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8.ブロンド美女はホームレス(2)

マリアが用意したのは食パンと目玉焼きだ。ブルーシートのテントの中で、膝をつき合わせながらの朝食となった。


マリアがあれこれと由紀の経歴を聞いてくるので、つつみ隠さず話した。


由紀とは境遇が似ている、という前置きをして、マリアも自身のことを話しはじめた。


マリアは漢字で真理亜と書き、名字はないという。親もいないし戸籍もないし、もちろん学校にも行っていない。ギャングみたいなものかと思ったが、それも違うらしい。ではホームレスかと訊くと、真理亜は怒りだした。


「じゃあ、やっぱりギャングじゃないの? あの店で真理亜ちゃんが殺したのって、マフィアの幹部だよ。何かの抗争? 銃だってギャングだから持ってるんでしょ」


「あいつを撃ったのは、ダチが殺されたからだ。あの男に薬漬けにされ、ウリをやらされ……自殺したんだ」


「ふーん……。じゃあ、銃は?」


「たしかに銃を買ったのはギャングからだな」


「買ったんだ……けっこうお金持ってるんだね」


「ある組織を抜けるときにまとまった金を貰ったんだ」


「ある組織? なにそれ?」


「それだけは教えてやることはできない。由紀も聞いたら後悔するぜ」


「そっか、わかった」あっさりいって由紀は立ちあがり、リュックを背負った。「じゃあね、真理亜ちゃん。ラーメンとパン、ありがとう」


「待て待て! どこに行くきだ⁉」


「パパを探すの。さっき教えてあげたじゃない」


「由紀は世間知らずだから、ダメな男に騙されちまうだろ。しょうがないから、アタシがつきあってやるよ」


「大丈夫だよ。だって私、凄く強いんだよ」


由紀は自慢げにいったが真理亜は鼻で笑い、スエットを脱いでロングTシャツとタイトなジーパンに着替えた。さらに銃を腰へ挿し込む。左右に二挺だ。



なんか面倒くさいことになっちゃったなぁ。そう思いながら由紀はテントを出たものの、真理亜は実に便利な存在だった。


喉が渇いたといえば飲み物を買ってくれ、腹がへったといえば、ファミレスでたらふく食べさせてくれる。


そのファミレスの柔らかいソファーでのんびりしていると、ふてくされた表情で真理亜がいいだした。


「パパ探しは飽きたぜ、ただ歩いてるだけじゃねーか。それより、今日はアタシの買い物につきあえよ」


「えー! 頼んでもないのについてきて、そんな勝手なこというのぉ?」


「勝手とぬかしたか! だったら好きにしな! ただしアタシが奢ったぶん、きっちり返してもらおーか」


「そんなの無理だよー。私、一円も持ってないんだから」


「お前は……これからどうやって生きていくつもりだったんだ?」


「生きていけないから、早くパパを見つけなきゃいけないの!」


「そのパパというのは今みたいにノコノコ歩いてたら、見つかるもんなのかよ?」


「そんなの、わかんないよぉ」


「あのなぁ……」真理亜は何かいいかけたが、ため息に変わった。「とりあえず、晩飯も食いたかったら、今日はアタシにつきあうんだな」


由紀は口を尖らせながらも頷いた。



電車を乗り継いでコウベ港に向かい、海に浮かぶショッピングビルに入った。


真理亜が向かったのは上層階のブランドサングラス店が並ぶエリアだった。たしかに真理亜はその手の商品が絵になるブロンド美人だが、試着して喜んでいるだけで買う素振りはない。


どうやら、ウィンドウショッピングにつきあわされているようだ。由紀はそんな真理亜を横目にアクビをだす。


「おい、お前」低い声とともに背後から肩をつかまれ、由紀はふり返った。


ややくたびれたスーツを着た目つきの悪い中年男がいた。


「なあに?」由紀は首を傾げる。


「聞きたいことがある。ちょっと来てもらおう」偉そうな口ぶりだ。


「なんで?」


「いいから来い!」


「やだ!」由紀は男の手を払った。


男は舌打ちのあと、不機嫌そうに顔を歪める。その顔にピンときて、由紀は声をあげた。


「あっ、あの店で私がついたお客さん!」


「そうだ、その客だ。お前はレイナとかいったな。まあ、源氏名だろうが。本名はなんだ」


「由紀だよ」とあっさり答えてから、その必要がなかったことに気づく。


「ユキとはどんな字だ。あと名字と住所もいえ」


「面倒だから、いわない」


由紀がそっぽ向くと、男の目が鋭くなった。さらに、舐めまわすような視線を浴びせてくる。店でも感じたが、不快な視線だ。由紀はハッとした。


「わかった! おじさんはストーカーでしょ! ジュリちゃんに相手されなかったから、私にくら替えするつもりなのね。でも、ざーんねん。この前は小学生っていったけど、あれは嘘。十七歳の立派なレディだよぉ。おじさんの守備範囲外でしょ?」


「わけのわからんことをいうな」そういいながら男が掲げたのは警察手帳だった。


「なんだなんだ、もめてんのか?」近くにきた真理亜がTシャツをチラリと捲りあげ、ジーンズに差し込んでいる拳銃を見せつける。「なんか文句あるのか、オッサン」


「お前はあのときの!」男が目を見開いた直後、破裂音と同時に床が崩れた。


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