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異世界召喚されたけど家でだらだらする  作者: マスカット寿司
ミルクの幸せまで

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32/45

水銀から抜け出せ!

 家を押し潰さんと圧縮する水銀。

 ギシギシと今にも潰れそうな音を上げる【魔法障壁】。


 それらは全て、律の不安をこれでもかとあおっていた。


(どうする?)


 律はとりあえず考える時間を増やすため、家を小さくして【魔法障壁】も縮小、時間を稼ぐ。


 これなら【魔力貯蔵庫】で長時間耐えられる。


 時間を稼ぐ事に成功した律は、砲口に魔力を溜めて放出する。


 家がミクロサイズなため、ミクロサイズの小さな穴を空けるだけでいい。


 一点集中で威力を上げた光線は水銀を軽く貫き、家が通る道を作り出す。


 案外簡単に脱出出来そうで律の心に安堵感が湧いたが、その安堵感はすぐに砕かれる。


 水銀が形を変え、作り出した道を塞いだからだ。


「ちっ」


 舌打ちしたのも束の間、律の頭の中にビー、ビー、という警告音が響く。


 律がウィンドウを開くと、状況をさらに悪くする通知(知らせ)が届いていた。


―――――――――――――――――――――――――


【魔力貯蔵庫】の残り残量が少なくなっています!!


残り魔力量:20%


―――――――――――――――――――――――――


(まずいな)


 律が何かないかと思考している間にも、残り残量はピッ、ピッ、と減っていく。


 そしてついに、魔力が底を尽きる。


 律が渋い表情を浮かべて自らの魔力を解放し、【魔法障壁】を維持する。


 そしてウィンドウにて、自分の残り魔力量を表示する。


 律はとりあえず砲口に魔力を込め、【魔法砲撃】に賭ける事を決める。


 少しして撃てる状況になるが、まだ足りない。


 もっと溜めて最大威力で放たなくては。


 そのまま溜め続け、10分が経過する。


(⋯⋯ん?)


 何かがおかしい。


(魔力が⋯⋯全然減らない?)


 自分の魔力を解放してからもう10分以上も経過している。


 それに加え、使っているのは燃費の悪い【魔法障壁】だ。


 だが、現在の律の残り魔力は98%。

 と、表示されている。


 ⋯⋯ミシミシミシ。


 魔力が増えた理由を考えようとする律の意識は、【魔法障壁】の悲鳴で引き戻された。


(とにかく、今はこの状況からの脱出だ!)


 律は充分に溜めた魔力を解放し、水銀の塊に内側から穴を空ける。


 溜められた光線は先ほどよりも広い道を作り出し、再び閉じる前に家を脱出させるだけの時間を生み出した。


 水銀の塊からようやく脱出した律たち。


 その視界に映ったのは、鉄で作られた大量の兵士、そして奥に見える巨大な機械兵士(ロボット)だった。


「やぁ、遅かったね」


 律が声のした方に顔を向けると、ロボの上に乗っているマエスがいた。


「君を倒す準備はもう充分だ。そっちはどうだい?」


 その言葉に、律は魔力の溜まった砲口を向けることで返す。


「じゃあ、始めようか」


 そう言うと同時にロボが動き出し、鉄で作られた兵士は律に向かって歩き始めた。


 律は複製(コピー)を召喚し、その砲口に魔力を溜める。


 すぐに到達しそうな兵士たちは、律たちが乗っている本体の【魔法砲撃】で焼き払う。


 そこで複製(コピー)の砲口に魔力が溜め終わり、巨大なロボにも光線を撃ち込む。


 少しして光線による土煙が晴れ、律が苦い表情を浮かべる。


 巨大なロボはもちろんの事、大量の兵士まで鉄の盾を召喚して耐えていたのだ。


(⋯⋯厄介だな)


