勝負だー!
人々の月曜日の希望になれたら幸いです。
砲口に魔力を込め、目の前の軍勢に向かって一気に解放する。
広範囲への攻撃を重視した【魔法砲撃】が、軍全体に少しのダメージと、追加効果を与える。
反撃するため、魔法陣を構築しようとした兵士たちの動きがガチッと止まる。
先ほどの【魔法砲撃】の追加効果。
それは、いつも通り役に立つ電気効果、麻痺だった。
「これなら手際よく軍を無効化できるな」
「やられる側からしたら相当ムカつくだろうな」
少し自慢げに言った律に、借金取りのボス、レイトが引いている。
魔王四天王や刀使いの男とは違い、麻痺がしっかり効いて動かなくなった兵士たち。
その横を、律たちの海賊船がゆうゆうと通っていく。
律は目の前の巨大な建物を見つめ、ミルクに聞こえるように告げた。
「ミルクの母親を⋯⋯返してもらうぞ!!」
少し遡り。
律たちはピンの地点へ向かっていた。
とはいえもうピンはすぐそこであり、あと数分で着くような距離だった。
「なんだこれ?」
全速で進んでいた律たちの前に立ちはだかったのは、辺り一帯を囲う巨大な結界だった。
近づくとバチバチと火花が散り、律たちの侵入を拒んでいる。
⋯⋯⋯⋯とはいえ。
魔王四天王の結界を見てきた律たちにとっては、この程度の結界、取るに足らないほど脆いものだった。
律は複製を1つ召喚し、【魔法砲撃】にて結界を容易く破る。
そして結界の内側に入った律一行。
その視界に真っ先に飛び込んできたのは、冒険ギルドの建物などかわいく見えるほどの巨大な建物だった。
「!?」
「あれは⋯⋯」
次に飛び込んできた光景に目を見開く律とレイト。
(大量の⋯⋯兵士、軍勢⋯⋯!)
巨大な建物の前に、大量の兵士がズラリと並んでいたのだ。
驚く律たちの耳に、何者かの声が入ってくる。
『やあやあ、会えて嬉しいよ。確か⋯⋯リツクンと言ったかな?』
聞こえてきた声に、律がまゆを寄せる。
「お前は誰だ?」
律がその声の主に問いかける。
『今はまだ言えないかな。君たちがここまで来れたら、考えてあげよう』
声の主がそう言った瞬間、律の頭にピコンと通知が届く。
律がウィンドウを開くと、こんな通知が入ってきた。
―――――――――――――――――――――――――
逆探知に成功しました!
相手にピンを設置しますか?
―――――――――――――――――――――――――
(普段なら喜ぶところだろうがこれは⋯⋯⋯⋯⋯)
『そろそろ逆探知できたかな?逆探知しやすいよう魔力の波長を変えたんだけど』
(やっぱりか)
律の予想通り、これは相手がわざとやった事だ。
つまり。
「相当俺たちを舐めてるみたいだな」
『まさかまさか?そんな事ないさー』
胡散臭い口調で相手が返してきた。
『ま、最低これくらいは乗り切ってもらわないとね』
相手がそう言った瞬間魔法による通話は切れ、軍勢から魔法が飛んでくる。
大量の兵士が一気に魔法を放ったのか、凄まじい物量と威力だ。
だが、ドラゴンの吐息に比べれば。
魔王の魔力に比べれば。
この程度の攻撃、虫の体当たりもいいところだ。
魔法が止んだ時、そこにはヒビすら入っていない【魔法障壁】と、傷一つ付かず健在な家が浮かんでいた。
そして、律はいまだ見えない相手に向かって叫ぶ。
「まずはこいつらを一掃してからお前を倒しに行く。覚悟しろ!」
律は砲口に魔力を溜め、建物の中に見える2つのピンに向かって撃ち込む。
建物の耐久性は思っていたより低く、破壊属性を付与した光線は難なくその建物に風穴を空けた。
律は【探知】を発動し、中の人影をその眼に捉えようとする。
(⋯⋯映らないか)
刀使いの男と同じく、何らかの手段で【探知】を無効化しているようだ。
律たちに緊張が走る中、先ほど魔法で話しかけてきた男が今度は直接律に話しかける。
「おや、思ったよりも早かったね。ボクびっくりしたよ」
光線による土煙が晴れ、男の姿があらわになる。
いかにも高級そうな服を纏い、椅子に座って足を組んでいる。
そして、その手にはミルクの母親が入ったキューブを持っていた。
周りは魔法による障壁で囲われており、建築物破壊に特化した【魔法砲撃】では壊しきれなかったようだ。
「そのキューブを返してくれないか」
話し合いで解決出来ないかと律は対話を試みる。
「やだよ。どうしても返してほしいってんなら⋯⋯そうだなー」
男はあごに手を当て考えるような仕草をしたあと、こちらをバカにしたかのような、軽薄さが伺える笑みを浮かべて言った。
「そこのミルクって人と交換かなぁ⋯⋯」
律は無言で砲口に魔力を溜め、男に向ける。
真顔になり砲口を見つめる男に律は短く、
「分かった」
と一言。
直後、律の魔力も上乗せされた【魔法砲撃】が、男に向かって放たれた。
ドゴゴゴゴ、と音を立てて建物が破壊される中、飛び上がった男は律に声をかける。
「交渉決裂、でいいかな!」
「そう思ってくれて構わない!力ずくで手に入れてやる!」
2人が叫ぶ中、男の魔法と律の光線がぶつかり合う。
「【アイアンバレット】!」
「【魔法反射】!」
男の放った鉄の弾丸が律の障壁に跳ね返され、弾丸は主人を襲う。
「【アイアンシールド】!」
鉄の防壁を召喚し弾丸を防いだ男がその顔に笑みを浮かべる。
瞬間、鉄の壁を貫通して光線が男を焼きにかかる。
男は即座にバックステップするも、光線のスピードの方が早く着弾点が爆発する。
(どうだ?)
