魔王四天王 エスペ・ヒズモ
今回はちょっと長めです
「どちら様でしょうか?」
魔王四天王、エスペ・ヒズモ。
その言葉にすら魔力がこもっているのかと錯覚するほどの、圧倒的な威圧感だ。
(さて、どう返すか⋯⋯)
魔王に会いに来た、とそのまま言っても要望は通らないだろう。
律がそれっぽい口実を考えていると、
「何も言わない、ということは、招かれざる客でしょうか?」
エスペが敵意と威圧感を増して言ってきた。
出来れば戦闘は避けたかったが、
(どうせ魔王と戦うんだ。四天王くらい倒せなきゃ、魔王なんか倒せない)
律は海賊船型の複製を召喚し、砲口に魔力を溜める。
「敵意アリ、と捉えてよろしいですね?」
その言葉に答えるように、律は【魔法砲撃】を放った。
魔力の光がエスペに迫る。
当たる!と、思った瞬間。
「神器召喚」
エスペの手元に魔力が集中し、何かが召喚される。
次の瞬間、エスペを狙っていたはずの光線は、律達がいる家に返ってきた。
「は?」
ドォォォォォォォォン!!!
「⋯⋯おや」
土煙が上がる中、そこにあったのは未だ健在な家。そして魔法障壁だった。
「自分の攻撃くらいは耐えられるようですね」
別に魔法障壁があるから攻撃は耐えられる。それはいい。だが、
(今のはなんだ!?攻撃を跳ね返してきたのか
?)
恐らく、跳ね返してきたのは直前に召喚した神器の力だ。
そう考えて、律はエスペの手元に注目する。
エスペの右手に握られているのは、手鏡。
まさしく攻撃を跳ね返してきそうな武器(?)だ。
「では、今度はこちらからいきますよ」
エスペの手鏡から魔力が漏れ、魔法陣を形成する。
「!?」
こちらに向けられた魔法陣から放たれたのは、先ほど律が放ったものと同じ、紛れもなく【魔法砲撃】の光だった。
とはいえ、【魔法砲撃】では【魔法障壁】を破れない。それはゴブリンとの戦いで既に証明されている。
という律の考えが間違いだと分かったのは、エスペの放った【魔法砲撃】が、律の【魔法障壁】を破壊した時だった。
「は!?」
その【魔法砲撃】は家の壁を一瞬で、離れようとした律達を遥かに超えるスピードで迫ってくる。
「っ!」
律は反射的に目を閉じた。
だが、いつまで経っても痛みはやってこない。
ゆっくりと目を開けると、家の壁や家具は全く壊れていない。
それどころか、律達や【魔法障壁】も一切傷ついていなかった。
幻。
その解を弾き出すのに、戦闘で冴えた律の頭は10秒もかからなかった。
その直後、辺り一帯に声が響き渡る。
「固有スキル、【幻影蝶】」
それと同時に、家の周りは暗黒に包まれ、蝶が舞い、鱗粉が降り始めた。
「【幻影結界】」
深い暗闇の中で、エスペの声だけが響き渡った。
「これは⋯⋯」
その暗闇には、見る者全ての心に強い恐怖を与える何かがあった。
事実、律もミルクも、原因の分からない、不安に近い恐怖を感じていた。
この恐怖も、エスペの能力の1つなのか。
それを判断するのは、今の律には不可能な事だった。
(どちらにせよ、この雰囲気。早く離れた方がいいな)
この無限にも感じられる暗闇から抜けるため、律はエスペを置いていく勢いで家を進めた。
最高速度で進んでいると、意外にもエスペはすぐに見えなくなった。
だが、どれだけ進んでも暗闇には終わりが見えない。
だんだん、律達の不安が膨らんでいく。
その不安が最高潮に達した時、
「そろそろ諦めてはどうでしょうか」
どこからともなく声が響いてきた。
その声は間違いなくエスペのものだ。
「ここら一帯には、人を迷わす結界が張ってあります。どのような手段を以てしても、この結界から抜け出す事は不可能です」
それを聞いた律の顔が真っ青に染まる。
(どうすればここから脱出出来る?)
なにか抜け出す方法はないかと思考を巡らす律だが、恐怖で上手く思考がまとまらない。
「あの、リツさん」
絶望していた律に、ミルクが話しかけてきた。
「どうした?」
なんとか平静を装って返す律に、ミルクは思いつきにも満たない疑問を投げかける。
「マップとかって、どうなってるんでしょう?」
それを聞いて、律はすぐにマップを開く。
マップは真っ黒に染まっていて、やはりだめかと思った時、横からミルクの手がのび、マップの範囲を最大まで広げた。
すると、家を包み込むように設置された結界が目に入る。
それを見た律の頭に、閃きが走った。
先ほどエスペが言っていた結界の効果は、人を迷わす事。閉じ込めることではない。
恐らくは、エスペの魔法で律の意識を内側に逸らし、気付かぬうちに結界の中心に戻らせていたんだろう。
ならば。
律は【自動運転】を起動させ、目的地を結界の外側に設定する。
その瞬間、家が猛スピードで動き出し、勢い良く結界の端に向かい始めた。
マップをみる限り、このスピードならすぐに着くだろう。
待つ事数分。律の頭にピコン、という通知音が響いた。
着いたか?と思ってウィンドウを開いてみるも、そこに表示されていたのは到着の通知ではなかった。
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障害物にぶつかりました。
これ以上進めません。
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障害物?と思って外を見ると、そこには結界の縁、真っ黒な壁があった。
「リツさん、ぶつかっちゃいましたけど、大丈夫ですか?」
「大丈夫、想定内だ」
そう言うと、律は【魔法砲撃】の魔法陣を家の外側に形成し、そこに魔力を溜める。
溜め時間は約1分。結界の壁から感じる魔力からして、溜め時間1分でも充分に破壊出来る強度だ。
恐らく、対象の意識を内側に向けるために結界の強度を下げたのだろう。閉じ込める事が目的ではないため、それで充分だったのだろうが。
だが、結界の壁さえ見えればこっちのもの。
魔法陣から容赦なく放たれた魔力の光は、結界の一部を容易に破壊した。
「よし、なんとか抜け出し⋯⋯!?」
【魔法砲撃】にて結界を破壊し、【幻影結界】から抜け出した律達を迎えたのは、エスペを含む4人の魔族。
そして、エスペのそれを遥かに超える魔力だった。




