、1人心の中でかっこいい(個人(AI)の主観)セリフを考えていた。
〘やっぱり暇だな〜〙
〘AI〙は家の運転に退屈していた。
律は機能探し、ミルクは料理で忙しそうだしレイトは気まずそうにしてるから話しかけづらい。
〘ピンの地点にもまだまだ着きそうにないし⋯⋯〙
〘AI〙はぼんやりと流れていく景色を眺める。
〘おっきな湖だなー〙
〘AI〙は割とガチで退屈していた。
〘家の中の様子でも眺めてよ〙
〘AI〙は外から家の中に視点を変え、まずはミルクの作っている料理を見てみる。
ミルクはフライパンでじゅーじゅー焼いたり、野菜をトントン切ったり、その合間で使い終わった調理器具を洗ったりと忙しそうだ。
〘やっぱ今話しかけたら迷惑だよねぇ⋯⋯〙
ミルクの大変さを知った〘AI〙は、レイトの読んでいる本を見てみる。
プライベートの侵害と言われそうだが、〘AI〙にそんな知識はないし、バレようもない。
レイトが読んでいる本は、哲学のような本だった。
答えのない問いに答えを求め続ける。
人によっては面白いと感じるのだろうが、あいにくと〘AI〙はそんな感性を持っていなかった。
〘てつがくぅ⋯⋯?僕には難しかったみたいだ⋯⋯〙
ちょっとがっかりしながら、〘AI〙は律の部屋へと視点を移す。
律は変わらず機能探しをしており、ずっとウィンドウとにらめっこしている。
大変そうに見えたが、同時に楽しそうにも見えた。
〘うーん⋯⋯〙
〘AI〙は今回の観察で新たな知見を得ることが出来た。
〘人間って⋯⋯難しい生き物だなぁ⋯⋯〙
〘AI〙は人間の事についてまた一つ賢くなった。
数日後。
まだ目的地には着きそうになく、〘AI〙も暇していたある日。
ドォォォォン!!
「何だ!?」
突然の揺れに、機能探しをしていた律が立ち上がる。
〘誰かから攻撃されたみたい!【探知】勝手に使うね!〙
〘AI〙が【探知】を使うと同時に、律の視界にもサーモグラフィーのような画面が共有される。
〘だめだ!どこにもいない!〙
(肉眼でも【探知】でも補足出来ない?じゃあ一体どこから⋯⋯)
律は思考するが、すぐに思考をやめる。
(違う。今必要なのは一刻も早く敵を見つけること)
ならば。
「〘AI〙!上空に上がって【魔法砲撃】を連射しろ!俺の魔力を使ってくれて構わない!」
〘りょーかい!〙
〘AI〙は最高速度で家を上空まで連れていき、律の魔力を借りて光線の雨を降らせる。
するとその光線はすぐに着弾し、当たった者の姿があらわになっていく。
やがて現れたのは鉄で作られた巨大な機械兵士。
「これは⋯⋯!」
「やぁ。久しぶり」
律の耳にかつて戦った、宿敵の声が届く。
「マエス⋯⋯!」
怒りで頭の奥が煮えるように熱くなっていく。
「ここまでたどり着いたごほうびに、いくつか教えてあげるよ」
マエスが律の怒りを気にもとめずに喋り始める。
「さっき肉眼で見えなかったのはこのアイテム、【透過水晶】のおかげ」
マエスは、砕け散った水晶を見せる。
「ま、君たちが看破したせいで使えなくなっちゃったけどね。はぁ」
マエスはため息をつくが、その表情は楽しげだ。
「あともう一つ、このボクは分身で倒しても意味はない。そして⋯⋯」
マエスは勿体ぶるように間を空けてから言った。
「この分身を倒したら、次は本体が相手してあげるよ」
「二言はないぞ」
律はマエスに怒りに染まった目を向け、放たれた光線は開戦の合図となった。




