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3.財閥令嬢、エントリー(1)

五日後、京子はオオミヤの寮から、コウベに急設されたというリクレンジャー本部基地に引っ越した。


荷物は宅配で送り、京子自身はコウベ空港からタクシーで向かった。


ロッコウ山中の広い空き地にそれはあった。三階建ての綺麗なビルだが、工場で造って運んだだけのビルユニットで、民間仕様なのは一目瞭然だ。軍の施設としては強度が全然足りないし、盗聴などの対策もしていないようだ。


「まあ、そんな必要もないか」自嘲気味にいいながら、中を確認する。


一階がズドンと丸々会議室になっており、円卓と壁一面の大画面、天井にはリクレンジャーの紋章が描かれていた。


二階の半分はトイレやキッチン、シャワールームといった共用設備、残り半分と三階が、京子の居住スペースとなっている。


宅配していた荷物はすでに届いていたが荷ほどきなどせず、段ボールをテーブル代わりに焼酎をあおった。



二日酔いでむかえた次の日の朝、副官の一条が来た。


三十歳だとはいうが、線の細い草食系大学生といった雰囲気だ。今後の隊員集めについて説明していたようだが、頭が痛くてほとんど聞いていなかった。


一条が帰ると、すぐに二階に上がってむかえ酒となった。次の日は、外に出ることはおろか一階に降りることもなく、酒びたりとなった。就業時間中に呑んだくれていたことになるが、罪悪感などなかった。


さらに一日が過ぎ、同じように酒を呑んでいると、インターホンが鳴った。一条だろうかと時計を確認すると午後六時、バイトにとってはすでに時間外だ。


モニターを確認すると、セーラー服の少女が立っている。


「どなたかいらっしゃいませんこと? こちらでヒノマル戦隊リクレンジャーの選考審査を行なっていると、聞いておりますわ」お人形のような顔をした少女は、どこぞのお嬢様といった口調だ。


ほう、と京子は唸る。


時間外だと追っ払ってもよかったのだが、からかってみたくなった。寝巻きのスエットのまま一階に降り、ドアを開く。


非の打ち所のない整った顔の少女がすまし顔で京子を見ている。。その横には黒スーツの筋肉質な大男、背後には高級車が停めてある。


「あら。総帥みずからお出迎えとは恐縮ですわ」少女が微笑んだ。


「私のことを知っているのか?」


「知っているもなにも、SNSに載っているではありませんか。リクレンジャーの隊員を募集しているのでしょう?」少女は呆れた表情を見せてから、封筒を差しだした。「エントリーシートをお持ちしました」


「エントリーシート?」


「エントリーシートを記入してここに持ち込むようにと、SNSにはありましたわ。あと、軽い面談があるとも。……おじゃましてもよろしいでしょうか?」


「ああ」とあっけにとられて京子は頷く。少女はずかずかと中に入ってきた。黒スーツの男も続く。


「あら、本当に円卓があるのですね! テレビのまんまだわ」


少女が手を叩いて喜ぶ姿を眺めながら、京子は封筒からエントリーシートをだした。星川翠、十四歳、そこまで確認して眉をひそめた。


「星川……」


「ええ。鉛筆からロケットまでの、星川財閥です。調べればわかることなので先にいっておきますわ。ワタクシの父は星川永太郎。星川グループの会長ですの」


その話を真に受けると、日本を代表する企業のご令嬢ということになる。そのご令嬢がなんのためにリクレンジャーなんてものに……。


「冷やかしか……」


「そんなに暇ではありませんわ」翠は円卓の一席に座る。「さあ、面接をはじめていただけるかしら。あと、こちらからも質問があるのですけれども、よろしいかしら?」


京子が唖然としていると、翠は話を続けた。


「選考基準と倍率を教えてくださいませ。もう一つ、こちらの方が重要ですわ。晴れてリクレンジャーの一員になった暁には、色の指定は可能でしょうか? ワタクシはグリーンを希望いたしますわ」


翠が挑むような口調でいった直後、猛烈な爆発音がして京子の意識は数瞬途切れた。


どうやら近くで爆発があってメインルームの大きな窓ガラスは全て砕けたようだが、酔もあってか視界はぐるぐる回り、状況把握ができない。さらに耳鳴りと吐き気も酷く、我慢できずに京子は床に膝と手をついた。


しっかりしろ! 十四歳の少女がいるんだぞ! 京子は両手で頬を叩き、歯を喰いしばって立ちあがる。そして、目を凝らす。


多少ぼやけているが、翠は平然と立っており、窓の外では高級車がバラバラになっていた。黒スーツは翠の足元で気絶しているようだ。


「大丈夫か?」といってすぐ、京子は目を見開いた。


翠の肩口には剣のようなガラス片が突き刺さっており、紺のセーラー服の半分が赤黒く染まっていたのだ。



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