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第6話 片づけた人を捨てた王宮

第6話 片づけた人を捨てた王宮


アリスを追放して一週間が過ぎた朝、エドワードは機嫌よく目を覚ました。寝室の窓から初夏の日差しが入り、庭では青や白の紫陽花が朝露を載せている。侍従が差し出した上着は金糸の刺繍が入った薄青色で、袖口には昨夜の葡萄酒の染みが残っていたが、エドワードは気づかずに腕を通した。


朝食の食卓には、半熟卵、焼いた腸詰め、白パン、苺の砂糖煮が並んでいた。以前ならアリスが、朝一番の会議に合わせて軽い食事を用意させていた。しかし今日の会議はエドワード自身が延期したため、急ぐ必要はない。


「アリスがいなくなって、もう一週間か」


エドワードは白パンへ苺の砂糖煮を厚く塗った。赤い汁が皿へ落ちても、侍従がすぐに布で拭き取る。向かいに座ったエレナは、薄桃色の朝用ドレスを着て、山羊乳へ蜂蜜を三杯入れていた。


「王宮は、少しも困っておりませんわね。アリス様は、ご自分がいなければ何もできないような顔をしていらしたのに」


「結局、箱へ札を貼っていただけなのだ。あれほど恩着せがましくする仕事ではない」


エドワードは笑い、砂糖煮のついた指を侍従の差し出した布で拭いた。机の端には未開封の封筒が五通置かれている。毎朝アリスが重要度の高い順に並べていたことを、彼は知らなかった。


朝食後、エレナは王太子執務室の模様替えを始めた。アリスが使っていた灰色の書類箱を見つけると、見栄えが悪いと言って廊下へ運ばせる。赤、青、黄色の札も、色が揃っていないという理由で引きちぎった。


「王太子殿下のお部屋なのですから、もっと華やかにいたしましょう」


エレナは棚へ白いレースを敷き、金色の花瓶を置いた。庭師に切らせた赤薔薇を二十本も挿したため、部屋には濃い花の匂いが満ちる。花瓶を置く場所を作るため、棚にあった書類はすべて机の下へ移された。


「こちらの紙も必要ありませんわ」


エレナが引き出しに貼られた管理表を剥がした。どの引き出しに印章、封蝋、未使用の用紙が入っているか記された表である。剥がした紙の裏には、アリスの小さな文字で交換時期まで書かれていた。


「使用人を信用していないようで、不快ですもの。必要な物は、尋ねれば誰かが持ってくるでしょう」


「そのとおりだ。王太子が、自分で封蝋を捜す必要などない」


エドワードがうなずくと、侍従たちも頭を下げた。管理表は丸められ、暖炉へ投げ込まれる。初夏なので火は弱く、紙の端だけが黒くなり、焦げた匂いを出しながら灰の上に残った。


二週間目になると、王太子執務室へ届く書類が机の上へ積まれ始めた。エドワードは上から順に目を通そうとしたが、祝宴の招待状、軍務報告、菓子店の請求書が同じ山に入っている。一枚読んでいる途中で別の者が新しい書類を置くため、どこまで確認したか分からなくなった。


「これは読んだぞ。たしか昨日、署名した」


エドワードは毛布の購入書類を侍従へ返した。しかし侍従が確認すると、署名済みなのは別の商会が出した同じ枚数の注文書だった。北部守備隊と王都警備隊が、それぞれ毛布を二百枚ずつ注文している。


「では、一方を取り消せ」


「どちらを取り消せばよろしいでしょう」


「余っているほうだ」


「どちらの倉庫も、在庫台帳が見つかりません」


エドワードは羽根ペンを机へ投げた。ペン先から飛んだインクが、エレナの置いた白いレースへ黒い点を作る。エレナは侍女へ、今すぐ新しいレースと交換するよう命じた。


その日の昼食には、白身魚の香草焼きと冷たい豆のスープが出た。エドワードは魚にかける檸檬を頼んだが、厨房には一つも残っていない。晩餐会用として三箱注文したはずなのに、別の料理人も同じ注文をし、六箱届いたあとで傷み始めたため、先週すべて砂糖漬けにしてしまったという。


「檸檬を六箱も、誰が注文した!」


エドワードの声が食堂へ響いた。料理長と会計係は、互いの顔を見る。以前なら、各部署から出た注文をアリスが一枚の表へまとめ、重複を消していた。


「アリス様が確認してくださっていたので、これまでは問題になりませんでした」


料理長が答えると、エドワードは匙を皿へ置いた。冷たい豆のスープが袖へ跳ね、金糸の間に緑色の染みを作る。今度は侍従もすぐには拭かず、足元を見た。


「いつまで、いなくなった女の名を出すつもりだ。重複など、お前たちで確認すればよい」


「では、確認する責任者をお決めください」


「その程度、自分たちで決めろ」


料理長は口を閉じた。会計係も何も言わず、冷めた魚の皿を見つめる。エレナだけが、檸檬の砂糖漬けをお茶へ入れればおいしいはずだと言い、侍女に持ってこさせた。


三週間目には、支払いの遅れが起きた。期限の切れた請求書へ二度目の代金が支払われる一方、王都の施療院が注文した熱冷ましの薬は届かなかった。薬草商への支払許可書が、春の園遊会の献立表に挟まれていたからである。


