光線と刀
始まった両者の戦い。
もう何度も光線と斬撃を撃ち合っているが、お互いに決め手に欠けていた。
斬撃は【魔法障壁】で無効化。
【魔法砲撃】も届く前に刀で切られてダメージを与えられない。
ずっと続けていればいつかは倒せるだろう。
だが、今の律にそんな時間はない。
――――――ならば。
「ウィンドウオープン」
決め手がないなら作ればいい。
手札がないなら増やせばいい。
家の機能を追加し、有効打を与える。
斬撃が家に向かって飛んでいき、【魔法障壁】を破壊せんと迫る。
今回律が追加した機能は―――――
「【魔法反射】」
【魔法障壁】にぶつかった斬撃が強化されて跳ね返り、斬撃を放った男の元へまっすぐ飛んでいく。
当然男はその斬撃を迎撃し、難なく斬撃を相殺する。
だが、男の表情は先ほどよりも苦いものになっていた。
「ちっ」
勝ち筋がないと悟った男が刀を納め、撤退という手段を取る。
「逃さないぞ」
【魔法障壁】の応用。
魔王を閉じ込めた時のように【魔法障壁】を広げ、男をその範囲内に入れる。
そして、律の固有スキル、【家召喚】のランクが銀まで上がった事により、【魔法障壁】は二重展開が可能になっている。
律は複製を最大数召喚し、その全ての砲口に魔力を溜める。
男が諦めたように刀を構え、迎撃の準備を整える。
魔力を溜め終えた砲口から、魔力の光線が放たれる。
付与属性は電気。
男は分散されて放たれた光線に対して最低限を捌き、他は避ける事で対応する。
普通ならそれで終わり。
だが、【魔法反射】の効果により光線は跳ね返り、弾幕の嵐となって再び男を襲う。
多方面から襲ってくる光線を、男は避け続ける。
いくら男に技術があろうとも、刀は一本。
跳ね返るたびに光線は強化されるため、既に男の魔法で防げる威力ではない。
光線を避けるのに苦戦していた男だが、しばらくするとその動きが変わり始める。
「⋯⋯⋯!」
男も【魔法障壁】を利用し、光線を避け始めたのだ。
壁を走り、壁を蹴って跳び、時には自分の斬撃を反射させて光線に対応する。
その全ての動きが。
戦いの素人である律にも分かるほど、洗練されたものだった。
魔王のような圧倒的強さとは違う。
経験とそれに比例した技術に裏付けられた強さ。
魔力や魔法だけではない強さを、律は目の当たりにしていた。
とはいえ。
人間はいつか必ずミスをするものだ。
男が壁を走って跳び、光線を避ける。
それから地面に到達するまでの僅かな隙。
地上よりも遥かに動きづらい空中の自由落下中に、2つの方向から光線が襲った。
「っ!」
男が明らかに驚愕したような表情で迫る光線を見つめる。
斬撃も飛ばしておらず、刀一本では対処は出来ない。
律が勝利を確信したその時、男の目が変わった。
次の瞬間男がいる地点で爆発が起こり、その爆風を斬り裂いて男が現れる。
「マジか⋯⋯」
律には見えていた。
男は体勢を変えそれぞれの光線の着弾時間を僅かに変え、それにより出来た余裕で一方を受け流し、もう一方にぶつける。
その結果光線は相殺し合い、男はほぼ無傷でこのピンチを乗り切ったのだ。
当然まだ光線は残っているが、男には容易く対処されてしまうだろう。
再び訪れる、お互いに決め手がない膠着状態。
先に動いたのは、男だった。
家に向かって極大の斬撃を飛ばし、驚く律の視界を塞ぐ。
その隙に光線が当たる位置に移動し、巧みに受け流し相殺させる。
その技術とスピードは凄まじく、律が再び男の姿を捉えた時には、既に光線は消えていた。
男が足に魔力を込める。
次の瞬間、男は一気にスピードを上げ家に斬りかかってきた。
律が気づいた頃には男は後ろに回り、家を斬り終わった状態でいた。