もうもうと上がる土煙の中から律の期待を裏切るように男が飛び出してくる。
空中で光線をいなしながら、男は律に声をかける。
「そういえば自己紹介がまだだったね!ボクの名前はマエス・デマリオ!マエスと呼んでくれ!」
律が無視して男――――マエスに光線を仕向ける。
「【クイックシルバー】!」
男は水銀を召喚し、流れるようにして光線を回避する。
さらに水銀を【魔法障壁】に薄く張り付け、こちらの視界を完全に塞いできた。
今では【魔法障壁】の2枚同時召喚も可能なため、この程度の攻撃を対処することは容易い。
だが。
「っ!」
今のうちにと攻撃しようとしたマエスが、何かを感じ取り家から離れる。
次の瞬間、【魔法障壁】に向かって降ってきたのは、一本の巨大な光線。
それは、上空に待機させた複製から放たれた【魔法砲撃】だった。
「あぶないなぁ!」
【魔法砲撃】によって水銀を取り払った律が、さらに攻撃を仕掛ける。
律は家から一本の光線を放ち、マエスを攻撃する。
当然マエスはその攻撃を余裕で回避するが、次の瞬間には複製が後ろに回り込んでいた。
だが、その複製の砲口には魔力が込められておらず、それはむしろマエスの警戒心を高める。
その瞬間、律は本体の家から自腹の魔力で溜め時間をスキップした【魔法砲撃】を放った。
「っ!【アイアンシールド】!」
突然の不意打ちにもマエスは反応し、咄嗟に使い慣れた防御手段を取る。
普通なら鉄の壁1つあっさり貫通しているところだが、マエスは冷静に壁を2重3重と重ねていた。
「ざんねん、不意打ちは失敗――――――」
感じ取った魔力にマエスが振り向いた時には、光線は既に間近に迫っていた。
マエスがあっさりと回避した先ほどの光線。
それは後ろに回り込んだ複製、それに纏われた【魔法障壁】に反射して、マエスを襲っていた。
マエスは咄嗟に腕を前で交差し、そこに魔力を集中させる。
マエスに光線が直撃し、大爆発を起こす。
数秒後、光が止み、マエスの腕からはポロポロと鉄の粉が落ちていた。
光線に直撃する直前、マエスは腕に鉄を纏い威力を軽減させていたのだ。
(強いな⋯⋯なかなか倒せない)
律が倒す方法を思考したところで、マエスが楽しそうな表情を浮かべて叫んだ。
「今度はこっちから行かせてもらうよ!」
マエスは空に向かって手を向ける。
その手に魔力が集まり、空中には大量の水銀が浮かび始める。
やがてとんでもなく大きくなった水銀の塊は、竜巻のように渦を巻く。
その巨大な渦はマエスを隠し、家を飲み込み、律の視界を完全に塞ぐ。
「【銀渦】」
やがてその渦は律の家で一点に集中し、外からの魔力供給を断つ。
マエスが拳を握る動作をすると、水銀は圧縮され、プレス機のように家を握り潰そうとする。
魔力供給源を絶たれた【魔法障壁】が、ギシギシと悲鳴を上げる。
律の表情がゆがみ、その顔に焦りが浮かぶ。
(まずいまずいまずい!)
なぜこんなにも文字数が増えてしまったんだ⋯⋯?