施療院の医師が王宮へ押しかけた日、外では激しい雨が降っていた。医師の黒い外套から水が滴り、大理石の床へ小さな水たまりを作る。彼は濡れた帽子を胸へ押しつけ、エドワードの前で声を張り上げた。


「三度も申請しました。なぜ、薬が一袋も届かないのです!」


「私は聞いていない」


「殿下の執務室へ届けました。受領印もございます」


「それなら、担当者が処理するはずだ」


「その担当者は、どなたですか」


エドワードは侍従たちを見た。誰も顔を上げない。受領印を押す者、内容を確認する者、支払いを許可する者が別々で、最後まで責任を持つ者はいなかった。


「すぐに薬を届けろ。それで済む話だ」


「失われた三週間は、届け直せません」


医師は濡れた靴音を残して退出した。床の水たまりには、彼の外套から落ちた小さな紫陽花の花びらが浮いている。掃除係が布を持って駆け寄ったが、エドワードは花びらを踏んで執務室へ戻った。


一か月後、執務室の机は見えなくなっていた。白いレースは書類の下でしわになり、花瓶の薔薇は水を替えられないまま黒ずんでいる。甘く腐った花の匂いと、乾ききらないインクの匂いが部屋にこもっていた。


その日、国王から呼び出されたエドワードは、朝食も取らず謁見室へ向かった。赤い礼装の釦を一つ掛け違えていたが、誰も指摘しない。玉座の横には、外務卿と会計院長が立っていた。


「クラウス帝国との国境通商条約が、十日前に失効している」


国王は一通の封筒をエドワードの前へ投げた。封筒には帝国の紋章があり、開封さえされていない。中には一か月前までに更新手続きを行うよう、正式な通知が入っていた。


「私は、そのような通知を受け取っておりません」


「王太子執務室の受領印がある」


「部下が私へ回さなかったのです」


「では、誰が責任者だ」


エドワードは答えられなかった。条約更新の通知は、エレナの誕生日祝宴に届いた招待状と一緒に、金色の籠へ入れられていた。籠には今も、開けられていない封筒が二十通以上残っている。


「アリスがいた頃は、一度も起きなかったことだ」


国王の言葉に、エドワードは奥歯をかんだ。膝へ置いた手袋を握ると、革に深いしわが入る。退出を命じられるまで、彼は掛け違えた釦を直さなかった。


執務室へ戻ると、エドワードは机の書類を両腕で床へ払い落とした。招待状、請求書、薬の申請書、祝宴の献立が入り交じり、赤い絨毯を覆う。エレナは金色の籠を抱え、扉のそばへ下がった。


「アリスの管理記録を持ってこい。棚の使い方や仕事の手順を、すべて書いていたはずだ」


「記録とは、どのような物ですか」


侍従が尋ねた。エドワードは、質問の意味が分からないという顔をする。彼自身、アリスがどの帳面へ何を書いていたか、一度も確かめたことがなかった。


「灰色の表紙だ。いや、紺色だったかもしれない。とにかく、アリスの書いた物を全部捜せ」


侍従たちは執務室、資料室、アリスが使っていた小部屋を捜した。空になった棚からは埃と、乾いた矢車菊の花びらが見つかっただけだった。夜になっても管理記録は一冊も出てこない。


「もしかすると、先月処分した紙の中にあったのかもしれませんわ」


エレナが小さな声で言った。アリスの残した古い帳面は、貧乏くさくて部屋にふさわしくないと、すべて焼却させていた。暖炉の灰はすでに庭へ運ばれ、薔薇の肥料として土に混ぜられている。


「なぜ勝手に捨てた!」


エドワードが机をたたくと、積まれていた書類がまた崩れた。エレナは肩をすくめ、薔薇色の香油が染み込んだハンカチを鼻へ当てる。部屋には枯れた花と古い紙の匂いが満ちていた。


「殿下も、あんな帳面は必要ないとおっしゃいましたわ」


「それでも、控えを残すのが普通だろう!」


「その控えを管理していたのも、アリス様ではありませんか」


エドワードは言葉を失った。床へ落ちた書類の中には、国外退去命令の写しがあった。三日以内に国境を越えよと、自分が命じた紙である。


しばらくすると、エドワードはその命令書を拾い上げた。破り捨てようとしたが、取消しの手続きを誰へ頼めばよいか分からない。アリスなら、必要な書類をすぐに用意したはずだった。


「使者を出せ」


エドワードは命令書を机へ置いた。アリスがどこへ向かったのか、誰も正確には知らない。それでも彼は、金を渡せば見つけられると考えた。


「アリスへ伝えろ。国外追放を取り消し、王宮へ戻ることを許すとな」


「謝罪のお言葉は、どのようにいたしましょう」


「なぜ私が謝る必要がある。戻れば、また仕事を与えてやるのだ」


侍従は返事をせず、命令書を受け取った。床に散らばる書類を踏まないよう、足の置き場所を選びながら部屋を出ていく。扉が閉まると、エドワードは誰かが冷めた朝食を片づけてくれるのを待つように、書類の山の前へ座った。


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