5.少女専門キャバクラにおけるオバサンと魔物
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「やだぁ、店長! 中学とかもうオバサンじゃん。そんな年増を雇うの?」
十歳ほどの少女にそうなじられ、少女専門キャバクラ店の面接に来ていた山野由紀は、苦い笑みを浮かべた。
私は童顔なだけで、歳でいうと高校生だよぉ。そう教えてやったら、今度はババア扱いされるのだろうか。
「うちの店は中学生も何人かいるし、気にしないでね」店長の青山は嘘臭い笑顔でいう。「でも、中学生だとわかると、おさわりしようとするお客さんが多くなるけど、大丈夫?」
「たぶん、はい」
「よし、採用。早速今日から入ってよ」
「あのぉ、研修とかは……」
「特にないよ。親戚のおじさんとでも話すみたいに、緊張せずにありのままにね。じゃ、さっさと着替えちゃって」そう残して青山は待機部屋から出ていった。
由紀は部屋の奥にあるハンガーラックの前に立ち、衣装を確認した。この辺りの小学校の制服はそろっているとは聞いているが、幼稚園用のスモックがあるのはさすがに驚いた。サイズは小学生用なので、コスプレのためであって、実際に幼児がいるわけではなさそうだが……。
ともあれ由紀は、なるべく動きやすいモノを選んだ。
夜七時からの開店にあわせて、少女たちがぞくぞくと出勤しだした。彼女たちは今から遠足でもあるかのように、きゃっきゃっと騒いでいる。
開店してから三十分ほどが経ち、店長の青山が顔をだした。
「由紀ちゃん、七番席に入って。ジュリちゃんがまだ来ていないから、それまでの時間稼ぎね。そうそう、源氏名はレイナにしたから」
「はーい」由紀は立ちあがり、出口の方に向かった。
「オバサーン。私たちの価値も下がるから、売りとかすんなよ」背後から少女の誰かがいい、クスクスとの笑い声。
「根はいい子なんだよ」青山は耳打ちしたが、由紀にとってはどうでもよかった。
短い通路を抜けて店内に入った。二十ほどのゆったりしたテーブル席があり、八割が埋まっている。その中にターゲットの姿を確認できた。数日は通う覚悟だったが、運がいい。
黒服の誘導で、出入口に近い席に入った。客はくたびれたスーツの中年だった。
「なんだ、お前は? ジュリはどうした」
感じの悪い男だったが、由紀は怯まず笑顔で応じた。
「レイナでーすぅ。ごめんなさーい、ジュリちゃんはお寝坊さんで、ピンチヒッターでーすぅ」
男は鼻で笑ったあと、上から下まで舐めるように由紀を見た。
「お前、中学生か? ここは小学生だけと聞いてるが」
「小学生だよぉ。少し大人びてるだけぇー」
「まあ、いい」男は由紀に興味をなくしたようで、他のボックスに視線をやりながらタバコを咥える。
由紀としても男に気に入られるつもりなど毛頭ない。これさいわいと、三つ前のボックスにいるターゲットの方を見た。
部下を四人つれ、少女も同じ数だけつけているが、ターゲットが少女たちを独占していた。
部下たちはボディーガードの意味合いが大きいのか、相槌や合いの手は入れるものの、酒はおろかタバコすらやっていない。
ターゲットはマフィアの幹部候補で、パパの足を引っ張る極悪非道な男、だと聞いている。そのターゲットが不意に立ちあがり、トイレに向かった。
つき添ったのは部下が一人だけ。やや性急だが次のトイレで決めてしまおう。由紀の腹は決まった。
「おい、ジュリはまだか?」客が不機嫌そうにいった。
「まだみたい。ごめんねぇ」そう笑顔で応じるも、返ってきたのは舌打ちだった。
早くトイレにいってくれないかなー。
由紀はため息交じりにターゲットを見た。
その直後、従業員専用扉の奥から店長の悲鳴が響く。数秒後に扉から出てきたのは、幼稚園のスモックをまとった白人の女だ。
女は真っすぐ、こちらの方へ歩いてくる。
青く大きな瞳、スラリと高い鼻、ぶ厚く赤い唇、それらが正確に配置された綺麗な顔立ちで、店内の薄い光でも輝くブロンドの髪に、雪のような白い肌をしている。
さらに、ニホン人離れした高い身長に実った豊満な胸や尻もじつに官能的で、まるでハリウッド女優がスクリーンから飛び出たかのようだ。
この店の客以外の正常な男なら、誰もが生唾を呑み込むようないイイ女だ。ただ、格好はキテレツだった。
頭には幼稚園用の黄色い帽子を乗せ、水色のスモックは胸元でパンパンになってヘソまでも届いていない。スモックとセットであった赤いチェックのスカートも、大きな尻を半分も隠せずに、白いショーツが丸見えだ。
少女専門キャバクラで由紀がオバサンと揶揄されるならば、この女はもはや魔物といっていい存在だった。その魔物に取り憑かれたように、店内では誰もが動けなかった。
女が止まった。ターゲットの前だ。窮屈そうに肩にかけていた黄色い幼稚園バッグから銃を取りだし、撃つ。




