魔王
目の前にいる圧倒的な魔王
その場から逃げ出したくなるような、威圧感。
何より恐ろしいのは、それを魔王自身が意図して行っているものではなく、溢れ出る魔力によって無意識に行われている、ということだ。
「お前ら、俺に何の用だ?」
律の肌から汗が滴り落ちる。
息の仕方すら忘れそうな程の威圧感に全身を刺されながらも、律はなんとか言葉を絞り出した。
「お、お前が攫っていった男に会わせてほしい」
「なぜ魔王様がそんな事を――――――」
エスペの言葉が魔王によって遮られる。
「よい。お前らはドラゴンを連れて魔王城に戻っていろ」
魔王の言葉を聞いた四天王達は、ドラゴンを魔王城へ運んでいった。
つまり、ここに居るのは律達と魔王だけになった。
魔王が改めてこちらを向く。
「さて、俺が攫った男に会わせてほしい、という話だったな」
律が頷く。
「結論から言うと、会わせるくらいなら別に構わん」
律がほっとしたのも束の間、魔王からこんな言葉が飛んでくる。
「ただし、条件がある」
律はまゆをひそめ、魔王に問う。
「条件⋯⋯⋯⋯というと?」
律が乗り気に見えたのか、魔王は笑みを深めて説明する。
「最近、代わり映えのしない日常で、少々退屈でな。何か面白いものはないかと探しているんだ」
共感を求めるように言ってくる魔王の言葉に、律はこの後の展開を察した。察してしまった。
「俺と戦い、面白いと思わせられたら願いを叶えてやる」
自分の予想が間違っていてほしかったという律の思いも虚しく、ここに魔王との戦いが決定されてしまった。
数十分後、律達と魔王は闘技場にて向かい合っていた。
あの後魔王は律を連れて魔王城に戻り、魔法にて闘技場を創り出したのだ。
ちなみに律は引いていた。
そしてを面白いと思わせたら男に会わせる、という内容の魔法契約を結び、律は魔王との戦いに臨んでいた。
戦闘開始の合図が鳴り、臨戦態勢を取る。
「では、いくぞ」
魔王が魔力を解放し、固有スキルを発動する。
「【魔王借力】」
突如、魔王が電気を纏う。
「雷鳴の魔王、トゥルエド・レイデモ」
魔王の纏う電気、その魔力が膨れ上がり、電気は雷と化す。
次の瞬間、【魔法障壁】を大量の雷が襲っていた。
雷速。およそ秒速10万キロという圧倒的なスピードは、とても避け切れるものではない。
「まだまだ」
雷を放ち続ける魔王の魔力はさらに増大し、2度目の固有スキルを発動する。
「火炎の魔王、フォエゴ・レイデモ」
家を襲う雷に炎が混じり、【魔法障壁】への攻撃がより過激になる。
しばらくその状態が続いていたが、一向に破れない【魔法障壁】に痺れを切らしたのか、魔王が行動を起こした。
家を攻撃していた雷と炎が一気に魔王の手の中に収束し、魔王の手の中では炎と雷が混じり合う。
「【雷炎絶渦】」
響き渡る魔王の言葉と共に、雷速で迫る炎と雷。
瞬く間に家に到達した雷炎は、竜巻の様な渦を成し、家を【魔法障壁】ごと飲み込んだ。
「!?」
家が丸ごと渦に飲み込まれているため、自然魔力の供給が止まる。
つまり、このままでは【魔法障壁】を維持出来なくなる。
だが、それへの対策はもう既に完成されている。
律は家をミクロサイズまで縮小し、【魔法障壁】の魔力消費を最小に留める。
「ほう」
それに気付いた魔王が感嘆の声を漏らし、雷炎の渦を消す。
「今度はこっちからいくぞ」
律は複製を最大個数召喚し、その全ての砲口に魔力を溜める。
膨れ上がっていく魔力を見た魔王が笑みを見せ、手に魔力を集中させる。
「閃光の魔王、デステイロ・レイデモ」
3度目の固有スキルを発動した魔王の手に、光が集う。
恐らく光線だろう。
そこで律も【魔法砲撃】を充分に溜めきり、魔王に向ける。
「撃ち合い、だな」
瞬間、ぶつかり合うのは2つの光線。
辺りには余波の魔力が飛び散り、光線同士のぶつかり合いの激しさを物語る。
律が今回光線に付与した属性は、光特効。
つまり、光属性の魔法に強くなる属性だ。
本来、魔王の魔力量で放たれる光線にはここまで互角に撃ち合えない。
だが、光特効があれば相殺くらいなら出来る。
お互いが光線を撃ち終わっても、両者は無傷でいた。
「ほう。なかなかやるようだ。次はどの能力にするか⋯⋯」
そう言って思考する魔王。
魔王の固有スキルは、【借力】。
つまり、他者から力を借りる事が出来るのだ。
ただし、それには条件がある。
それは、借りる相手に自らの魔力を分け与えなければならないという事だ。
魔王が男を攫って行ったのも、男の能力が使えそうと思ったからだ。
だが、例外が1つある。
歴代魔王からの借力だ。
魔王の血族で代々引き継がれてきた魔王の固有スキル、最も得意だった魔法を無条件で使う事が出来る。
その分威力は本物にやや劣るが、歴代魔王の中でもトップクラスで多い魔力で、それを補っていた
「次はこれにするか」
魔王が固有スキルを発動し、スキルを借力する。
「魔王討伐精鋭部隊、レヒョン・デアレア」
次の瞬間、律達は家ごと転移する。
「!?」
律達と魔王が転移したのは、薄暗い空間。
驚く律に魔王が説明する。
「ここは俺が構築した次元、空間だ」
魔王は続ける。
「昔俺を討伐しようと魔王城まで来た輩がいてな。その部隊の1人が持っていた固有スキルだ。この空間では俺が強化され、常人ならすぐに気絶する程の大量の自然魔力がある」
魔王の説明を聞いた律は目を見開く。
それは驚愕や絶望によるものではなく、興奮や歓喜によるものだ。
なぜなら、普段よりも濃度が高い自然魔力が、この空間には満ちている。
普通の人間にとっては毒だろうが、律にとっては、いや【魔法障壁】にとっては、これ以上無いほどのプラス効果だ。
「さて」
魔王が心底楽しそうに笑い、言葉を発する。
「覚悟しろ。まずはその障壁から破壊してやる」