遅れて【魔法障壁】に走る斬撃。
【魔法反射】は魔法、もしくは遠距離攻撃にしか作用しないため、この攻撃は跳ね返せない。
ただ、跳ね返せずとも【魔法障壁】を破る事は至難の技だ。
そして当然のように男の攻撃に耐えた【魔法障壁】は、追撃の隙をつくる事を許さない。
「【魔法障壁】、縮小」
律は外側の【魔法障壁】を縮小させ、男に確実に攻撃を当てにいく。
「っ!」
男に迫る【魔法障壁】。
なんとか抜け出そうともがくが、もう遅い。
2枚の【魔法障壁】に板ばさみになり、ついに男が動けなくなる。
男の前に現れる魔法陣。
それに気づいた男がアクションを起こす前に、【魔法砲撃】は放たれた。
男の動きが止まる。
「!?」
今回の【魔法砲撃】に与えられた属性は、毎度お馴染み電気。
外側の【魔法障壁】が消され、麻痺の効果で動けない男が自由落下を始める。
絶好のチャンス
そのタイミングで、砲口にはずっと溜められ続けて凄まじい量になった魔力が放たれた。
だが、【魔法砲撃】が男に到達する直前。
男の視界を【魔法砲撃】が埋め尽くしたタイミングで、男の動きがついに許される。
瞬時に動いた男が刀を構え直す。
あとコンマ数秒で【魔法砲撃】が着弾する。
男は集中力を一気に高め、その全意識を刀に集める。
男に向かってまっすぐに飛んでいく【魔法砲撃】を迎えうったのは、絶技と膂力の合わせ技。
鍛えた力と洗練された技、極限の集中力をもって、【魔法砲撃】を受け流す。
直後、ぶつかり合ったのは刀と光線。
技と力。
閃光と火花が散る中、最後に空中に残ったのは。
光線を受け流し、その大半を後ろに流した男の姿だった。
その身体が自由落下を始める。
男は受け身を取るため体を動かそうとするが、動かない。
「!?」
男が大半を受け流した【魔法砲撃】。
その属性は電気。
大半を受け流したとはいえ僅かに男の体に掠った光線はいくつかあった。
(ここまでか⋯⋯)
そう思い諦めた男の身体を受け止めたのは、海賊船型の複製。
その海賊船に降りてきたのは。
律とミルク。
そして、借金取りのボスだった。
男を倒してからしばらく経ち。
律達はミルクの母親が入っているキューブの地点まで向かっていた。
「やっぱり便利だなそのスキル」
「ああ、我ながらいいスキルだと思う」
ボスを褒めるように言った律に、ボスは手の中のキューブを見つめながら答える。
そのキューブの中には、先ほど戦った男が入っている。
律に男を殺す勇気がなかったため、ボスのスキルを使ってキューブの中に捕らえているのだ。
「それで⋯⋯」
控えめに声を出したミルクに、律とボスが顔を向けた。
「どうした?」
「キューブを取り返しに行くんですよね⋯⋯?」
確認するように問いかけたミルクに、律は答える。
「そうだぞ」
「何か作戦とかはあるんでしょうか⋯⋯?」
少しだけ不安そうなミルクに、律は納得した。
自分のためにこんなやってもらっていいんだろうか、とか、本当にこのままいっても大丈夫なんだろうか、とかの感情が入り混じって、言いようのない不安と化しているのだろう。
そんなミルクに律は苦笑し、すぐに安心させるような笑みに切り替えて答える。
「大丈夫だ。俺(の家)は強いし、今回は借金取りのボスもいる。必ずミルクの母親は取り戻してやる。だから安心しろ」
そう言った律を見て、ミルクは笑みを浮かべ、安心したように感謝を口にする。
「ありがとうございます⋯⋯」
そんなミルクに律も安心したかのように笑い、改めてキューブを示すピンの方を向いた。
「そろそろキューブの地点に着く。心の準備をしていてくれ」
ピンの地点はもう間近に迫ってきている。
(ミルクの母親を取り戻すまで、あと少しだ)




