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6.由紀とパパ

ターゲットの頭がガクンと落ちた。


席についていた少女の悲鳴が響き、部下たちも怒号を飛ばしながら銃をだす。


応じて女も撃つ。部下たちは綺麗に眉間を撃ち抜かれ、テーブルに突っ伏した。


女はターゲットにツバを吐いてから、悠然と客用の出入口から去っていった。そこで皆の緊張の糸が切れて、客側店側のへだてなくパニックとなった。その隙に乗じ、由紀は店から離脱した。



店の衣装を着たまま、由紀は1Kのアパートに戻り、ベッドの上に転がった。楽しそうに首を左右にふりながら、「猫買ってくれる約束だったけど、パパはいつ来るのかなぁ」とつぶやく。


だが、その日にパパは来なかった。次の日もその次の日も、パパは来なかった。


さらに二週間が過ぎてパパのカードが使えなくなり、食料も底をつきかけたころ、呼び鈴を鳴らして現れたのはアパートの管理人だった。


家賃滞納を理由に退去を命じられた由紀は、その日の夜に少しの衣類だけ詰め込んだリュックを背負って、アパートをあとにした。


「お腹すいたなー。早く新しいパパを見つけなきゃ」


当てもなく小一時間歩き、公園のベンチに腰を下ろした。夜もずいぶんふけている。今日はここで寝ようかと考えはじめた矢先、三人の男が公園に入ってきた。見るからにチンピラで、酔っているようだ。


「なになにキミ、一人なの?」一番若そうな茶髪坊主がいった。


「そうだよ」


「中学生がタンクトップに短パンで、こんな夜にうろうろしてたら危ないよ。ひょっとして、家出中?」


「違うよ。パパを探してるの」


「ずいぶんストレートじゃん」派手なスーツの男が隣に座り、舌なめずりしながら由紀の首に腕を回した。


「パパになってくれるの?」


「ああ、そうだ。パパがいいこと教えてやるよ」男は由紀の胸元に手を入れた。

「パパはそんなことしないっ!」


由紀は男の目に親指を根元まで差し込んだ。派手なスーツの男は、狂ったような悲鳴をあげてベンチから転げ落ちる。


「何しやがる!」茶髪坊主がナイフをだし、切りかかってきた。


由紀はそれをひらりと躱し、茶髪坊主の金的を蹴り上げた。茶髪坊主が呻いて膝を着くのと同時に、由紀の膝がその鼻先をとらえる。顎が跳ねあがり、がら空きの喉に足刀が放たれる。


電光石火の足技に、茶髪坊主は仰向けになって、泡を吹いた。


「てめぇ、いい加減にしろ!」残り一人となった背の高い男は、拳銃をだした。


だしはしたが銃をかまえる前に、由紀は首にしがみついて金的に膝を入れ、離れぎわに耳を噛みちぎった。男は悲鳴をあげてうずくまる。


明らかに戦意を喪失した様子だったが、銃を持っていることもあり念を入れて対処した。両腕の肘を踏み砕いたのだ。


「アンタたちなんか、パパじゃないよー」由紀はべーと舌をだしてから、公園を去った。



由紀がパパという存在を求めるようになったのは、五歳の出来事に起因する。


そのころ由紀にはママと呼ぶ存在しかいなかった。また、名前も由紀ではなかったが、もう覚えてはいない。


ある日、子猫を拾ってきた由紀にママは怒り狂い、家を出ていってしまった。扉や窓は中から開かないように細工されており、由紀はとじ込められたまま放置された。


そして五日後、子猫は死んだ。このとき、由紀のなかで何かが変わった。「ママ、ママ」と、ずっと泣いていたのに、一切ママとは発しなくなった。


ただひたすら泣くだけになったのだが、次の日にもなれば、泣く体力すらなくなっていた。さらに二日後、由紀が閉じ込められていたマンションでボヤ騒ぎがあり、由紀は救出された。脱水症でかなり危険な状態だった。


退院後に児童保護施設での一ヶ月を経由し、老夫婦に引き取られた。だか、連れ合いのほうは見たことがなく、年老いた男とのみ暮らすことになった。


それが一番目のパパだ。


パパは優しく、美味しいものを沢山食べさせてくれたし、オモチャもなんでも買ってくれた。


一緒に暮らして三ヶ月ほどがたったある日、キャンプに行こうとパパがいいだし、山奥の別荘に向かった。


湖で遊んだりバーベキューをしたりで、楽しい一日を過ごした次の日の朝、パパは首を吊っていた。置き手紙があったが、まだ文字が読めなかった。


警察というものもちゃんと理解していなかった由紀は、新しいパパを探すために別荘を走り出た。


その山奥で遭難していたところを助けたのが、二番目のパパだ。由紀に残虐な武術を叩き込んだのも、その二番目のパパとなる。


二番目のパパは、素手による暗殺武術を追及する一族の一人だった。なんでも、一族の前身はとある忍者の系譜で、そこに伝承される素手の格闘術を発展させてきたらしい。


パパの修行は途方もなく厳しかったが、根は優しかった。山野由紀と名付けたのも二番目のパパだ。「パパになって!」というと、名付けてくれたのだ。


その日は季節外れの雪が降ったという理由だけで、山野由紀となってしまったが、由紀はその名前を気に入っている。


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