魔王って誰?
「魔王?」
この世界で初めて聞く単語に律は聞き返す。
いや、初めて聞く単語とはいえ、異世界に魔王は定番だし、むしろ無い方が不自然な感じはする。
本当にいるとは思っていなかったが。
「ああ。魔王は、全てのモンスターの頂点に立つ存在、紛れもなく最強のモンスターだ」
最強のモンスター。
それを聞いて、律は不可解に思った。
なぜ、そんなモンスターがたかが借金取りのボスを攫っていくのだろう、と。
だが、ボスが攫われたとしても、律達に何ら不都合は無い。
律達は、復讐がしたいわけではない。ただミルクの母を返してもらえればそれでいいのだ。
「そんな奴にお前らのボスが攫われた所悪いが、借金を返済してもいいか?ミルクの母を返してくれ」
お前らのボスが攫われたとしても、知った事か。
そう言っているのと同義だし、律もその覚悟で言ったのだが、借金取り達が返答する時の声音は、思っていたよりもずっと弱々しいものだった。
「別に借金返済はいい。だが、ミルクの母を返すことは出来ない」
「どうしてだ?」
律の問いに、借金取りの男は答え始めた。
「人質として攫ってきたミルクの母は、魔法で管理、格納しているんだ。管理にはボスの魔法を使っていて、ボスがいないと解放する事は出来ないんだ」
「どうにかボス無しで解放する事は出来ないのか」
「無理だな。そもそも格納している檻を持っているのはボスだし、仮にここに檻があったとしても、ボスが手を触れてなければ解除は出来ない」
それを聞いて、律は何か抜け穴がないかと思考を巡らせる。
だが、ミルクの母を閉じ込めている檻がない以上、今ここで出来る事は何もないだろう。
出来る事なら律は魔王と戦いたくはない。が、
「仕方ない、か⋯⋯」
律は思考を中断し、男に近づいて、
「魔王ってのは、どこにいるんだ?」
そう聞くと、男達は少し話し合う。
別に律が死んでも問題ないし、万が一ボスを取り戻してくれればラッキー、とでも思ったのか、男は地図まで取り出して丁寧に教えてきた。
「魔王は普段は魔王城にいる。そして、魔王城があるのはここ、モネット王国跡地だ」
「跡地?」
「ああ。元々は大きな王国があったが、魔王軍に潰されちまったからな」
「軍って事は、大量の手下がいるのか?」
「いや、手下は数人しかいない。軍の多くは魔王が召喚したモンスターだ」
「手下の能力は?」
「そんなん分かるわけねぇだろ。まだ魔王の能力すら分かってねぇんだぜ?」
「他に分かっていることはあるか?」
「俺が知ってるのは今話したので全部だぜ」
それを聞いて、これ以上得られる情報はないだろうと律は男から離れ、家のドアを開ける。
「行こう、ミルク」
「え、ど、どこにですか?」
「もちろん、」
律はミルクを安心させるため、ニヤッと笑って答える。
「魔王の所にだよ」
借金取り達のアジトから出たあと。
律達は、魔王がいるという、モネット王国跡地に向かっていた。
もちろん自動運転だ。
「リツさん」
少し心配そうな目で呼んできたミルクになるべくいつも通りの声で返す。
「どうした?」
「魔王の所に行くって言ってましたけど、何か対策はあるんですか?」
そう聞かれて、ミルクの心配そうな目に納得する。
今回の相手は魔王。最強のモンスター。
家に色んな機能がついて強くなったとはいえ、流石に怖かったのだろう。
安心させるためには⋯⋯
「対策は⋯⋯⋯⋯⋯ない!」
「えぇっ!?」
「だから、一緒に対策を考えよう」
対策を立てるのに参加させれば、不安もある程度取り除ける⋯⋯はず。
少しビビりながらもミルクの様子を伺っていた律だったが、
「はい!」
というミルクの返事に安心する。
「よし、じゃあ早速対策を考えましょう!」
「そうだな。じゃあまずは⋯⋯」
そうして2人は、少しマップを気にしながら、対策を立てていった。
「ミルク、対策はここまでにしよう」
不思議そうな顔で返してきたミルクに、ほら、とマップを見せる。
それを見て、なるほど、とミルクが頷く。
あと少しでモネット王国跡地に入る所まで来ていたのだ。
「少し警戒しておこう」
「はい⋯⋯!」
辺りを警戒しつつ進むと、モネット王国跡地に入ったという通知が来た。
「⋯⋯!」
かつては王国だったというのに、建物どころか、草木も何もない。
あるのは、乾ききった大地だけ。
完全に荒廃している。
マップを見ると、モネット王国跡地は元々王国だっただけあって相当広い。
その全てが荒廃しているのだとしたら、一体魔王はどれだけの力を持っているのだろうか。
魔王城があるのは、モネット王国跡地の中心。
そこに向かって家はどんどん進んでいく。
そのまま数十分進んでいると、遠くに何かが見えてきた。
やがて、その姿が2人の視界にはっきりと映る。
「あれは!」
「魔王城⋯⋯ですか?」
律は確かめるため、マップを開こうと―――――――――――
「「っ!?」」
2人が肌で感じたのは、圧倒的な魔力。
魔法が使えない2人でも、直感で分かった。
突然変異ゴブリンよりも、格段に強い!
「おや、これは⋯⋯」
魔力の正体、魔王四天王の1人、エスペ・ヒズモが声を発する。
「どちら様でしょうか?」




