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異世界召喚されたけど家でだらだらする  作者: マスカット寿司
ミルクの幸せまで

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27/27

本気

「覚悟しろ。まずはその障壁から破壊してやる」


 魔王がそう言った直後、家は吹き飛ばされた。


「!?」


 一瞬前まで家があった場所には、魔王が立っている。

 恐らく魔王は一瞬で距離を詰め、家を殴り飛ばしたのだろう。


 律が苦い表情を浮かべる。


 別に家が吹き飛ばされた事はいい。吹き飛ばされたとしても、【魔法障壁】は破れない。


 問題は、魔王の攻撃の瞬間が、律には見えないほど早かった事と、1回の攻撃(インパクト)で、家を吹き飛ばすレベルの膂力があった事だ。


 通常攻撃でこのスピードなら、魔王の攻撃を避ける事は不可能に近い。


(とはいえ)


 律達には【魔法障壁】がある。

 普通の世界ならいざ知らず、この魔王が構築した次元なら、【魔法障壁】を破る事は出来ないだろう。


「ふむ。やはり相当に硬いな」


 そう言って思考する魔王の表情は、どこか楽しげに見えた。


「そんな隙晒していいのか?」


 顎に手を当てて考えている魔王に、律は容赦なく【魔法砲撃】を撃ち込む。

 ずっと溜められてきた【魔法砲撃】。それによる光線。

 魔王でさえ当たればただでは済まない威力のそれが放たれても、魔王は考える姿勢を崩さず、当たる瞬間まで思考を続けていた。


 光線が着弾し、光が収まった後。

 数秒前まで確かにそこにいたはずの魔王は、どこかに消えていた。


「やった⋯⋯のか?」


 困惑する律の上から、魔王の声が響く。


「残念。当たってすらいないぞ」


 その声に驚く律を魔王は笑い、家を真下へ蹴り飛ばす。


 ドゴッと大きな音を立てて地面にめり込む家。

 魔王は蹴った反動で高く飛び上がり、固有スキルを発動する。


「軍神、リオシ・デラゲラ」


 神の力を借りた魔王は、大量の魔法人形を呼び出し律にけしかける。


 律に向かって降ってくる大量の魔法人形の隙間を、ミクロサイズになった家はすり抜ける。


「この力は、昔俺を殺しに来た神のものだ」


 魔法人形を【魔法砲撃】で一掃する律に、魔王が話しかける。


「最初、大量の人形を召喚して戦うだけかと思っていたが、あいつは軍神だからな。戦いが上手く、時には自分自身も前線に出て戦っていた」


 魔王の声が響くなか魔法人形を倒していた律を、何かが家に乗ってきたかの様な揺れが襲う。


「こんな風にな」


 そう言って魔王は家を魔法人形の方に蹴り出し、【借力】にて魔法を構える。


「【魔王借力】。氷結の魔王、コンヘラド・レイデモ」


 魔法人形の動きが家にまとわりつく様な動きに変わり、家は一瞬動けなくなる。

 【魔法砲撃】を撃った直後を狙われたため、すぐには光線を撃ち出せない。


「【氷霧】」


 魔王を中心として氷の霧が生まれ、魔法人形ごと家は凍りつく。


「【魔王借力】」


 そんな隙を魔王が逃すはずもなく、固有スキルを発動する。


「暴風の魔王、トロメンタ・レイデモ」


 魔王の手の中で、鋭い暴風が吹き荒れる。


「【暴風槍】」


 魔王の手から放たれた風の槍は、家にまとわりつく薄氷など軽く貫き、【魔法障壁】に直撃する。


「火炎の魔王、フォエゴ・レイデモ」


 槍状の風に火炎が混ざり、青い炎を纏った風は【魔法障壁】を破らんと攻撃してくる。


「【暴風焼槍撃】」


 それでも。

 それでもなお【魔法障壁】は破れず、家を守り続けていた。


 どれだけ続けてもその事実は変わらず、その証拠に魔王が魔法を解除しても、【魔法障壁】には傷一つ付いていなかった。


「厄介だな。その障壁」


 その言葉とは裏腹に、魔王の表情はどこか楽しげだった。

 そして律を認めた様な表情をした魔王は、こんな事を聞いてきた。


「お前、名前は?」


 少し小さくなった威圧感に律は困惑しつつ、それでも確かな芯を持って答えた。


「律。三時律だ。」


 それを聞いた魔王の笑みはさらに深まり、律に呼び掛ける。


「律!」


「⋯⋯なんだ」


「少し⋯⋯⋯⋯本気でいくぞ」


 そう言った魔王の纏う魔力は跳ね上がり、小さくなったはずの威圧感が大きくなって帰ってきた。


(この魔力量⋯⋯!さっきの10倍?20倍?いやもっとだ!さっきとは比べ物にならないくらいの⋯⋯怪物に変わった!)


 一気に魔力を解放した魔王。

 だが、律の予想とは裏腹に、固有スキルを使う素振りはない。

 本来安心するはずのそれは、今はむしろ不気味さを増す材料になっており、律の警戒を最大まで引き出していた。


 警戒心を強め、魔王の動きを注視していた律。

 それでも、魔王の次の動きは律には全く見えなかった。


「!?」


 律が気付いた時には、家は地面にめり込んでいた。

 一瞬遅れてそれに気付いた律が次に気付いたのは、魔王が家の眼前まで迫っているという事実。


 ただでさえ慣れない戦闘で疲れていて、その上不意打ちまで食らって混乱している律が、近づいてくる魔王から距離を取る選択が瞬時に出来ないのも、仕方のない事だった。


 【魔法障壁】の目の前まで来た魔王は、【魔法障壁】に片手を当てる。


 解放された魔王の全魔力がそこに集い、【魔法障壁】を破りにかかる。


 大丈夫だ。この魔力が溢れる空間で、【魔法障壁】を破るなど不可能。

 そう頭では分かっていても、もしかしたら、と思って怯んでしまうほどの魔力量、威圧感。


 事実、魔王は【魔法障壁】を破りかけていた。

 先程まで触れるだけだった手は【魔法障壁】に深くめり込み、ただ片手に込められていた魔力は鋭さを増している。


 そして、【魔法障壁】にヒビが入る。


 この空間では、そもそもこの攻撃方法では、絶対に【魔法障壁】は破れない。

 律はそう考えているし、その考えに間違いは無い。


 だが、そんな理屈など通用しないほど、魔王の力は絶大で、他を寄せ付けないほど圧倒的なものだった。


⋯⋯ピキ⋯⋯⋯ピキピキピキ


 そんな音と共に、今まで破られる事のなかった【魔法障壁】は、魔王の前に崩れ去った。

 ここらへんからスローライフではなく冒険になっていくかも知れません。

 スローライフ好きな人は無理に見なくていいからねー

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