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15.グリーン、誕生(2)

同時に京子は傭兵に銃口を向ける。小柄な少女を楯にしたところで、はみ出た部分はいくらでもあるのだ。


京子の本気は傭兵にも伝わった。


翠に人質の価値がないと判断した傭兵は銃口を京子に向ける。


京子と傭兵の発砲はほぼ同時だった。


傭兵は額に穴を開け、がくんと首を落とす。一方の京子は腹にくらった。防弾チョッキの上からとはいえ、腹をハンマーで殴られたかのような衝撃に思わず嗚咽をもらす。


だが今は、痛みに支配される猶予などない。操縦席のワタベが立ちあがり、こちらに銃口を向けているのだ。京子もワタベに銃をかまえようとしたが、あちらが一手早いのは明らかだった。


最悪の事態すら覚悟した京子だが、「させませんわ!」と翠が叫び、大の字になって立ちはだかった。


銃声が響く。


弾が貫通して翠の背中から花火のようにパッと血がはぜる。


直後に京子も雄叫びをあげながら連続で発砲。ワタベは肩と喉から血を噴き上げ、どさりと倒れた。


「翠っ!」京子は駆け、ふらりと傾いた翠を抱きしめた。


「あら、総帥。ワタクシのことはグリーンとお呼びください」真っ白な顔で翠は軽口を叩く。


「しゃべらなくていい! すぐに、救急ヘリを呼ぶ!」


「だい……じょうぶ……ですわよ。すぐに死んでないということは、急所は……はずれたかと」


「しゃべるなっ!」と叫んだのは、ヘリの中に駆けてきた立花だった。「今、救命ヘリを呼んだ!」


いや、だめだ……。このビルはテロ犯が占拠していると、関係各所に伝達されている。二次災害を恐れて、自治体管轄の救命ヘリは、当分ここには近づけないはずだ。


そうなると、このヘリを飛ばすしかない。高校時代に学科で学んだだけで実践経験はゼロだが、他に選択肢はないのだ。


「立花さん、グリーンを頼む! 私がこのヘリを飛ばす!」


「どういうことだ!」


「救命ヘリはこない!」


「わかった!」と立花がいうのと同時に、「待て!」と掠れた声がした。


顔面を真っ赤に染めた有本が、こちらに銃を向けている。


「……たとえ……一人でも軍人を道ずれに……できれば……」


有本の意識は朦朧としていたようだが、その瞳に宿る復讐の炎は痛いほど伝わった。頭部から赤黒い血を流しながらも、目は死んでいない。


くそっ! 有本の執念を見誤った。人の限界を超えて想いを遂行する戦士が、万に一人はいるのだ。


京子は翠を抱えながら、床に置いてしまった銃に手を伸ばす。それより早く立花が銃を抜く。だが、圧倒的に有本のほうが有利だった。


有本の情熱的な眼がカッと開くのと同時に、ダダダダダッとの連射音が遠から届く。上半身が砕け散り、有本は倒れた。機関砲の標的になったかのようなありさまだ。


銃撃があった方に視線をやる。隣に浮かぶ九十階船上ビルの屋上に、熊のように大きな影を見たが、すぐに消えてしまった。


「一体なにが……」つぶやきながら、ヘリの後部に目をやる。先ほどの銃撃で半壊しており、飛べる状態ではなかった。


これで、翠を救う手立てがなくなった……。京子は目を閉じる。


「いい気味だな、クソガキ」背後から真理亜の声がした。


京子は振り向き、真理亜を睨む。なにかいってやろうとしたが、翠が先んじた。


「あら……こんなの……ただのかすり傷……ですわよ」


「だったら証明してみせな。あと少しだけ生きりゃあ、お前の勝ちだ」


真理亜の言葉をかき消すように、ドドドと轟音が響く。その背後には真っ青なボディーのヘリが浮かんでいた。


二ホン人なら一目でわかる、かの有名な海軍レスキューのヘリだ。その中から半身を出して一条が叫ぶ。


「そーすーい! 助けにきましたー!」


ふざけるな! そんなバイトがいるか! その想いは呑みこみ、今は安堵の息を吐いた。


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