 律が倒す方法を模索していると、ロボが動き家に殴りかかってきた。


 律は家を動かしてそれを避け―――――


「っ!」


 避けたはずのロボの手が伸び、家を掴んできた。


 そのまま遠くに家を投げようとしてくる。


「やらせるかよ!」


 律は至近距離で【魔法砲撃】を撃ち込みつつ、【魔法障壁】を一瞬広げる事でロボの腕から逃れた。


 当然ロボはまだまだ攻撃を仕掛けて来るが、律は攻撃の隙を突いて最大速度を出し、ロボから逃れ―――――――


「逃さないよ」


 マエスがロボから飛び出し、水銀の流れにて家を元の位置まで戻す。


 そして水銀で辺りを覆い、退路を潰してきた。


「これで逃げられないよ」


「そっちもな」


 そのタイミングで砲口に魔力が溜め終わり、律がニヤッと笑う


 そうして至近距離で放たれた【魔法砲撃】はマエスを襲い、その身体を貫いた。


「やられちゃったかー」


 マエスの胴には穴が空き、鉄の兵士やロボも崩壊し始めた。


 律の勝利。


 そのはずなのにマエスは辛い素振りを一切見せず、表情は満足気だ。


「早くキューブを返してくれないか」


 容赦せず言う律にマエスは笑い、こう返した。


「いやだね」


 マエスは最後の力を振り絞って水銀を召喚し、時間を稼ぐ。


 律は咄嗟に魔力を消費し、溜め時間スキップの【魔法砲撃】を発動。マエスを攻撃する。


 だが、マエスはすぐに魔法陣を描き終わり、どこかへキューブを転送する。


(やられた!)


 律は表情を歪める。


 キューブがまたどこかに送られた以上、ここにいる理由はない。


 律がレイトに頼み、マエスをキューブへ閉じ込めようとする。


「無駄だよ」


「は?」


 そう言ったマエスの身体は崩壊を始め、砂鉄へと姿を変えていく。


 律が目を見開いて、驚愕をあらわにした。


(人間じゃない!?じゃあ俺と戦っていたのは――――)


 そこで、律の頭にマエスと同じ声が響いてくる。


『やあやあリツクン。僕の分身は倒せたようだね』


 律が忌々しいといった表情を浮かべる。


「何が目的だ」


『それは言えないな。とりあえずキューブを取り返しに来てよ。ただ、今キューブを持ってるのはボクじゃないから、気をつけて挑んでね』


 そこまで言ったところで、魔法通話は切れてしまった。


「マジでムカつく奴だ」


 律はそう呟き、次の地点までの自動運転を開始する。


「絶っっ対に取り戻してやるよ」


 律はもう既に通話の切れたマエスに向けて、自分への戒めとして、その言葉を口にした。




 マエスの分身を倒してから、一日が過ぎた。


 最高速度でピンの地点まで向かっているが、まだまだ着きそうにない。


 どうやら今回は相当遠いようだ。


 現在律は自分の部屋にこもり、対策を練っている。


 対策を練るといっても相手は未知数だし、精々が自分の弱点を無くすぐらいしか出来ない。


―――――律の弱点。


 前々から分かっていた弱点。根本的な解決はいまだ出来ていないもの。


 それは、魔力の供給源を絶たれる事だ。


 水銀や結界、魔法の渦に飲み込まれ、【魔法障壁】の魔力供給源を絶たれる。


 【魔力貯蔵庫】や家のサイズを小さくする事で対策はしているが、根本的な解決は出来ていない。


 律はこの時間で、この弱点を無くせるような機能を探しているのだ。


 だが、なかなか見つからない。


 【魔力製造】など有用そうな機能はあったものの、そもそも【魔法障壁】の燃費が悪すぎて製造が追いつかないのだ。


 あるかは分からないが、探す事自体が無意味なわけではない。


 弱点の解消とは関係なくとも、使えそうな機能は購入してあるし、いざとなった時にすぐ買えるよういくつかの機能に目星は付けてある。


 そして機能探しと並行して、別の事もしている。


 【家改造(リフォーム)】の設計図作成だ。


 今まで通常ハウスモードと海賊船モードしかなかった家だが、今はそれがいくつか増えている。


 実際の戦闘に使えそうなものもあれば、いわゆる男のロマンを満たすものなど、様々だ。


 現在制作しているのは戦闘機。


 実際に戦争などに使われているものを律が思い浮かべた結果、出てきたのが戦闘機だ。


 無駄は極限まで省き、形を本物に近づける事により普通の家より空気抵抗が減り、早く飛べるようになる。


 まだ制作途中なので、本当にそうなるかは律の腕次第だろう。


 そんな感じで作業していた律の意識が、ミルクの声で引き戻される。


「リツさーん、ご飯できましたよー!」


「分かった!今行く!」


 そう言って律は作業を辞めた。


(ご飯食べ終わったらまた設計図作りつつ有用そうな機能探すか⋯⋯)


 大変ではあるものの、自分が設計図作りを楽しんでいる事に気づいた律は、小さく笑う。


 だが、次の瞬間には真面目な表情に戻り、


(次の戦いまでには弱点を無くして、最低今作っている設計図は完成させておきたい。そして次こそはキューブを手に入れて、ミルクの母親を取り返してやる!)


 そう思い、律は改めて決意を固めた。

明日学校とか職場に行けば休みですよ!

耐えろ!

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