14.グリーン、誕生(1)
京子は安堵の息を放ちながら、六つの骸に視線をやる。そのうち一人は顔つきや身体つきから傭兵なのは間違いないだろう。
「立花さん。経緯を教えてもらえないか?」
「屋上についたら、テロ犯がすでに穴から登っていて、エレベーターの前で待ち伏せされていた。真理亜が応戦して全員片づけたが、そこで弾切れ。それを待っていたかのようにナイフ使いが侵入してきた」
「ナイフ使いは私がやっつけたんだよねぇ、パパぁ」
「ああ。由紀が投げつけて地面に転がってるところに、俺が銃でとどめを刺した」
五人まちぶせされているのに真理亜が撃ち勝ったということも、由紀が傭兵を投げつけたということも、京子には到底信じられなかった。だが、もう一度事実確認するよりも優先すべき質問があった。京子は電車半両はありそうな大型ヘリコプターを指差さす。
「ヘリはいつから?」
「すでにあった」と、立花が即座に返す。
「……申し訳ない。不確定な情報のままで作戦を遂行してしまった」
「気になさらないでくださいまし」翠はいいながら、とことことヘリのほうに歩いていく。
なにがあるかわからないから、あまりヘリには近づかないよう注意した矢先、エレベーターが下に動きだす。
「七十七階から誰かが上がってくる?」立花が緊張した面持ちでエレベーターを見やる。
「そのようだ」と、京子は頷いた。
やがてエレベーターが上りだし、京子と立花は銃をかまえる。
そして扉が開いた。中にいたのは角ばった顔をした四十代であろう男だ。その頑固そうな顔を見れば、今までのテロ犯とは違った人種であることが一目瞭然だった。警察官、おそらく彼が有本だと思われる。実際に、「有本!」と立花が怒鳴った。
「立花か……。なぜこんなところに」有本は眉をよせる。
「お前を止めにきた」
「今さら止まると思うのか?」有本は鼻を鳴らし、エレベーターから出る。京子と立花の銃口が向いているというのに、武器も持たずに余裕の表情。
「そこで止まれ! 手は頭の上だ!」京子はいう。
「悪いな、お嬢さん。俺の心臓は起爆スイッチとなっている。俺が死んだらドカンだ」有本は死体に視線をやってから、こちらを強く睨んだ。「同志たちを殺したのはお前たちだな?」
「なにが同志だ! このテロは業者に乗っ取られている、いわゆるビジネステロだ! お前は利用されているんだよ!」立花が早口でいった。
「そんなことがあるかっ!」
「いや、間違いない」と京子は冷静に告げる。「心臓を起爆スイッチにして陸軍と心中するつもりだったのかしれないが、本当の起爆スイッチは中に潜りこんでいる業者が握っている。そこのヘリで逃げたら、すぐに起爆するだろう」
「ふざけたことを……。我々に帰る道などないのだ」有本はいいながら、京子や立花の銃口を無視して悠然とヘリに向かって歩き、その扉をスライドさせて中を覗く。「おいっ、ワタベ! どうなってる!」
有本の怒鳴り声が響いたの同時に、パンッと渇いた音が鳴った。有本は顔面を赤く染めて後方に倒れる。
「全員動くなっ!」次にそう叫んだのはヘリの中のテロ犯ではなく、ヘリの陰から出てきた男で、翠の首に腕を回し、コメカミに銃を突きつけていた。
鋭くて隙きのない男の視線から、傭兵であることは間違いないだろう。どうやらヘリの陰に隠れていたようだ。
京子は唇を噛みながらも、男に銃口を向ける。だが、男の指はトリガーガード内に入っており、暴発の危険から撃つことができない。
男は翠を連れたままスルリとヘリの中に入っていった。そして、ヘリの羽が回りだす。
ヘリに飛ばれたら終わりだ。もう一刻の猶予もない。
京子は覚悟を決めてヘリの中に滑りこむ。中は座席すらないがらんどうで、奥に操縦席があるだけだった。
有本を撃ったワタベであろう男は操縦席におり、その手前で傭兵が翠に銃を突きつけている。
「ヘリから出ろっ! でないとこの娘を殺すぞ!」
傭兵は脅しの言葉を吐いたが、京子はすでに決断していた。
「星川翠! 君をリクレンジャーのグリーンに任命する。命をかけてくれるか!」
「もちろんですわ!」翠の瞳が輝いた。




